世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


5月 17, 2016

フランス、新ペタスケール・スーパーコンピュータで産業イノベーションを加速

HPCwire Japan

Jane Glasser

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このTurbomeca用のヘリコプター・ターボエンジンの燃焼数値シミュレーションはCCRTが産業界のパートナーに提供するHPCサポートの一例

この夏、フランスの代替エネルギー・原子力委員会(CEA)と13の業界をリードする企業が、Bull社が設計し、最新のIntel XeonプロセッサであるE5 2680 V4をベースとしたCOBALTと呼ばれる新共有スーパーコンピュータを所有することで、その研究能力を増強する。

CEAは政府が出資する技術研究機関でフランス中に10の研究センターを持っている。低炭素エネルギー、防衛・安全保障、情報技術、健康技術にフォーカスしている。CEAはまた、より安全な原子炉の設計やより長く持続する口紅の製造プロセスのような多様なハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)の問題を解決するために産業界と協力するようになっている。

新スーパーコンピュータの購入はCEAの計算センターである、研究技術計算センター(CCRT)によって管理されている。CCRTは、フランスの産業革新の支援とハイパフォーマンス数値シミュレーションおよびデータ処理の分野における産業界研究パートナーシップの推進に重点をおいて、CEAと産業界のパートナーにハイパフォーマンス・コンピューティングのリソースを提供している。

現在のCCRTの産業界パートナーには、Airbus Defense & Space(航空宇宙産業)、Areva(国際的原子力産業のリーダー)、EDF(フランス電力事業者)、Ineris(産業リスト評価)、L’Oréal(化粧品のリーダー)、Safran-Herakles、 Snecma、Turbomeca、SafranTech(航空企業)、Thales、Thales Alenia Space(航空宇宙、宇宙防衛、セキュリティ、輸送)、Valeo(自動車技術)がいる。

2003年の設立以来、CCRTは3世代のスーパーコンピュータを経ており、その演算能力を700倍に増強してきた。この組織のAIRANと名付けられた現在のスーパーコンピュータは2012年にインストールされ、当初はIntel XeonプロセッサE5(Sandy Bridge)がベースだったが、その後Intel XeonプロセッサE5(Ivy Bridge)にアップグレードされた。パートナー・アプリケーションのニーズが増大してきたために、CCRTはAIRANを増強することはもはや選択肢ではないことを悟ったのだ。最初から始める必要があったのだ。

「研究者が非常に大きなコンピュータを購入して、それを4,5年間維持していくアカデミックな研究の世界とは異なり、民間企業は’使った分だけ払う’モデルが好まれるのです。」とCCRTのビジネスマネージャであるChristine Ménachéは語る。「彼らはその中で成長するような大きなシステムには払いたくないのです。彼らは新しいコンピュータを買って、約2年程でアップグレードすることを好むのです。」

CCRTは主に価格性能比に基づいたx86ベースのスーパーコンピューティング・アーキテクチャを選択した、とMénachéは述べ、CEAと産業界のパートナーがx86アプリケーション・コードを効果的に実行することができる容易性もまた重要な要素であると付け加えた。

この新しい1.4ペタフロフロップスのCOBALTスーパーコンピュータは、2016年中頃にフランスのブリュイエール・ル・シャテルのCEAの超大型計算機センター(TGCC)にインストールされる。COBALTは約1.4ペタフロップスのピーク性能を持ち、AIRANよりも3倍強力で、そして3倍のエネルギー効率をもっている。ストレージはSeagateストレージシステム社が提供し、2.5ペタバイトの容量と60 GB/sのスループットを持っている。

COBALTは2,304台のIntel XeonプロセッサE5 2680 V4 (Broadwell)を搭載し、2.4GHzで32,256個のコアを持っている。また、リモート計算と可視化のための、NvidiaのPascal GPUを搭載した18台のハイブリッドノードも持っている。France Génomiqueプロジェクト専用の特別パーティションは、4,032台の2.4 GHz のIntel Xeon E5プロセッサ(Broadwell)コアと3TBのメモリを搭載した4台の超大容量メモリノードが装備されている。InfiniBand EDRインターコネクト(100 GB/s 対 40 GB/s現在)が新コンピュータのコアを形成しており、今後4,5年間のパートナーのニーズに基づいて増加していく容量を許容する。

驚くことではないが、CEAはLustreの長年のユーザで貢献者であり、Lustre 2.5階層ストレージ管理(HSM)機能の開発の多くを担当していることから、この新システムはLustre並列ファイルシステムを利用する。CEAはまたLustre HSMのコアコンポーネントであるロビンフッドポリシー・エンジンを維持する。ロビンフッドは大規模ファイルシステムの監視用にLustreコミュニティで広く利用されており、民間企業でも採用されてきている。

インテルはこのオープンソースプロジェクトに商用サポートを提供しており、CEAに対する広範なサポートとLustreの専門知識を提供する。さらにインテルのLustreに関する専門知識を活用することに加え、CEAはIntel Cluster Studio、インテル・コンパイラ、プロファイラ、およびその他のソフトウェア開発ツールにも依存しているのだ。

デジタルシミュレーションへのフォーカス

COBALTはCEAと産業界のパートナーに例えば発電所の寿命の延長、原子炉をより安全でより効率的にしたり、環境リスクを解析したり、車の換気や空調システムを最適化したり、遺伝子を解析したりなどの幅広い分野における数値シミュレーションの実行において大幅な性能向上を提供するとMénachéは語っている。

CCRTはValio社の車内空調システムの空力音響数値シミュレーションのように産業界のパートナーと取り組んでいる。

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計画されているプロジェクト例は次のとおり:

  • CCRTのパートナーであるSafranはヘリコプターや航空機エンジンの騒音や燃料消費量を減らすためにCOBALTを利用する計画だ。同社はAIRANでの数値シミュレーションを通して15パーセントの燃料消費量の削減を行うことができた;COBALTでは、Safranさらに高い燃料消費効率を目指している。
  • 多国籍自動車部品メーカーであるValeoは、自動車部品の設計や検証時間を短縮したいと考えている。
  • L’Oréalは、革新的な新しいヘア、メイクアップ、香水製品を発見するためにハイパフォーマンスな数値シミュレーションを適用し、その効果と安全性を予測したいと考えている。
  • CEAは他のプロジェクトの中で、酵素機能を予測し、材料分野におけるマルチスケール計算を改善するために、増強した計算リソースを利用する。

「我々は大規模でも小規模でもすべてのシミュレーションにおいて大きな性能向上を期待していますが、性能向上がない場合にもおいても、アプリケーションがより多くのデータをCOBALT上で処理し、より正確で予測可能に実行できるようになるのです。」とMénachéは述べている。「我々のベンチマークでは最新のBroadwellプロセッサは低い周波数(2.4 GHz対 2.7GHz)にも関わらずAIRANの1.5倍の性能を出しています。COBALTは我々のパートナー企業の競争力に実質的な影響を持つのです。」