新HPCの歩み(第208回)-2003年(k)-
プロセッサでは64ビットアーキテクチャの競争が激化している。Itanium 2を搭載したサーバが出始めた。Crayはスタンドアローンのベクトルコンピュータとしては最後のCray X1を出荷した。半導体技術も高誘電体材料の利用により、微細化がどんどん進んでいく。 |
アメリカ企業の動き
1) IBM社(POWER5、On Demand Computing、eServer)
ASCI Purpleに使われるはずのPOWER5の技術情報が小出しに出て来た。2003年2月21日にNew Orleansで開催されたIBM Partner World Conferenceにおいて、IBM server groupのBill Zeitlerは、「POWER5サーバは現在のPOWER4サーバより4倍高性能になる」と述べた。POWER5サーバのプロトタイプが既に3週間稼動しているとのことである。ASCI Purpleは12544個のPOWER5プロセッサ(64-wayサーバを196個結合する)からなる。クロックは発表されなかったが、2 GHzならちょうどピーク100 TFlopsになる計算である。(HPCwire NEWS BRIEFS 2003/2/21) (HPCwire 2003/7/4)
2003年7月には、「POWER5がIBMのPoughkeepsie研究所で順調に稼動し、性能テストでPOWER4の4倍の性能が出ることが期待される、来年には出荷する」と発表された。4倍というが、根拠ははっきりしない。(HPCwire 2003/7/4) Blue PlanetもPOWER5ベースで、2005年後半には出荷可能と予想される。(HPCwire 2003/6/6)
2003年8月17日~19日にStanford大学で開催されたHot Chips: A Symposium on High Performance Chips (HC15)において、Ron Kalla et al.の“POWER5: IBM’s Next Generation POWER Microprocessor”で発表した。130 nmテクノロジで銅配線SOI、Dual processor core, 8-way superscalar, SMT (Simultaneous multithreaded) coreが売りであった。完全なデータは2003年10月14日に、Microprocessor Forumで発表された。
2002年10月30日、新任のPalmisano会長が“On Demand Computing”という新しいテクノロジに$10Bを投入するという電撃的な発表を行ったことは昨年のところで述べた。その最初の契約として、石油の探査や貯蔵を行う米PGS (Petroleum Geo-Services) 社と契約を結んだことが2003年1月10日に発表された(HPCwire 2003/1/10)。IBM社は同社のコンピュータ処理能力の1/3を提供する。石油業界は原油価格の下落のため、技術予算の削減を迫られているという。IBM社のサービスを利用することによりPGS社は、より大規模な演算処理能力を持つ新たなデータ処理能力を必要なときだけ随時手に入れることになる。(CNET Japan 2003/1/10)
2003年2月、IBM社は普及版のweb serverとしてPOWER4+(4-way)を用いたIBM eServer pSeries 630を発表した。競争相手はSun Fire V480である。
2003年3月26日、xSeries 335または345などのIBM製品や、非IBM製品を含む様々なクラスタ技術を統合した製品、IBM eServer Cluster 1350を発表した。2003年11月、Opteronを最大48個搭載したIBM eServer 1350スーパークラスタを発表した。(HPCwire 2003/11/7)
2) Intel社(x86)
第2世代のPentium 4(コード名Northwood)は、2002年1月8日に出たが、2003年5月日には2.4/2.6/2.9 GHzの版が、6月23日は3.2 GHzの版が発売された。(HPCwire 2003/6/27) 2004年2月2日には3.4 GHzの版まで出て、この世代の最後となる。(Wikipedia: Pentium 4)
2003年2月、Intel社は次世代のPentium 4であるPrescottの概要を発表した。90 nmのプロセス技術で製造され、2004年1月1日にリリースされた。L1データキャッシュを16 KBに、L2 データキャッシュを1 MBに倍増し、クロックは4~5 GHzをターゲットとしていることが発表された。他の改良点としては、Improved Hyper-Threading Technology、13種の新命令の追加、プリフェッチと分岐予測の改良、省電力制御など。
