新HPCの歩み(第25回)-1961年(b)-
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 1961年7月現在、国内の大学には10台、政府関係・公的セクターには29台、民間にも100台近くの商用コンピュータが設置されている。大学はまだ貧しく、設置台数は少ない。  | 
日本企業
1) 東京芝浦電気(TOSBAC-3100、TOSBAC-4200)
前に述べたように、東京芝浦電気(1984年から東芝)が商用化したコンピュータはすべて半導体を使用している。
黒部第四発電所に設置したTOSBAC-8000を本格化した制御用計算機TOSBAC-3200は、1961年、北海道電力瀧川嘉良発電所に納入された。
1958年頃から開発が始まっていた科学技術用計算機TOSBAC-3100は1961年に発売された。1語はBCD 12桁+符号、固定/浮動小数をサポート。メモリは北辰電機製の磁気ドラムで5000語。インデックスレジスタ3本。早稲田大学教授の中島・岩崎に依託して開発されたALGOLコンパイラ(WALT)を搭載した。1960年3月、自社の小向工場に設置した。 一方、TOSBAC-3100と同じ回路を使用し、主記憶装置としては磁気コアメモリ(40000字)を採用した事務計算専用コンピュータTOSBAC-4200が、1961年に開発された。カナ文字を扱えるように1文字を7ビットとした。
東芝は1952年以来東大のTACプロジェクトに参加してきたが、稼働に至らず、東大による抜本的改造により1959年に稼働した。問題の多かった真空管やWilliams管の代わりに磁心トランジスタ論理回路と真空管駆動の磁心記憶を用いたTAC II (1959)に続き、トランジスタ駆動の磁心記憶を採用したTAC IIIが1961年に完成し、社内の科学技術計算に用いられた。磁心トランジスタ論理回路は、多巻き線多巻数の磁心の矩形特性で、2入力AND論理と記憶保持を行わせるもので、2相クロックで駆動させる。トランジスタが高価であった時代には巧妙なアイデアであったが、トランジスタの低価格化とともにその役目を終えた。
2) 日立製作所(HITAC 201)
1961年3月、日立製作所は本格的な小型事務用計算機HITAC 201を1961年3月に完成させた。1語は十進11桁+符号で、記憶装置は磁気ドラム4000語、入力は光電式テープリーダ、出力はさん孔タイプライタと(カナ文字入り)ラインプリンタ。磁気テープ装置は4デッキ接続可能。情報理学会情報処理技術遺産に認定されている。
1961年5月、日立はアメリカのRCAと技術提携契約を結んだ。
3) 日本電気(NEAC-2205、NEAC-2204)
日本電気は、1961年4月14日、トランジスタ式計算機NEAC-2205を発表した。中小規模の事務用データ処理を目的に設計し、小型化、低廉化を図った。記憶装置は磁気ドラム3000語。
オンライン・リアルタイム処理のために開発していたNEAC-2204は、1961年9月に完成出荷された。パッチボードを用いたNEAC-2202とは異なりプログラム内蔵方式を導入し、7つの異なるプログラムがタイムスライスにより同時に並行して実行できる。主記憶には磁気ドラム3000語に、磁気コア100語をキャッシュとして使えるよう設計された。数値語は十進12桁+符号、文字語(カナと企業)は2桁で1文字を表現した。1号機は山一證券福岡支店に納入された。
4) 松下通信工業(MADIC IIA)
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松下通信工業(1958年1月に、松下電器産業通信事業部が分離)は、1958年5月、電気試験所のMark IVをモデルとしたMADIC Iの試作を開始し、1959年4月に完成した。十進の計算機である。これをもとに1961年10月二進法のMADIC IIAを完成した。数値語は符号+33ビット、固定/浮動小数をサポート、主記憶は磁気ドラム4096語であった。1号機は、日本電子工業振興協会の関西計算センターに設置され、広く計算に利用された。同型機は、大阪府立成人病センターや和歌山大学などに納入された。1963年に和歌山大学経済学部に設置されたコンピュータは、利用終了後和歌山大学史展示室に置かれ(写真)、情報処理学会から2012年度情報処理遺産に認定された。なお、松下グループは、1964年10月、大型コンピュータの開発から手を引くことになる。
5) ウノケ電子(USAC-3010、USAC-5010)
1961年、ウノケ電子(1969年にユーザック電子工業を経て1987年からPFU)は、オフィス用の超小型コンピュータUSAC-3010およびUSAC-5010を開発した。USAC-3010は情報処理学会情報処理技術遺産に認定されている。USACはUnoke Standard Automatic Computerに由来する。
6) 日本レミントン・ユニバック社
1961年、東京電力にUNIVAC IIを設置。
国内設置のコンピュータ
