世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


10月 24, 2014

シミュレーションの世界で情報爆発は起きている?(2)-理由

工藤 啓治

「シミュレーションの世界で情報爆発は起きている?(1)」では、現状を見て見ましたが、続いて、その内訳の背景を探るとしましょう。

① 環境対応や安全性などの市場要求の種類が増え、かつ条件が厳しくなった

NOx削減、燃費向上、軽量化、騒音削減、衝突安全基準の増加、電力消費削減、リサイクル性向上など、すべての性能要求が設計の条件を複雑にします。これを支えるシミュレーションの種類やモデルが増えるのです。

② グルーバル視点でのローカルな製品開発が必要になった

先進国のニーズをベースに開発していたのは、遠い過去の話で、如何に地域に応じた製品をすばやく開発するか、かつ部品を共通化して単価を下げるかは、グローバル企業にとっては、当たり前の取り組みになりましたが、派生製品や検討項目が増えることになりますので、設計開発のしくみを複雑にします。当然、シミュレーションにも反映されるのです。

③ 人材を増やすことができないし、育成にも時間がかかる

上記の背景で、仕事の量が増えているのは誰の目でみても明らかなのですが、だからといって企業は闇雲に組織を大きくすることをしません。すなわち、従来の組織体制で、増加する仕事をさばく必要があります。特に、シミュレーション業務は高度に専門的な知識と経験を要するので、増やしたくても、すぐには増やせないという事情も加わります。量をこなすために増やしたとしても、スキルの低い技術者に対応させてければならないという状況になります。

要は製品自体と設計体系が複雑になって、10年で100倍、あるいは5年で10倍のスピードで急激に増えている業務を、従来の人数でこなさなければいけないという、とても大きな課題を抱えているのが、シミュレーション業務の現状といっていいでしょう。複雑性設計のたどる姿です。

このことは特定の産業ではなく、シミュレーションを活用しているすべての産業で起きていることと推察できます。非常に大ざっぱな仮定と推論で議論してきましたが、現状・現場を訪れて話を伺うと、顕在化・潜在化の両方で進んでいることがわかります。

仮にこの問題に十分に対応できないと、上流工程での検討が不十分なままに下流工程に進み、手戻りが発生し、結果として設計の品質に影響し、開発に遅れが生じるということになるのです。「風が吹けば桶屋が儲かる」と逆の流れではないですが、企業が苦労していることの根本原因の一つではあると、容易に想定できるのです。

この課題に正面から取り組むか、深刻でないとして現状維持の方針で進むかによって、今後の5年以降、企業設計力に大きく差がついていくのではないかと、憂慮しています。特に③の人材問題が深刻になるでしょう。気づいたときには、…..。

さて、それでは、開発現場で進行しているであろう「シミュレーションの情報爆発」に、どう取り組めばいいのでしょうか?これまで、このページでは、たくさんの関連するヒントを書いてきたのですけれど、まだまとまってはいなかったかもしれませんね。

さらに、続きをお待ちください。

*本記事は、Facebookページ「デザイン&シミュレーション倶楽部」と提携して転載されております。