世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


9月 9, 2024

新HPCの歩み(第201回)-2003年(d)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

日本電気はItanium 2を搭載したUnixサーバを発表した。エルピーダ社が日本で唯一のDRAMメーカとなったが今後どうなるのか?システムLSIではルネサステクノロジ社が発足した。9社が協力して、複数のWebサービスを組み合わせて、音楽アーティスト「喜多郎」のファン向けWebサイトの運用実験を開始した。

日本の企業の動き

1) 富士通(SPARC64 V、PRIMEPOWER HPC2500、BioServer)
富士通は、2001年12月、SPARC V9に基づくSPARC64 V(1.1 ~ 1.35 GHz)を初めて製造し、2002年10月のMicroprocessor Forum 2002 (San Jose)に出品した。2003年にはロードマップを示し、2003年末か遅くとも2004年前半までに1.62 GHz versionを出荷すると述べたが、その後、SPARC V+ のためにこの計画はキャンセルされた(Wikipedia: SPARC64 V)。

大学センターのところにも書いたが、富士通は10月16日、京都大学の学術情報メディアセンターにスーパーコンピュータシステムを納入すると発表した。同システムは、ベクトルコンピュータVPP800の後継で、計算ノードとして対称型マルチプロセッサ(SMP)構成である。SPARC V9アーキテクチャに準拠したSPARC64 GP(1.56 GHz)を128 基搭載したFUJITSU PRIMEPOWER HPC2500(2002年発表)を11台と、I/Oノードとして64 CPUを搭載した同装置1台を高速接続する。スカラSMP型のスーパーコンピュータが国立大学に納入されるのは初めて。Linpack測定ではI/Oノードを含めすべてを計算ノードとして用い、4.552 TFlopsを記録する。初登場の2004年6月のTop500では24位。

また、京都大学宙空電波科学研究センター(2004年4月からは生存圏研究所)もPRIMEPOWERを2004年1月から導入予定。

11月5日富士通は、次世代のゲノム創薬研究に向けたバイオITを強化するため超並列シミュレーションサーバ試作機「BioServer」の実証実験を開始したと発表した。「BioServer」は、超低消費電力・超高速計算・高密度実装を特長とする新しい方式のゲノム創薬研究向けの専用アプリケーションサーバであり、一筐体に最大1920個のCPU(富士通製の組み込みプロセッサ「FR-V」シリーズ」を搭載可能である。FR-Vの最上位550シリーズは8-wayのVLIWであり、333/300 MHzで動作し消費電力は2.5 Wである。汎用サーバとしては実用化せず、2010年、富士通のマイクロプロセッサはARMに一本化される。

 
   

2) 日立製作所(SR11000)
日立は、SR8000の後継機として、Hitachi SR11000を開発し、5月28日から販売開始することを発表した。CPUとしてはIBM社のPOWER4+/5/5+プロセッサ(dual core)を採用した。SR8000のように日立でチップを独自開発したものではない。したがってCPU内の疑似ベクトル機構はない。しかし、SR8000と同様に、日立が独自に開発したプロセッサ間高速同期機構を組み込んでおり、ショートベクトル機能を改善している。自動並列化技術機能を含むコンパイラも自主開発である。OSはIBM社のAIXである。写真は日立製作所ニュースリリースからH1モデル。

ハードウェアプリフェッチは、ハードウェアが自動的に主記憶データのアクセスパターンを検出し、あらかじめキャッシュにデータを取り込む。ソフトウェアプリフェッチは、コンパイル時に生成したプリフェッチ命令により実効的なメモリレイテンシを削減する。CP-PACSからの流れをたどると、SR8000では、連続アクセスはキャッシュプリフェッチで対応し、ストライドアクセスは疑似ベクトルが働くようになっていたが、今度はIBM製のCPUそのものを使っているので、何処までベクトル性能が出るかが鍵であろう。