2003年11月27日、Intel社のOtellini社長は、2004年Q2には3.6 GHzに、Q3には3.8 GHzに、Q4に4 GHzのPentium 4を発売すると豪語した(HPCwire 2003/11/28)。しかし4 GHzチップは後に2005年前半まで延期され、ついに2004年10月14日、4 GHz版の開発を完全に中止することを発表する。最高クロックは2005年初めに登場した3.8 GHz版(キャッシュは2 MB)であった。Intel社はキャッシュサイズの増強によって性能を引き上げる、と弁明した。なお、3月にはTransmeta社に対抗して省電力のPentium Mを発売した。
サーバ用のXeonでは、2003年3月にGallatinを発売した。テクノロジーは130 nmで、クロックは2.4 GHz、L2キャッシュは512 KB、L3キャッシュは1024 KB。2003年7月には3.066 GHzのものを、10月には3.2 GHzのものを発売した。2004年2月には、3.2 GHzでL3が2048 MBのプロセッサを発売した。Gallatin MP(4コア)では、2002年11月から1.5 GHzのものが発売されていたが、2003年6月には2 GHzや2.5 GHzや2.8 GHzのプロセッサが発売された。
3) Intel社(Itanium)
2003年1月、Intel社はdual coreのItaniumプロセッサ(Montecito)を2004年に発売すると発表した(HPCwire 2003/1/17)。Itaniumシリーズは64bitプロセッサとしては遅れをとったが、IBMのPOWER4/5や、Sun Microsystems社のUltraSparc 4に対し優位を保つことを狙っていた。なおコード名のMontecitoは、カリフォルニア州Santa Barbara郡の地名であり、スペイン語で「小さな山」を意味する。
また、低電圧のItanium 2であるDeerfield(コード名)を2003年中に発売すると発表した。プロセスは0.13μm、クロックは1.0 GHzで、消費電力は62Wである。(HPCwire 2003/2/21)
第2世代のItanium 2である(コード名)Madisonは2003年6月30日に登場した。プロセスは0.13μm、消費電力は130W、クロックは1.3~1.5 GHzである。2004年に1.6 GHzのMadisonが登場する。3次キャッシュは最大6 MB(後に9 MB)。9月8日には、2-wayのシステムに最適化した2種類のItanium 2を発売した。一つはクロック1.40 GHzで、L3キャッシュは1.5 MBである。もう一つは省電力低電圧(コード名Deerfield)で、クロック1.0 GHzでL3キャッシュは1.5 MBである。(HPCwire 2003/9/12)
Itaniumを搭載する最大のシステムは、LLNLのThunderで、4114プロセッサの1.4 GHzのItanium 2をQuadricsで接続する。ピークは23.6 TFlops。2003年11月稼動予定。これまでの最大であったPNNLの1540プロセッサの1 GHzのItanium 2クラスタを越える。日本では、産総研で512プロセッサの1.3 GHzのItanium 2(と2116プロセッサの2 GHzのOpteron)をMyrinet2000で接続する予定。
2003年2月、IBM社がItanium用のLinuxサポートを止めるのではないかという報道が流れた。2004年にはItaniumに早くも暗雲が立ちこめることになる。
4) Intel社(Pallas買収、コンパイラ、高誘電率材料)
Intel社は、ソフトウェアツールを開発しているドイツの会社Pallas GmbHのHPC部門を買収したことが2003年8月末に明らかになった。価格は公表されていないが、Intel社はPallasの23名の従業員と クラスタのモニターやチューニングのためのソフトウェアを取得した。Pallasの開発したVampirやVampirtraceはクラスタのノードが効率よく動作しているかどうかを測定するツールである。Top500のトップ5件のうち4件(つまり地球シミュレータ以外)はPallasの製品を使っていると言われている。その他の顧客としてはDaimlerChrysler、T-Mobile、IBMなどが挙げられる。(HPCwire 2003/9/5)
