世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


12月 2, 2024

新HPCの歩み(第211回)-2004年(b)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

いよいよ文部科学省が次世代スーパーコンピュータへ向けての動きを始めた。産総研のグリッド研究センターには大きなクラスタ群が導入された。グリッド関係、計算科学関係のプロジェクトが進んでいる。国立大学が法人化された。

日本政府関係の動き

1) 科学技術・学術審議会
科学技術・学術審議会の第2期研究計画・評価分科会は、「国として戦略的に推進すべき基幹技術に関する委員会」を6月14日に設置し議論を進めていた。12月15日のこの委員会に報告された基幹技術候補リストによると、[高い競争優位性を有する領域の維持・発展]というターゲットのプロジェクトの例として、「従来の技術では不可能な高度なシミュレーションを実現するために、2010年までにペタ・フロップス級のスーパーコンピュータを開発するとともに、必要なソフトウェアを開発」が挙げられている。開発すべき基幹技術として、

・マルチスケール・マルチフィジックスに複雑な系全体をシミュレーションすることが可能なアプリケーションソフトウェア技術
・ハードウェアの効率的活用とアプリケーションソフトウェアの実効性を実現するネットワーク関連技術

を挙げている。具体的な応用としては、

・人体全身シミュレーション
・創薬設計シミュレーション
・飛行機全機統合設計シミュレーション
・ナノデバイス設計シミュレーション
・設計から製品かまでのコスト・時間を従来より大幅に低減する「知的ものづくり」の実現
・情報系ハザードシミュレーション
・感染症シミュレーション
・高精度地球環境統合化シミュレーション 等

を挙げている。後の戦略5分野につながるものもある。

2) 情報科学技術委員会
記録に残っている2004年中の情報科学技術委員会は以下の通り。

 

 

主な議題

第12回

2004年4月26日

文部科学省10F2会議室

(1)   ITBL評価ワーキンググループにおける中間評価報告について

(2)   ITプログラムの中間評価について

(3)   平成17年度に重点的に推進すべき研究開発について

開催通知

第13回

2004年5月19日

古川ビル6階F1会議室

(1)   「e-Society基盤ソフトウェアの総合開発」の進捗状況報告について

(2)   平成17年度に重点的に推進すべき研究開発について

開催通知

第14回

2004年7月16日

三田共用会議所 講堂

ITプログラム中間成果報告会

開催通知

第15回

2004年7月30日

古河ビル6階F2会議室

1.   ITプログラム中間評価について

2.   平成17年度予算概算要求について

3.   平成16年度「知的資産の電子的な保存・活用を支援するソフトウェア技術基盤の構築」に関する研究開発課題等の選定結果について

議事要旨)(配布資料

第16回

2004年8月24日

三菱ビル 地下1階 M1会議室

1.     ITプログラム中間評価について

2.     平成17年度新規施策の事前評価について

議事要旨)(配布資料

第17回

2004年11月9日

文部科学省10階10F2 会議室

1.    「第3期科学技術基本計画」策定に向けた文部科学省における情報通信分野の研究開発の方向性について

2.    計算科学技術推進ワーキンググループ中間報告について

議事要旨)(配布資料

第18回

2004年12月1日

文部科学省10階10F1会議室

1.「第3期科学技術基本計画」策定に向けた文部科学省における情報通信分野の研究開発の方向性について

議事要旨)(配布資料

第19回

2004年12月16日

古河ビル6階F1会議室

1.     俯瞰的予測調査の結果報告について

2.     「第3期科学技術基本計画」策定に向けた文部科学省における情報通信分野の研究開発の方向性について

議事要旨)(配布資料

 

3) 「計算科学技術推進ワーキンググループ」
文部科学省は、2004年5月の情報科学技術委員会において、科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 情報科学技術委員会に「計算科学技術推進ワーキンググループ」を設置することを決定した。期間は2004年8月から2005年1月までである。メンバは以下の通り。

主査

矢川元基(東洋大)

委員

石井芳(日産)

 

伊藤聡(東芝)

 

宇佐見仁英(情報研)

 

大野隆央(物材機構)

 

岡本祐幸(分子研)

 

奥田洋司(東大)

 

下條真司(大阪大)

 

泰地真弘人(理研)

 

根元義章(東北大)

 

羽生貴弘(東北大)

 

