世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


7月 7, 2025

新HPCの歩み(第240回)-2006年(f)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

次世代スーパーコンピュータ開発プロジェクトで、富士通と日本電気・日立製作所の2チームは概念設計を実施した。日本電気はSX-8Rを発表した。ソニーはCellを使ったPS3を、任天堂はWiiを発売した。IBMはCell Blade Serverを発売した。グリッド関係ではGGFとEGAが合併してOGFとなった。

日本の企業の動き

1) 日本電気(次世代、SX-8R、面発光)
既に述べたように、次世代スーパーコンピュータ開発プロジェクトでは、2006年9月19日から2007年2月28日の期間に、日本電気+日立チームは富士通と並行して概念設計を実施した。主要な要求仕様は、「ピーク性能10 PFlops以上、メモリ容量2.5 PB以上、消費電力30 MW以下(周辺機器、空調機器を含む)、設置面積3,200m2以下(周辺機器を含む)」であった。

日本電気は2006年10月17日、SX-8Rを発表した。これはSX-8のベクトル演算器を2倍に増加させたもので、CPU当たりのピークベクトル性能は35.2 GFlopsである。8 CPUでノードを構成し、最大構成は512ノードまで可能である。(CNET 2006/10/17)

さすがベクトルプロセッサというところであるが、マイクロプロセッサもがんばっていて、2006年11月2日に発表されたIntelのKentsfieldは、2.66 GHzのQuad-Coreで42.5 GFlopsのピーク性能に達していた。メモリ周りでどこまで実効性能の差が付けられるか?

11月10日、大阪大学のサイバーメディアセンターは、20ノードのSX-8R(Rpeak=5.3 TFlops)を導入すると発表した。設置は2007年1月。

2007年6月のTop500におけるSX-8Rは下記のとおり。大阪大学は提出しなかったようである。もし出していればRmax≒4.77 TFlopsで、370位前後になったのではないかと推定される。このほか、2007年2月にはウィーンのThe Central Institute for Meteorology and Geodynamics (ZAMG)に2.0 GHzのSX-8Rが2ノード(1ノードは8プロセッサ)が導入された。ピーク性能は0.51 TFlopsである。(HPCwire 2007/7/19) Top500には届かない。

設置場所

機種

コア数

Rmax

Rpeak

初出と順位

Meteo France

SX-8R 2.2 GHz

128

4.058

4.505

2007/6 492位tie

Meteo France

SX-8R 2.2 GHz

128

4.058

4.505

2007/6 492位tie

 

要素技術では、2 5Gbpsの直接変調動作が可能な面発光レーザーの開発に成功したと3月7日発表した。従来は850nm帯/AlGaAs系材料が使われていたが、今回は1,070nm帯/InGaAs系材料を採用した。面発光レーザーは、基盤から垂直に光を放出する。プレスリリースによると、しきい値電流0.33 mA@25℃、0.58 mA@85℃、動作電流7 mA (26 Gbps動作時)とのことである。これは、文部科学省の「将来のスーパーコンピューティングのための要素技術の研究開発」(2005年~)における「超高速コンピュータ用光インターコネクションの研究開発」という研究課題の成果である。アメリカのAnaheimで開催される光通信システムの国際会議OFC2006で3月10日に発表する予定。これとの関係は不明だが、少し前の2月8日、San Franciscoで開催されたISSCC (International Solid-State Circuits Conference) 2006 においてシリコン・ナノフォトニック技術について発表を行っている。

9月15日には、1000信号の光伝送を可能にする光モジュールの超高密度実装技術の開発に成功したと発表した。全体で20 Tbps程度の光通信を実現すべく研究開発を進める。面発光はRWCPでも開発が進められたが実用までは行かなかった。

2006年5月22日~26日、カナダのToronto大学においてNEC User Group, NUG-XVIII meetingが開催され、主としてヨーロッパ諸国と日本から60名の専門家が出席した。(HPCwire 2006/6/2)

2) 富士通(次世代、Itanium2サーバ)
前に述べたように、次世代スーパーコンピュータ開発プロジェクトにおいて富士通は、日本電気+日立のチームと並行して、2006年9月19日から2007年2月28日の期間に概念設計を実施した。主要な要求仕様は、「ピーク性能10 PFlops以上、メモリ容量2.5 PB以上、消費電力30 MW以下(周辺機器、空調機器を含む)、設置面積3,200㎡以下(周辺機器を含む)」であった。

 
   