2003年12月15日、Intel Fortran Compiler 8.0およびIntel C++ Compiler 8.0が発売された。Ver. 8ということなので、もっと前があるようだが、Intelがいつからコンパイラを発売しているのかは不明である。
半導体製造の基本技術としては高誘電率材料の発展がある。半導体の微細化が進み100 nmを切るようになると、チップの中でのリーク電流が増加し、消費電力の無視できない部分を占めるようになる。1990年代からシリコン酸窒化膜が用いられてきたが、さらによい材料が要求されていた。2003年11月、Intel社はこの問題を解決する新しい材料を発見したと発表し、注目を浴びた。物質の名称は明らかにしなかったが、2007年には実用化すると予想した。(HPCwire 2003/11/7) 2007年初め、Intel社はハフニウムを用いた高誘電率(High-κ)酸化膜を45 nmのテクノロジに使用したと発表する。IBM社も同じ頃ハフニウムを用いた高誘電率材料を開発したと発表する。
5) AMD社(IBM社との協力、Opteron、AMD64、Athlon)
2003年1月、AMD社はIBM社と協定を結び、SOIや銅配線やlow-k誘電体などの次世代マイクロプロセッサ技術を共同で開発し、来るべき65 nmや45 nmチップを300 mmウェファで製造することを計画しているとのことである (HPCwire 2003/1/17)。
AMD (Advanced Micro Devices)社が、“SledgeHammer”と呼ばれていた64-bitプロセッサを“AMD Opteron”と名付けたと発表したのは2002年4月24日であった。2003年4月22日、予定より少し早くOpteronが発売された。すでに発表されていたx86の64ビット拡張であるx86-64という命令セットアーキテクチャは正式にAMD64と命名された。従来の32ビットx86と上位互換であり、32ビットのソフトも高速に実行できる。IA64も原理的にはx86と互換であるが性能は相当に低下する。テクノロジは130 nm SOIで、クロックは1.4~2.4 GHz、L1 cacheはデータ・命令各64 KB、L2 cacheは1024 KB、MMX、拡張3DNow!、SSE, SSE2、AMD64をサポートする。
2003年9月、model 854とmodel 146が追加された。Model 864は4-wayから8-wayのサーバに適し、model 146は大容量メモリやスケーラブルなI/Oをサポートする。(HPCwire 2003/9/12)
同じ命令セットのデスクトップ用のAthlon 64およびAthlon 64FXは少し遅れ(HPCwie 2003/2/7) て2003年9月23日に発売された。テクノロジーは130 nm。L1キャッシュは各64 KiB、L2キャッシュは1024 KiB、拡張機能MMX、Extended 3DNow!、SSE、SSE2、AMD64等をサポートする。クロックは2.0~2.6 GHzである。(HPCwire 2003/9/26)
OpteronとAthlon 64/64FX との違いは、OpteronはHyperTransportを最大3本持っていて8-wayまで組むことが可能であるのに対し、Atholon 64/64FXは1本しか持たず、1-wayの構成しか組めないことである。
経緯は忘れたが、日本AMDの小島洋一氏が9月30日、東大でAMD Opteronを紹介するtalkをしたいというので、7号館の部屋を用意した。
Opteronの発売に対し、IBM社はOpteronのサーバを製造すると述べ、Microsoft社はOpteronに最適化したWindowsを約束した。多くのベンダもOpteronに賛同した。AMDの33年の歴史の中で、これまではIntelの後を追いかけていたが、今後は別の道を歩み、従来の32ビットのプログラムを性能劣化なく走らせられるようにした。しかし、IBM、Sun Microsystems、Hewlett-Packardの3社が支配し、IntelもItaniumで参入する64ビットサーバ市場に果たして食い込めるか、Athlonとの二兎を追って大丈夫か、経営状態がよくないのではないか、と心配する向きもあった。(HPCwire 2003/4/25)
2003年12月、これまでのモデルに比べてキャッシュは半分だが、価格の半分という廉価版Athlon 64 3000+を市場に投入した。製造コストは変わらないが歩留まりが改善され安価にできるようである。
