世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


2月 3, 2014

アメリカ大使館でスパコンセミナーが開催

HPCwire Japan

1月31日、在日アメリカ大使館において在日米国商工会議所主催の「スパコンの新たな曙光」というタイトルのセミナーが開催された。開催に先立ち、アメリカ大使館のNo.2である主席公使のKurt Tong氏が挨拶に立った。
アメリカ大使館とスパコンと言えば、約20年前に起こった日米スパコン経済摩擦が思い起こされる。当時、アメリカのスパコンが世界の市場シェアの殆ど占めていたにも関わらず、日本市場におけるアメリカ製品のシェアが極端に低かった。そこでアメリカは日本のメーカーがダンピングを行っていると見なし、市場の開放を迫ったのだ。現在、日本における官公庁大学が実施する複雑なスパコン調達の手続きはこの頃に制定された。また、アメリカ国内において日本メーカーがダンピングを行うのを防ぐため、アメリカはスーパー301条を発動し、日本製のスパコンに過大な関税をかける防御策をとった。この当時には、アメリカ大使館商務部の人間が入札説明会に出席する程、混乱を招いていた。
しかし、現在の日本におけるスパコン状況は様変わりしてしまった。日本メーカーはことごとくスパコン事業を縮小し、今や日本のスパコン市場ではアメリカ製のコンポーネントがほぼ独占している。唯一、富士通のFXシリーズとNECのSXシリーズがかろうじて国産のスパコンを開発しているが、その市場規模は小さい。今や日本とアメリカはエクサスケール開発における協力関係を築く程になってきた。

さて、今回のセミナーでは基調講演として2件の発表が行われた。1件目は宇宙航空研究開発機構の藤田氏による「JAXAスーパーコンピュータ小史と最近の数値シミュレーション事例」と題された講演で、これまでのJAXAにおけるスパコンの歴史がビデオで紹介された。JAXAは1960年代に当時 航空技術研究所において最初のスパコンとなるDatatronが導入されたのが始まりだ。Datatronは400FLOPSの計算機で当時は2次元のシミュレーションがやっとだった。現在のシステムは120TFLOPSあり、これまでにEpsilonロケットの射場の音響シミュレーション、Epsilonロケットの空力解析、HTV-R(コウノトリ)のシミュレーション等に活躍している。また、次世代のロケットエンジンであるLE-Xの開発にも利用されているが、現在の能力ではシミュレーションに数週間かかるため、次期システムでは10〜100倍の性能が必要であるとのことだった。JAXAではスパコンを製品設計や不具合の事前解析を行って役に立てたいそうだ。

次の講演は米国オークリッジ国立研究所(ORNL)のJeff Nichols氏による「ORNL Computing Perspectives and Our Journey to the Exascale」と題した講演であった。ORNLでは現在TOP500 2位のTitan、KrakenおよびGaeaの3台のスパコンを所有している。ORNLのコンピューティング部門は600名程の職員で運用されており、材料科学やビッグデータの利用事例等が紹介された。Nichols氏によれば、ORNLのコンピューティング部門のミッションは、研究のためにスケーラブルな、コンピューティング、シミュレーション、解析および基盤を整備することが重要であると語った。そうすることで、世界中の優秀な研究人材を魅了しORNLに参加させることができるとしている。また、今後のシステムについては、データとシミュレーションのバランスが重要であるとも語った。今後のエクサスケールシステムについては各国が10億ドル程度の予算で開発を競っている状況であり、中国は電力、予算等を度外視して早期に実現できるかもしれないが、ORNLにとって重要なことは現在の電力のままでエクサスケールを実現することであるとのことだ。

いずれにせよ、今後のスパコン開発においては国際協調が重要であることに間違いは無い。今回は在日米国商工会議所主催ということで米国以外のメーカーは除外されているが、国際協調という観点で言えば、日本でもオープンな議論ができるアメリカのSuperComputingやヨーロッパのISCのような会議が必要かもしれない。