姫野龍太郎(理研)

 

松尾裕一(JAXA)

 

松岡聡(東工大)

 

松岡浩(原研)

 

村上和彰(九大)

 

室井ちあし(気象研)

 

諸星敏一(防災研)

 

渡邉国彦(地球シミュレータ)

科学官

西尾章次郎(大阪大)

 

2004年中には以下の通り5回開催された。検討経緯のまとめのページがある。

会議

日付

主な議事

第1回

2004年8月20日(金)

国内ベンダ3社からHPCへの取り組みを聴取するとともに、文部科学省での計画が説明された。(配付資料)(議事録

第2回

2004年9月29日(水)

Intel社からHPCハードウェアの動向について聴取し、理研とJAXAから2010年前後の研究目標とスーパーコンピューティング環境について発表。文科省から要素技術の研究開発プロジェクトについて説明。(配付資料)(議事録

第3回

2004年10月27日(水)

物材機構、原研、東大人工物から、研究目標とHPC環境について聴取するとともに、中間報告を決定。(配付資料)議事録

第4回

2004年11月30日(火)

理研、地球シミュレータ、日産、東芝から将来のスーパーコンピューティング環境について聴取。11月9日の第17回情報科学技術委員会に中間報告を行ったむね報告。(配付資料)(議事録

第5回

2004年12月22日(火)

気象研、防災研から将来のスーパーコンピューティング環境について聴取。平成16年度報告骨子について議論。(配付資料)(議事録

 

4) 国立大学法人化
2004年4月1日に国立大学は、政府が直接設置する大学から、国立大学法人の設置する大学に移行した。行政改革の一環として国家公務員の人数を減らせということで、10万人規模の国立大学と郵政事業とが目をつけられた。1999年4月には、「国立大学の独立行政法人化については、大学の自主性を尊重しつつ大学改革の一環として検討し、平成15年までに結論を得る」と閣議決定された。2000年7月には調査検討会議が設置され、2002年3月に「新しい『国立大学法人』像について」(最終報告)をとりまとめた。その間、大学の在り方にふさわしい組織形態について、各大学でも検討が進められ、国会議員や財界などにまで陳情を続けた。その中の驚くようなやりとりが漏れ聞こえてきた。たとえば「国鉄の民営化はうまく行ったのに、何で大学はできないの?」とか、「なんで大学に理学部が必要なのか?」などという無理解が伝えられ、慨嘆した。いくつかの国立大学には、「○○学部をつぶしてはどうか」などという天の声が伝えられているとかいう話がまことしやかに伝えられた。

当初想定されていた「独立行政法人」ではなく、「国立大学法人」とし、競争的環境の中で世界最高水準の大学を育成することが2002年11月に閣議決定され、2003年7月に国会で国立大学法人法等関係6法が成立し、10月に施行され、2004年4月に国立大学法人に移行した。

国立大学が法人格を持ち、主体として意思決定できること自体にはプラスの面も少なくないが、実際には、それを口実に運営費交付金が減らされ、教員が削減され、大学の評価や競争的資金獲得に向けた事務作業に時間をとられ、教員の教育・研究以外の負担が重くなったとの指摘がある。

大学共同利用機関も法人化され、大学共同利用機関法人(人間文化研究機構、自然科学研究機構、高エネルギー加速器研究機構、情報・システム研究機構の4つ)が発足した。

5) 文部科学省仮移転
文部科学省は虎ノ門の庁舎の建て替えのため、2004年1月に丸の内二丁目の旧三菱重工ビルを仮庁舎として移転した。手狭ではあったが東京駅から近く会議には便利であった。2008年1月、中央合同庁舎第7号館が完成し虎ノ門に戻る。

6) RR2002中間評価
新世紀重点研究創生プラン(RR2002)の一貫として文部科学省の下で2002年度から開始されたITプログラム事業の中間評価が、情報科学技術委員会でなされた。ITプログラムは、我が国が優位な技術(モバイル、光、デバイス技術等)を核とした情報通信技術の研究開発を行う『世界最先端IT国家実現重点研究開発プロジェクト』(6研究開発課題)、および、研究開発現場に超高速研究情報ネットワーク等の高機能ITを活用することにより、研究開発スタイルを変革し、新たな研究分野(融合研究領域等)を創出する研究情報基盤技術の開発・整備・実証を行う『「eサイエンス」実現プロジェクト』(3研究開発課題)の合計9研究開発課題から構成されている。戦略的基盤ソフトウェアの開発については、プロジェクトは順調に進捗していると評価される反面、成果であるソフトウェアの実証について、まだ一部の分野での一部の事例だけにとどまっている、と指摘している。

