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HPCの歩み50年(第76回)-2000年(e)-
本年の初頭からIntel社とAMD社は1 GHzのCPUをめぐって競争していた。Intel社は3月8日の製品発表会において、1 GHz Pentium IIIチップによりGHzの壁を破ったと発表したが、AMD社は2日前の3月6日、1 GHz Athlonプロセッサを発表した。SGIからCray部門を買収したTera Computer社は、買収完了後の4月4日、Cray Inc.に名称を変えた。
SC2000(続き)
11) Top500
TOP500がSC2000にあわせて11月3日発表になった。Top10は以下の通り。
順位 | 組織 | System | Rmax (TFlops) |
1 | LLNL | ASCI White, SP | 4.938 |
2 | SNL | ASCI Red | 2.379 |
3 | LLNL | ASCI Blue-Pacific SST | 2.144 |
4 | LANL | ASCI Blue Mountain | 1.608 |
5 | Naval Oceanographic Office | SP POWER3 375 MHz | 1.417 |
6 | NOAA R&D | SP POWER3 375 MHz | 1.179 |
7 | Leibniz Rechenzentrum(独) | SR8000-F1/112 | 1.035 |
8 | SDSC | SP POWER3 375 MHz | 0.929 |
9 | KEK(日) | SR8000-F1/100 | 0.917 |
10 | 米国某政府機関 | T3E1200 | 0.892 |
トップはASCI Whiteであったが、8192 processorsで Rpeak=12 TFlopgs であるにも係わらずRmax=4.9 TFlopsしか出ておらず、チューニング不足と思われる。SSTは peak 3.8 TFlops で 2.1 TFlops までは出している。日本のマシンで TOP10 は KEK のSR8000 だけである。TOP100 内の日本のサイトは以下の通り。
順位 | 設置機関 | 機種/ノード数 | Rmax (GFlops) |
9 | KEK | SR8000-F1/100 | 917 |
13 | 東大情報基盤センター | SR8000/128 | 873 |
18 | 気象庁 | SR8000-E1/80 | 691.3 |
24 | 東大物性研 | SR8000-F1/60 | 577 |
33 | 名大情報基盤センター | VPP5000/56 | 492 |
35 | 京大情報メディアセンター | VPP800/63 | 482 |
37 | TACC(筑波先進計算センター) | SR8000/64 | 449 |
49 | 筑波大計算物理学研究センター | cp-pacs/2048 | 368.2 |
59 | 理研 | VPP700/160E | 319 |
68 | 分子研 | VPP5000/30 | 277 |
73 | 気象研 | SR8000/36 | 255 |
76 | 東北大サイバーメディアセンター | SX-4/128H4 | 244 |
79 | 金材研 | SX-5/32H2 | 243 |
85 | 東大情報基盤センター | SR2201/1024 | 232.4 |
86 | 宇宙航空研究所 | NWT | 229 |
87 | 北大情報基盤センター | SR8000/32 | 229 |
98 | 東北大流体研 | Origin2000/512 | 195.6 |
SR8000 が席巻している。
アメリカの企業の動き
1) Intel社とAMD社のGHz競争
2000年の初頭からIntel社とAMD社は1 GHzのチップをめぐって競争していた。第2世代のPentium IIIであるCoppermineは733 MHzまでのものが1999年10月25日に発売されたが、AMD社は2000年2月11日にAMDの850 MHz Athlonを出荷した。
2月の時点で両社ともGHzのチップを春ごろ出荷すると見られていた。Intel社はIntel Developer Forumにおいて先手を切り、1 GHz Pentium IIIのサンプルをPCメーカに提供したと発表し、前倒しのロードマップを示した。Intel社は、1 GHz Pentium III を第2四半期に量を限って出荷すると述べた。
AMD社は2月のIEEE ISSCCにおいて0.18μプロセスによる1.1 GHzの新モデルAthlon(コードネームThunderbird)を予告した。これらはドイツDresdenの新工場で製造するとのことである。PCメーカに対し 1 GHzのAthlonを60日以内に提供すると述べている。AMD社のスポーククスマンは出荷の時期についてコメントは避けたが、第4四半期には1 GHzのAthlonが動いているだろうと述べた。
Intel社は3月8日の製品発表会において、1 GHz Pentium IIIチップによりGHzの壁を破ったと発表したが、AMD社は2日前の3月6日、1 GHz Athlonプロセッサを発表した。Intel社の製品発表会の情報を事前に得ていたのではないかと言われている。
