世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


10月 13, 2026

新HPCの歩み(第297回)-2010年(e)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

JST CREST「ポストペタ」が始まる。JHPCNが本格的に始まるとともに、筑波大学計算科学研究センターも「先端学際計算科学共同研究拠点」として認定された。東京工業大学はTSUBAME2.0を稼働させ、日本で初めてのPFlopsを越えるスーパーコンピュータとなった。

日本政府の動き(続き)

7) e-サイエンス実現のためのシステム統合・連携ソフトウェアの高度利用促進
2009年のところに述べたように、最先端研究開発支援プログラム FIRST(先端研究助成基金1,500億円)は平成21年度第一次補正予算により基金を造成したものであるが、平成22年度予算において「最先端研究開発戦略的強化費補助金」(400億円)が予算化された。なお、平成23年度予算には175億円、平成24年度予算には101億円を予定。この補助金は、

○ 将来における我が国の経済社会の基盤となる先端的な研究開発の推進
○ 潜在的可能性を持った研究者に対する支援体制の強化
○ 研究者を最優先した従来にない研究者支援のための制度の創設
○ 我が国の中長期的な国際競争力、底力の強化
○ 研究成果の国民及び社会への成果還元

を目的としている。

文部科学省ではこの決定を受け、本補助金の一部(300億円程度)を活用し、若手・女性研究者が活躍する研究基盤等の強化を図る「最先端研究基盤事業」を実施することとし、国際的な頭脳循環の実現に向け、国内外の若手研究者を惹きつける研究基盤の整備を強化・加速するため、研究ポテンシャルが高い研究拠点において、最先端の研究成果の創出が期待できる設備を整備するとともに、運用に必要な支援を行うこととなった。6月22日付で補助対象事業を決定した。その一つに、

12-3 e-サイエンス実現のためのシステム統合・連携ソフトウェアの高度利用促進
筑波大学、東京大学、京都大学 2年60億円

があった。内容としては、e-サイエンス(インターネットを介して,実験,観測結果等の巨大データや計算資源を活用する科学の方法論)実現のため,大規模ストレージ,ネットワーク環境等の実証基盤の構築を行い,様々なコンピュータをシームレスに利用できる大規模ネットワーク研究環境を構築する、とのことであった。正確には1年 30億円 で、次年度以降は初年度の実績を踏まえ継続の可否を判断することになっている。選定理由の一つに、「若手研究者を対象としたスーパーコンピュータの無償利用制度を既に導入しており,今後,超大容量ストレージの優先利用制度の導入も予定されている。これらは女性研究者にも適用される予定であり,若手・女性研究者への適切な研究支援が期待できる。」ことも挙げられ、「若手・女性研究者の活躍」という趣旨に合致していることが述べられている。

もちろん、3大学だけのものではなく、東大が受けて、東大柏と神戸にストレージを設置し、Gfarmのインタフェースを採用し、HPCIが立ち上がったら、その資源として提供する、という構想である。具体的利用方法ならびにそれに必要な措置については、HPCI 参画機関と話をして具体化する。昨年末のHPCI構想のなかに、共用ストレージが書かれていたが、半端な量ではないので予算措置を心配していた。それがこのような形で実現することとなった。下の図は、石川裕の講演スライド(2010/10/5)から。

 

8) 「イノベーション創出の基盤となるシミュレーションソフトウェアの研究開発」プロジェクト
文部科学省の「次世代IT基盤構築のための研究開発」の一つである「イノベーション創出の基盤となるシミュレーションソフトウェアの研究開発」プロジェクト(RISS、代表加藤千幸)も3年目となり、中間評価を受けた。

9) JST CREST「ポストペタ」
JST CRESTに以下の新しい研究領域が立ち上がり、8月25日に発表があった。課題採択は2010年度から2012年度までの3年間。研究総括に誰がいいか、さる筋から非公式に相談を受けたが、適当そうな人は、皆自分が応募したい人なので難しいという感触であった。誰かが筆者を推薦したという噂もあった。

研究領域名:ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出
研究総括:米澤 明憲(東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授)