数学ライブラリを販売しているNAG (the Numerical Algorithms Group)は、Opteron やAthlon 64プロセッサに最適化したライブラリACML (theAMD Core Math Library)をAMDと共同して開発すると発表した。このライブラリにはBLAS、LAPACK、FFTなどが含まれる。2003年の第2四半期に発表する予定。NAG社はAMDは行ける、と判断したようである。(HPCwire 2003/1/24)
2003年12月、AMD社は、Fujitsu Siemens Computers社がOpteron 200シリーズを搭載したCELSIUS V810ワークステーションを発売すると発表した。既存の32-bitアプリと、より高度な64-bitアプリの両方を実行できるところがミソである。
6) Portland Group
2000年12月19日にSTMicroelectronics社に買収され、同社のThe Portland Group Technology teamとして活動しているPortland Groupは、4月、AMD Opteronプロセッサのための、PGF77、PGF90、PGCC、PGC++コンパイラをベータリリースした。6月に商品として出荷する予定である。(HPCwire 2003/4/4)
7) Cray社(X1、Ungaro入社、XT3、CUG)
アメリカでただ一つとなったベクトル計算機Cray X1は2002年11月14日に正式発表された。Cray社は最初の製品を2002年末に出荷したと発表した。出荷先やノード数は不明。(HPCwire 2003/1/10) また、AHPCRC (Army High Performance Computing Research Center)のシステムインテグレータであるNCSI社(Network Computing Services, Inc.)からも$15Mの注文を受けたと発表した(HPCwire 2003/1/31)。同社の2003年2月の発表によると、$62MのX1の受注があるという。2月末から出荷が始まり、10月に終了する。(HPCwire 2003/2/14) アメリカ政府機関が主要な顧客であった。4月に、Cray X1の32プロセッサ機の1つが、NCSI(Network Computing Services, Inc.)により初めて検収されたと報告した。このマシンは軍関係の計算流体力学や構造計算や戦場の天気予報などに使われる。(HPCwire 2003/4/18)
5月、Cray社はX1のLinpack性能を公表した。4~60プロセッサのシステムで、プロセッサ当たり11.55 GFlopsとのことである。他のアメリカのベンダの製品より2.5~10.6倍高性能と述べている。アメリカに限ったところが微妙である。(HPCwire 2003/5/16)
Top500からCray X1の一覧を挙げる。最初に小規模システムを導入し、その後増強する例が見られる。上記のNCSIのシステムは2003年6月のTop500の圏内であるが掲載されていない。
設置場所 |
コア数 |
Rmax |
Rpeak |
初出と順位 |
Cray社内(2台) |
60 |
675.50 |
768.00 |
2003/6 112位tie |
米国政府機関 |
60 →252 |
675.50 2932.9 |
768.00 →3225.60 |
2003/6 112位tie →2003/11 19位tie |
カナダ政府機関 |
36 |
404.30 →422.10 |
460.80 |
2003/6 277位tie →2003/11 387位tie |
米国政府機関 |
36 |
404.30 →422.10 |
460.80 |
2003/6 277位tie →2003/11 387位tie |
ORNL |
28 →252 →504 |
318.10 →2932.90 →5895.00 |
358.40 →3225.60 →6451.20 |
2003/6 367位 →2003/11 19位tie →2004/6 20位 |
Cray社内 |
252 |
2932.90 |
3225.60 |
2003/11 19位tie |
US Army PC Res. Center |
124 |
1448.42 |
1587.20 |
2003/11 71位tie |
Alaska大学ARSC |
124 |
1448.42 |
1587.20 |
2003/11 71位tie |
ERDC MSRC |
60 |
706.35 |
768.00 |
2003/11 196位tie |
スペインinstituto Nacional de Meteorologia |
