世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


2月 26, 2024

新HPCの歩み(第175回)-2000年(h)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

本年の初頭からIntel社とAMD社は1 GHzのCPUチップをめぐって競争していた。Intel社は3月8日の製品発表会において、1 GHz Pentium IIIチップによりGHzの壁を破ったと発表したが、AMD社は2日前の3月6日、1 GHz Athlonプロセッサを発表した。SGIからCray部門を買収したTera Computer社は、買収完了後の4月4日、Cray Inc.に名称を変えた。

アメリカの企業の動き

1) Intel社とAMD社のGHz競争
2000年の初頭からIntel社とAMD社は1 GHzのチップをめぐって競争していた。第2世代のPentium IIIであるCoppermineは733 MHzまでのものが1999年10月25日に発売されたが、AMD社は2000年2月11日にAMDの850 MHz Athlonを出荷した。

2月の時点で両社ともGHzのチップを春ごろ出荷すると見られていた。Intel社は2月14日~2月17日にPalm Springsで開催されたIDF (Intel Developer Forum)において先手を切り、1 GHz Pentium IIIのサンプルをPCメーカに提供したと発表し、前倒しのロードマップを示した。Intel社は、1 GHz Pentium III を第2四半期に量を限って出荷すると述べた。(HPCwire 2000/3/3)

AMD社は2月のIEEE ISSCCにおいて0.18μプロセスによる1.1 GHzの新モデルAthlon(コード名Thunderbird)を予告した。これらはドイツDresdenの新工場で製造するとのことである。PCメーカに対し 1 GHzのAthlonを60日以内に提供すると述べている。AMD社のスポーククスマンは出荷の時期についてコメントは避けたが、第4四半期には1 GHzのAthlonが動いているだろうと述べた。(HPCwire 2000/2/11)

Intel社は3月8日の製品発表会において、1 GHz Pentium IIIチップによりGHzの壁を破ったと発表したが、AMD社は2日前の3月6日、1 GHz Athlonプロセッサを発表していた。Intel社の製品発表会の情報を事前に得ていたのではないかと言われている。

Intel社は、2000年5月までに733 MHzから1 GHzまでの動作周波数のPentium IIIを発売した。その後7月31日に1.13GHzのチップも少数出荷されたが、8月ごろ動作の不安定が指摘され回収された。(HPCwire 2000/9/1) 最初は仕様外の温度で動作させたときのみ不安定になるとされていたが、その後指定された仕様の範囲内でも不安定が起こることがあることが分かった。Intel関係者は、1 GHz以下のチップには一切問題がないことを強調した。

AMD社は、6月5日、Athlonを多数発表した。周波数は600 MHzから1 GHzまで。初めての銅配線チップであり、すべてのモデルでMMXと Enhanced 3DNow!をサポートする。廉価版のDuronも発表した。(HPCwire 2000/6/9) Intel社が1.13 GHz版の不安定を認めたその日、AMD社は1.1Ghz版のAthlonの出荷を公表した。

2) Intel社(Pentium 4, Celeron)
2000年6月28日、Intel社はこれまでWillametteというコード名で開発されてきたプロセッサをPentium 4と呼ぶことを発表した(HPCwire 2000/6/30)。8月22日のIDF (Intel Developer Forum)では、社長兼CEOのCraig Barrettが詳細を話し始めた(HPCwire 2000/8/25)。Halloweenに発売するはずであったが(HPCwire 2000/9/29)、予定より少し遅れて、11月20日にPentium 4の最初の製品(1.4 GHzと1.5 GHzとIntel 850)が発売された。1.5 GHz版が$819であった。

Intel社は、1998年、256 MHzのCeleronを、Pentium IIの廉価版として発表したが、2000年3月、566 MHzおよび600 MHzのCeleron(コード名Coppermine-128K)を発表した。0.18μmのプロセスで、128KBのL2キャッシュをコア内に内蔵する。さらに高速のCeleronも予定されている。(HPCwire 2000/3/3)

