世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


1月 9, 2024

新HPCの歩み(第168回)-2000年(a)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

20世紀の最後の年となった。幸い2000年問題は大過なくクリアした。日本では地球シミュレータの建設が本格的に始まり世界に情報発信する。これを使いこなす並列アプリケーション開発は間に合うか?日本政府は情報通信技術分野の戦略を立てたが国家政策としてのHPCシステムの開発は隅に追いやられた感があった。

社会の動き

2000年(平成12年)の社会の動きとしては、1/1コンピュータの2000年問題の日、1/10米国AOLはTime Warner買収を発表、1/18オウム真理教がアレフと改名、1/19ヤフー(初代、1996/1/31設立)の株価が日本市場で初めて1億円突破(ITバブル)、1/28新潟県三条市で不明となっていた少女が9年ぶりに柏崎市内で発見、2/1オウム真理教に団体規制法の観察処分、2/11スペースシャトルEndeavourで毛利衛が2度目の宇宙へ、2/13グリコ・森永事件が時効、2/29グレゴリオ暦で年号が100で割り切れても「うるう日」となる日、3/8日比谷線脱線事故、3/31有珠山噴火、4/1国家公務員倫理法施行、4/1民事再生法施行、4/1介護保険制度施行、4/2小渕首相が緊急入院(5/14死去)、4/3海部俊樹、野田毅ら保守党を結成、4/4小渕内閣総辞職、4/5森喜朗内閣発足、4/15-17米国Washington D.C.で反グローバリゼーションの大規模デモ、5/3佐賀発福岡行きバス乗っ取り、5/7プーチンがロシア大統領に就任、5/9「法の華三法行」幹部12名を逮捕、5/9京都の寂光院本堂全焼、5/15森喜朗首相、「神の国」発言、5/24ストーカー規制法公布、5/26第一ホテルが倒産、阪急電鉄グループの傘下に入る、6/2衆議院解散(「神の国」解散)、6/13金大中、平壌訪問、6/14サンフランシスコ湾岸地域で大規模停電(カリフォルニア電力危機、その後停電頻発)、6/16香淳皇太后崩御、6/25衆議院議員選挙、民主党躍進、6/26ヒトゲノムのドラフト完成がクリントンとブレアから発表される、6/26雪印乳業で食中毒菌汚染、7/1金融庁発足、7/8三宅島火山噴火始まる、7/12そごうが経営破綻し、民事再生法の下で再建と発表、7/19守礼門の二千円札発行、7/21-23第26回サミット(九州・沖縄)(日本で4回目)、7/25コンコルド墜落(パリ離陸直後)、8/1新五百円硬貨発行、8/12ロシア原子力潜水艦事故、8/15盗聴法施行、9/2三宅島全島避難、9/4駒ヶ岳(北海道)噴火、9/11東海地方で集中豪雨、9/15シドニーオリンピック開幕(9/24高橋尚子金メダル)(10/1まで)、10/1 KDDI発足、10/6鳥取県西部地震(M7.3)、10/10白川英樹にノーベル化学賞授与が発表、10/11スペースシャトルDiscoveryで、若田光一が2度目の宇宙へ、10/12米艦コールがアデンでアルカイダにより襲撃される、10/15田中康夫、長野県知事選で当選、10/26改正公職選挙法成立(参院比例区を非拘束名簿式)、10/27第2次森喜朗内閣の中川秀直官房長官がスキャンダルで辞任、11/1シャープが初めてのカメラ付携帯電話J-SH04を発売、11/5藤村新一による旧石器偽造事件が報道される、11/7アメリカ大統領選挙開票が混乱、11/8重信房子、潜伏先の大阪で逮捕、11/11オーストリア・ケーブルカー火災事故、11/19ペルー、フジモリ政権崩壊、11/20加藤の乱、11/28少年法改正案成立(刑事罰の対象年齢を16歳から14歳に引き下げ)、12/1 BSディジタル放送開始、12/4歌舞伎町ビデオ店爆破事件、12/12地下鉄大江戸線開通、12/13ゴア候補が前日の最高裁判決受諾表明(ブッシュの当選確定)、12/30世田谷一家惨殺事件、など。写真は神戸のポートアイランドにある、神戸開港150周年を記念する150本のO2 HIMAWARIの一つ。背景は神戸市の市民農園。筆者撮影。

 
   