なお、第3回「戦略的基盤ソフトウェアの開発」シンポジウムが12月8日~9日、経団連ホールで開催された。

7) JST(科学技術振興審議会)
前年10月に科学技術振興機構に改組され、新技術審議会委員から科学技術振興審議会委員に継続した。筆者は2004年1月から2006年まで研究部会部会長代理を務めた。ERATO、ICORP、CREST、さきがけなどの事業について議論し、総括候補者の人選などを行った。また、中間評価や終了評価なども担当した。

8) JST(シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築)
2002年から開始されたJSTのCREST・さきがけ混合型領域「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」は、3年目の課題として以下の6件のCRESTを採択した。

代表者

課題

大石進一

数値線形シミュレーションの精度保証に関する研究

田中成典

フラグメント分子軌道法による生体分子計算システムの開発

田中高史

リアルタイム宇宙天気シミュレーションの研究

冨田勝

システムバイオロジーのためのモデリング・シミュレーション環境の構築

樋口知之

先端的データ同化手法と適応型シミュレーションの研究

藤原毅夫

複合手法を用いた電子構造計算技術の開発

 

さきがけは以下の5件採択した。

代表者

課題

有田正則

分子スケール差を統合する代謝シミュレーション

大武美保子

神経系の双方向マルチスケールシミュレータの開発

手塚建一

骨リモデリングシミュレーションで挑むテーラーメイド再生医療

星野忠次

計算機による特異的抗体設計法の確立

前園涼

遷移金属イオンを含む生化学分子の電子論的精密計算

 

2月26日~27日には京都ガーデンパレスで報告会が、7月7日~8日には福岡ガーデンパレスで技術シンポジウムが開催された。

9) JST CREST「情報社会を支える新しい高性能情報処理技術」
2001年に発足したCREST「情報社会を支える新しい高性能情報処理技術」(研究総括 田中英彦)は、4年目に入った。新しい課題は募集しない。2004年12月14日、東京ガーデンパレスで第1回公開シンポジウムが開催された。

 
   

2001年度から始まっている中島浩(豊橋技科大)を代表者とする「超低電力化技術によるディペンダブルメガスケールコンピューティング」では、2004年5月、Transmeta社のCrusoe低電力チップ(TM-5800@933 MHz)を32個搭載した高密度クラスタを製作し、性能を評価した。SC2004の研究展示で発表した。写真は同展示のポスターから。

10) ACT-JST(最終報告会)
物質・材料、生命・生体、環境・安全、地球・宇宙観測という重要な科学技術分野において、1998年8月から計算科学技術を駆使した研究開発を推進してきた「計算科学技術活用型特定研究開発推進事業(ACT-JST)」は2004 年11月末ですべての研究開発を終了した。2004年10月6日青山テピアホールにおいて最終報告会が開催された。

この事業では得られた成果(主にアプリケーションソフトウエア)はライブラリー化して一般に公開することとなっており、現在でも見ることができる(ACT-JSTソフトウェアライブラリ)。

11) JST先端計測分析技術・機器開発事業
2004年度からJSTでは産学イノベーション加速事業先端計測分析技術・機器開発プログラムを開始した。我が国では最先端の実験的研究が行われている反面、そのための先端計測分析技術や機器の分野においては、海外に依存している度合いが強いとの指摘があることから、国内で計測分析機器の性能を飛躍的に向上させることが期待される新規性のある独創的な要素技術の開発を行うことを目的とするこの事業を開始した。このプログラムには、スーパーコンピュータの推進役でもある尾身幸次氏の後押しがあったとのことである。

筆者は元物理学者とはいえ理論物理なので計測とは縁が遠いのであるが、JSTの基礎研究部会の委員であった関係で評価委員会の委員を委嘱された。6月9日にキックオフミーティングがあった。第4分科会に所属した。その後、計測とシミュレーションとの融合や、計測器のためのソフト開発などについて役割を果たした。2010年度まで委員を務めた。2011年度からは「研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)」として再編成された。2021年3月にプログラムを終了する。