3) Intel社(Itanium)
当初1999年に発売予定のItanium(コード名Merced)は開発が遅れていたが、2月にSan Francisco で開催されたIEEE ISSCC (International Solid State Circuit Conference)で詳細が発表された。0.18μプロセス、6層メタルで25.4Mトランジスタ、演算ユニットは整数4、浮動小数2、分岐3、ロード・ストア2の計11、クロック800 MHz、単精度6.4 GFlops、倍精度3.2 GFlops、パイプラインは10段など。

10月、UIUCのNCSAは、16プロセッサのItaniumクラスタを開発し2つの科学アプリケーション(CactusとsPPM)を走らせたと発表した。これは、4基のItaniumを搭載しLinuxで動いているノードを4個、Myrinetで接続したものである。通信ソフトとしてはオープン版のMPICHを移植した。(HPCwire 2000/10/13) さらにMILC (MIMD Lattice Computation)とGAMESS (General Atomic and Molecular Electronic Structure System)も走らせた。3種のアプリケーション(sPPM, Cactus, and MILC)については、1プロセッサで650 MFlops以上を実現した。並列処理については進行中である。GAMESSについては、dual Itaniumを搭載したノード4基からなるシステムで12 GFlopsを実現した。 (HPCwire 2000/11/9)

4) AMD社(Sledgehammer、Thunderbird、Duron)
AMD社が、64ビットプロセッサSledgeHammer(コード名、後のOpteron)についての情報を出し始めたのは、1999年10月であるが、同社は2000年8月10日、詳細なマニュアルをソフトウェアベンダに開示し始めた (HPCwire 2000/8/11)(PC Watch 2000/8/10) 。 Opteronという名前を明らかにしたのは2002年4月24日、正式な発表は2003年4月22日である。

1999年6月23日に発表した32ビットのAthlonについては、10月17日、1.2 GHzのプロセッサを発売し、Compaq Computer社や、Gateway社や、Hewlett-Packardの製品に搭載された。

2000年6月4日には第2世代のAthlon(コード名 Thunderbird)が12種類(クロックが750 MHz~1 GHzの6種、パッケージが2種)発表された。これらはIntelより早く銅配線を導入した。1 GHzを越えるチップも年内に発売する。Thunderbirdでは、256 KBのL2キャッシュをチップ内に内蔵し、コアと等速で動作させた。(HPCwire 2000/6/9)

また同じ2000年6月4日に発表された廉価版のDuronについては600~700 MHz版を発表した。750 MHzのDuronも近々発表予定である。これらはMicron社のシステムやIBMのPCに搭載された。(HPCwire 2000/10/20)

5) IBM社(POWER3/POWER4)
昨年のところに書いたように、1999年2月5日に200 MHzのPOWER3を搭載した並列コンピュータRS/6000 SPが発表された。7月には375 MHzのPOWER3-IIを搭載した、RS/6000 SP 375MHz POWER3 SMP High Nodeを発表した。ノードは2~16プロセッサによるSMP構成である。最大512ノードを接続した8192プロセッサまで搭載可能。またノード間の相互接続機構としてSP Switch 2も発売した。バンド幅は1 GB/s(双方向)である。

前年発表されたPOWER4プロセッサの詳細が明らかになってきた。これはPOWERシリーズで初めてのdual coreであり、1GHz以上で動作する。コアごとに D-cache とI-cache とを持ち、コア共通にL2 cache と、L3 cache controller と directoryを含む。