1ノードに16コア搭載するSMPであり、ノード間は3段(までの)クロスバで結合している。1筐体には最大8ノード格納できる。プロセッサはモデルによって異なる。筆者の知るモデルは表の通り。ネットワーク速度(単方向)が3種類書かれているが、クロスバの次元数によるものと思われる。

モデル

H1

J1

J2

K1

CPU (dual core)

POWER4+

POWER5

POWER5+

POWER5+

クロック

1.7 GHz

1.9 GHz

2.3 GHz

2.1 GHz

ノード性能

108.8

121.6

147.2

134.4

ネットワーク

4/8/12 GB/s×2

4/8/12 GB/s×2

 

4/8/12 GB/s×2

発表年月

2003年5月

2004年10月

 

2005年10月

 

2006年6月のTop500からSR1100の設置状況は以下の通り。Top500ではSR11000のノードをコアと呼んでいる。

設置場所

モデル・ノード数

Rmax

Rpeak

初出と順位

物質・材料研究機構

SR11000-H1/56

3.319

6.093

2004/11 60

分子科学研究所

SR11000-H1/50

3.296

5.440

2004/11 71

気象庁

SR11000-K1/80

9.036

10.752

2006/6 45tie(2台)

気象庁

SR11000-J1/50

4.993

6.080

2006/6  92

北海道大学

SR11000-K1/40

4.596

5.376

2006/6  110

東京大学

SR11000-J2/128

15.811

18.8416

2007/6 51

東北大学金材研

SR11000-K2/50

6.272

7.361

2007/6 201

 

K2モデルは上の表にないが、2.3 GHzのCPUと思われる。

3) 日立製作所(EP8000)
日立は2001年からPOWERを搭載したエンタープライズサーバEP8000を発売しているが、これはIBM社のRegatta (pSeries)のOEMである。EP8000 690(p690相当)では32個まで、EP8000 670(p670相当)は16個までのPOWER4を搭載できる。2003年5月にはPOWER4+搭載のモデルを発表した。

4) 日本電気(社長交代、ヨーロッパ法人、Itanium 2搭載サーバ他)
日本電気は1月20日、突然の社長交代を発表した。金杉明信専務が社長に昇格し、西垣浩司社長が副会長に就任した。西垣社長は健康上の理由で社長を退いたと発表したが、前年2002年12月に関本忠弘氏(1980年から社長、1994年から会長、1998年から相談役)を相談役から解任していたこととの関係が話題となった。

日本電気は2003年1月、これまでのEuropean Supercomputer Systems (ESS) divisionを独立させ、NEC High Performance Computing Europe GmbHとしたと発表した(HPCwire 2003/1/31)(HPCwire 2003/5/16)。この計画は前年から公表されていた。本社はドイツのDüsseldorfに置く。

7月1日、Intel社のItanium 2を搭載したUnixサーバとして、NX-7700シリーズ、Express5800/1000シリーズ、TX7シリーズの新モデルを販売開始した。

9月18日、日本電気はクロックの高速化やメモリ増強により、SX-6の価格性能比を30%改善したと発表した。、CPU当たりの性能を8 GFlopsから9 GFlopsに、ノード当たりのメモリを64 GBから128 GBに倍増させた。出荷は10月から。(NEC プレスリリース 2003/9/18 )(HPCwire 2003/9/26)

5) 東芝
東芝は5月、組み込み用のMIPS-baseのRISCプロセッサTMPR4955CFG-400(32ビット) とTMPR4956CXBG-400(64ビット)を発表した。90 nmテクノロジーで製造。クロックは400 MHzで消費電力は0.6 Wである。(HPCwire 2003/5/30) 組み込みプロセッサにも64ビット時代が来た。