2006年7月19日、富士通は岡崎共通研究施設 計算科学研究センターに、dual-core Itanium2 (1.6 GHz)を搭載したサーバPRIMEQUESTを導入し、7月1日から運用を開始したと発表した(計算科学研究センター 2006/10写真も)。10ノード、合計640コアで構成され、ピーク性能は4 TFlopsである。2006年11月のTop500では、Rmax=3.119 TFlops、Rpeak=4.096 TFlopsで391位にランクされている。同時に、高速I/O演算サーバシステムとして、同じくdual-core Itaniium2 640コアからなるSGI Altix 4700を導入し、合わせて「超高速分子シミュレータ」として運用している。

3) 日立製作所(次世代、SR11000/K1、ITユーザ会)
前にのべたように、次世代スーパーコンピュータ開発プロジェクトでは、2006年9月19日から2007年2月28日の期間に、日本電気+日立チームは富士通と並行して概念設計を実施した。企業秘密保護のため、日立では社内に「クリーンルーム」を設置して、日本電気と共同設計を行ったとのことである。

2006年3月1日、日立製作所のスーパーテクニカルサーバSR11000モデルK1が気象庁で稼動を開始した。これはPower5+プロセッサの16way SMPをノードとして多段クロスバーネットワークで接続したものである。Top500によると、50ノードのマシンを2セット導入したようである。これは2001年3月設置したSR8000を置き換えたものである。

同じく3月1日、日立製作所は高エネルギー加速器研究機構に対し、日立SR11000モデルK1(16ノード)とIBM BlueGene(合計10ラック)からなる複合システムを導入した。

また日立ITユーザ会では、3月14日、大森第2別館において、可視化をテーマに第19回科学技術分科会を開催した。プログラムは以下の通り。

13:30

「進化する可視化技術」

小野 謙二(理研)

14:50

「可視化ソフトウェア:4D Visualizer/ vfVis の開発」

重谷 隆之(理研)

16:00

「協調的可視化技術が拓く新たな世界」

藤代 一成(東北大)

 

4) ソニー(PS3)
2006年11月11日、ソニー・コンピュータエンタテインメント社はCellプロセッサを使ったPlayStation 3を世界に先駆け日本で発売した。アメリカ等では11月17日など、国によって異なっている。(Wikipedia:PlayStation 3

5) フィックスターズ(PS3、Yellow Dog Linux)
株式会社フィックスターズは、2006年12月にPlayStation 3の発売を受け、「PS3 Information Site」を立ち上げた。2008年10月には、100%子会社として、Fixstars Solutions, Inc.を米国カリフォルニア州に設立し、米国Terra Soft Solutions Inc.よりYellow Dog Linux事業を譲り受ける。

6) 任天堂(Wii)
2006年12月2日、 任天堂のWiiが日本で発売された。アメリカでは11月19日に発売。CPUはIBM PowerPCベースの“BroadWay”で、GPUはATIの“Hollywood”である。

7) Microsoft社(Xbox 360日本発売)
2006年11月2日、Microsoft社のXbox 360コアシステム(ハードディスクなど省略)が日本で発売された。欧米では2005年11月~12月にスタンダードモデルと同時に発売されている。

8) 日本IBM社(Cell Blade Server、ライフサイエンス、BG/L)
日本IBMは、2006年2月8日、IBMはCell Blade Serverを発売した。日本でも大和事業所(2/28)や大阪事業所(3/7)で「第一回Cellブレードセミナ―」が開催された。

14:00-14:10

オープニング

日本IBM E&TS

14:10-15:00

Cellの概要とCellブレードの最新情報

同 中野宏毅(Distinguished Engineer ) 

15:00-16:30

Cellブレード プログラミング概要

同  西山 浩輝

16:30-17:00

Cellブレード実演

 

17:00-17:30

質疑応答

 

 

2006年3月10日~12日にライフサイエンス天城セミナーを開催した。

2006年4月19日、The 3rd BG/L Systems Software and Applications WorkshopがAISTのお台場で開催された。筆者が基調講演”Supercomputing in Japan”を行った。

4月19日

10:00

Welcome and Introduction

Yutaka Akiyama, Rajeev Thakur, Ed Jedlicka

10:15

BG/L Status and Update

Nobuyuki Koizumi (IBM)

10:45

BG/L MPI Performance “Secrets”

George Almási(IBM Research)

11:15

Keynote: “Supercomputing in Japan”

Yoshio Oyanagi (U. Tokyo)