6) IBM社(BlueGene)
また1999年12月6日に発表したBlueGeneについてもいろいろ情報が伝えられ、驚くことも多かったが、毎週言うことが変わるので若干混乱した。8月ごろのIBMのHPC User Forumでの話(David Klepacki, Assistant Director ACT, IBM T.J. Waston Research Center)では、1チップに5×5=25個のCPUを載せ、1個のCPUは4 Mbit DRAM (16K x 256bits)、D-cache (256x256bits), I-cache (256x256bit)、8組のthread units (i-sequencer, register file, FX add, FX LGC, FX shift) とFL mpy, FL add から成る。500 MHz で動き、演算性能は1 GFlopsで、チップあたりは25 GFlops。1 GFlopsに0.5 MBのメモリでよいのか、DRAMとCPUを混載することはできるのか、8組ものthread unitsが豪華なのに比べて浮動小数演算が弱いのでは、などといろいろ議論した。クロックが500 MHzと低いのは熱がネックだというので、筆者が「クロックを倍にしてチップ数を半分にしたらかえって熱の総量は減るのでは」と食い下がったが、実は逆で、熱はクロックのほぼ3乗に比例する。今から考えればバカなことを言ったと思う。

7) IBM社(zSeries)
Mainframeについて、IBM社はSystem/360、System/370、ES/9000、S/390というシリーズ名を用いてきたが、2000年10月、ブランド名称をIBM eServer zSeriesに変更し、z/Architectureという64ビットのアーキテクチャを発表した。このz/Architectureでは、16個の浮動小数レジスタが装備されている。2000年5月、IBM社はS/390上でLinuxをサポートすると発表した。LinuxはSuSEおよびTurboLinuxから提供される。メインフレームのユーザが、Linux上で開発されたOpen Source アプリケーションを使いやすくなることが期待される。(HPCwire 2000/2/19)

IBM社はIFL (The Integrated Facility for Linux)を8月1日に発表し、9月29日に出荷した。これはLinux OSに特化したメインフレームやPower Systemのプロセッサで、同一のハードウェアであるが、Linuxが使わないいくつかの命令をマイクロコードにより無効化している。(Wikipedia: Integrated Facility for Linux) 少し安く売るのであろう。

8)IBM社(ライフサイエンスユニット)
IBM社は2000年8月、ライフサイエンスのためのIT市場が今後急速に拡大するとみて、社内に「ライフサイエンスユニット(Life Sciences Business Unit)」を創設し、ヒトゲノム計画によって生まれる新しい情報を処理する技術を開発するために$100Mを用意した。(HPCwire 2000/8/18)

9) IBM社(人事)
2000年10月、IBM社、1997年以来はIBM Global Service担当兼上級副社長であったSamuel J. Palmisanoを、社長兼COOに任命した。Palmisianoは1973年にIBM社に営業として入社以来のたたき上げである。Gerstnerの跡を継いでCEOになるとの観測が流れた。(HPCwire 2000/7/28) PalmisanoがCEOに昇格するのは2002年3月である。

10) Tera Computer社(資金調達、Cray社買収)
Tera Computer社は、1999年度内に$30Mの資金調達を行い、年度末の現金は$11.2Mもあった。2000年2月4日、520万株を一株$5で新株発行し、$26Mの資金を獲得した。Teraの株は1月27日の終値で$6.375であったが、これを$5.00に値引きしたものである。この時はオプションやワラントは一切つけなかった。(HPCwire 2000/2/4)

SGI社は前年からCray部門の売却を検討していたが、3月2日、Cray部門はTera Computer社に売却されることが発表された。Tera Computer社は、買収完了後の4月4日、Cray Inc.に社名を変えた。つまり、Crayというbig nameそのものを買ったことになる。4月6日にはNADAQのTicker symbol もTERAからCRAYに変更した。(HPCwire 2000/4/7)

11) Cray社(新)
さっそく5月12日には、the U.S. Army High Performance Computing Research Center (AHPCRC)から、所有するT3E-1200を更新する$18.5Mの契約を獲得した。この契約には、現存のT3E-1200/272に816プロセッサ追加してT3E-1200/1088に増強するとともに、次期ベクトルコンピュータのSV2を獲得するオプションも含んでいる。(HPCwire 2000/6/2)