6) 日本IBM社
日本IBM社は、2003年9月19日~21日、日本IBM天城ホームステッドにおいて、「ライフサイエンス 天城セミナー(9月)」を開催した。

「生命のストラテジー」

中村 桂子 JT生命誌研究館 館長

「遺伝子構造・機能研究の展望」

岡崎 康司 埼玉医科大学ゲノム研究センター

「ライフサイエンスにおけるナレッジ・マネージメントの動向」

武田 浩一 日本IBM 東京基礎研究所

「特別企画: ゲノム・ポストゲノム時代の新たな展開」

モデレーター 八尾 徹 理化学研究所 コンサルタント

「あなたと部下のためのライフサイエンス」

浜口 伝博 日本アイ・ビー・エム 安全衛生産業保健担当

「21世紀の医療情報システムのあり方」

里村 洋一 千葉大学医学部

「診断・治療における画像情報処理の最新動向」

増谷 佳孝 東京大学医学系研究科

「先端研究を加速する世界最大級のグリッド環境」

関口 智嗣 産業技術総合研究所 グリッド研究センター センター長

 

IBM社のHPCの中心人物である、Tilak Agerwala(Vice President, Systems, IBM Research)が来日するというので、9月26日に東大コンピュータ科学専攻で公開のセミナー”Technology Trends and their Impact on High Performance Computing”を開催した。

7) 日本SGI社
日本SGI HPC Open Forum(会長 小林敏雄)は、2003年6月26日、地球シミュレータの見学会を行った。

第1部 地球シミュレータのご紹介

14:30-15:00

『地球シミュレーターの現状紹介』大塚 清 地球シミュレータセンター

15:00-15:20

『地球シミュレータの可視化-BRAVE-紹介』荒木 文明 地球シミュレータセンター

15:20-15:30

コーヒブレーク

第2部 学術講演

15:30-16:10

『ポストをプレに! 大規模データ可視化の現状と課題』

藤代 一成 お茶の水女子大学

◆システム見学

16:20-17:20

地球シミュレータ、CAVEシステム、地球情報館

◆意見交換会

17:30 – 19:00

海洋科学技術センター ゲストハウス

 

また、「第5回日本SGI HPC Open Forum」を、11月6日、ウエスティンホテル東京(恵比寿)で開催した。

講演①『ぺタコンピュータの夢』

理化学研究所 戎崎 俊一

講演②『欧州最先端研究機関の新たな挑戦』

Manchester大学

◆パネルディスカッション 『HPC の未来を展望する』

  コーディネータ  東京大学情報理工 小柳義夫

  パネリスト    産業技術総合研究所 生命情報科学研究センター 秋山 泰

           東京大学生産研 佐藤文俊

           理化学研究所 情報環境室 姫野龍太郎

           宇宙科学研究所 藤井孝蔵

           産業技術総合研究所 グリッド研究センター 横川三津夫

懇親会(ウエスティンホテル東京 B1F 「桜の間」)

 

8) サン・マイクロシステムズ社
同社は2月5日、ホテルセンチュリーハイアット東京において、「サン・マイクロシステムズが提案する新たなCAEの世界- コラボレーティブCAE -」をテーマにSun CAEセミナーを開催した。

09:50-10:00

ご挨拶

 

10:00-10:45

基調講演「CAEとJAVA ー 現状と将来 ー 」

法政大学工学部 武田 洋

10:45-11:35

「Leadership in HPTC and Collaborative CAE」

Sun Microsystems, Inc., Henry Hong

「Scalable and Distributed Visualization Solutions」

Sun Microsystems, Inc., Stephen Perrenod

● 最新のプリ・ポスト処理技術

11:35-12:15

「モーフィング技術を用いた形状最適化について」

アイジェニーインターナショナル 安藤 浩平

12:15-13:20

昼食ならびにデモ展示

13:20-14:00

「Gridgen、FIELDVIEW:オープン型流体解析用プリポストプロセッサ-設計部門の大規模解析、自動化および高速化の実現-」

ヴァイナス 藤川 泰彦

14:00-14:40

「OpenViz:可視化スイートによる知識プレゼンテーションのすすめ」

ケー・ジー・ティー 長澤 幹夫

14:40-15:00

休憩

● 最新のCAEソルバー

15:00-15:40

「構造解析ソルバー並列技術の最新動向」

エムエスシーソフトウェア 立石 源治

15:40-16:20

「FLUENTの流体シミュレーション~最新機能紹介とグリッドコンピューティングへの取り組み」

フルーエント・アジアパシフィック 岡 新一

● コラボレーティブCAEのためのインフラストラクチャ

16:20-17:00

「最適設計からロバスト設計、そして協調設計へ」

エンジニアス・ジャパン 加藤 毅彦

 