40 |
468/38 |
512.00 |
2003/11 341位 |
Cray社内 |
124 |
1448.42 |
1587.20 |
2004/6 153位tie |
米国政府機関 |
80 |
937.00 |
1024.00 |
2004/6 271位tie |
Boeing |
60 |
706.35 |
768.00 |
2004/6 391位tie |
韓国気象庁 |
188 |
2188.15 |
2406.40 |
2004/11 87位 |
さてここで大事件が起こった。IBMの副社長の一人(HPC担当)で、IBMのHPCのセールスマンとしてよく日本にも来ていたPeter J. Ungaroが2003年8月、Crayの副社長(世界市場担当)に横滑りした。(HPCwire 2003/8/15) Ungaroは1990年にWashington州立大学でB.A.を取得した後、1991年からIBMに勤めていた。かれはやがてCray社のCEOとなり、Crayを「HPCのIBM」のような役割に変えていくことになる。噂では、家族の住むSeattleでの勤務に興味があったとのことである。
Cray社は10月、SNLに建設中のASC Red Stormの商品版Cray XT3を2004年から発売すると発表した。これはAMD OpteronをHyperTransport技術に基づく低レイテンシ、高バンド幅の3次元ネットワークで接続したMPPである。これは現在市場にあるSMPシステムのクラスタよりも効率的で価格性能比もよい。「小さな問題や、大問題でも単純ならSMPクラスタでも扱えるかも知れない。しかし、この新しいMPP製品は、何千プロセッサになっても、バンド幅とプロセッサ性能とのバランスがよく、単一の構成のコンピュータのように機能する」とUngaroは高らかに宣言した。(HPCwire 2003/10/31)
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Cray User Groupは、2003年5月12日から16日にオハイオ州Columbusにおいて“Flight to Insight”と題した第45回のmeeting を開催した。
8) SGI(Altix 3000)
アメリカのSGI社(Silicon Graphics Inc.)は、2003年1月7日、Itanium 2を64個搭載したLinux共有メモリサーバ「Altix 3000」(コード名SN2)を発表した。これはMIPSプロセッサとIrix OSを用いていたSGI Origin 3000の後継機である。64プロセッサまで搭載可能なAltix 3700 と、12プロセッサまで搭載可能なAltix 3300がある。また、いくつかのAltix 3000をノードとして結合し、ハイエンドの共有メモリサーバとして使えるようにする予定。(ZDNet Japan 2003/1/8) 年内には8ノード、すなわち512プロセッサをサポートする予定だが、将来的には2048プロセッサまで拡張する予定。SGI社は初代のItanium(コード名Merced)を用いたSN1を開発していたが、製品としては日の目を見なかった。これまでOrigin 2000を利用していた東大地震研究所は、3ノード、計108プロセッサ(64+32+12)のAltixシステムを購入した (HPCwire 2003/3/21) 。オーストラリアのQueensland大学は72プロセッサ(64+8)のシステムを購入した。
2003年8月、SGI社は、Altix 3000シリーズのサーバが、Linux magazineの「Product of the Year」に選定されたと発表した。1月には、LinuxWorld Conference and Expo2003で「Best of Show」の表彰を受けている。(HPCwire 2003/7/25)
社長およびCEOのBob Bishopは、SGI社は経営再建のため、400人(10%)の人員を削減し、第3四半期において$10Mの経費節減を図ると発表した。経営が苦しいのであろう。(HPCwire 2003/5/23)
9) Hewlett-Packard社(Alpha EV7、Superdome SX1000、Integrity、グリッド、Carly Fiorina)
