世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


5月 8, 2017

HPCの歩み50年(第120回)-2005年(f)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

ISCは2001年からHeidelbergで開催されてきたが20回目の今回が最後となった。初日の基調講演ではHorst Simonが20年のHPCを回顧した。2日目の基調講演は「破壊の時代におけるペタスケール・コンピューティング」という”disruptive technology”の話であった。

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ISC2005

ISC2005 (International Supercomputer Conference)は、Heidelberg Kongresshaus(写真は外観と会場)で2005年6月21日~24日に開催された。今回は家内同伴で参加した。2002年に続き2回目の参加である。詳しくは筆者の「ISC2005報告」を参照して下さい。

1) 全体の印象
今回は20回目ということで盛り上がっていた。参加者は650人、展示は43件。参加者リストによると、ドイツから228人、アメリカから120人などで、日本からは10人となっていた。この会議はシングルセッション形式で、招待によるreview talkが中心である。審査による論文投稿はないようである。会議で示されたスライドの多くは、webで公開されていたが現在は残っていない。

2) Sun HPC Consortium Europe 2005
ISC2005に先出ち、6月20日~21日の2日間、Heidelberg市中心部のCrowne PlazaホテルでSun MicrosystemsのHPC Consortium Europe 2005が開かれた。

まず、Marc HamiltonからHPC全体の報告があった。Sun社はCray社やIBM社とともにDARPAのHPCSのPhase IIを受注しており、HPCに積極的に取り組んで行くという心強い表明があった。近い将来50-200 TFlopsのマシンが登場するが、Top500のうちHPC用のマシンは10%以下という現状も認識すべきという指摘があった。

Sun社のOSであるSolaris 10が紹介され、multi-platformであることが強調された。UltraSparcはもちろん、AMDでも、Intelでも動く。Solarisは誰でもタダで、現在までに160万件のライセンスを出している。Solaris 10は軍用のTrusted Solarisを統合したので、軍レベルのセキュリティがあると述べた。7年間のバイナリ互換性を保証する。

このあと、ユーザの報告が続いた。初日夕方には、次世代のプロセッサUltraSPARC IV+や、multi-threadingのNiagaraやRockの話があった。

2日目もユーザの報告があり、Steve Campbellの基調講演“Innovation Matters in HPTC”やパネルなどがあった。

3) 展示
22日朝から、24日11時まで企業や大学・研究機関センターの展示が会議場の2階の廊下で開かれていた。あまり広くないスペースであったが、46の組織が55のブースで盛大に展示を示していた。ハードウェアが20件、ソフトウェアが8件、接続網が4件、問題解決が3件、記憶装置が2件、HPC センターが9件である。日本関係では、日本電気と富士通が出していた。IBMはこの会議のメインスポンサーだそうで、多くのブースを使いなかなかにぎやかだった。BG/Lのラックを設置し動かしていた。SC2004にも出ていたが、ClearSpeedというベンチャーが、CSX600というマルチコアのコプロの実演をやっていた。96個のprocessing coresが250 MHzで動き、全体では50 GFlopsのピーク速度を持つ。しかも(クロックが低いので)5 Wしか食わないということである。今後このような低消費電力・マルチコアの製品がいろいろ出てくることであろうと思った。

4) 開会式
7月22日10時から開会式が行われた。まず主催者のHans Meuer教授が歓迎の言葉とともに、この会議の歴史を紹介した。引き続いてハイデルベルク大学のWilli Jägerと、European Media LaboratoryのAndreas Reuterが歓迎のことばを述べた。