同社は8月29日、センチュリー・ハイアット東京において、コラボレーティブ・エンジニアリング・セミナーを開催した。

10:00-10:15

ご挨拶 

サン・マイクロ 廣川 裕司

10:15-11:15

『協調設計のインフラはサン』

サン・マイクロ 林 憲一

11:15-12:00

『コラボレーション実現のためのCAD/CAEインフラストラクチャ』

エンジニアス・ジャパン株式会社 加藤毅彦          

12:00-13:10

 (休憩&デモ見学)

13:10-13:55

『”NX”、次世代設計システムへの進化』

EDS PLM Solutions 山本広則

13:55-14:40

『CADのデータフロープロセス、自動化へ向けて』

ランド・テクノロジーズ・ジャパン 橋本 浩志

14:40-15:10

 (休憩&デモ見学)

15:10-15:55

『多様な連成解析に対応するANSYSと汎用可視化ツールEnSightの連携』~設計プロセス改革のためのメカニカルCAEトータルソリューションのご提案~

サイバネットシステム 小澤 正敏

15:55-16:40

『”Collaborative Virtual Engineering”に向けて』

日本イーエスアイ 渡邊 正彦

16:40-16:50

 (休憩&デモ見学)

16:50-17:30

『SunのAuto-IDへの取り組みと最新情報』

サン・マイクロ 野町 雅俊

18:00 

   展示終了

 

同社は、11月18日、用賀の本社において、日本オラクル株式会社との共同主催により、ゲノムテクノロジー・ビジネス・フォーラム/Bio・IT World2003 フォローアップセミナー を開催した。

13:30

受付開始

14:00-14:40

ここが使える! Oracle 10gライフサイエンス向け新機能紹介

14:40-15:20

イメージデータ管理の現状・問題点とイメージデータ管理システムSIMSの活用

15:35-16:15

SunのLow Cost ComputingおよびGrid Solutionのご紹介

16:15-16:55

シームレスな情報活用のために・・・統合データベースの威力 

 

9) エルピーダメモリ社
エルピーダメモリ社は2003年4月1日、三菱電機よりDRAM事業を譲り受けた。エルピーダ社は1999年12月20日、日本電気と日立製作所の対等出資により「NEC日立メモリ株式会社」が設立されたのが始まりである。2001年9月28日に、統合ブランド「エルピーダ」が発表されるとともに、商号をエルピーダメモリに変更した。東芝や富士通は汎用DRAMから撤退を決めており、2003年4月からはエルピーダが日本で唯一のDRAMメーカとなった。その後リーマン危機等により経営困難に陥り、2013年、マイクロンメモリジャパンとして、世界的な半導体メーカであるマイクロン・テクノロジの子会社となった。

10) ルネサステクノロジ社
2002年3月18日には基本合意ができていたが、2003年4月、日立製作所と三菱電機のシステムLSI事業を分社・統合してルネサステクノロジ(ReNaissancE Semiconductor for Advanced Solutions)が設立された。世界第3のチップメーカになると報道された。2010年4月にはNECエレクトロニクスと合併してルネサスエレクトロニクスに商号を変更する。

11) Cell Computing(NTTデータ)
前年12月20日からNTTデータ社によって始められた日本で初めての商用グリッドの大規模実験が注目されていた。SETI@homeのように参加者がボランティアとして資源提供するのではなく、何らかの対価を受け取る前提である。今回は実験であり、Tシャツやストラップのような景品をもらえるだけであるが、将来的にはポイントや通信料金の割引などの形で対価を払い、NTTデータは仲介役としてマージンを取るというビジネスモデルである。今回のこのグリッドで動かすソフトは2つあり、遺伝子病を治療するためのBOLEROと、光コンピュータを実現するためにOPALである。この実験は3月20日までのわずか3ヶ月となっている。(日経ITpro 2003/3/27)