12:00

Lunch

13:00

“BG/L I/O and Filesystems, GPFS”

Todd Inglett (IBM Rochester)

13:30

“PVFS2 and Parallel I/O on BG/L”

Rob Ross (ANL)

14:00

“BG/L Compute Node Kernel

Pat McCarthy, Tom Gooding(IBM Rochester)

14:30

“ZeptoOS”

Pete Beckman, Susan Coghlan, Kamil Iskra, Kazutomo Yoshii (ANL), Al Malony, Sameer Shende (U of Oregon)

15:00

Coffee

15:30

Panel: “Experiences from BG/L Sites

Japan, USA, Europe

16:30

“Applications on BG/L” 

Chair: Andrew Siegel

“High Throughput Drug Screening by FFT”

Yuichiro Hourai (CBRC, AIST)

“Molecular Dynamics Simulation of Prion Protein”

Masakazu Sekijima (CBRC, AIST)

” BGL for high energy physics ⎯ Quantum Chromodynamics Simulation”

Shoji Hashimoto (KEK)

“Large scale structural analysis using ADVC on Blue Gene”

Hiroshi Akiba (Allied Engineering Corp.)

17:30

Adjourn

 

18:00

Mixer

 

4月20日

10:00

“Resource Managers, Load Leveller”

Speaker TBA (IBM)

10:30

“Cobalt”

Narayan Desai (ANL)

11:00

“System Management”

Speaker TBA (IBM)

11:30

“System Management”

Susan Coghlan (ANL)

12:00

Lunch

13:00

Keynote Speech (on BG/P)

Speaker TBA (IBM)

14:00

“Compilers and Optimization”

Speaker TBA (IBM)

14:30

“Application Porting and Optimization Strategies”

Andrew Siegel (ANL)

15:00

Coffee

15:30

“Math Libraries”

Speaker TBA (IBM)

16:00

“Performance Tools, TAU“

Alan Morris (Univ. of Oregon)

16:30

Panel: “System Software Issues for the Future, BG/P”

Chair: Bill Gropp (ANL)

17:30

Adjourn

 

 

また7月28日~30日にも「医療と創薬の新時代」を基本テーマにライフサイエンス天城セミナーが開催された。

「ナノバイオ系のシミュレーションをめざして」

平尾 公彦 東京大学 大学院工学系

「プロテオミクス研究の現状と動向」

平野 久 横浜市立大学 国際総合科学研究科

「新たな医療を目指して – メタボリックシンドローム予防への挑戦」

佐藤 晋 BBKバイオ株式会社 

「核内転写因子PPAR を中心とする遺伝子ネットワーク(仮題)」  

岡崎 康司 埼玉医科大学 ゲノム医学研究センター

「量子生命情報へのアプローチ」

大矢雅則 東京理科大学理工学部

「合成小分子化合物によるケミカルバイオロジー」

上杉 志成 京都大学 化学研究所

「ナノバイオの光と影」

嶋本 伸雄 国立遺伝学研究所

 

HPC天城セミナーは12/8 (金)~10 (日)「HPC新時代」を基本テーマに開催された。

「Blue Gene の産業界アプリケーションへの応用: 携帯電話の落下衝撃解析」

秋葉 博 (株)アライドエンジニアリング 社長 (SC06ゴードン・ベル賞ファイナリスト)

「Achieving Petaflops Performance Now : Experiences With Very Large Compute Clusters at LLNL」

Dr. Mark K. Seager, Head of Advanced Technology, Computation Directorate, LLNL

「High Performance Computing in Numerical Weather Prediction」

Zaphiris Christidis, Ph.D.

Research Staff Member, IBM Research

「化学産業にとって計算科学とは何か、有機光機能材料の設計を中心として」

中村 振一郎 (株)三菱化学科学技術研究センター

「ユーザー視点からのHPC を使った研究の難しさと理想的な研究環境およびその実現への挑戦」

上島 豊 (有)キャトルアイサイエンス

「Cyber Science Infrastructure and Science Grid Program NAREGI」

三浦 謙一 国立情報学研究所 教授 リサーチグリッド連携研究センター長

「Building Storage Systems for Petaflops Clusters : The DDN Story」

Dave Fellinger, Chief Technology Officer, Co-Founder, DataDirect Networks, Inc.