5) Top500(2005年6月、第25回)
SCにおいてTop500はBoFの一つに過ぎないが、ISCでは開会式に続くメインイベントである。Erich Strohmaier (NERSC) は、”20 Years of Supercomputer Market Analysis at ISC” と題して、今回のリストを発表するとともに、歴史を回顧し、現状を分析した。Strohmaier氏は、1950年頃のEDSAC1やUNIVAC1(1 kFlops弱、でもそのころLINPACKはなかった)から今日までの計算機の進歩を示し、55年間、年率1.608で進歩していることを示した。いわゆるMooreの法則「18ヶ月毎にトランジスタ数は倍増する」は年率1.587に相当するから、これにほぼ等しい。今年のTop500の参入条件はすでに1.166 TFlops以上となり、テラフロップスないとスーパーコンの仲間に入れないということである。1993年のTop500の速度の合計が1.167 TFlopsであったから、12年前の500台の計算機がまとめてかかっても、今の500番目にも入れないということである。なかでもショックだった図は、アジア諸国のTop500に含まれる台数のグラフで、日本は1993年には110台あったのに、2005年には20台強にまで減ってしまっていることである。反面、中国の進出が著しい。日本製のスーパーコンが少ないことと合わせて、ゆゆしき事態と言わなければならない。まず、Top20を示す。トップ10は 1, 2, 6, 8位(8位は2台)が BG/L という結果となった。

順位 設置場著 システム コア数 Rmax Rpeak
1 LLNL BlueGene/L 65536 136.8 183.5
2 IBM T.J.Watson BGW 40960 91.29 114.688
3 NASA Ames Columbia – SGI Altix 1.5 10160 51.87 60.98
4 海洋研究開発機構 地球シミュレータ 5120 35.86 40.96
5 Barcelona SC MareNostrum – JS20 Cluster 4800 27.91 42.144
6 ASTRON(オランダ) Stella – Blue Gene 12288 27.45 34.4064
7 LLNL Thunder – Itanium 2 1.4 – Quadrics 4096 19.94 22.938
8 tie 産総研CBRC Blue Protein – BlueGene 8192 18.665 22.9376
8 tie EPF Lausanne(スイス) BlueGene 8192 18.665 22.9376
10 SNL Red Storm – Cray XT3 2.0 GHz 5000 15.25 20.0
11 ORNL Cray XT3 2.4 GHz 3748 14.17 17.99
12 LANL ASCI Q – AlphaServer SC45 1.25 GHz 8192 13.88 20.48
13 LLNL pSeries p5 575 1.9 GHz 2048 13.09 15.5648
14 Virginia Tech System X – 1100 Dual 2.3 GHz Apple 2200 12.25 20.24
15 tie Air Force Research Lab. SGI Altix 3700 Bx2 1.6 GHz 2048 11.814 13.107
15 tie 日本原子力研究所 SGI Altix 3700 Bx2 1.6 GHz 2048 11.814 13.107
17 IBM Rochester BlueGene/L DD1 Prototype 8192 11.68 16.384
18 中国気象局 pSeries 655 (1.7 GHz Power4+) 3200 10.31 21.76
19 NAVOCEANO pSeries 655 (1.7 GHz Power4+) 2944 10.31 20.0192
20 NCSA Tungsten – PowerEdge 1750 2500 9.819 15.3

18位の中国気象局のIBM p655は、19位と比べると、Rmaxはもう少し大きいと思われる。No. 1, 2, 3とNo.5 (ヨーロッパでトップ)に表彰状が授与された。100位以内の日本設置のマシンは以下の通り。

順位 設置場著 システム コア数 Rmax Rpeak
4 海洋研究開発機構 地球シミュレータ 5120 35.86 40.96
8 tie 産総研CBRC Blue Protein – BlueGene 8192 18.665 22.9376
15 tie 日本原子力研究所 SGI Altix 3700 Bx2 1.6 GHz 2048 11.814 13.107
29 理研 RIKEN Suer Combined Cluster 2048 8.728 12.534
41 名古屋大学 PRIMEPOWER HPC2500 (2.08 GHz) 1664 6.86 13.844
46 産総研グリッド研究センタ AIST Super Cluster P-32 2200 6.155 8.8
55 JAXA PRIMEPOWER HPC2500 (1.3 GHz) 2304 5.406 11.98
62 ニイウス BlueGene 2048 4.713 5.734
67 京都大学 PRIMEPOWER HPC2500 (1.56 GHz) 1472 4.552 9.185

 

6) Horst Simon, “Progress in Supercomputing: The Top Three Breakthroughs of the Last 20 Years and the Top Three Challenges for the Next 20 Years”
二つの基調講演の一つはHorst Simon (Associate Laboratory Director, LBNL)で、20年間の変化を分析した。計算速度やメモリの飛躍的増大を述べた後、以下のような変化を指摘した。