『情報処理』第2巻3号(1961年5月)に、1961年7月10日現在の「計数型電子計算機納入状況」(IPSJ-MGN020307.pdf)という資料がある。「日本のコンピュータの歴史」(1985) p. 176にある1960年6月現在の設置状況も合わせて設置場所別に示す。なお、PCはパンチカード計算機、Vは真空管計算機(メモリは磁気ドラムまたは磁気ディスク)、VMは磁心メモリの真空管計算機、Pパラメトロン計算機、Mは磁気増幅器を素子とした計算機(トランジスタも使用)、Tは(個別)トランジスタ計算機である。納入年月について別資料から判明したものは記入した。TAC、PC-1、K-1/KCCなど自作のマシンは搭載されていない。
なお、パンチカードシステムは、1950年代後半から急速な普及を見せており、1960年6月には約300企業、410事業所に設置されていた。ただ、記憶容量も少なく、プログラムはプラグボードで与えられるなど、電子計算機とは言いかねるものが多く、この表にはごく初期の一部しか収録されていない。
| 
 設置場所  | 
 納入年月  | 
 機種  | 
| 
 大学  | 
||
| 
 東北大学通研  | 
 1958/3  | 
 P: SENAC-1 (NEAC-1102)  | 
| 
 早稲田大学  | 
 1959/5  | 
 V: LGP-30 (Librascope)  | 
| 
 東京大学  | 
 1960/3  | 
 P: PC-2 (FACOM 202)  | 
| 
 九州大学  | 
 1960/3  | 
 T: KT-1 (MELCOM 2200)(自動翻訳機)  | 
| 
 東大原子核研  | 
 1962/1  | 
 P: INS-1  | 
| 
 東京理科大学  | 
 1960/7  | 
 P: FACOM 201  | 
| 
 京都大学  | 
 1960/8  | 
 T: KDC-I  | 
| 
 早稲田大学  | 
 1961/2  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 東京大学物性研究所  | 
 1961/3  | 
 P: FACOM 202  | 
| 
 名古屋大学  | 
 1961/3  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 政府関係・公的セクター  | 
||
| 
 米軍立川基地  | 
 1954/?  | 
 V: IBM 650  | 
| 
 東京証券取引所  | 
 1955/?  | 
 PC: UNIVAC 120  | 
| 
 国鉄鉄道技研  | 
 1957/5  | 
 V: Bendix G-15D  | 
| 
 日本電子工業振興協会  | 
 1958/3  | 
 T: NEAC-2201 (1959/5まで)  | 
| 
 日本原子力研究所  | 
 1958/9  | 
 V: IBM 650  | 
| 
 気象庁予報部  | 
 1959/3  | 
 VM: IBM 704  | 
| 
 神奈川県商工指導所  | 
 1959/3  | 
 T: TOSBAC-2101  | 
| 
 電気試験所  | 
 1959/3  | 
 T: TOSBAC-3015 (ETL-RTC)  | 
| 
 日本電子工業振興協会  | 
 1959/3  | 
 T: TOSBAC-2123  | 
| 
 日本電子工業振興協会  | 
 1959/4  | 
 P: FACOM 212  | 
| 
 日本電子工業振興協会  | 
 1959/5  | 
 T: HITAC 301  | 
| 
 日本電子工業振興協会  | 
 1959/5  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 電気試験所  | 
 1959/9  | 
 T: ETL Mark V (HITAC 102)  | 
| 
 国鉄  | 
 1959/12  | 
 V: UNIVAC File Computer  | 
| 
 電電公社通研  | 
 1960/3  | 
 P: FACOM 201 (MUSASINO 1B)  | 
| 
 防衛庁技研  | 
 1960/3  | 
 P; NEAC-1103  | 
| 
 日本電子工業振興協会  | 
 1960/5  | 
 T: HOC 200  | 
| 
 航空技術研究所  | 
 1960/6  | 
 V: Datatron 205 (Burroughs買収)  | 
| 
 日本科学技術研修所  | 
 1960/8  | 
 P: HIPAC 101  | 
| 
 経済企画庁  | 
 1961/3  | 
 T: HITAC 102B  | 
| 
 電波研究所  | 
 1961/3  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 通産省調査統計部  | 
 1961/3  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 鉄道技研  | 
 1961/3  | 
 T: MELCOM 1102T  | 
| 
 日本科学技術情報センター  | 
 1961/3  | 
 T: TOSBAC-4134  | 
| 
 建設省市房ダム  | 