2003年1月、HP(Hewlett-Packard)社はAlpha 21364 (EV7)とこれを用いたAlphaServer GS1280を発表した。同時に、Alpha RetainTrust programを発表し、Tru64 UNIXとOpenVMSをずっと守るので、ISVも安心してソフトを開発してくださいということであろう。ただし長期的にはItaniumというのがHPの方針である。(HPCwire 2003/1/24) HPのAlphaServerファミリーとしては、ハイエンドは GS1280 enterprise server、部門用は ES80 departmental server、個人用は ES47 workgroup systemsという棲み分けである。GS1280は8月に出荷が始まった(HPCwire 2003/8/8)。年内にはより強力なGS1280システムが製作されている。2004年には、改良されたEV79 Alphaプロセッサの登場が予定されている。
2000年に発表したSuperdomeの後継として、2002年にはSuperdome SX1000が発表された。4個のプロセッサとメモリを搭載したcellから構成されるccNUMAであり、1台のマシン内に、PA-RISCのcell を搭載したpartitionと、Itaniumのcellを搭載したとpartitionを混在させることができる。最大64-wayまで。
Itaniumサーバとしては、2003年7月に「HP Integrity NonStopサーバ」を発表した。この製品名の由来は(旧Compaq社が1997年に吸収した)旧タンデムコンピューターズ社のIntegrityシリーズに由来する。これは、PA-RISCプロセッサ搭載のHP 9000サーバやAlphaServerや旧タンデム社のMIPSプロセッサ搭載のNonStopサーバの後継機に当たる。
グリッドコンピューティング関係では、2003年9月4日(米国時間)に戦略を発表し、企業向け製品を、今後18ヶ月から24ヶ月以内にグリッド標準規格であるGlobus ToolkitとOGSA (Open Grid Service Architecture)に対応させることにより、顧客が分散したITリソースを簡単に使用や管理ができるよう支援すると述べた。(CNET Japan 2003/9/5)
“The Terminator”などに出演した映画俳優Arnold Alois Schwarzeneggerは、カリフォルニア州知事選挙に共和党から出馬し、2003年10月7日に当選した。Hewlett-Packard社のCEOで、2002年Compaq Computer社との合併承認などで辣腕を振るったCarly Fiorina女史は、2003年10月8日に声明を発表し、次期カリフォルニア州知事Arnold Schwarzeneggerの政権移行作業チームのメンバーに選任されたことを公表した。
HP社には政治活動への伝統があり、共同創始者David Packardは1960年代末に共和党政治に関与し、ニクソン政権の一員として国務副長官に就任した。しかし結局2年半しか持たなかった。Fiorina本人についてもかねてから政界入りの可能性が取りざたされていた。2005年2月にHPのすべての役職を辞したのち、2008年の米大統領選挙でJohn McCain III上院議員の経済顧問を務める。2009年にはカリフォルニア州からの連邦上院議員へ出馬し(落選)、2015年には翌年の米国大統領候補に出馬を表明する(辞退)。Fiorinaの政治への関心はこのころから始まっていたのであろうか。
10) Sun Microsystems社(SunFire、Solaris 9)
2003年1月1日、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターでゲノム研究の最新システムとしてSun Microsystems社の最上位機種である「SunFire 15K」8台ならびに「SunFire 6800」2台が本格稼働を始めた。CPUの合計は788、メモリ総容量は1.7 TBである。
2003年2月6日、x86向けのSolaris 9をリリースした(x86版のサポートは1993年5月のSolaris 2.1/SunOS 5.1から)。同社によると、アジア太平洋地区でよく利用されているとのことである。Sun Microsystems社は2月、AMD社のAthlon XP-Mプロセッサ(クロック1.2 GHz)を年内に出荷するブレードサーバに採用すると発表した。SunもSPARCからx86に軸足を移すのかと話題になった。Sunの関係者は「将来Intelプロセッサを使う可能性も残っている。われわれはどちらとも結婚したわけではない。」と述べた。(HPCwire 2003/2/28) UltraSparc IIIプロセッサを搭載したブレードサーバも4月に登場する。