1985年 2005年
注文生産のベクトル計算機 汎用チップのMPP
ベクトル化FORTRANでプログラム Fortran/CとMPIでプログラム
自社製のOS 共有のUnix/Linux
リモートバッチでの利用 会話的利用
数字の出力だけ 可視化
人手によるチューニング 並列デバッガやチューニングツールの利用
テキスト端末 高性能デスクトップ
9600 baudのアクセス 10 Gb/sのアクセス
ベクトル用アルゴリズム 並列アルゴリズム

最後に今後の20年のチャレンジとして、3つの時期にわけて論じた。2010年までの課題はペタフロップスまで応用プログラムをスケールさせることである。2010年~2018年の課題は、HPCの新しいエコシステムを開発することである。2015年~2025年の課題は、Mooreの法則がいよいよ飽和して、性能向上が終わりを告げることである。産業界は「ゼロ成長」のシナリオに耐えられるか、と結んだ。

7) Thomas Sterling, “Looking Back over the Last Year in HPC”
恒例になっているTom Sterlingによる最近1年間のHPCの回顧である。トレンドのハイライトとして、2年以上地球シミュレータが占めていたTop500の首位の座をBlueGene/Lが奪還したことである。もう一つのトレンドはコモディティのクラスタが相変わらずHECの主流を占めていることである。3つめのトレンドは(Fortran 2008やUPCなど)次世代のHEC言語の研究が進んでいることである。

8) Steve Louis and Alan Gara, “Peta-Scale Computing during Disruptive Times”
23日の基調講演は「破壊の時代におけるペタスケール・コンピューティング」であった。まずSteve Louis (LLNL)が 破壊的技術革新とは何かについて語り

1) 現行の製品とは異なるものが市場にもたらされる。
2) 以前より簡単(多くの場合、より安い)もの
3) 市場の主流でないところに根をおくもの
4) 後には、主流のニーズを横取りするように改良される
5) 占有ではなく差別化によって市場の破壊者になる

というようなことを述べた。要は、「BlueGeneこそ破壊的革新技術だ」と言いたいらしい。続いてAlan Gara (IBM)が、今後のアーキテクチャの動向について述べ、技術革新のためには、アプリの専門家とシステムの専門家のアグレッシブな協力が必要だと結んだ。

9) Hot Seat
これも恒例のベンダをいじめるセッション。各ベンダが10分のプレゼンを行い、壇上のInquisitors(異端審問官)が5分間厳しい質問を浴びせる。Myricom社のChuck Seitzは短パン、Tシャツ姿で現れ、10 GbのMyrinetは10 GbEと技術を共有すると述べた。QuadricsのMoray McLarenも次の10 GbのQuadricsは下位の層に10 GbEと同じ技術を使うと述べた。

日本関係の会社では、NEC HPCE GmbHからドイツの人がしゃべり、富士通からは奥田基氏が講演した。NECは2010年までにペタを出すと豪語し、奥田氏は、2006Q1までに、Montecito (2 coreのItanium)を使ったPRIMEQUEST/HPCを出すと豪語した。帰国後知ったことであるが、富士通は同じ6月23日付けで「富士通は2010年度末までに、ピーク性能3 PFlopsを持つ次世代スパコンの稼働を目指して研究開発を進める。」と公式発表したようである(既出)。

10) Gala Event
この日の夜はIBMによるイベントとして、Castle Neckarbischofsheimでのパーティーがあった。Neckarbischofsheimは、ハイデルベルクからネッカー川をバスで1時間(直線
距離24 km)ほど上流に上ったあたりの小都市で、そこのお城の一つ(たぶんノイエ・シュロス)が会場であった。7時半というのにまだ日が高く、暑いほどであった。すばらしい食事(とビールやワイン)とともに、暗くなった頃盛大な花火が上がった。

11) Wolfgang Gentzsch, “Grid Computing in Research and Business around the World”
24日はI/OやData Managementのセッションのあと、最終日の基調講演があった。昼過ぎで終了し、筆者は家内の運転するベンツでアウトバーンをぶっ飛ばして、ローテンブルクまで遊びに行った。

次回と次々回は11月シアトルでのSC|05のまとめである。

 

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