コンピュータのY2K問題(2000年問題)が懸念されたが大事なく通過した。この年の流行語・話題語としては、「IT革命」(誰かが「イット」と読んだとか)「パラパラ(ダンス)」「最高で金、最低でも金」「腰パン」「厚底ブーツ」「ジコチュー」「ミレニアム」など。

チューリング賞は、計算複雑性理論に基づく擬似乱数、暗号理論、通信複雑性などの計算理論への基本的貢献に対してAndrew Chi-Chih Yao(姚期智、Princeton大学)に授与された。

エッカート・モークリー賞は、高性能パイプラインおよびマルチプロセッサシステムの設計、実装、性能評価に関する貢献に対し、Edward S. Davidson(University of Michigan, Ann Arbor)に授与された。

2000年の京都賞先端技術部門(情報科学分野)はCharles Antony Richard Hoare教授(Oxford大学)に授与された。

この年のノーベル物理学賞は、半導体ヘテロ構造に対してZhores I. AlferovとHerbert Kroemerに、集積回路の発明に対してJack S. Kilbyに授与された。また、化学賞は、導電性高分子の発見と開発に対して、Alan Jay Heeger、Alan Graham MacDiarmidと白川英樹の3名に授与された。生理学・医学賞は、神経系における情報伝達に関する発見に対して、Arvid Carlsson、Paul Greengard、Eric R. Kandelの3名に授与された。金大中には平和賞が授与された。

1990年代末期にアメリカ中心にITバブル(.com bubble)が起こり、多くのITベンチャーが設立され、1999年から2000年にかけて株価が異常に上昇したが、2001年にかけてITバブルがはじけた。1991年3月から2000年2月まで、アメリカは106ヶ月の「インフレなき経済成長」を持続していた。

地球シミュレータ計画

1) 本体製作
要素技術の試作(1998年8月~1999年3月)、詳細設計(1999年5月~2000年1月)を経て、2000年3月から地球シミュレータの本体製作が開始された。運用開始は2002年3月を目指した。ピーク性能は40 TFlops。

主な特徴は以下の通り。

a) 最新の半導体テクノロジ
b) 大規模並列システム。CPU数は5120。
c) Unix-baseのOSやミドルウェア

計算ノードの高性能化とコンパクト化を実現するために、0.15μのCMOSテクノロジと銅配線技術を用いることにより、スカラプロセッサでは500 MHz、ベクトルプロセッサでは1 GHzの高速動作が可能になった。5700万トランジスタを実装した1チップベクトルプロセッサが実現した。プロセッサの消費電力が140Wに達したが、水冷を避け、冷媒を用いたクローズドなヒートパイプで効率的な冷却を実現した。日本電気は2000年5月30日、「地球シミュレータ」の開発に着手したことを公式に発表した。(日経BP 2000/5/30)(HPCwire 2000/6/2)

谷啓二は、6月にHPCwireのChristopher Lazouとのインタビューの中で、地球シミュレータは2002年3月に稼働し、40 TFlopsを実現すると述べた。このプロジェクトには3つの柱がある。40 TFlopsのハードウェアと、気候変動モデルと衛星観測との照合(TRMM)と、海洋観測(MIRAI)との融合である。(HPCwire 2000/6/23) 谷は以前から、欧米のメディアに対し、40 TFlopsの数値目標を明言している。

2) 建屋完成
1999年10月に起工式を行った地球シミュレータ建屋は2000年秋に完成した。施設は、シミュレータ棟(幅50m、奥行き65m、高さ17m)およびシミュレータ研究棟、冷却施設棟で構成される。

3) 三機関対等へ
1999年3月に締結された3機関の協力協定では、海洋科学技術センターは施設の整備のみを担当することになっていたが、2000年3月には協力内容が変更され、地球シミュレータ開発は3機関が均等に分担することとなった。

4) SC2000での発表
SC2000では、11月7日(火)のMasterworksは、Computing Platformsと題して、”Blue Gene” とともに、”Status of the Earth Simulator Project in Japan” by Kenji Tani (Japan Atomic Energy Research Institute) とがあり、多くの聴衆を集めた。谷啓二氏は地球シミュレータのハード、ソフト、応用について全体的な解説をし、CPUボードと建物全体の模型が展示会場に出展されていることを述べた。「総予算は?」という質問が出て、谷氏が一瞬たじろぐ場面もあった。