 1961/4  | 
 T: HITAC 501  | 
| 
 総理府統計局  | 
 ?  | 
 VM: IBM 705  | 
| 
 防衛庁、大阪市役所、京都市役所  | 
 ?  | 
 M: UNIVAC Solid State Computer  | 
| 
 米軍板付基地  | 
 ?  | 
 V: Datatron 205 (Burroughs買収)  | 
| 
 鉄道技術研究所  | 
 ?  | 
 Pb 250 (Packard Bell Computer Corp.)不明  | 
| 
 民 間  | 
||
| 
 野村証券  | 
 1955/?  | 
 PC: UNIVAC 120  | 
| 
 三菱電機、  | 
 1958/2  | 
 V: Bendix G-15D  | 
| 
 日電研究所  | 
 1958/3  | 
 P: NEAC-1101  | 
| 
 日本IBM計算センター  | 
 1958/9  | 
 V: IBM 650  | 
| 
 小野田セメント  | 
 1959/1  | 
 V: IBM 650  | 
| 
 三和銀行  | 
 1959/1  | 
 V; IBM 650  | 
| 
 トヨタ自動車販売  | 
 1959/1  | 
 V: Burroughs E101  | 
| 
 伊藤忠商事  | 
 1959/1  | 
 V: Bendix G-15D  | 
| 
 日立中研  | 
 1959/3  | 
 P; HIPAC 101  | 
| 
 小野田セメント  | 
 1959/4  | 
 V: UNIVAC File Computer  | 
| 
 山一證券  | 
 1959/5  | 
 V: UNIVAC File Computer  | 
| 
 東京芝浦電気  | 
 1959/6  | 
 M: UNIVAC Solid State Computer  | 
| 
 電源開発  | 
 1959/7  | 
 V: IBM 650  | 
| 
 東京光学機械  | 
 1959/7  | 
 V: LGP-30 (Librascope)  | 
| 
 日本証券金融  | 
 1959/8  | 
 M: UNIVAC Solid State Computer  | 
| 
 東京電力  | 
 1959/8  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 関西電力  | 
 1959/9  | 
 T: HITAC 501(2台)  | 
| 
 三菱原子力工業  | 
 1959/9  | 
 V: IBM 650  | 
| 
 新三菱重工  | 
 1959/10  | 
 V: IBM 650  | 
| 
 松下電器産業  | 
 1959/11  | 
 V: IBM 650  | 
| 
 日本生命保険  | 
 1959/11  | 
 V: IBM 650  | 
| 
 日本石油  | 
 1959/12  | 
 M: UNIVAC Solid State Computer  | 
| 
 山一証券  | 
 1959/12~61/2  | 
 T: NEAC-2202(8台)  | 
| 
 八幡製鐵、  | 
 1959/12  | 
 V: Burroughs E101  | 
| 
 北辰電機  | 
 1959/?  | 
 T: HOC 100  | 
| 
 塩野義製薬  | 
 1960/1  | 
 V; IBM 650  | 
| 
 古河電気工業  | 
 1960/1  | 
 V: IBM 650  | 
| 
 日本通運  | 
 1960/2  | 
 V: UNIVAC File Computer  | 
| 
 富士電機三重工場  | 
 1960/2  | 
 P: FACOM 212  | 
| 
 住友銀行  | 
 1960/2  | 
 ELLIOT 405 (Elliott Brothers, UK)  | 
| 
 某化学工業会社  | 
 1960/3  | 
 T: HOC 100  | 
| 
 東京芝浦電気小向工場  | 
 1960/3  | 
 T: TOSBAC-4134  | 
| 
 東京芝浦電気小向工場  | 
 1960/3  | 
 T: TOSBAC-8000  | 
| 
 東洋高圧  | 
 1960/3  | 
 V: IBM 650  | 
| 
 昭和電工  | 
 1960/3  | 
 M: UNIVAC Solid State Computer  | 
| 
 三洋電機  | 
 1960/3  | 
 M: UNIVAC Solid State Computer  | 
| 
 日本レミントン計算センター  | 
 1960/3  | 
 M: UNIVAC Solid State Computer  | 
| 
 日興証券  | 
 1960/4  | 
 M: UNIVAC Solid State Computer  | 
| 
 東洋レーヨン岡崎  | 
 1960/5  | 
 T: HOC 200  | 
| 
 東洋工業  | 
 1960/5  | 
