提 供
HPCの歩み50年(第5回)-1968年-
日本の各社は引き続き汎用コンピュータの開発を競っている。メモリは磁気コア、演算素子はICという組み合わせが多い。この年、Intel CorporationがFairchild Semiconductor出身者により、シリコンバレーの一角のMountain Viewにおいて設立された。翌年には初の製品bipolar SRAM 3101チップ(64 bits)を出荷した。GbでもMbでもkbでさえないところがかわいらしい。

世界中が激動の一年であった。1/5プラハの春始まる、1/29東大医学部自治会無期限スト、3/16ソンミ村虐殺、3/31北爆停止、4/4キング牧師暗殺、5/10フランス五月革命、6/5ロバート・ケネディ暗殺、6/15東大全共闘、安田講堂占拠、10月毛沢東が劉少奇を除名、10/21新宿騒乱事件(国際反戦デー、学徒出陣の記念日)、12/29次年度東大、東教大の入試中止決定など。その他、2/20金嬉老事件、4/12霞ヶ関ビル完成、5/16十勝沖地震、6/26小笠原復帰、7/1郵便番号導入、8/8日本初の心臓移植、12/10三億円事件、川端康成ノーベル文学賞受賞。
筆者は4月博士課程に進学したが、東大は騒然としていた。それでも東大大型計算機センターのHITAC 5020Eを使って、Regge pole理論など細々と研究を進めていた。同時に愛用したのが高橋・後藤研究室のFACOM 270-20であった。わずか16 KW (32 KB)の主記憶(キャッシュではない!)の弱小マシンであったが、FORTRANが使えた。アキューミュレータやプログラムカウンタのランプが目で読める(ほど遅い)ので、何を計算しているのかが一目瞭然であった。メモリさえ節約すれば、大型計算機センターのHITAC 5020Eで30秒のジョブ(一番小さいジョブクラス)が一晩で実行できた。しばしば高橋・後藤研(の川合さん)に頼み込んで一晩占有利用させてもらった。当時、大型計算機センターの30秒のジョブのターン・アラウンドは1週間と長かったし、独占利用ではプログラムのエラーがすぐ修正できるので、大変便利であった。ただ、Xが複素数のとき、X**2(二乗)と書くと、CEXP(2.0*CLOG(X)) と変換されてしまい、めちゃくちゃ遅くなった。しかも実数部が負であるとソフトのバグにひっかかり往生した。X*Xと書き直して解決した。非線形最小二乗法のMarquardt法のプログラム(OYAMIN)を作ったがどうしても32 KBに収まらないので、オーバーレイ(プログラムを分割してドラムから必要なものを出し入れして実行する手法)を駆使して32 KBの主記憶に収めた。このオーバーレイ版のOYAMINが、50年近く経った今でも使われているそうである。もちろんオーバーレイはしていないが。
日本の企業の動き
日本では引き続き各社が汎用コンピュータの開発を競っていた。
1) 富士通
富士通は、3月大型汎用機FACOM 230-60を完成した。メモリは磁気コア、素子は全面的にICを採用、2CPUの共有メモリのマルチプロセッサを可能とした。引き続き8月には、中~大型汎用機FACOM 230-25, 35, 45を発表した。これはメモリにもICを採用した。
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FACOM 230-60 (画像出典:一般社団法人 情報処理学会 Web サイト「コンピュータ博物館」) |
2) 日本電気
日本電気は11月、NEAC2200-700を発表した。メモリは磁気コア、素子はICで、小容量ながらキャッシュメモリを実装していた。高速のTSSを実現した。
アメリカの企業の動き
1) IBM社
1月、IBM社はIBM System/360 model 85を開発した。これははじめてキャッシュメモリを採用したマシンとして知られる。
ベンチャー企業等の創立
1) Data General社
4月、PDP-8の主任設計者であったEdson de Castro、Henry Burkhardt IIIらはDigital Equipment社を退職し、Data General社をデラウェア州で設立した。翌年Novaを発表、1974年には16ビットのEclipseを、1980年には32ビットのEclipse MV/8000を発表した。筆者が1980年代在職していた筑波大学の数値解析研究室では(最終的に)3台のEclipseが稼動していた。OSはAOSと呼ばれ、multicsの影響を受けていたと思われる。3台はEthernetで接続されていたが、TCP/IPではなくXodiacという独自のプロトコルを用いていた。ファイルの共有が実現していたが、どのマシンから見ても、ルート・ディレクトリの下に他の2台のルートがマウントされた形に見えているという不思議な構造をしていた。初期の日本語システムもあり、ずいぶん愛用した。
2) Intel社
また、7月18日には、Intel Corporationがシリコンバレーの一角のMountain Viewにおいて設立された。設立したのは、Fairchild Semiconductor社を退職した、Robert Noyce、Gordon Moore、Andrew Groveらである。その後の発展はご存じの通り。1969/4には初の製品SRAM 3101チップ(64ビット)を発表した。Fairchild出身者はいろんな会社を創立に加わっているのでそれらの会社はFairchildrenと呼ばれることがある。
3) ICL社
ICL (International Computers Limited)社は、1968年、イギリスのPutneyにおいて、いくつかの会社の合併によって成立した。1974年10月、メインフレームとしてICL 2900シリーズを発表した。1979年にはSIMDマシンICL DAPを製造している。2002年、富士通に吸収された。
(タイトル画像 FACOM 270-20 出展:一般社団法人 情報処理学会 Web サイト「コンピュータ博物館」)
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