前に書いたように、6月には谷啓二がHPCwireとのインタビューで地球シミュレータについて詳しく語っているが、SC2000での講演は画期的であった。しかし、世界の多くのHPC関係者には、ベクトルで40 TFlopsなんて現実離れした夢物語のように受け取られていたようである。2002年に完成し35.61 TFlopsの記録が4月のLinpack Reportに発表されると、“Computenik”と大騒ぎになる。

たしかに2000年11月のTop500を見ると、MPPの最高値がLLNLのASCI White(SP Power3 375 MHz)で、コア数8192、Rmax=4938.0、Rpeak=12288.0 GFlopsであるのに対し、ベクトルの最高値は名古屋大学のVPP5000で、コア数56、Rmax=492.00、Rpeak=537.60 GFlopsで33位、Rmaxでも10倍の違いがある。当時アメリカ製の最高性能のベクトルはCray SV1eで、最大構成の32プロセッサでもRpeak=64 GFlopsで、Top500の足切り(Rmax=55.3 GFlops)に届くかどうかというところである。アメリカのHPC関係者が地球シミュレータ計画にリアリティを感じなかったのも無理からぬところがある。

5) 並列ソフトウェア
ハードウェアと合わせて、システムソフトウェアの開発も進められた。特にOSは640ノードという多数の要素を管理するため、16ノードをクラスタとしてまとめ、OSはクラスタを単位に管理する。また、高速な並列ファイル入出力機能を実現した。ジョブ管理にも工夫をした。

地球シミュレータ上での応用ソフトについては、振興調整費「高精度の地球変動予測のための並列ソフトウェア開発に関する研究」(研究代表者:住明正(東京大学 気候システム研究センター所長))が1998年度から5年計画で実施されていた。これに関する中間評価小委員会を構成し(主査:東京大学小柳義夫、委員:京都大学淡路敏之、東京大学井田喜明、北海道大学山崎孝治)、10月5日と10月31日に開催した。

評価結果を研究評価委員会に報告した。固体地球については有限要素法の高並列化ソフトウェアGEOFEMを実現し東大情報基盤センターのSR2201やSR8000などでテストを成功させていたが、気候モデルについては、小規模な並列化しか実現しておらず、地球シミュレータのような数千CPUの高並列コンピュータに実装できるのか主査として心配になった。

日本の政府関係の動き

1) 情報通信技術分野の戦略
政府産業構造転換・雇用対策本部は、1999年10月に国家産業技術戦略検討会(座長・吉川弘之日本学術会議会長)を設置し、情報通信やバイオテクノロジなど16分野で戦略を練ってきたが、2000年3月9日、情報通信分野の戦略案が明らかになった(讀賣新聞3月10日)。情報通信分野の戦略の重点としては、「産・官・学」の連携を深めながら、2010年をめどに、気象予測などに使うスーパーコンピュータの演算性能を現行の千倍に高速化することなど、具体的な目標を打ち出している。

2) IT戦略本部
2000年7月7日、情報通信技術(IT)による産業・社会構造の変革を取り込み、国際的に競争力あるIT立国の形成を見座した施策を総合的に推進するため、情報通信技術戦略本部(IT戦略本部)が内閣に設置された。同時に、IT戦略会議が内閣に設置された。11月27日、IT戦略本部はIT基本戦略をとりまとめた。また11月29日、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)が成立した。主要なテーマは、e-commerce、プライバシー、情報セキュリティ、ICカード、政府のディジタル化などであり、情報通信分野の重点戦略にあったHPCのような先端技術は、IT戦略の中ではあまり重点が置かれなかった。

3) スーパーコンピュータの定義
1997年以来、日米の協議でスーパーコンピュータの範囲を定義し、これに含まれるスーパーコンピュータの政府調達には厳密な手続きを定めている。1999年5月1日に50 GFlops以上と合意したが、2000年5月1日付で、100 GFlops以上に変更した(実は、日本側は1999年の協議で100 GFlopsを主張していた)。もし、Rmax=100 GFlopsのスーパーコンピュータがあると、直前の1999年12月のTop500では102位にランクする。

4) 国立大学の設置形態
2004年4月に国立大学は国立大学法人に移行するが、2000年頃から、各大学等で大学の在り方、設置形態等について議論が行われていた。東京大学では「東大の設置形態に関する検討会」が議論を続けて来たが、1月7日に報告書を評議会に提出した。その本文は門外不出ということで、見たいものは学部長室に来い、ということであった。理学部の中でも全教官集会があったが、そのなかで財界や政治家への陳情の中で、驚くようなやり取りが披露された。