8月、Cray社とPhillips Petroleum Company(オクラホマ州)は、136プロセッサのT3E-1350を$3.6Mで契約したと発表した。64プロセッサのT3E-900のリプレースである。納入は8月である。(HPCwire 2000/8/11) 初出荷と思われる。2000年11月のTop500では、コア数132、Rmax=113.90、Rpeak=178.20 TFlopsで、186位にランクしている。

9月、新Cray社は、日本の顧客から最初の注文を受けた。北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は、富士通をSI (System Integrator)として、128プロセッサのCray T3E-1200E MPPを発注した。価格は$3Mである。これは旧Cray Research社が納入したCray T3E(他との区別上T3E-600とも呼ぶ)の更新である。設置は2000年度第4四半期(1月から3月まで)の予定。(HPCwire 2000/9/22)

T3Eのこれまでの経緯をまとめる。

モデル

クロック

発表

初出荷

T3E

300 MHz

1995/11/28

1996/3 PSC

T3E-900

450 MHz

1996

1997

T3E-1200

600 MHz

1997/11

 

T3E-1200E

600 MHz

1998/8/14

 

T3E-1350

675 MHz

2000/8 ?

2000/8 Phillips Petroleum

 

2000年には32 CPUのSV1(ピーク38.4 GFlops、300 MHz)をARSC (Arctic Region supercomputing Center、アラスカ大学Fairbanks校内)にJ90(12 CPU)のリプレースとして受注した。出荷は2002年後半の予定。(HPCwire 2000/9/8

Cray User Groupは毎年ほぼ二回会議を開いているが、2000年5月22日~26日、オランダのNoordwijkにおいてCUG Summit2000を、10月23日~25日、MinneapolisにおいてSV1 Workshopを開催した。

12) SGI社(Origin 3000)
2000年7月、Silicon Graphics社はOrigin 3000シリーズサーバとOnyx 3000可視化システムを発表した。OSはIRIX 6.5である。CPUは360 MHzのR12000および400 MHzのR12000Aで、4または8 MBの二次キャッシュを含む。アーキテクチャは分散共有メモリのNUMAflexアーキテクチャである。Origin 3000には以下のモデルがある。(HPCwire 2000/7/28)

Model

Number of CPUs

Memory

Origin 3200

2~8

512 MB~16 GB

Origin 3400

4~32

512 MB ~16 GB

Origin 3800

16~512

2 GB~1 TB

Origin 3900

4~512

1 GB~1 TB

 

アメリカのNOAA(the National Oceanic and Atmospheric Administration)は、予報業務のために、4年間総額$34Mの予算でOrigin 3800を10台購入した。8台は128プロセッサ、2台は64プロセッサである(HPCwire 2000/10/6)。

2001年5月には500 MHzのR14000が、2002年2月には600 MHzのR14000Aが利用可能になる。

2002年6月のTop500では、400 MHzから600 MHzのOrigin 3000が合計31件登場している。ただし表のRmaxの値には、600 MHzプロセッサ1024個のNASA Amesのマシンと、500 MHzプロセッサ512個のマシン(6件)が同じ405.6 GFlopsであるなど不審な点がある。

1999年8月にSGIはサーバのプロセッサをMIPSからItaniumに移行することを決定し、2002年まではMIPSプロセッサの開発継続することを発表していた。しかし、同社は2000年6月20日、MIPS Technologies社を完全にスピンアウトさせた。

13) Hewlett-Packard社(Superdome)
2000年9月のeventでSuperdomeを発表した。これはPA-RISCプロセッサによるccNUMAクラスタであり、本を正せば1995年に買収したConvex社のExemplarの技術に由来するHP V-Classの新版と見ることもできる。(HPCwire 2000/9/15) 2002年からは、Itanium 2を用いたマシンHP Integrity Superdomeが登場したので、従来のPA-RISCプロセッサによるものはHP9000 Superdomeと改称された。HPのSuperdomeはTop500の上位に来ることはないが中位には多数登場し、HP社のメーカ別Top500件数に貢献した。