Intel社は、2000年5月までに733 MHzから1 GHzまでの動作周波数のPentium IIIを発売した。その後7月31日に1.13GHzのチップも少数出荷されたが、8月ごろ動作の不安定が指摘され回収された。最初は仕様外の温度で動作させたときのみ不安定になるとされていたが、その後指定された仕様の範囲内でも不安定が起こることがあることが分かった。Intel関係者は、1 GHz以下のチップには一切問題がないことを強調した。
AMD社は、6月5日、Athlonを多数発表した。周波数は600 MHzから1 GHzまで。初めての銅配線チップであり、すべてのモデルでMMXと Enhanced 3DNow!をサポートする。廉価版のDuronも発表した。Intel社が1.13 GHz版の不安定を認めたその日、AMD社は1.1Ghz版のAthlonの出荷を公表した。
2) Intel社
2000年6月28日、Intel社はこれまでコードネームWillametteという名前で開発されてきたプロセッサをPentium 4と呼ぶことを発表した。予定より少し遅れて、11月20日にPentium 4の最初の製品(1.4 GHzと1.5 GHzとIntel 850)が発売された。1.5 GHz版が$819であった。
当初1999年に発売予定のItanium(コードネームMerced)は開発が遅れていたが、2月にSan Francisco で開催されたIEEE ISSCC (International Solid State Circuit Conference)で詳細が発表された。0.18μプロセス、6層メタルで25.4Mトランジスタ、演算ユニットは整数4、浮動小数2、分岐3、ロード・ストア2の計11、クロック800 MHz、単精度6.4 GFlops、倍精度3.2 GFlops、パイプラインは10段など。
3) IBM社
昨年のところに書いたように、1999年2月5日に200 MHzのPOWER3を搭載した並列コンピュータRS/6000 SPが発表された。7月には375 MHzのPOWER3-IIを搭載した、RS/6000 SP 375MHz POWER3 SMP High Nodeを発表した。ノードは2~16プロセッサによるSMP構成である。最大512ノードを接続した8192プロセッサまで搭載可能。またノード間の相互接続機構としてSP Switch 2も発売した。バンド幅は1 GB/s(双方向)である。
前年発表されたPOWER4プロセッサの詳細が明らかになってきた。これはPOWERシリーズで初めてのdual coreであり、それぞれ 1GHz以上で動作。それぞれ D-cache とI-cache とを持つ。共通にL2 cache と、L3 cache controler と directoryを含む。
また1999年12月6日に発表したBlueGeneについてもいろいろ情報が伝えられ、驚くことも多かったが、毎週違うので若干混乱した。8月ごろの話では、1チップに5×5=25個のCPUを載せ、1個のCPUは4 Mbit DRAM (16K x 256bits)、D-cache (256x256bits), I-cache (256x256bit)、8組のthread units (i-sequencer, register file, FX add, FX LGC, FX shift) とFL mpy, FL add から成る。500 MHz で動き、演算性能は1 GFlopsで、チップあたりは25 GFlops。1 GFlopsに0.5 MBのメモリでよいのか、DRAMとCPUを混載することはできるのかといろいろ議論した。
Mainframeについて、IBM社はSystem/360、System/370、ES/9000、S/390というシリーズ名を用いてきたが、2000年10月、ブランド名称をIBM eServer zSeriesに変更し、z/Architectureという64ビットのアーキテクチャを発表した。
4) Tera Computer社/Cray社
SGI社は前年からCray部門の売却を検討していたが、3月2日、Cray部門はTera Computer社に売却されることが発表された。Tera Computer社は、買収完了後の4月4日、Cray Inc.に名称を変えた。つまり、Crayというbig nameそのものを買ったことになる。
さっそく5月12日には、the U.S. Army High Performance Computing Research Center (AHPCRC)から、所有するT3E-1200を更新する$18.5Mの契約を獲得した。この契約には、現存のT3E-1200/272に816プロセッサ追加してT3E-1200/1088に増強するとともに、次期ベクトルコンピュータのSV2を獲得するオプションも含んでいる。
5) SGI社
2000年7月、Silicon Graphics社はOrigin 3000サーバを発表した。CPUは360 MHzのR12000および400 MHzのR12000Aで、4または8 MBの二次キャッシュを含む。アーキテクチャは分散共有メモリのNUMAflexアーキテクチャである。2001年5月には500 MHzのR14000が、2002年2月には600 MHzのR14000Aが利用可能になった。
2002年6月のTop500では、400 MHzから600 MHzのOrigin 3000が合計31件登場している。ただし表のRmaxの値には、600 MHzプロセッサ1024個のNASA Amesのマシンと、500 MHzプロセッサ512個のマシン(6件)が同じ405.6 GHzであるなど不審な点がある。
1999年8月にSGIはサーバのプロセッサをMIPSからItaniumに移行することを決定し、2002年まではMIPSプロセッサの開発継続することを発表していた。しかし、同社は2000年6月20日、MIPS Technologies社を完全にスピンアウトさせた。