研究領域のHPによれば、「本研究領域は、次々世代(次世代スーパーコンピュータ「京」の次の世代)あるいはそれ以降のスーパーコンピューティングに資する、システムソフトウェアやアプリケーション開発環境等の基盤技術の創出を目指すもの。」公募説明会は9月27日、応募締め切りは10月26日。

2010年度に採択された研究課題は以下の通り。

研究代表者名

所属

課題名

櫻井 鉄也

 

筑波大学

システム情報工学研究科

ポストペタスケールに対応した階層モデルによる超並列固有値解析エンジンの開発

建部 修見

 

筑波大学大学院システム情報工学研究科(計算科学研究センター)

ポストペタスケールデータインテンシブサイエンスのためのシステムソフトウェア

中島 研吾

東京大学 情報基盤センター

自動チューニング機構を有するアプリケーション開発・実行環境

堀 敦史

理化学研究所 計算科学研究機構

メニーコア混在型並列計算機用基盤ソフトウェア

丸山 直也

理化学研究所 計算科学研究機構

高性能・高生産性アプリケーションフレームワークによるポストペタスケール高性能計算の実現

 

これも広い意味でポスト「京」へ向けての準備と言える。

10) JSTシミュレーション
JSTの「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」(CRESTプログラム、さきがけプログラムの混合型領域)は2002年度から開始され、2009年9月に終了した。「京」への準備でもあった。2010年3月16日に領域評価も終わり、半蔵門のBistro Rafuにおいて土居研究総括とアドバイザで打ち上げを行った。

11) JST先端計測
JSTの研究成果展開事業「先端計測分析技術・機器開発プログラム」は2004年度から開始され、最初からかかわってきたが、このころは先端計測「ソフトウェア開発プログラム」を担当していた。なお、筆者は先端計測技術評価委員会評価委員の任務を2010年度一杯で終了した。

日本の大学センター等の動き

 
   

1) JHPCN(学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点)
文部科学省は、我が国の学術研究の発展には、個々の大学の枠を越えて大型の研究設備や大量の資料・データ等を全国の研究者が共同で利用するとともに、共同研究を行う「共同利用・共同研究」のシステムが大きく貢献して来たことを踏まえ、2008年に学校教育法施行規則を改正し、国公私立大学を通じたシステムとして、新たに文部科学大臣による共同利用・共同研究拠点の認定制度を設けた。国立大学法人化により大学が個別化に向かうのを補正する意味もあるのであろう。

「学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点」(通称JHPCN)は、北海道大学、東北大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学にそれぞれ附置するスーパーコンピュータを持つ8つの施設を構成拠点とし、東京大学情報基盤センターがその中核拠点として機能する「ネットワーク型」共同利用・共同研究拠点で、2009年6月に文部科学大臣の認定を受けた。期間は、2010年4月から2016年3月末まで。その後延長が認められ、現在に至っている。

2010年4月の本格運用に先立ち、2009年9月に10月27日締め切りで「平成21年度学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点公募型共同研究(試行)課題募集」が開始された。拠点各センターの教職員の審査により約10件程度を採択して、2009年11月1日~2010年3月15日まで試験的に実施された。試行なので、共同研究経費は支給できなかったが、計算機などの施設使用料金は拠点の各センターが負担した。

2010年1月に、九州大学情報基盤研究開発センターの青柳睦センター長から連絡があり、外部委員(拠点外の所属)として運営委員会委員を依頼されたので引き受けた。

4月1日から正式に発足した。第1回運営委員会が4月7日に東京大学で開催され、諸規則を定め共同研究課題審査委員を委嘱し、公募要領について議論し決定した。共同研究分野は以下の分野が指定されている。

(1) 超大規模数値計算系応用分野
(2) 超大規模データ処理系応用分野
(3) 超大容量ネットワーク技術分野
(4) 上記技術分野を統合した大規模情報システム関連研究分野

課題応募は4月30日に締め切られ、5月19日の課題審査委員会、第2回運営委員会(於東京大学)で採択課題を決定した。

9月1日には、東京大学山上会館において、「学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点 第1回シンポジウム」を開催した。プログラムは以下の通り。今年度採択課題の中間報告はポスターで発表された。各拠点の当時の状況を示すスライドが残っている。