2003年11月17日、Sun MicrosystemsのScott McNealy CEO は、ネバダ州Las Vegasで開催中のCOMDEXで基調講演を行い、Opteronを搭載した2種のサーバを紹介した。
2003年4月、Sunは「独自の」Linuxを止めて、Red HadとUnitedLinuxのサポートに切り替えると発表した。顧客は「もう一つの」Linuxを好まないからだそうである。(HPCwire 2003/4/4) Sun独自の(own) Linuxというのは聞いたことがないが、2002年からLinuxを搭載したサーバを発表していた。
同社は、ISC2003に先立つ、2003年6月21日~23日、Crowne Plaza Heidelbergにおいて、Sun HPC Consortiumを開催した。またSC2003に先立つ、11月15日~17日に、PhoenixのSheraton Crescent Hotelにおいて、Sun HPC Consortiumを開催した。
11) Apple Computer社(Power Mac G5)
同社は2003年6月24日、IBM社のPowerPC 970 64-bitマイクロプロセッサを搭載したPower Mac G5を発表した。これは同社の64 bit CPUを搭載した初めての機種である。9月に発売開始した。
12) Transmeta社(TM8000)
2003年3月、Transmeta社はCrusoe後継の次世代CPU「TM8000」の概要を明らかにした。TM8000はx86命令をVLIW型のコードモーフィングで実行するマイクロプロセッサである。Crusoeはクロック当たり4命令であるが、TM8000はクロックに最大8命令実行できる。Crusoeの弱点であった、浮動小数演算やSIMD命令が強化されている。
2003年10月14日、Transmeta社はMicroprocessor Forum 2003において、Crusoeの後継CPUであるEfficeonプロセッサTM8000シリーズの詳細を発表した。こ第1世代製品は130 nmプロセスで製造され、TM8600、TM8300、TM8620の3製品が2003年第4四半期に出荷された。
13) NVIDIA社
アメリカIBM社とNVIDIA社は2003年3月26日に、NVIDIAの次世代GPUの製造に関する戦略的提携を結ぶことで合意し、IBMのニューヨークのEast Fishkill工場で製造することになった。この工場は、IBMが$2.5Bを投じて昨年完成したものである。現在のGeForce FX 5800 (NV30)はTSMCの130 nmプロセスを採用しているが、歩留まりの悪さから製造に手間取っていると言われている。(HPCwire 2003/3/28) ただし、TSMCもNVIDIAと共同で3月26日にニュースリリースを出し、TSMCが今後もNVIDIAのプライマリファウンダリであることを再確認したと発表している。(Impress 2003/3/27)
IBMのファブがうまく行けば、今後90 nmプロセスに移行し、大きくリードを広げられるだろう。NVIDIAはハイエンドなGPUをIBMの工場に移して行くものと思われる。
今から思えば、ORNLのSummitやLLNLのSierraに見られるIBMとNVIDIAとの連携はすでにこの頃から始まっていたのであろうか。
NVIDIA社は10月、秋冬商戦向けのGPUとして、ハイエンド向けの“GeForce FX 5950 Ultra (NV38)”と、メインストリーム向けの“GeForce FX 5700 (NV36)”を登場させた。IBMのファウンダリが順調なら、製造をそちらに移行していくものと見られている。(PC Watch 2003/10/24)
14) MIPS社(R16000)
R16000は1996年に登場したR10000の最後の派生品である。SGIが開発し、日本電気が110 nmプロセス銅配線で製造した。2003年1月9日に発売された。SGIのワークステーション Fuel で700 MHz版が使われたのが最初で、2003年4月には600 MHz版を搭載した Origin 350 が登場した。従来からの改良点は一次キャッシュが命令・データ共に64 KBになった点である。
15) Dell社(改名)
Dell Computer Corporationの株主総会は、社名をDell Inc.とすることを了承した。
次回はアメリカ企業の動きのその二、ヨーロッパやカナダの企業、中国の官民の動き、企業の創業など。ヨーロッパにおいてもMicrosoft社への独占禁止法訴訟が起こされる。
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