世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


3月 29, 2017

IBM、量子コンピューティングへのハイブリッドなアプローチ

HPCwire Japan

George Leopold

IBMは、API(application-programming interface)とソフトウェア・ツールを介して量子コンピューティングを主流に押しだそうと試みている。APIによってクラウドベースの量子コンピュータとデジタル・コンピュータとの間のインターフェースを開発者が構築する事を可能とするだろう。

この量子コンピュータ(この場合はIBMの5キュービット・コンピュータ)と従来のコンピューティングとを結びつける取組みは、両方の属性を活かすハイブリッド・コンピューティング・プラットフォームを目指している。

このAPIに加えて、同社は3月6日(月)には最大20キュービットの回路モデルシミュレータの改良版をリリースした。また、シンプルな量子アプリケーションプログラムを構築できる、ソフトウェア開発キットを今年前半までにリリースする予定だ。こうした取り組みは、量子コンピューティングのパイオニアであるD-Wave Systemsと提携する『1QBit』などの量子ソフトウェア新興企業の登場を反映している。

IBMはAPIと開発キットにより、アルゴリズム、実験、シミュレーションを実行するためのクラウドベースの量子プロセッサへのアクセスを拡大させると語った。同社は昨年、約4万人のユーザーを獲得した研究用プラットフォームを発表した。たとえば、マサチューセッツ工科大学は、オンライン量子情報科学コースでクラウドサービスを利用している。 IBMのエンジニアは、中国の研究者によるこのサービスの頻繁な使用も指摘している。

こうしたクラウドベースのシステムは、「量子コミュニティーの始まり」であるとIBMのWatson Research Centerの量子研究者Robert Wisnieff氏は予測している。

IBMは、最新のイニシアチブは「量子コンピューティングのアプリケーション領域を拡張する」ように設計されていることを強調した。さらに、この取り組みでは研究用から処理能力が最大50キュービットとなる商用プラットフォームまで、その進歩のペースを計測するための新しい指標を導入した。新しい指標「量子ボリューム」には、キュービット数、量子演算の「品質」、接続性などが含まれている。

IBMはまた、今後数年間で50キュービットの商業用マシンを開発する際に、これらの指標を向上させる予定だという。 「IBMの量子システムは、これまでのHPCシステムのポートフォリオと協調して、現在計算不可能な問題に対処するためのものです。」とIBM Systemsの副社長であるTom Rosamilia氏は発表で言及している。

量子コンピューティングの早期採用者はハイブリッド・アプローチを採用している。量子コンピューティング技術に当初から投資しているLockheed Martin Corp.のチーフ・サイエンティスト、Ned Allen氏は、「量子コンピュータは単独で使用されることはないだろう。」と予想している。この軍需産業の巨人は、ミッションクリティカルなソフトウェアの検定と検証(Verification & Validation)プログラムの一環として、D-Wave One量子マシンを使用している。

Allen氏は、量子コンピューティングは、V&Vとともに「古典的」な分析などのアプリケーションに適していると、情報技術とイノベーション財団(Information Technology and Innovation Foundation)が主催した最近のパネルディスカッションで、予測した。

さらに、彼は、量子コプロセッサを活用するハイブリッド・コンピューティング・プラットフォームが登場するであろうと予測した。

一般的な量子コンピュータがまだ分かりにくいものなので、しばらくの間このハイブリッド・アプローチは続くと思われる。昨年5月にクラウドベースのプラットフォームを発表したIBMは、今後10年間で50~100キュービットの「中規模量子プロセッサ」を計画していると述べている。

それでも、50キュービットのマシンは、今日の最高性能のスーパーコンピュータよりも優れており、伝統的なムーアの法則が力尽きてしまう事に伴う量子計算の大きな可能性を象徴している。