14) Compaq社(新方針)
1998年1月にDEC社を吸収したCompaq社は業績が低迷し行く末が危ぶまれていたが、2000年5月16日にニューヨークのRockefeller PlazaのRainbow Roomで会見を行い、Alphaプロセッサを主軸とする新世代のコンピュータWildfire(コード名)サーバを開発していくことを発表した。Compaq社がDigital Equipment社を買収してから新製品ラインを公表したのはこれが初めてであった。Wildfireは731 MHzのAlphaプロセッサを最大32個搭載することができる。さらに今後は1 GHzのAlphaも開発していく予定であると発表した。8月22日にASCI Qを受注したのはその成果の一つであった。

日本ではビジュアルテクノロジー(株)は、Alpha21264B 833 MHzを8基搭載したVT SuperCluster XA8000を8台並列接続したマシンを11月14日東大工学部附属総合試験所から受注した。

Compaq社は11月には、Intel Pentium 4 (1.4および1.5 GHz)を用いたDeskproワークステーションおよびPresario製品を開発することを発表した。Presario 7000Tデスクトップは、Pentium 4とNVIDIA GeoForce2 Ultrao 3Dグラフィックスを装備する。AlphaとPentiumの両刀遣いであろうか。

6月20日、ヒトゲノム解読の完了が宣言されたが、これに携わったCelera Genomics、the Sanger Cenre、the Whitehead Instituteは、Tru64 UNIXとTruClusterソフトウェアを搭載した多数のCompaq AlphaServersを使用したと発表した。

15) Linux NetworX社(改名)
1989年ユタ州Sandyでボードコンピュータの開発メーカとしてALTA Technology社が創立されたが、次第に、COTS (Commodity off the Shelf)の並列システムや、組み込みのリアルタイムシステムなどで成長してきた。2000年4月にLinux OSを搭載した大規模クラスタによるHPCソリューションを提供する会社としてLinux NetworX社に改名した。(HPCwire 2000/4/7) 2008年2月14日にSilicon Graphics社によって買収される。

16) Transmeta社(Crusoe TM5400/5600)
1995年にSanta Claraで創立されたTransmeta社は、2000年1月19日に、カリフォルニア州Saratogaでイベントを行い、700 MHzのCrusoe TM5400/5600を大々的に発表した。これらはx86互換の省電力プロセッサであり、Code Morphing Softwareを使って、x86向けの命令をVLIWコードに変換して実行する。(HPCwire 2000/1/21) これらのチップは11月7日に発売された。Crusoeの名称は小説の主人公Robinson Crusoeに由来する。

Transmeta社は創業以来沈黙を保って秘密に開発を進めており、Linuxの創業者であるLinus Torvaldsが社員として参加し(1997年2月から2003年6月まで)、George SolosやMSの共同創立者のPaul Allenが同社を支持していることもあり、大きな宣伝効果を生み出した。Crusoeが発表されると、$21であった株価は急騰して$5026まで上がり、終値は$46となった。

2000年6月5日、IBM社は同月のパソコン展示会においてCrusoeを搭載したThinkPadを展示する予定であることを明らかにした。その後、Intel社がUltra Low Voltage Mobile Pentium III (500MHz)を出したので、Crusoe版のThinkpadはキャンセルされた。

17) Myricom社(Myrinet-2000)
1994年に創業しクラスタ用の高速相互接続ネットワークを製造していたMyricom社は、2000年7月ごろ、第3世代のMyrinetシステムMyrinet-2000を発表した。バンド幅は片方向2 Gb/s、レイテンシは9 μs以下。合わせて、次世代Xbar-16クロスバスイッチも発表した。出荷予定は9月。Compaq社は、最上位クラスタにはQuadricsネットワークを、それ以外はMyrinetのクラスタを位置付けた。