「見せない可視化」

藤代 一成 氏

東北大学 流体科学研究所 流体融合研究センター

 

9) クレイジャパン(Cray CAE、Cray HPC、AMD・Cray)
クレイ・ジャパン・インクは、日本AMD社の協賛を得て、第三回Cray CAEカンファレンスを、2月1日に名古屋都市センターで、2月2日に品川イーストワンタワーで開催した。

13:30-13:35

オープニング                   

クレイ・ジャパン・インク

13:35-14:15

『知的シミュレーションと仮想実証試験、仮想社会実験』

東京大学工学系研究科 

吉村 忍

14:15-14:45

『ADVC – 商用版 ADVENTURE – 機能とパフォーマンス』

株式会社アライドエンジニアリング 秋葉 博

15:00-15:30

@名古屋

『化学プロセス設計におけるコンピュータシステムの活用』

株式会社三菱化学 堀口 晶夫

15:00-15:30

@東京

『汎用可視化ソフトAVSおよびEnSightによる大規模データの可視化』

株式会社ケイ・ジー・ティー 吉川 慈人

16:00-18:00

CAEアプリケーションの現況と今後の取組み

 

『大規模化する解析と効率化への取り組み』

株式会社ソフトウェアクレイドル  黒石 浩之

『STAR-CCM+による大規模計算への取組み』

 

株式会社シーディー・アダプコ・ジャパン 島田 正仁

『株式会社日本総合研究所様アップデート』

 

株式会社日本総合研究所  林 公博

『大規模モデルを用いたDMP計算の現況、及び実現象の再現性向上を目的とした製造プロセスと衝突現象のカップリング計算について』

日本イーエスアイ株式会社                         新関 浩

『(仮題)AMD最新情報アップデート』

日本AMD株式会社   山野 洋幸

18:00

閉会

 

 

同社は、6月14日、東京カンファレスセンターにおいて、第三回 Cray HPC カンファレンスを開催した。

 

10:00-10:10

オープニング

 

10:10-11:10

Keynote (逐次通訳) “Cray Corporate Update”

Cray Inc. Peter J. Ungaro

11:10-12:10

Scalar System Roadmap (逐次通訳)

   -XTシリーズの事例紹介

   -XTシリーズの製品開発ロードマップ

Cray Inc. Jeff Brooks

12:10-12:30

最新技術情報 Part A

   -大規模CAE向けソリューション、その他

Cray Japan Inc.

12:30-13:30

昼食

13:30-14:25

Keynote  “HPCによって加速される知的シミュレーションの近未来展望”

東京大学工学系  吉村 忍

14:25-15:25

Vector System Roadmap (逐次通訳)

    -ベクトルシステムの海外事例紹介

    -ベクトルシステムの製品開発ロードマップ

Cray Inc. Peter Rigsbee

15:25-15:45

Break

15:45-16:10

AMD Opteron(TM)プロセッサとHyper Transport(TM) がもたらすHPCの可能性

日本AMD株式会社  荒井 正史

16:10-16:50

最新のアプリケーション開発環境 (逐次通訳)

      -CAF/upcを用いた並列プログラミング

      -アプリケーション開発環境の開発ロードマップ

Cray Inc. Luiz DeRose

16:50-17:30

最新技術情報 Part B

       -CUG(Cray User Group)2006参加報告

クレイ・ジャパン・インク  須藤 龍一

17:30

終了

18:00-29:00

懇親会

 

同社は、日本AMD社と共同で、2006年9月26日に刈谷市産業振興センターで、9月28日に日本AMD社内(西新宿)で、「AMD・Crayテクニカルワークショップ」を開催した。

13:00-13:05

    オープニング

 

13:05-14:00

@刈谷

『新機能を備えた次期STAR-CD & STAR-CCM+アップデート』

株式会社シーディー・アダプコ・ジャパン 中嶋 達也

13:05-14:00

@日本AMD

 コンピュータ・シミュレーションがもたらす新しい工学/科学』

慶応義塾大学 野口 裕久

14:00-14:50

『次世代AMD Opteron(TM)プロセッサ最新情報アップデート』

日本AMD株式会社 山野 洋幸

14:50-15:00

休憩

15:00-15:40

『PGIコンパイラアップデート』

株式会社ソフテック 加藤 努

15:40-16:20

『AMDプロセッサに於ける、PathScaleコンパイラの優位性』

住商情報システム株式会社 小林 裕之

16:20-17:00

『クレイアップデート~Cray XT3大規模ユーザ事例~』

クレイ・ジャパン・インク 須藤 龍一

17:00

終了

 