「国鉄の民営化はうまく行ったのに、なんで大学はできないの?」
「国立大学と言える大学は6つ(7つ、ではない)しかない」
「なんで大学に理学部が必要なのか?」
「東大の学費を3倍にして、成績上位3割を無償にしたら」
「理念がない」

など。行政改革審議会が理念もなく大学をいじろうとしているのに、「理念がない」と大学を悪者にするとは、と慨嘆した。うわさでは、いわゆる地方大学には、どれとどれの学部をつぶしてはどうかというような天の声が伝えられているとか。7月10日付で東京大学の「国立大学制度研究会」から「国立大学の法人化について(中間報告)」という文書が出た。

5) 国立大学教員等の民間企業役員兼業禁止の緩和
国立大学教員は公務員であり(当時は法人化前)、全体の奉仕者でなければならないが、国立大学における研究成果の事業化を促進し、産業競争力を強化するために、国立大学教員の民間企業の役員兼業規制のありかたについて検討を進めてきた。その結果、2000年度から、TLO役員兼業を一定の条件のもとに承認するとともに、国立大学教員や研究公務員の民間企業役員兼業を、国家公務員法に基づく人事院規則の整備により、一定の範囲で承認することとした。

6) 電子情報技術産業協会
(社)日本電子工業振興協会(電子協、Japan Electronic Industry Development Association(JEIDA))は、2000年4月1日に日本電子機械工業会(EIAJ)と統合され、(社)電子情報技術産業協会(略称「電子協」、Japan Electronics and Information Technology Industries Association(JEITA))となった。

7) 学術審議会(情報学部会設置)
11月6日、文部省学術審議会に特定研究領域推進分科会情報学部会が設置され、筆者も専門委員となった。部会のメンバは以下の通り。

部会長

鈴 木  昭 憲

秋田県立大学長

委 員

青 木  利 晴

株式会社NTTデータ代表取締役社長

 

石 井  紫 郎

国際日本文化研究センター教

 

宇 井  理 生

東京都臨床医学総合研究所長

 

末 松  安 晴

高知工科大学長

 

高 橋  真理子

朝日新聞東京本社論説委員

 

武 田  康 嗣

日立工機株式会社代表取締役社長

専門委員

安 達   淳

国立情報学研究所情報学資源研究センター長

 

有 川  節 夫

九州大学附属図書館長

 

安 西  祐一郎

慶應義塾大学理工学部長

 

池 田  克 夫

京都大学大学院情報学研究科

 

小 柳  義 夫

東京大学教授(大学院理学系研究科)

 

後 藤  滋 樹

早稲田大学教授(理工学部)

 

坂 内  正 夫

東京大学生産技術研究所長

 

辻 井  重 男

中央大学教授(理工学部)

 

土 居  範 久

慶應義塾大学教授(理工学部)

 

堀 部  政 男

中央大学教授(法学部

 

松 村  多美子

椙山女学園大学教授(文化情報学部)

 

米  澤  明 憲

東京大学教授(大学院情報学環)

科 学 官

齊 藤  忠 夫

東京大学教授(大学院工学系研究科)

 

広 瀬  茂 男

東京工業大学教授(大学院理工学研究科

学術調査官

佐 藤  真 一

国立情報学研究所助教授(ソフトウェア研究系)

 

沼 尾  正 行

東京工業大学助教授(大学院情報理工学研究科)

 

溝 上  智恵子

図書館情報大学助教授(生涯学習教育研究センター)

 

文部科学省学術情報課 学術情報基盤整備推進室長の山田真貴子氏からは、以下のような論点整理のメモ「大学等における情報学研究の推進について(審議のポイント)」が送られてきた。

1 情報学研究の意義

 

○ 情報に関する概念、手法、技術はあらゆる学問分野に活用でき、また、その成果は多くの学問分野における問題解決に有効である点に情報学研究の学術的意義がある。

 

○ 社会的には、ITの研究開発の推進は、新産業の創出、国際競争力の強化、豊かな国民生活の実現に貢献する。

 

○ このため、情報に関する総合的な研究を推進し、独創的な技術の開発を目指すことが必要である。また、先端的な情報通信技術の利便を国民があまねく享受できる環境の整備や安全性・信頼性の高い高度情報通信社会の実現にも配慮した研究の推進が望まれる。

2 情報学研究の現状と問題点

 

(1)米国における情報研究の展開

 米国では、大統領情報技術諮問委員会の提言として、政府がIT分野における長期・高リスクの研究に対する投資を拡充する必要があること、特に、ソフトウェア、大規模情報基盤、先端的計算、社会経済的問題を優先分野とすべきことが指摘されている。