18) Microsoft社(CEO交代、Xbox)
1月13日、Bell GatesはCEO職をSteve A. Ballmerに譲った。

3月13日、日本でPlayStation 2が発売された数日後、Microsoft社は第6世代に当たるゲーム機Xboxを開発しているという発表があった。CPUはMobile Celeron 733 MHz、GPUはNVIDIA製のGeForce3の改良版、メモリは64 MBのSDRAM、4 GBのHDD、DVDドライブとまるでPCであった。予定価格はS149とのこと。PS2の3~7倍の性能と思われた。実際に発売されたのは、アメリカで2001年11月15日、日本では2002年2月22日であった。

19) Red Hat社
Red Hat社は、x86用のオブジェクトプログラムを、Itanium用のコードに変換するソフトウェアを2000年2月18日に公開した(HPCwire 2000/2/18)。また、Red Hat Enterprise Linuxの最初の版を2000年2月22日にリリースした。また9月には、Red Hat Linux 7を発表した(HPCwire 2000/9/29)。

IDCのDan Kusnetzkyの調査によると、1999年中に販売したLinuxの48%はRed Hat社のものであり、続く5社の合計よりも多いが、他社の進展も著しい。2位はドイツのSuSE社で15%、3位はCaldera System社とTurboLinuxh社で各10%、5位はフランスのMandrakeSoft社で4%、6位のCorel社は1%、残りは11%である。(HPCwire 2000/9/8)

20) Caldera Systems社
Caldera Systems社は、Intel社、IBM社などと、LinuxをIA-64に移植するというProject Trillianを進めて来たが、2000年2月に動くソフトを開発した。2001年6月、Intel Itanium用のOpenLinux Server 64を、2001年6月にプレビューとして発表した。利用できるのは2001年第3四半期の予定。(HPCwire 2001/6/15)

21) Sun Microsystems社(Solaris 8、UltraSPARC III、StarOffice、Gridware社買収)
Sun Microsystems社は、2000年2月Solaris 8を公開した。これは、マルチパスI/O、IPv6、IPsecをサポートし、ロールベースアクセス制御(RBAC)を追加した。しかも、ライセンス料を無料化し、顧客にはソースコードも提供する。同じ2月に発表されたWindows 2000や、急成長をしているLinuxに対抗しようとしている。(HPCwire 2000/1/28)

同時にUltraSPARC IIIプロセッサ(コード名Cheetah)が、近々600 MHzと750 MHzで発売され(1997年の発表では1999年に発売される予定であった)、Solaris 8の能力を存分に引き出すと述べた(HPCwire 2000/2/4) ISSCC会議のところでも述べたように、64ビット高速プロセッサは熾烈な競争状態にあった。同社は2000年9月27日にNew Yorkでイベントを開き、新しいUnixサーバ(コード名Serengeti)とUltraSPARC III(コード名Cheetah)を大々的に宣伝する予定であったが、特に新しい情報はなかったようである。(HPCwire 2000/9/29) 実際に発売されるのは2001年である。

同社は2000年6月20日、StarOffice 5.2を公開し、個人利用については無償でダウンロード可能とした。

同社は2000年にGridware社を買収し、Solaris及びLinuxに対するGridwareのフリー版を、Sun Grid Engineの名前で提供した。2001年にはソースコードを公開した。Gridware社は、2000年1月に、Genias Software GmbH & Inc. と Chord Systems, Inc.との合併によって設立された、分散コンピューティング資源管理ソフトウェアやコンピュータクラスタのソフトウェアの専門会社である。 (HPCwire 2000/7/28)

22) Sun Microsystems社(Java訴訟)
1997年から続いているJavaに関するMicrosoft社との訴訟合戦は、1999年5月、San Jose連邦地裁が3つの仮裁定を出したが、1999年6月、San Franciscoの第9巡回区控訴裁判所は、この仮裁定を無効とし、San Joseの連邦地裁に差し戻した。

