世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


4月 21, 2016

ARM、データセンターとHPCにチップをスケールさせる

HPCwire Japan

George Leopold

イギリスのチップ設計とライセンスベンダーであるARM社は世界最大の半導体ファウンダリと共にチッププロセス技術において、データセンターとハイパフォーマンス・コンピューティング向けのプロセッサにターゲットを絞っている。

ARM社および台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー社(TSM)は、最先端の7ナノメートルFinFETプロセス技術(FinFETはフィン型の電界効果トランジスタを意味しており、システムオンチップまたはSoCにおけるリーク電流を低減する新しいプロセス技術である)で協力するために、複数年におよぶ契約を結んだと発表した。

この取引は、最新のデバイスプロセス技術をデータセンターや次世代ネットワークに押し上げるために、既存の協力関係を拡張するものであると両社は述べている。これはまた、ARMチップの知的財産製品において使われている初期世代のFinFETプロセス技術における先の協力関係に基づいている。

チップのスケーリングは、データセンターにおけるハイパーコンバージェンスと並行して進んでいる。ARMは特定のデータセンターのワークロードにおける演算密度において最大10倍にまで増加するという主張を通して、x86ベースのインフラで支配されているデータセンターに進出しようとしているのだ。TSMCとの取引は、このチップベンダーがデータセンターとネットワークインフラに狙いを定めた、この台湾の製造メーカーが7ナノメートルのFinFETプロセス技術用に最適化されたプロセッサを設計できるようにするものだ。

チップコンポーネントの密度のスケーリングは、消費電力を減少しつつITインフラ全体に渡るより高い計算密度に転嫁されると、両社は主張している。

台湾の新竹のTSMCにとっては、ARMとの協力関係によって、高度なスケール・アーキテクチャがデータセンターや他のITインフラに進出することになるとして、チッププロセス技術をもっぱらモデバイル・デバイスからハイパフォーマンス・コンピューティングに転換させることができるのだ。

10ナノメートルのFinFETプロセスノードにおける消費電力を低減しつつ、最新のチッププロセス技術に基づいたハイパフォーマンス・コンピューティングSoCは、電力のペナルティ無しに性能を向上させるとTSMCは述べている。

ARM社とTSMC社は前の世代のFinFETプロセス技術で協力してきた。ARMのCortex-A72プロセッサはTSMCの16および10ナノメートルのFinFETプロセスノードをベースとしている。

ARMのコアはゆっくりとではあるがサーバSoCへの道を歩んできたのだ。昨年末にはHPCサーバに狙いをつけた64ビットプロセッサで動作する新しい数学ライブラリを発表した。「HPCコミュニティはARMベースのサーバの早期採用者であり、最適化された数学ルーチンの導入は64ビットのARMベースの演算プラットフォームにおける科学計算を可能にする基礎を築いたのです。」とこのライブラリのリリース声明の中でこのチップ設計者は述べている。

ARM社はまた、チップネットワーキングのスペシャリストであるCavium社とARMベースの処理プラットフォーム上で動作するHPCおよびビッグデータ解析ソフトウェアの開発のためのパートナーシップも発表した。

一方、TSMCのような半導体ファウンドリは、チップスケーリング曲線をより低消費電力FinFETプロセス技術に基いて、16から10、そして7ナノメートルのデザインに着実に下りてきている。1月にTSMC社は7ナノメートル・ノードでの生産を2017年に予定していると語っている。

HPCとともに、ARM社はモノのインターネットのアプリケーションをターゲットにし続けている。そのIoT戦略は、Cortex-M 32ビット・マイクロコントローラとIoTデバイスからの接続を処理する”デバイスサーバ”に適合する“フルスタック”なオペレーティングシステムを含んだ、“mbed”技術の開発とスケーリングにフォーカスしている。

このチップベンダーは昨年9月にネットワーク接続されたアプライアンスやセンサーからのデータを収集するように設計されたIBMの解析サービスに、ARMのデバイスを組み込むIoTプラットフォームにおけるIBMとの協力関係を結ぶ計画を発表している。

サーバ市場におけるARMの牽引に関する疑問はしばらくの間渦巻いていた。より小さい設計サイズへの移行は勢いをつけるのに役立つかもしれない。スーパーコンピューティング用のエネルギー効率に優れたアーキテクチャを達成するための新しい方法を探求しているヨーロッパのMont-Blancプロジェクト(バルセロナ・スーパーコンピュータセンター)のコーディネーターであるFilippo Mantovaniは、以前のHPCwireの記事においてARM市場の牽引に関する観察を提供している。 (2013年のMont-Blanc paper, Supercomputing with Commodity CPUs: Are Mobile SoCs Ready for HPC?を参照)

「どのARMプロセッサを我々が見ているかに依存しています。モバイル用のSystem on Chip(SoC)の拡張は、巨大なモバイルデバイスの生産者(Apple、Samsung、Huaweiなど)に引っ張られています。この市場からは、驚愕的に良い、そして益々パワフルなSoCを見ることになるでしょう、しかし、これらのビッグプレーヤーの誰かがHPC市場に入って来たいと思わない限り、ハイエンドHPCシステムであるとしてこの中の誰かが組み込むことはほとんど無いと考えています。このコスト対効果のために、モバイル技術は計算集約型組み込みアプリケーションだけでなく、HPC分野に限らず安価/モバイル/簡単な科学計算を求めている小規模研究所や企業にとって非常に興味深いものであると私はまだ考えています。」とMantovaniは述べている。

「サーバ市場におけるARMプロセッサを見た場合には、物事は少し異なります。サーバ用のARMベースのチップは実際には高速でさらに一般的なもの(X-Gene, Cavium ThunderX)に進化してきているようです。シリコンに特定に機能を追加するよりも、ARMプラットフォーム用の信頼性の高い、統合されたソフトウェアサポートが市場に出ることがもっと重要だと私は考えています。このサポートがARM技術をHPCコミュニティの中で”より社会に受け入れられる”ものにすることができます。その意味において、Mont-Blancはシステムソフトウェア・スタックとプログラミングモデルに貢献していきますが、コンパイラに関してはIP設計者やSoC生産者からの強力な貢献が必要なのです。」

昨年、Mont-Blancプロジェクトでは、OmpSs並列プログラミングモデルの開発について、自動マルチ・クラスタ・ノード機能、耐障害用透過型アプリケーション・チェックポイント機能、ARMv8 64ビットプロセッサのサポートの3つの拡張とMont-Blancエクサスケール・アーキテクチャの最初の設計を行った。

この記事はHPCwireの姉妹紙であるEnterpriseTechに最初に記述されている。