 

(2)我が国の情報学研究の現状

 

○ 学術審議会の建議「情報学研究の推進方策について」(平成10年1月)では、我が国における情報学研究を推進するため、①中核的な研究機関の設置、②学部や研究科の一層の拡充、③科学研究費補助金の特定領域研究等における重点的な支援が必要とされている。

 

○ この建議を踏まえ、情報学の中核的研究機関として国立情報学研究所が平成12年4月に創設されるとともに、大学における情報関係の学科や研究科の新設・整備も進められている。

 

○ 現在、我が国は情報分野の研究において世界的に主導的地位を占めている状況にはない。情報分野におけるブレークスルーは、リスクの高い長期的研究の中から生み出されることが多いことを踏まえ、大学等における情報学研究を一層推進する必要がある。このため、研究体制の一層の整備、競争的研究資金を含む研究費の充実に早急に取り組む必要がある。

3 情報学研究の推進課題

 

(1)研究内容

 

○ 大学等における情報学研究を推進するに当たり、 ・情報関連研究において我が国が従来弱いとされていた分野 ・社会の情報化の進展状況から特に必要とされている分野 において独創的なアイデアを育てる研究を推進する必要がある。

 

○ また、情報学研究の重要性にかんがみて、一定期間内に達成される研究成果を想定するとともに、21世紀に向けて我が国として取り組むべき新たな課題の発見についても重視する必要がある。また、研究分野間の相互作用による相乗効果の発揮研究にも配慮すべきである。

 

○当面、重点的に研究を推進すべき分野の例は、以下のとおり。

  ①ソフトウェア

人とコンピュータの親和性やITへの信頼感の向上をもたらす、新しいソフトウェアの実現を目標とする総合的な研究(プログラミング言語、開発環境、利用者インタフェース等)

  ②セキュリティ

システムやコンテンツを守るセキュリティ技術を開発するための総合的な研究(理論的基礎、個別基盤技術、システム化等)

  ③コンテンツ

分散的に存在する多様かつ大量の情報を使いこなすためのコンテンツ技術の研究(様々なメディアのコンテンツの探索、新たなコンテンツの生産支援、学術的・文化的資産の共有を推進する技術等)

  ④情報化と社会制度

ITの急速な普及と制度等との不整合を分析し、信頼性の高い活発なIT社会を構築するための諸課題とその解決方策を探る総合的な研究(情報リテラシー、情報倫理等)

  ⑤最先端の情報通信設備を活用した研究手法

大学等の先端的研究設備を超高速ネットワークで結び、大規模な実験やデータを伴う研究を推進するシステムに関する研究

  ⑥超高速計算機システム

新たなアーキテクチャに基づく超高速・高性能計算機システム実現に関する研究

 

(2)研究体制等

 

○競争的研究環境の整備(競争的研究資金の拡充等)

 

○研究支援基盤の整備(テストベッド・テストコレクションの構築等)

○人材の養成・確保

 

11月13日、29日と会議を開き、12月に「大学等における情報学研究の推進について」をとりまとめた。この建議に基づき、科学研究費補助金特定領域(C)が2001年度から発足することとなる。

筆者は超高速計算機システムの開発を主張し、以下の文言を入れることに成功した。

3 情報学研究の推進方策

(1)重点的に推進すべき研究分野と内容

ア 新しいソフトウェアの実現(略)

イ セキュリティに関する総合的な研究(略)

ウ コンテンツ活用の推進(略)

エ 情報化と社会制度(略)

オ 最先端の情報通信設備を活用した研究手法(略)

カ 超高速計算機システム

 新たなアーキテクチャに基づく超高速・超大容量計算機システムの実現に関する研究を推進する。アーキテクチャのみならず、分散ソフトウェア技術、可視化技術、シミュレーション技術なども併せて研究し、特定応用も視野に入れつつ研究を進め、世界的にも最高レベルの超高速コンピュータの実現を目指する。

 

8) 振興調整費(情報科学技術)
1999年末に情報科学技術委員会は応募27課題から6つの課題を候補として選定したが、2000年1月、科学技術会議政策調査委員会で平成12年度科学技術振興調整費総合研究(情報科学技術)として以下の3課題が5年計画として選定された。

a 人間支援のための分散リアルタイムネットワーク基盤技術の研究

安西祐一郎(慶応義塾大学)

b 科学技術計算専用ロジック組込み型プラットフォーム・アーキテクチャに関する研究

(申請時は「超高速科学技術計算のための専用LSI組み込み型並列分散処理プラットフォームの研究」)