 
   

12) JST領域評価
2004年2月16日には、JSTの戦略的創造研究推進事業の評価に参加した。筆者と東倉洋一教授(情報研)と遠藤隆也技師長(NTT)でCRESTの「高度メディア社会の生活情報技術」(研究統括は長尾真氏)の評価を、筆者と東倉と有川節夫教授(九大)でさきがけ「情報と知」(研究統括は安西祐一郎氏)の評価を行った。研究統括の安西・長尾両大先生を前に、評価するというより、こっちが評価されているような感じで足がすくんだ。

13) NAREGI
2003年4月に発足したNAREGI(超高速コンピュータ網形成プロジェクト)は、2004年2月25日に東京国際フォーラムにおいてNAREGIシンポジウム2004を開催した。写真は同報告よりデモ・展示風景。プログラムは以下の通り。

10:00

開催挨拶

坂内正夫(国立情報学研究所副所長)

三浦春政(文部科学省 研究振興局情報課課長)

10:20

招待講演:Global Trends in Grid Technology and the Cyber-infrastructure Project in the United States

Dr. Paul Messina (Distinguished Senior Computer Scientist, ANL)

11:20

招待講演:NAREGIへの産業界からの期待

池上正 (旭化成 株式会社 常任顧問)

11:40

NAREGI全体報告

三浦謙一(NAREGIプロジェクトリーダ/国立情報学研究所)

12:00

昼休(デモ・展示)

13:00

計算科学的手法を駆使したナノサイエンスでの新しい方法論の構築

平田文男(分子科学研究所)

13:30

ナノアプリケーションのグリッド化

青柳睦(九州大学)

14:00

グリッドアプリケーション環境

三浦謙一(NAREGIプロジェクトリーダ/国立情報学研究所)

14:45

休憩(デモ・展示)

 

16:00

グリッド環境における資源管理

松岡聡(東京工業大学)

16:45

グリッドプログラミング環境

関口智嗣(産業技術総合研究所)

17:15

ネットワーク&セキュリティ基盤

下條真司(大阪大学)

18:00

標準化への取組み

関口智嗣(産業技術総合研究所)

18:15

閉会挨拶

三浦謙一(NAREGIプロジェクトリーダ/国立情報学研究所)

18:30

懇談会

 

2004年3月18日、分子科学研究所に設置されたSR11000/M1と409台のHA8000/110Wからなるシステムが完成し、グリッドコンピューティングシステム導入記念式典・講演会が行われた。また、4月1日には、国立情報学研究所NAREGIグリッド研究開発推進拠点(神保町三井ビル)に設置されたグリッド基盤ソフトウェア研究開発システムが稼動した。

2004年7月21日に、大宮ソニックシティーで開催されたHPC Asia 2004でNAREGI Workshopを開催した。また、11月6日~12日、SC2004においてNAREGIのブースを出展した。

14) アジアグリッドイニシアチブ
2002年の文部科学省振興調整費に応募して採択された「アジアグリッドイニシアチブ」は活動を続けていたが、4月15日に推進委員会を開催した。

15) バイオグリッドセンター関西
特定非営利活動法人「バイオグリッドセンター関西」は、文部科学省ITプログラム「スーパーコンピュータネットワークの構築」(通称:バイオグリッド・プロジェクト)として2002年より2006年の5年間実施したプロジェクトを母体に、その研究成果の産業利用を目的として2004年に設立された。

16) 日本原子力研究所
文部科学省は、2004年7月30日、特殊法人整理合理化の一環で日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構を統合し、独立行政法人「日本原子力研究開発機構」を発足させることになったと発表した。来年の通常国会に新法人設置法案を提出し、2005年10月に発足する予定である。

これを見越して、原子力研究所では、2004年度にこれまでの活動の総括的な評価を行うこととなり、筆者も「基礎・基盤研究専門部会」の委員を委嘱された。7月28日に開かれ、研究所側からこれまでの研究活動の総括が提示され、委員からは種々の質問が出された。メールでのやりとりの後、8月31日になって「2次評価所見に対する反論書」なるものが送られてきた。書かれている個々の論点に関する議論はそれなりに理解できるものであったが、「反論書」という表題を含め、文書全体に言い表しがたい不快感を覚えた。それは、この文書が「評価委員たちの否定的意見を徹底的に説き伏せてしまいたい」というハリネズミのような護身的雰囲気に満ち満ちていたからである。思わず「何様だ?」「評価を何と心得る?」と言いたくなった。筆者は激怒メールを各委員に送ったが、皆から「はしたない」とたしなめられた。実は同じような印象を他の委員も語っていた。いろいろあったが、この部会の結論としては、新しい法人における基礎・基盤研究の重要性を強く指摘したものとなった。