12) ベストシステムズ社
5月19日の報道によると、ベストシステムズ社はスペインのGridSystems社と契約を結び、GridSystems社が開発したInnerGrid Softwareを日本国内に販売する権利をベストシステムズ社の子会社であるグリッド総合研究所(2002年3月15日設立)に与えることとなった。(HPCwire 2003/5/19)

13) UDDI実証実験
NTT、NTTコミュニケーションズ、富士写真フイルム、富士通など9社は2003年1月から、複数のWebサービスを組み合わせて、音楽アーティスト「喜多郎」のファン向けWebサイトの運用実験を開始した。大きな特徴は「UDDIレジストリ」を使うことで、実際のビジネスに利用することを想定して実施する本格的な実証実験は珍しい(IT pro 2002/11/29)。

14) Tron
米Microsoft社が、Tronを情報家電向けに改良する共同組織「T-エンジン・フォーラム」に加わり、次世代ソフトの研究で提携することが、2003年9月25日発表された。長年の競合関係にあったTronとMicrosoft社が「歴史的和解」をしたと報じられた。

15) Blue-ray ディスク
4月10日、ソニーは世界初のBlue-rayディスクレコーダーを発売した。

標準化

1) GGF7
アジア太平洋地域では初となるGGF7 (The Seventh Global Grid Forum)が、2003年3月4日~7日に新宿の京王プラザホテルで“Grids Around the World”のテーマの下に開催され、約800人が参加した。プログラム委員長は、Sangsan Lee (KISTI)と関口智嗣(産総研)であった。今回はWG (working group)やRG (research group)の他にPlenary Programやチュートリアルが設けられた。

基調講演は、Ian Foster (ANL/ Chicago大学)の“Building an Open Grid”と、Eng Lim Goh (SGI)の“A Grid Technology Producer Perspective”であった。

5日には、「”The State of the Grid: Hype Versus Reality”(グリッドの現状、詐欺か現実か)」というroundtable(専門的なパネル討論会)が計画され、熱い議論がなされた。モデレータはTom Tabor (GRIDtoday/HPCwire)、パネリストはPaul Messina (ANL), Tony Hey (U. Southampton), Charlie Catlett (Chair of GGF/ANL), Tom Hawk (IBM), Ian Baird (Platform Computing), 三浦謙一(富士通/NAREGI)、Andrew Grimshaw (Avaki)であった。

これに関連して、日経ITpro 2003/3/27にサン・マイクロシステムズの山本恭典データセンター・ソリューション事業本部長の見解が紹介されている。「現時点で大規模な商用グリッド」は不可能とし、暗にIBMの政治的な動きを批判している。

夜のイベントのスポンサーはIBM Grid Computing、Qwest Communication, Hewlett Packard, NTTデータ、日本電気、Oracle各社であった。

2) GGF8
第8回目のGGF8は、2003年6月24日~27日にワシントン州のSeattleにおいて、“Building Grids – Obstacles & Opportunities”というテーマで開催され、約700人が参加した。HPDC-12(2003年6月22日~24日)との連続開催であった。4件の基調講演が行われた。(Grid Today 2003/6/30)

Keynote

Creating Enterprise Value

John Gage, Sun and Shane Robinson, HP

Keynote

National Research Grid Initiative (NAREGI) Project

三浦謙一, 富士通/NAREGI

Keynote

Grid Challenges

Gordon Bell, Microsoft

Keynote

GRID Technology Research – Shaping the eInfrastructure in Europe

Luis Rodriques-Rosello, EC

 