10) 日本ユニシス
1988年、日本ユニバック株式会社は、バローズ株式会社と合併し、日本ユニシス株式会社となったが、2006年、米国Unisys社が持ち株のすべてを売却した。業務提携は継続した。2022年4月、商号をBIPROGY株式会社に変更する。

11) ニイウス(組織変更)
ニイウス社(1992年設立)は、2006年1月、純粋持ち株会社に移行し、ニイウコー株式会社に商号を変更した。従来の事業は(新)ニイウス株式会社に移管した。関連会社多数。保有するBlueGene/L(1ラック)は、6月のTop500で97位tieにランクしている。

12) ニフティ株式会社(パソ通終了)
同社は、1987年4月からニフティサーブとして提供していたサービスのうち、「フォーラム」「掲示板」等は2005年3月31日に、「パティオ」は5月31日に終了していたが、2006年3月31には「INTERWAY」などを含みすべてのパソコン通信サービスを終了した。商用大手としては最後まで残っていた。

13) 東京証券取引所(システム停止)
2006年1月16日、ライブドア事件で大量の売り注文が殺到し、18日、システムの異常で全銘柄が取引停止となった。停止した清算システムは、約10年前に導入した日立のメインフレームコンピューターを使い、当初の耐用期限は2004年後半だったとのことである。メインフレームは動作の安定性や故障しにくさが特徴で、金融機関やチケット予約のシステムにも使われる。朝日新聞電子版の記事には、日立は「10年以上使うことは珍しくない」というが、システム業界に詳しい大学教授は「増強しながら長く使うものだが、10年前の機種ならやはり古いと思う」と指摘している、と書かれている。紙版ではこのコメントは削除されていた。

この「システム業界に詳しい教授」というのは実は筆者であった。1月19日のHPCS2006の最中に筆者のケータイに電話が掛かってきて、「次世代コンピュータ」の話かと思ったら、「東証システムについて話を聞きたい。」とのことであった。「トランザクション処理などビジネスコンピュータは専門でないので知らない」と言ったのだが、一般的な話を聞きたいと食い下がるので、メインフレームの歴史と特徴(ファミリーの概念と、アップワードコンパティビリティーなど)を1964年から説き起こし、ダウンサイジング後も、メインフレームはトランザクション処理などの分野で使われているが、次第にサーバに移りつつある、というようなことを言った。一日450万件の限界がファイル容量だというので、「バンド幅などの問題があるので、ディスクを追加すればいいとは単純には言えないにせよ、ディスクの追加はシステムの増強の中では比較的容易な処理ではないか。」と注意深くコメントした。うっかりして「名前を出すな」と言って置くのを忘れたが、まあ、名前が出なかったのでよかった。

標準化

1) GGF16
第16回Global Grid Forum (GGF16)は、2006年2月13日~16日ギリシャのアテネのDivani Caravel Hotelで開催された。Greek Research and Technology Network (GRNET)との共催。グリッド協議会が2006年3月8日に秋葉原ダイビルで開催した第16回GGF調査会で、GGF16総括報告GGF16報告集が出されている。詳細はこの2資料を参照してください。

2004年9月のGGF12以来のヨーロッパでの開催で、テーマは“Production Grids: The Path to Global Interoperability”であった。参加者は約400人。EGAとの合併交渉が進み、2月6日に「合併に関する覚書(LOI)に署名したことが発表された。合併した新団体は夏に設立される予定。

2) GGF17
第17回Global Grid Forum (GGF17)は、2006年5月10日~12日東京国際フォーラムで開催された。グリッド協議会が2006年6月19日に開催した第17回GGF調査会で、GGF17総括報告GGF17報告集が出されている。詳細はこの2資料を参照してください。

2002年のGGF7以来の日本開催であり、同じ都市でGGFを開催したのはシカゴ以外では初である(会場は違う)。参会者は300人、53のグループセッションであった。GridWorld2006を併設し、31団体が出展し、3200名が来場した。

3) GGFとEGAとの合併
2006年6月26日、EGA (Enterprize Grid Alliance)とGGF (Global Grid Forum)が完全に合併し、OGF (Open Grid Forum)を設立することがシカゴで発表された。GGF議長のMark LineschがOGFの会長兼CEOに就任する。(ITmedia 2006/6/27)(CNET Japan 2006/6/27)