17) 原子力試験研究
筆者は、2001年4月から原子力委員会の研究開発専門部会原子力試験研究検討会に参加し知的基盤WGの主査をつとめていた。1月6日~7日には経団連会館において原子力試験研究クロスオーバー発表会があった。クロスオーバー研究は2008年度に終了することになる。

18) ITBL中間評価
ITBLの中間評価のために、科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 情報科学技術委員会 ITBL評価ワーキンググループが設置されたことは2003年に述べた。2004年1月21日には文部科学省で第1回が開催された。計算パワーの統合だけでなく、リソース、ノウハウ、知見の共有といった点が連携により発展する観点の重要性が強調された。筆者は国際連携の観点から世界標準化への寄与およびそれとのインタフェースを指摘したが、標準化はITBLの目標には入っていないとのことであった。

2月6日には日本原子力研究所関西研究所で第2回委員会が開催された。ITBL側から「スーパーコンピュータを常時運用しているグリッドは世界的にもITBLだけである」という説明があったが、アメリカのTeraGridなどいろいろすでに動いていることを指摘した。ファイアウォールを跨がるグリッド接続について議論となった。

会議中、2月4日午後に脳内出血で突然入院されていた京都大学情報学研究科上林彌彦教授が、2月6日早朝午前4時42分に亡くなられたとの情報が伝えられ、Illinois大学仲間の三浦謙一委員は帰路の途中、通夜に駆けつけた。

第3回は3月19日に開かれ、中間評価書をまとめた。

第5回ITBLシンポジウムが2004年11月29日に、お台場の日本科学未来館で開催された。プログラムは以下の通り。

13:00-13:05

開会

 

13:05-13:15

挨拶

文部科学省研究振興局情報課   企画官 星野 利彦

13:15―13:45

ITBLの中間評価と今後の課題

ITBL委員長 福田 正大

13:45-14:10

津波防災科学におけるITBLの利用

東北大学大学院 工学研究科今村文彦

14:10-14:35

航空宇宙メーカにおけるITBLへの取り組み

三菱重工業 海田 武司

14:35-15:00

EUVシミュレーションGRIDなどの試み-次世代リソグラフィー用EUV光源開発のためのネットワークコンピューティング理論モデリング

大阪大学 西原功修

15:00-15:20

休憩

15:20-17:20

パネル討論

テーマ「)これからの計算科学技術におけるスーパーコンピュータ利用環境は?

- ITBLは役に立つか、ITBLの役割は? -  」

パネリスト

川崎重工業株式会社 嶋 英志

東京大学 生産技術研究所 谷口 伸行

北陸先端科学技術大学院大学 松澤 照男

他2名を予定

17:20-17:25

閉会

 

 

19) 産業技術総合研究所(AISTスーパークラスタ)
AIST(産業技術総合研究所)は、2004年5月10日、「つくば本部・情報技術共同研究棟」の完成と同時に国内最高性能のクラスタ計算機「AISTスーパークラスタ」の運用を開始したことを発表した。これは産学官連携推進のためのグリッド用基盤システムであり、グリッド技術を用いた高性能計算環境の構築、大規模クラスタシステム構築、運用技術の確立、ナノテクノロジーおよびバイオインフォマティクスのための計算資源、分野横断的かつ国際的な研究推進や産学官連携を担う中核システムとしての利用を目的としている。