2000年1月28日、連邦地裁はMicrosoft社に対して仮の差し止め命令を出し、Microsoft社がSun 社の基準合わないJavaの拡張言語を提供することを禁止した。ただ、その根拠を、連邦著作権法ではなく、カリフォルニア州の事業規範(California Business and Professions Code)としている。(HPCwire 2000/1/28) 最終的に決着するのは、2001年のことである。

23) Microsoft社 (Windows 2000、Windows Me)
Microsoft社は、Windows NT 4.0の後継として開発されていたOSをWindows 2000として発売した。製造工程向けには1999年12月15日、一般向けには2000年2月18日である。主として業務用として位置づけられていたが、Editionには、Professional、Server、Advanced Server、Datacenter Serverがある。開発当時からWindows NT系とWindows 9x系との統合が計画されていたため、一般ユーザへも対応できるようにWindows 9x系のユーザインタフェースが用意されていた。2000年8月3日、bug fixを集めたSP (Service Pack)1をweb上に公開した(HPCwire 2000/8/4)

9月14日には、Microsoft Windows Me(Millennium Edition)がWindows 9xの後継として発売された(日本語版は9月23日)。

Bill Gatesは2000年7月に、Itanium用の64ビット版のWindows 2000が完成に近づいていると述べた(HPCwire 2000/7/14)。しかし実際に出荷されるのは2002年7月である。

24) Microsoft社(反トラスト法訴訟)
Microsoft社は、Sun社とのJava訴訟に加えて、もう一つの訴訟を抱えていた。1998年5月、アメリカ司法省やいくつかの州は、Microsoft社を、独占的立場を悪用して消費者の利益を侵したと連邦地裁に提訴したが、連邦地裁は司法省に有利な方向を出してきた。司法省と19の州は、2000年1月12日のUSA Today紙に「マイクロソフト社を分割せよ」という記事を載せた。(HPCwire 2000/1/14) 新CEOのSteve Ballmerは、「この会社を分割しようなんて、無謀で無責任だ」と怒った。口頭弁論は2月22日に行われた。

2000年4月3日に連邦地裁でMicrosoft社が敗訴し、同社がSherman反トラスト法に違反して、自分のWebブラウザをWindows OSと結合して、Netscape社などの製品を排除したと判定した。判事は、同社が州の反競争法にも違反している可能性があるとも述べた(HPCwire 2000/4/7)。

6月7日には連邦地裁のThomas Penfield Jackson判事から、同社をOS部門とアプリケーション部門とに分割せよとの命令が出た。これが実現すれば1984年のAT&T以来の最大の企業分割である。この命令には様々な規制が含まれていた。例えばOSを提供する方の会社は、Microsoftの新版のWeb browserを配布してはならない。分割された会社は役員を兼務したり、互いに株を持ち合ったりしてはいけない、など。(HPCwire 2000/6/9) Microsoft社が分割されれば、同社のOS部分は、Linuxと健全な競争ができるであろうとの観測も出た(HPCwire 2000/6/16)

分割命令について、Microsoft社は直ちにUnited States Court of Appeals for the Federal Circuit(連邦巡回区控訴裁判所、日本の高等裁判所にあたる控訴裁判所の一つで、特許、商標、関税、政府との契約など特定の問題だけを扱う。地区別の12の巡回区控訴裁判所と別にある。)に控訴した。 アメリカ司法省などは、巡回区控訴裁判所をスキップして、直接連邦最高裁判所に持っていこうとしたが、最高裁判所はこれを拒否した。(Wikipedia: United States v. Microsoft Corp.)