6) Hewlett-Packard社
2000年9月のeventでSuperdomeを発表した。これはPA-RISCプロセッサによるクラスタであり、元を正せばConvex社に由来するHP V-Classの新版と見ることもできる。2002年からは、Itanium 2を用いたマシンHP Integrity Superdomeが登場したので、従来のPA-RISCプロセッサによるものはHP9000 Superdomeと改称された。HPのSuperdomeはTop500の上位に来ることはないが中位には多数登場し、HP社のメーカ別件数に貢献した。
7) Compaq社
1998年1月にDEC社を吸収したCompaq社は業績が低迷し行く末が危ぶまれていたが、2000年5月16日にニューヨークのRockefeller PlazaのRainbow Roomで会見を行い、Alphaプロセッサを主軸とする新世代のコンピュータWildfire(コードネーム)サーバを開発していくことを発表した。Compaq社がDigital Equipment社を買収してから新製品ラインを公表したのはこれが初めてであった。Wildfireは731 MHzのAlphaプロセッサを最大32個搭載することができる。さらに今後は1 GHzのAlphaも開発していく予定であると発表した。8月22日にASCI Qを受注したのはその成果の一つであった。
日本ではビジュアルテクノロジー(株)は、Alpha21264B 833 MHzを8基搭載したVT SuperCluster XA8000を8台並列接続したマシンを11月14日東大工学部附属総合試験所から受注した。
Compaq社は11月には、Intel Pentium 4 (1.4および1.5 GHz)を用いたDeskproワークステーションおよびPresario製品を開発することを発表した。Presario 7000Tデスクトップは、Pentium 4とNVIDIA GeoForce2 Ultrao 3Dグラフィックスを装備する。AlphaとPentiumの両刀遣いであろうか。
8) Transmeta社
1995年にSanta Claraで創立されたTransmeta社は、2000年1月19日に、カリフォルニア州Saratogaでイベントを行い、700 MHzのCrusoe TM5400/5600を大々的に発表した。これらはx86互換の省電力プロセッサであり、Code Morphing Softwareを使って、x86向けの命令をVLIWコードに変換して実行する。これらのチップは11月7日に発売された。Crusoeの名称は小説の主人公Robinson Crusoeに由来する。
Transmeta社は創業以来沈黙を保って秘密に開発を進めており、Linuxの創業者であるLinus Torvaldsが社員として参加し(1997年2月から2003年6月まで)、George SolosやMSの共同創立者のPaul Allenが同社を支持していることもあり、大きな宣伝効果を生み出した。Crusoeが発表されると、$21であった株価は急騰して$5026まで上がり、終値は$46となった。
2000年6月5日、IBM社は同月のパソコン展示会においてCrusoeを搭載したThinkPadを展示する予定であることを明らかにした。
9) Myricom社
1994年に創業しクラスタ用の高速相互接続ネットワークを製造していたMyricom社は、2000年7月ごろ、第3世代のMyrinetシステムMyrinet-2000を発表した。バンド幅は片方向2 Gb/s、レイテンシは9 μs以下。合わせて、次世代Xbar-16クロスバスイッチも発表した。出荷予定は9月。Compaq社は、最上位クラスタにはQuadricsネットワークを、それ以外はMyrinetのクラスタを位置付けた。
10) Micirosoft社
1月13日、Bell GatesはCEO職をSteve A. Ballmerに譲った。2月17日 Microsoft Windows2000がWindows NT 4.0の後継バージョンとして発売された(日本語版は2月18日)。9月14日には、Microsoft Windows Me がWindows 9xの後継として発売(日本語版は9月23日)。
4月3日、米国司法省は反トラスト法違反として、Microsoft社を提訴し、連邦地裁ではOS (Windows)の会社とアプリケーション会社に2分割する是正命令が出たが、ワシントン連邦高等裁判所は2001年6月判決を破棄して地裁に差し戻した。同年11月、和解が成立した。その後、和解案の修正の後、2002年11月に連邦地裁が両社の和解案を承認した。
3月13日、日本でPlayStation 2が発売された数日後、Microsoft社は第6世代に当たるゲーム機Xboxを開発しているという発表があった。CPUはMobile Celeron 733 MHz、GPUはNVIDIA製のGeForce3の改良版、メモリは64 MBのSDRAM、4 GBのHDD、DVDドライブとまるでPCであった。予定価格はS149とのこと。PS2の3~7倍の性能と思われた。実際に発売されたのは、アメリカで2001年11月15日、日本では2002年2月22日であった。
次は21世紀に入る。Teraが変身したCray Inc.は日本電気と完全提携し、ダンピング関税が撤回される。次回配信は平成28年4月4日となります。
(タイトル画像:Cray Inc ロゴ )
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