AISTスーパークラスタは、以下の構成となっている。

 a) P-32クラスタ部:2つのAMD Opteronプロセッサ(2.0 GHz)を有するIBM社製e325サーバ1072台を、ギガビットイーサーネットとMyrinetで結合したもので、8.6 TFlopsの総演算性能を、6.4 TBのメインメモリ、565 TBのストレージを持つ。2004年6月のTop500において、コア数2200、Rmax=6.155 TFlops、Rpeak=8.800 TFlopsで、19位にランクしている。Linpack効率75%を達成した。コア数から見て、スペアノードも計算に駆り出したようである。
 b) M-64クラスタ部:4つのIntel Itanium2プロセッサ(1.3GHz)を有するIntel社Tiger4サーバ132台を、ギガビットイーサネットとMyrinetで結合したもので、全体で2.7 TFlopsの総演算性能と2.1TBのメインメモリ、117TBのストレージを持つ。2004年6月のTop500において、コア数512、Rmax=1.636 TFlops、Rpeak=2.6624 TFlopsで132位にランクしている。
 c) F-32クラスタ部:2つのIntel Xeonプロセッサ(3.06GHz)を有するLinux Networx社製Evolocity2eサーバー268台をギガビットイーサネットで結合したもので、全体で3.3TFlopsの総演算性能と1.1TBのメインメモリ、99TBのストレージを持つ。2004年6月のTop500において、コア数512、Rmax=1.997 TFlops、Rpeak=3.1334 TFlopsで97位にランクしている。
 d) ストレージ部:20TBの実効容量を持つディスクアレイをクラスタファイルシステムで共有し、8台のNFSサーバーを介してAISTスーパークラスタ全体に共有ストレージを提供する。100TBの容量を持つバックアップテープライブラリを持つ。日本SGIが設置。

新物質材料の設計などのナノテクノロジー分野や、生体物質の挙動解明などのバイオインフォマティクスの分野において、このような大規模なクラスタを活用すると述べている。

3月、丸善から「産総研シリーズ グリッド -情報社会の未来を紡ぐ -」(独立行政法人産業技術総合研究所 グリッド研究センター著)が出版された。

20) 産業技術総合研究所(BlueGene/L)
産業技術総合研究所の生命情報科学研究センター(センター長・秋山泰)は、2004年9月7日、タンパク質の立体構造予測用コンピューターシステムとして、IBM社のスーパーコンピュータ「BlueGene/L」を2005年2月に導入することを発表した。BlueGene/Lは、お台場地区に現在建設中の「バイオ・IT融合研究棟(仮称)」内に設置され、産総研生命情報科学研究センターが戦略的に推進するバイオインフォマティクス分野の研究開発に利用される。(HPCwire 2004/9/10)

21) ビジネスグリッド
経済産業省は、2004年10月7日、ビジネスグリッドコンピューティングプロジェクトにおいて、ビジネスグリッドミドルウェア及び広域分散ストレージシステムの実用化に向け、ユーザと連携した実証実験を実施することを発表した。このプロジェクトでは、ビジネスグリッドコンソーシアム(富士通、日本電気、日立製作所で構成)がグリッドコンピューティングのソフトウェア開発を、ストレージシステムコンソーシアム(日立製作所、東京大学、大阪大学、慶応義塾大学で構成)が広域分散ストレージ技術の開発を、産業技術総合研究所と連携して進める。(Internet Watch 2004/10/8)

報道では、「パソコン余力を企業が活用してステム投資額を削減する」(朝日新聞 2004/12/5) というような、デスクトップグリッドに偏って報じられたばかりか、日本の研究者がグリッド技術に貢献したことが無視され、欧米の後追いをしているように報じられ、残念であった。

22) 新産業創造戦略
経済産業省は今後の日本経済を牽引する産業を戦略的に形成する新産業創造戦略を策定し、中川昭一経済産業相は2004年5月19日の経済財政諮問会議に報告した。戦略分野として、情報家電、コンテンツ、ロボット、健康・福祉、環境・エネルギー、ビジネス支援の7分野を選定した。情報家電では2010年の市場規模を2004年の1.8倍の18兆円と展望。国際標準化の主導権確保や事業化シナリオの共有による素材産業、部品産業、セット機器産業の連携などを盛り込んだ。報告書では2010年の戦略7分野の市場規模と波及効果は現在の製造業並みの300兆円に上ると推定している。

23) 情報処理推進機構(IPA)
1970年に設立された特別認可法人情報処理振興事業協会(IPA)は、2004年1月、「情報処理の推進に関する法律」により、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に業務を承継した。

次回は、日本の大学センターや学界の動きなど。国立大学が法人化しさまざまな影響が出た。筑波大学は計算物理学研究センターを計算科学研究センターに改組拡充し、活動を拡大した。名古屋大学では「計算科学フロンティア」が始まる。

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