世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


8月 31, 2015

理研・PEZYグループ 菖蒲で勝負する?

HPCwire Japan

8月25日に開催された理化学研究所情報基盤センター主催の「菖蒲ワークショップ」には各方面から90名近い参加者が集まった。主催者の話では、Green500で一位を取った直後から問い合わせや見学希望が殺到し、そのために今回のワークショップを開催することとなったそうだ。参加登録を始めてから1週間足らずで登録が100名を超え、当初予定していた会議室では許容できなくなり、会場の変更を余儀なくされたとのことであった。

今回のワークショップで印象的だったのはHPC系の他のワークショップでは馴染みのない顔ぶれが多かったことだ。参加者の一人に尋ねたところ、Green500で一位を取ったことが大きな参加の動機で、PEZYグループが所有する技術力に関心を持っているそうだ。

さてGreen500で一位を取った菖蒲システムであるが、これは理化学研究所情報基盤センター、PEZY Computing社およびExaScaler社の3者の共同研究の成果である。よく勘違いされることが多いそうだが、理化学研究所がこのシステムを購入したわけではない。理化学研究所は菖蒲システムを設置するスペースと稼働するための電気などの提供を行っただけだ。その他の費用はPEZYグループ(PEZY Computing社およびExaScaler社)が負担している。悪く言えばこのGreen500での一位獲得は理研にとっては「たなぼた」と言っても過言ではない。しかし、設置する場所や設備に困っていたPEZYグループにとっても理研の協力は有りがたかったはずだ。今回の共同研究は3者の利害が一致した結果だ。

理化学研究所情報基盤センターの黒川原佳氏によれば、この共同研究の話は今年の4月上旬に初めてPEZYグループからセンター長の姫野龍太郎氏に話があったそうだ。その後4月下旬に共同研究の合意が得られ、Green500の締切となる6月末までのたった2カ月間で設置インストールからベンチマーク試験までを完遂したこととなる。

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共同研究契約からGreen500までの道のり

 

ベンチマーク測定まで順調にいった訳ではなかったようだ。ベンチマークソフトウェアのチューニングについては理化学研究所計算科学研究機構の牧野淳一郎氏が率いるチームが協力した。牧野氏はGRAPE-DRの開発で著名だ。今回のベンチマークにも牧野氏が開発したLU分解コードをPEZY用に書き直して利用した。また、新しいハードウェア実装による問題も発生したそうだ。主に電源関連の問題が発生し、プロセッサの動作周波数を下げなくてはならない結果となった。

実際のシステムとしての評価について黒川氏が説明を続けた。理研ではまだ実際のアプリケーションの評価は始まっていないそうだ。まずはHIMENOベンチマークから始めて行くとしている。理研でこのシステムを使いこなせるのは全ユーザの2%もいないだろうと黒川氏は予測する。それは、ユーザはサイエンスとやることが目的であって、ソフトウェアを書くことが目的ではないからだ。また、コンパイラなどのソフトウェアの強化も不可欠となってくるとしている。黒川氏は最後に裾野を広げる活動が必要なのではないかと提案している。ユーザを増やすには大型のシステムばかりでなく小型のシステムも必要になってくるし、空冷で動作するサブシステムのあると便利であると述べている。

今回の共同研究は来年2016年3月までであるが、両者とも継続する方向で検討している。この共同研究と文部科学省が行っているポスト京開発であるフラグシップ2020プロジェクトとは全く関係がない。どちらもエクサスケールを目指しているプロジェクトで、将来的に製品販売できるシステムを開発する必要があることは共通している。国家プロジェクトと民間プロジェクトで国内に2つエクサ開発計画があることは喜ばしいことだと言える。