3) GGF9
第9回のGGF9は、2003年10月5日~8日にシカゴのSheraton Chicago Hotel & Towersで開催された。GGF6と同様に総合講演やチュートリアルはなくWGとRGだけの会議であったが、450人以上が参加した。JPGridでの総括参加報告を参照してください。

4) Globus Alliance
グリッドソフトウェアの事実上の標準であるGlobus Toolkit開発のために1995年に始まったGlobus Projectは、2003年9月、Globus Allianceというコンソーシアムとして正式に設立された(GRIDtoday 2003/9/8)(CNET 2003/9/2)。これに先立つ7月、Globus Toolkit 3.0が公開された(Grid Today 2003/7/7)。これはOGSA (Opne Grid Software Architecture)のOGSI (Open Grid Services Infrastructure) ver. 1.0に準拠する初めてのフルスケールの実装である。Globus Toolkitの配布は2018年に終了する。

5) グリッドコンピュ-ティング標準化調査研究委員会
前に述べたように、2002年10月からINSTAC(日本規格協会情報技術標準化研究センター)において、グリッドコンピューティングについて標準化の調査研究が始まった。2002年度の活動として、企業所属の方へのwebアンケートを実施した。報告書にはグリッド用語集を付けた。

2003年度からINSTACでは「IT標準化戦略委員会」を設置し、INSTAC委員会全体の活動を把握することとなった。各委員会から委員長が参加することとなり、筆者はグリッドコンピュ-ティング標準化調査研究委員会を代表してメンバーとなった。

6) Linux(NUMA用Linux、IBM社への訴訟)
2003年1月、Linuxの創始者で最高責任者のLinus Torvaldsは、NUMA (Non-Uniform Memory Architecture)のための最適化機能をLinux 2.5に導入することを承認した。これにより、Linuxが他のUnixやMicrosoft Windows (Server 2003)より優位に立てることを期待している。IBMや日本電気やSGIなどの大規模なサーバでは、メモリを物理的に分割する必要があり、ノードやノード群のメモリを別々に管理する必要がある。

1998年の記事に書いたように、2003年3月7日にSCO社(正確にいうと、SCOから名前ごと買ったCaldera Systems社が社名変更した会社)はIBM社を訴え、IBM社がSCOとのライセンスに違反してその知的財産を勝手にLinux開発に利用したと主張した。Gartnerグループは、5月、この訴訟が決着するまでは、Linuxの採用を最小限にすべきであると警告した。(HPCwire 2003/5/30) 6月16日、SCO社はIBM社に対し、ある種のUnixの要素をAIXで使うライセンスを差し止めた。かねてから「IBM社とMicrosoft社は人類の敵」という毒舌を吐いている Sun MicrosystemsのScott McNealy CEOは、「わが社はSCO社ともよい関係を保っているので、この紛争によりSolarisが注目されるであろう」と述べた。(HPCwire 2003/6/20) 9月9日にSCOグループCEOのDari McBrideがソフトウェアの著作権と知的財産に関してOpen Source Communityに対して公開質問状を突きつけ(HPCwire 2003/9/12)、これに対し、Open Source Communityを代表してEric RaymondとBruce Perensが反論するなどのバトルもあった(HPCwire 2003/9/19)。

その後2006年11月30日に、裁判所はこの訴えの大半を却下する。(日本語Wikipedia、『Project Monterey』『SCO』参照)

7) Fortran 2003
Fortranの改訂が進んでいたが、Fortran 2003は2004年にISO/IEC 1539-1:2004として公開されることになる。

8) C++
1998年の標準の公式のリリース以降委員会に報告された不具合を訂正して、2003年10月16日に訂正版ISO/IEC 14882:2003を発表した。この日本語訳が日本工業規格JIS X 3014:2003「プログラム言語C++」として、2003年12月に制定された。