 V: IBM 650  | 
| 
 日立戸塚工場  | 
 1960/8  | 
 T; HITAC 301  | 
| 
 東京芝浦電気小向工場  | 
 1960/9  | 
 T: TOSBAC-2122  | 
| 
 日立本社  | 
 1960/9  | 
 P: HIPAC 101  | 
| 
 日立中研  | 
 1960/9  | 
 T; HITAC 502  | 
| 
 日本技術開発  | 
 1960/9  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 東京芝浦電気小向工場  | 
 1960/9  | 
 T: TOSBAC-2122  | 
| 
 日立中研  | 
 1960/10  | 
 P: HIPAC 101  | 
| 
 日立本社  | 
 1960/10  | 
 T: HITAC 301  | 
| 
 関西電力  | 
 1960/10  | 
 P: FACOM 212  | 
| 
 住友金属工業  | 
 1960/11  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 関西電力黒部第四発電所  | 
 1960/11  | 
 T: TOSBAC-8335(制御用)  | 
| 
 三菱電機  | 
 1960?  | 
 T: MELCOM 1101  | 
| 
 武田薬品工業  | 
 1961/1  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 東洋工業  | 
 1961/1  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 東京芝浦電気小向工場  | 
 1961/2  | 
 T: TOSBAC-2102  | 
| 
 日本ビジネスコンサルタント  | 
 1961/3  | 
 P: HIPAC 101  | 
| 
 大和証券  | 
 1961/3  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 北海道電力  | 
 1961/3  | 
 T: TOSBAC-3225  | 
| 
 富士通電算機センター  | 
 1961/5  | 
 T: FACOM 222  | 
| 
 アジア航空測量  | 
 1961/5  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 住友生命保険  | 
 1961/5  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 日本電気大阪  | 
 1961/5  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 住友原子力  | 
 1961/5  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 日本電気本社  | 
 1961/5  | 
 T: NEAC-2203  | 
| 
 東京芝浦電気  | 
 1961/5  | 
 T: TOSBAC-2102  | 
| 
 トヨタ自動車、三井生命  | 
 ?  | 
 V: IBM 650  | 
| 
 トヨタ自動車販売、ソニー、住友海上火災、日立  | 
 ?  | 
 V: IBM 305 RAMAC  | 
| 
 日本IBM(大阪)、八幡製鐵、帝国レーヨン、丸善石油  | 
 ?  | 
 T: IBM 1401  | 
| 
 三菱造船長崎  | 
 ?  | 
 T: IBM 1620  | 
| 
 日立日立工場、東海銀行、日本鋼管、八幡製鉄、日本鉱業  | 
 ?  | 
 T: IBM 7070  | 
| 
 東京電力  | 
 1961  | 
 V/T: UNIVAC II  | 
| 
 東京ガス、富士銀行、三和銀行、三菱石油、野村證券、東京証券取引所、東邦生命  | 
 
  | 
 M: UNIVAC Solid State Computer  | 
| 
 石川島芝浦タービン、同和鉱業、川崎航空機  | 
 ?  | 
 V: Burroughs E101  | 
| 
 岩井産業  | 
 
  | 
 V: Datatron 205 (Burroughs買収)  | 
| 
 東京電子センター  | 
 ?  | 
 V: Bendix G-15D  | 
| 
 清水建設、千代田光学精工  | 
 ?  | 
 V: LGP-30 (Librascope)  | 
輸入されたコンピュータについては設置年月がよくわからないが、当時のコンピュータの状況がなんとなく感じられる。大学への設置がまだ意外に少ない。
次回は海外の状況である。すでにMITではタイムシェアリングシステムCTSSが開発されている。IBM社は、LARCは逃したが、スーパーコンピュータStretchを開発し、Los Alamos研究所に納入した。
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