10:20~10:25

主催者挨拶

総括拠点長 石川 裕(東京大学 情報基盤センター)

10:25~10:35

開催挨拶

松本洋一郎 (東京大学 理事・副学長)

10:35~10:45

来賓挨拶

倉持隆雄 (文部科学省 研究振興局長)

10:45~10:55

拠点事業全体像について

総括拠点長 石川 裕

10:55~11:55

各拠点の活動紹介1

 

・ 北海道大学 情報基盤センター

大宮 学

 

・ 東北大学 サイバーサイエンスセンター

江川隆輔

 

・ 東京大学 情報基盤センター

中島研吾

11:55~13:00

昼食

13:00~14:40

各拠点の活動紹介2

 

・ 東京工業大学 学術国際情報センター

青木尊之

 

・ 名古屋大学 情報基盤センター

石川佳治

 

・ 京都大学 学術情報メディアセンター

岩下武史

 

・ 大阪大学 サイバーメディアセンター

菊池 誠

 

・ 九州大学 情報基盤研究開発センター

南里豪志

14:40~14:55

休憩

14:55~15:35

ポスターインデキシング

 

15:35~16:50

ポスター発表

今年度採択課題37件

17:00~18:30

懇親会 山上会館1階「ラウンジ ハーモニー」

 

2013年度からは、革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の計算機システム(HPCIシステム)の一部として、当構成拠点が提供する計算機システム(HPCI-JHPCNシステム)を当拠点共同研究の研究資源として運用することとなる。

2) 筑波大学(先端学際計算科学共同研究拠点)
同じく共同利用・共同研究拠点の一つとして、筑波大学計算科学研究センターも、「先端学際計算科学共同研究拠点」として認定された。期間は、2010年4月から2016年3月末まで。日本の国立大学の主要な9センター(旧大型計算機センターおよび東工大、筑波大)の中で、筑波大学だけが他の8大学とは別に、独立して拠点となった。拠点の活動としては、「超高速計算を軸とする計算科学の研究と最先端の計算機科学を密に連携・協働させることにより、計算基盤の能力及び機能の飛躍的な高度化を図り、科学の諸分野の研究を行う学際計算科学を推進することを目的とする。」「計算科学と計算機科学の学際的な共同研究及びその基盤となる大規模計算基盤の共同利用による共同研究により、最先端の学際計算科学を開拓・推進する。」「今後、国の次世代スパコンが完成し、計算科学による学術研究の一層の推進が求められる中、学際計算科学に関する共同利用・共同研究、人材育成、国際連携を積極的に推進することにより、計算科学の飛躍的な発展に大きな役割を果たすことを目指す。」と記されている。

3) 東京工業大学(TSUBAME2.0)
東京工業大学は、2010年5月25日、「クラウド型グリーンスーパーコンピュータ TSUBAME2.0(ピーク性能2.4 PFlops)」の構築を日本電気株式会社(NEC)と米国Hewlett-Packard(HP)社 の企業連合が落札したと発表した(東京工業大学 2010/5/25)。稼働は2010年11月の予定。落札額は本体が4年で約31億円、付帯工事、電気代、SEの費用等を含めると、4年で約40億円弱、と見られている。 

CPUはIntelのWestmere EPとNehalem EXで、合計2900ソケット、17000コアである。これに4200枚のNVIDIA Tesla (Fermi core)のGPUボードが付き、CUDA coreは188万コアである。相互接続網はVoltair社のQDR Infinbandで、full bisectionバンド幅は200 Tbpsである。StorageはDDN社製で、SSDとHDDから構成され、転送速度は0.66 TB/sである。OSは「LinuxとMS Windows HPCの両立+仮想マシン・クラウド技術」とのことで、マスコミからはごった煮と評された。なおVoltaire社は、2010年11月29日、Mallanox Technologies社に買収されると発表された。