OGF は、両方の団体の長所を受け継ぎ、EGA が企業に関する専門知識を持ち、短期的かつ実際的な成果に焦点を当てている点と、GGF がグリッドに関する調査研究、ベスト・プラクティス、標準仕様策定におけるオープンで協調的なアプローチを取っている点を併せ持つことになる。

Mark Lineschは、「この合併によって、EGA とGGF の会員の情熱、専門知識、経験が1つにまとまり、より早く成果を公開し、より明確な形でコミュニケーションを図り、より効果的な仕方で連携することが可能になる。Open Grid Forumという名称は、グリッドの研究者、開発者、教育担当者、ユーザ、ソリューション・プロバイダから構成される、私たちの国際的なコミュニティをイメージして付けられた。それらコミュニティの人々が協力して作業を行い、科学的発見、ビジネス上の価値、世界規模でのグリッドの商用利用へとつながる扉を開く。」と述べた。

EGA 会長のDon Deutschは、「GGF とEGA 両方の参加者によってもたらされる知見と専門知識を合わせることによって、力強い革新的な団体が生まれ、あまねくグリッド・コンピューティング・コミュニティへの貢献度を高めることができる。両団体の最良の面を統合することによって、技術革新を促し、相互運用性を促進し、グリッド・コンピューティングの価値を最大限に発揮するオープンで協調性のある環境の中で、企業、学術分野、政府機関それぞれにとっての利益をうまく結び付けることができる。」と述べている。

4) GGF18
第18回Global Grid Forum (GGF18)は、2006年9月11日~14日、アメリカのWashington DCのConvention Centerで開催された。合併後であるが、この回まではGGFを名乗っている。GridWorldおよび第3回Globus Worldを併設している。参加者は600人であった。グリッド協議会が2006年11月2日に開催した第1回Grid HotlineでオーバービューGGF18報告集が出されている。

EGAとの合併後初めてのGGFであり、GridWorldはアメリカでは2回目であった。参加者600人、Standard sessionsが66、Community sessionsが43開催された。今後、会合名はOGFとするが、番号は継続することが発表された。

5) グリッドコンピューティングに関する標準化調査研究委員会(AISTで継続)
2005年の所に書いたように、 2002年度からの日本規格協会「グリッドコンピューティング標準化調査研究員会」に引き続き、産業技術総合研究所グリッド研究センターが、経済産業省情報電気標準化推進室及び日本規格協会情報技術標準化研究センター(INSTAC)から、3年の予定でグリッド技術のガイドライン標準化調査研究活動の委託事業を受けることになり、「グリッドコンピューティング標準化に関する調査研究委員会」を立ち上げ、筆者が委員長を仰せつかった。平成17年度の終わりにあたり、実施報告書を発表した。

グリッドのプレーヤとして、これまでは提供者、仲介者、利用者の3つに分類してきたが、プレーヤ間での提供物の流れをモデル化して整理していくと、提供物の流れは提供者と利用者の二者間の関係にすべて帰着できることが分かってきた。今後、このモデルを基本とすることとした。

4月からは2年目に入った。テーマも「グリッドコンピューティングの国際標準化」調査研究委員会とし、グリッドコンピューティング技術のガイドライン(産業の基準規格)を作成し、国際標準規格化することを最終目的とした活動を進めることとした。

2006年9月27日の第4回委員会は、沖縄県浦添市の沖縄電力内で開催した。委員のひとりが沖縄電力傘下の商用データセンター「ファースト・ライディング・テクノロジー社」の所属であり、グリッドの実情調査をかねて沖縄に出張した。データセンターのビルは別棟で、地上5階、震度6に耐える免震構造(ただし沖縄は全国で地震の危険度が最低)、電源は本線と予備線で、しかもUPSとガスタービンが待機電源として用意されている。筆者がびっくりしたのは、屋上のクーリングタワーが密閉式で水を蒸発させていないことである。聞いたら、万一水の供給が止まった場合に、長く持たせるためだとのことである。入室などのセキュリティーも万全。グリッドは仮想化の技術であるが、「物理層」の重要性をも痛感した。

6) Hadoop
Apache Software Foundationは、大規模データの分散処理を支えるオープンソースのソフトウェアフレームワークHadoopを、2006年4月1日にリリースした。Hadoopは、GoogleのMapReduceやGFS (Google File System)に触発されて開発された。

次はアメリカ政府関係の動きである。アメリカの競争力に関する連邦議会上院の小委員会において、IBM社やCray社の証人が証言した。DARPAのHPCSのPhase IIIでは、IBM社とCray社が残った。

 

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