村上和彰(九州大学)

c 並列化コンパイラ向き共通インフラストラクチャの研究

(申請時は「共通インフラストラクチャによる並列化コンパイラの研究」)

中田育夫(法政大学)

 

課題名は申請時の課題を基に、その後の議論で修正された。課題毎に研究実施計画策定WGと研究推進委員会を作ることとなった。前者は課題審査委員会の委員が主査となり(a: 諏訪基、b: 小柳義夫、c: 土居範久)、2月に開催しプロジェクトを開始する。後者は、同一メンバであるが、外部の有識者を主査とするとのことであった。これは常設の委員会で年3回ほど開催する。

筆者は、b課題の研究計画策定WGの主査となり、青柳睦(分子研)、井原茂男(日立)、戎崎俊一(理研)、関口智嗣(電総研)、高田俊和(日本電気)、中村宏(東大)、細矢治夫(お茶大)が委員となった。課題名を議論し、「科学技術計算専用ロジック組み込み型プラットフォーム・アーキテクチャに関する研究」とした。このWGが研究推進委員会を立ち上げ、細矢治夫を主査に指名した。とりまとめ機関は、富士総合研究所(解析第2部次長、大谷康昭)。その後予算が認められ、6月から研究がはじまった。

2001年1月に中央省庁が改革され、文部省と科学技術庁が合併するとともに、科学技術会議が発展的に解消され、より強い機能を有する総合科学技術会議が発足することとなった。このため科学技術振興調整費の在り方も根本的に見直されることになった。複数年度に亘り継続することとして現在実施している課題については終了年次まで継続する。

9) 国立情報学研究所(発足)
2000年2月、学術情報センター(NACSIS)は一ツ橋の学術総合センターに移転した。4月、学術情報センターを廃止し、国立情報学研究所(NII)を設置した。所長は学術情報センターであった猪瀬博東大名誉教授。10月に研究所開所式を行ったが、猪瀬所長は10月11日心臓疾患で突然死去された。護国寺で葬儀が行われ、筆者も参列した。2001年4月に末松安晴高知工科大学学長が2代目所長に就任する。

10) 学振未来開拓研究事業「計算科学」
第3回計算科学シンポジウムを2000年2月1日に筑波大学の大学会館国際会議室で開催した。プログラムは下記の通り。

9:30

開会の挨拶

矢川 元基(未来開拓計算科学研究推進委員会委員長)

セッション I   

9:45

招待講演

HPCN(High Performance Computing and Networking)の展望
 — 計算工学からの期待 —

島崎 眞昭(京都大学大学院工学研究科教授)

10:35

休憩

セッション II  

11:00

地球規模流動現象解明のための計算科学

– 数理・物理モデルと計算アルゴリズムの開発 –

金田 行雄(名古屋大学大学院工学研究科教授)

11:40

地球規模流動現象解明のための計算科学

– 大規模数値シミュレーション –

里深 信行(京都工芸繊維大学工芸学部教授)

12:20

昼食

セッション III 

13:30

設計用大規模計算力学システムの開発

吉村 忍(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)

14:40

第一原理からのタンパク質の立体構造予測シミュレーション法の開発

岡本 祐幸(岡崎国立共同研究機構分子科学研究所助教授)

15:30

休憩

セッション IV  

16:00

次世代超並列計算機開発

– 多粒子系向け超並列計算機の開発 –

牧野 淳一郎(東京大学大学院理学系研究科助教授)

16:40

次世代超並列計算機開発

– 連続体向け超並列計算機の開発 –

朴 泰祐(筑波大学電子・情報工学系助教授)

17:20

閉会の挨拶

岩崎 洋一(筑波大学副学長(研究担当))

17:30

懇親会

 

また、計算科学の特徴である異なる分野におけるアルゴリズムの共通性に着目し、ワークショップ「計算科学におけるアルゴリズム」を筑波大学計算物理学研究センターにおいて2000年6月12日~13日に開催した。各プロジェクトから中心的なアルゴリズムが紹介され、高速化、並列化についても議論した。

次回は、JST関係の動き、日本原子力研究所の動き、理化学研究所の動き、学界関係の動きなど。学会誌「情報処理」では、Interactive Essay「これでいいのか? 日本のスパコン」が激論を交わした。

 

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