TSUBAME2.0 は GPGPU、大容量 SSD、クラウド仮想化など数多くの最先端技術を採用 している。そのためTop 500でトップクラスのランキング性能を得る見通しである。それだけでなくHPC Challenge ベンチマークや、省電力性能の世界ランクGreen500で上位を目指すとともに、ACM Gordon Bell 賞も狙っている。稼働は2010年11月を予定している。(HPCwire 2010/10/14)

 
   

TSUBAME1.0は、2006 年 4 月に地球シミュレータを超えて我が国最速のスパコンとして稼働し 4年以上に渡って本学および国内外の産学官の種々の研究開発を支えてきた。TSUBAME2.0 はその後継機種であり、Linapackや実用アプリでどの程度の性能が出るか注目される。東工大の学生教育から国内外の産学官の先端研究まで広く提供し、海外を含む産官学の2000人のユーザが利用する予定。写真はTSUBAME2.0(東京工業大学のページから)。

東工大学術国際情報センター (GSIC)は、科学技術振興機構(JST)・戦略的創造研究推進事業 (CREST)の Ultra Low Power HPC プロジェクトを主宰しており、その成果を含む最新のHPC 省電力技術や、 温度や電力の細粒度監視・制御技術、最先端の水冷技術等の適用による「グリーンスパコン」(冷却効率性能値である PUE=1.277 と、我が国のスパコンとして最良値を達成)であることを強調した。

松岡聡教授は、2012年に10 PFlopsの「京」コンピュータが稼働するが、30 PFlopsを目指すTSUBAME 3.0が計画されており、2014年か2015年に稼働する予定、と述べた。2010年11月のTop500では、日本ではトップのRmax=1.192 PFlopsで4位を獲得し、日本初のPFlopsマシンとなった。また、デンドライト結晶成長で2011年Gordon Bell賞を受賞する。

4) 京都大学基礎物理学研究所(SR16000)
2010年12月、京都大学基礎物理学研究所に「理論物理学電子計算機システム」として、3.3 GHzのPOWER7を搭載した日立SR16000 model XM1が設置され、2011年1月4日より稼働した。2006年1月から稼働して来たSX8(6ノード)を中心としてシステムに代わるものである2011年6月のTop500では、コア数3456、Rmax=73.35、Rpaek=91.24 TFlopsで131位にランクしている。(京都大学基礎物理学研究所 2011/4/21)(日立製作所 2010/9/8)

5) 東京大学(ASE研究会)
東京大学情報基盤センターではASE研究会が以下の通り3回開催された。

第6回ASE研究会(2010年2月12日)

14:00

IDR(s) and IDR(s) Eig in Parallel Computing

Dr. Jens-Peter Zemke(Hamburg-Harburg University of Technology, Germany)

15:00

Quality control approach for systematic performance evaluation of linear solvers

Shoji Itoh(RIKEN)

16:00

Xabclib: An Iterative Solver with a General Auto-tuning Interface “OpenATLib” — Development of Numerical Computation Policy Function

Takahiro Katagiri (The University of Tokyo), Hisayasu Kuroda (Ehime University/The University of Tokyo), and Kengo Nakajima (The University of Tokyo)

17:45

懇親会(根津周辺)

第7回ASE研究会(2010年4月2日)◦自動チューニングワークショップ(AANS2010)

 

招待講演者 Dr. Kaushik Datta (UCBDr. Feng-Nan Hwang (Taiwan National University) Dr. Tony Drummond (LBNL)

第8回ASE研究会(2010年12月6日)

14:00

数値線形代数における精度保証付き数値計算法の現状

荻田武史(東京女子大学)

15:10

TSUBAME 2.0の4000 GPUを用いた次世代気象モデルの大規模高性能計算

下川辺隆史(東京工業大学)

16:30

モニタリングツールVGXPを応用したアプリケーション性能のリアルタイム可視化

鴨志田良和(東京大学)

 

17:15

量子i.i.d.状態のシミュレーションとその理論的考察

坂下達哉(電気通信大学)

18:00

懇親会(根津周辺)

 

次回は、日本の学界の動き。ついに円周率5兆桁が家庭のパソコンで計算された。情報処理学会が日本将棋連盟に挑戦状を突きつけた。

 

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