9) PCI Express
PCI SIGは、2003年、PCI Express 1.0の規格を決定した。

ネットワーク

1) 国際化ドメイン名
2003年3月にIDN (International Domain Name)のRFCが発行され、漢字を含むドメイン名が登録できるようになった。日本でも受け付けが開始され、すでにローマ字のドメイン名を持っている組織や個人には登録の優先権が与えられた。東京大学でも早速「東京大学.jp」と「東大.jp」を申請したが、後者は現役東大生とくじ引きになり負けてしまい、取れなかった。なんで個人が「東大」などというドメイン名を出せたかと思ったら「あづま・ひろし」とかいう本名だったとのことである。

2) DNS 20周年
IPアドレスのプロバイダであるNominum社はDNSの20周年を記念した。主任技術者で社長のPaul Mockapetrisは、1983年、Southern California大学のInformation Sciences Institute(ISI)において、故Jon Postelとともに、インターネットを使った階層的な分散型データベースシステムとして、DNS (Domain Name System)を開発し、1983年6月23日に使用が開始された。1983年1月1日に、ARPANETがTCP/IPプロトコルに切り替えた直後のことである。Mockapetrisは1999年Nominum社に加わった。(HPCwire 2003/6/27)

性能評価

1) HPC Challenge Benchmark
2002年のところで述べたように、アメリカ国防省のDARPA (Defense Advanced Research Projects Agency 国防高等研究計画局)は、それまで実効性能よりピーク性能に重点が置かれていたことの反省の上に立って、2002年6月にHPCS (High Productivity Computing System)プロジェクトを開始した。この中でより総合的なProductivityの評価方法が必要となった。Linpack benchmarkの主導者であるJack Dongarra(University of Tennessee/ORNL)はSC2002のTop500 BoFにおいて、Linpack benchmarkへの批判に対し、Linpackがbenchmarkとなったのはいわば偶然で、もっと多角的なbenchmarkが必要なことは当然である、というようなことを述べていた。

DongarraはSC2003のTop500 BoFにおいて、多角的な指標に基づくHPC Challenge Benchmarkを提唱した。(HPCwire 2003/11/7) 協力者は以下のとおり。

David Bailey

NERSC/LBL

アメリカ

Jack Dongarra

UTK/ORNL

アメリカ

Jeremy Kepner

MIT Lincoln Lab

アメリカ

David Koester

MITRE

アメリカ

Bob Lucas

ISI/USC

アメリカ

John McCalpin

IBM Austin

アメリカ

Rolf Rabenseifner

HLRS Stuttgart

ドイツ

Daisuke Takahashi

Tsukuba

日本

 

以下の7分野28項目で評価する。

HPL

LU分解による連立一次方程式の計算

Global

DGEMM

倍精度実数の行列積計算

Local/EP

STREAM

メモリバンド幅の実効性能を測定する

Local/EP

PTRANS

全procにブロックサイクリックに分割された行列の転置を行なう

Global

RandomAccess

64bit単位でメモリのRead-Modify-Writeを行なう

ランダムかつインダイレクトアクセス性能を測定する

Local/Global/EP

FFTE

1次元の高速フーリエ変換を行なう

Global/Local/EP

Latency/Bandwidth

MPI転送のレイテンシ(8B転送)およびバンド幅(2MB転送)を測定

 

・Globalとは、全系がMPIによって通信しながら計算を実行する。

・EP (embarrassingly parallel)とは、システム中の各プロセッサが、互いに通信することなく計算を実行する。

・Localとは、単一プロセッサによって計算を実行する。

 

HPC Challenge Awardsは、SC97からSC2003までほぼ毎年いろんな形で行われてきたが、SC2005からは、HPC Challenge Awards(Class 1)が、HPC Challenge benchmarkの中から、全系の性能を示す4つの指標(Global HPL、PTRANS、Global RandomAccess、EP STREAM)を用いて行われる。HPC Challenge Awards (Class 2)は、性能ではなく、新しい言語によるエレガントな実装を競う。

次はアメリカ政府の動き。Computenik Shockのあと、アメリカがHPCにおいてリーダーシップを奪還するためにいかなる政策を進めるべきかの議論が盛んに行われた。

 

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