その後、2001年6月に米連邦巡回区控訴裁判所が判決を差し戻し、同年11月に司法省とMicrosoftの和解が成立する。さらに和解案の修正を経て、2002年11月に連邦地裁が両者の和解案を承認する。(ITmedia 2011/5/13)

25) Entropia社(AllianceとNPACIにCPU時間寄付)
1997年に創業したEntropia社のCTOのAndrew Chienは、11月のSC2000において、同社が2つのPACI組織、the National Computational Science Alliance (“Alliance”) およびthe National Partnership for Advanced Computational Infrastructure (NPACI)に対し、200 M CPU時間を寄付する契約を結んだと発表した。この資源は、80カ国以上にまたがる10万台以上のPCにEntropia 2000ソフトウェアを稼働させることにより、その遊休時の資源を集めたものである。無から有を生じさせる魔法のような話であるが、当時はCPUの消費電力の問題にほとんど気付いていなかった。(HPCwire 2000/11/27)

26) WebEx社(株式公開)
WebEx社は1996年にSubrah Iyar と Min Zhuにより、web会議システム開発のために設立されたが、2000年7月に株式公開した。最初はNASDAQ市場に上場されたが、2006年にNASDAQ Global 市場に上場される。2007年にCisco Systems社に$3.3Bで買収される。ちなみに、Zoomの創立者Eric Yuan(袁征)はCisco Webex社の副社長であったが、2011年4月、40人の技術者とともに退社し、Zoom Video Communicationsを創立する。

27) C90がeBayに出品
こぼれ話であるが、PSC(Pittsburgh Supercomputing Center)が、1993年から使用してきたY-MP C90をeBayに出品し、競売の結果、$45,100.70(数百万円)で売れたとのことである。買ったのはSteve Blankという起業家で、Ardent ComputerやEpiphanyを創業したことで知られる。彼はこのC90を自分の所有する260エーカー(約1 km2)の牧場のトラクターの隣に設置するそうである。重さ30トンで輸送費も大変。まさか電源や空調を整備して実際に稼働させるつもりではないでしょうね。(HPCwire 2000/9/15) 調べるとY-MP C916/16512で、1993年6月の最初のTop500で堂々9位tieであった。

ヨーロッパの企業

1) 富士通(フランス)
富士通は、2000年2月14日、フランスのParisに、the Fujitsu Technical Computing Facilityを開設すると記者発表した。この施設には、VPP5000などのスーパーコンピュータを設置し、ISV (Independent Software Vendors)がアプリケーションソフトウェアを移植し、チューニングをおこない、有効性を検証するために提供する。(HPCwire 2000/2/18)

企業の創業

1) BigBangwidth社
同社は、高性能WSをつなぐ10 Gb/sの高速光ネットワークを開発するために、2000年カナダ・アルバータ州のEdmontonでDan Gattiによって創立された。

2) BlueArc社
Geoff Barrallらは2000年12月8日、Londonでネットワークストレージの会社BlueArc Corporation Ltd.を創立しCTOとなった。2001年2月9日まではMediamight Ltd.を名乗った。2011年9月7日、Hitachi Data Systems社に買収される。

3) 百度 (Baidu)
2000年1月1日、中国の李彦宏(Li Yanhong, Robin Li)は、百度(Baidu)を創立した。中国で最大の検索エンジンを提供している。

4) 中芯国際集成電路製造(SMIC)
「中国の動き」のところに書いたように、2000年4月3日、張汝京 (Richard Chan)により、Semiconductor Manufacturing International Corporation(SMIC、中芯国際集成電路製造有限公司)が上海で設立された。

企業の終焉

1) KAI (Kuck and Associates Inc.)
David Kuckが1979年に創立したKAI (Kuck and Associates Inc.)は2000年4月13日にIntel社によって買収された。従業員は33名。創立者David KuckはIntel社のMicroprocessor Products Groupに所属する。

次は21世紀に入る。Teraが変身したCray Inc.は日本電気と完全提携し、ダンピング関税が撤回される。

 

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