世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


6月 5, 2017

HPCの歩み50年(第124回)-2005年(j)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

イギリスのClearSpeed社はSunのJohn GustafsonをHPC担当のCTOとして迎えた。中国では、曙光集団(Dawning)も、5月に IBMのPC部門を買収した聯想集団(Lenovo)もペタスケールを目指すと表明した。Avaki社もTransmeta社もnCUBE社もHPC業界から姿を消した。

ヨーロッパその他の動き

1) ClearSpeed社
2002年に英国Bristolで創立されたClearSpeed Technology社は、2005年6月、CSX600を発表した。210 MHzで動作するprocessing elementが96個搭載されておりピーク性能は40 GFlops。

2005年9月6日、Sun Microsystems社のJohn GustafsonをHPC担当のCTOとして迎えたことを発表した。なお彼は2008年5月にはScott Smithを継いでMassively Parallel Technologies社のCEOとなり、その後IntelやAMDで働いていたが、現在はシンガポールのA*STARに就職している。

2) Quadrics
Quadrics社は2005年1月、同社の相互接続ネットワークQsNetが、フランスのBull社が製造するCEA(フランス原子力庁)のスーパーコンピュータTera10に採用されたと発表した。Tera10は544台のBull NovaScale 6160ノードをQsNet II (Elan4)により接続し、各ノードは8個のdual-core Itanium 2プロセッサ(1.6 GHz, Montecito)を搭載する。合計8704プロセッサでメモリは27 TB。Tera10は54台のBull NovaScale I/O serverを含み、1 PBのディスクファイルを管理する。ディスクへの転送速度は100 GB/s。2006年6月のTop500リストではRmax=42.9 TFlops、Rpeak=55.7056 TFlopsで5位にランクしている。

3) John O’Callaghan
2005年12月、オーストラリアのJohn O’CallaghanはAustralian Centenary Medal (Pearcey Medal)を受賞したと発表された。受賞理由は「コンピュータ科学技術学会への貢献」。O’CallaghanはHPC業界では国際的に知られており、HPC Asiaなどでは顔であった。1991年にANU(オーストラリア国立大学)の准教授に任じられた(イギリス流なので日米なら教授に相当すると思われる)。1999年にはAPAC (the Australian Partnership for Advanced Computing)の創立会長に迎えられた。

中国の動き

1) IPv6 ネットワーク
CNET Japanの1月4日の報道によると、中国教育科学研究ネットワーク情報センター(CERNIC)は2004年12月25日、CERNET2と呼ばれるネットワークを立ち上げたと発表した。国内20都市にある25大学をIPv6ベースのネットワークで結んだものである。単一のIPv6ネットワークとしてはこれまでで最大級と思われる。CERNET2により中国は次世代インターネットの構築競争で世界の先頭に立てると、CERNICは主張している。

2) 上海市グリッド
2005年1月30日、InforSense社は、上海市の科学技術委員会が上海の研究開発インフラストラクチャを構築するためにInforSense Konwledge Discovery Environmentを採用したと発表した。これにより、上海の先進知識グリッドを構成し、食品、農業、化学、薬学から製造業にわたる広い範囲の多数のユーザからアクセスを可能にする。これは上海で開かれた英国中国科学連携の発足式で発表された。都市規模の研究グリッドは中国で初めてである。

3) 曙光集団(Dawning)
2005年7月12日付の新浪科技によると、中国のサーバメーカーである曙光集団(Dawning)の歴軍(Li Jun)総裁は、「中国高性能コンピュータ発展十周年記念式典」に出席し、曙光は2008年までにDawning 5000で100-200 TFlopsを実現すると発表した。これは中国科学院との共同プロジェクトである。曙光集団の李国傑(Li Guojie)董事長は、これに中国製のCPU「龍芯」を一部使用することもあり得ると述べた。またその次の1 PFlopsのコンピュータではより多く採用されるであろうと展望を述べた。曙光が100 TFlops級のスーパーコンピュータ開発の具体的計画を明らかにしたのは初めてである。

実際には、2008年11月のTop500において、上海スーパーコンピュータセンターに設置された曙光(Sugon)製のDawning 5000A (愛称Magic Cube)は、コア数30720、Rmax=180.6、Rpeak=233.5で11位にランクしている。ただしCPUはquad-core Opteron (1.9 GHz)、ネットワークはInfiniband、OSはWindows HPC 2008で中国製CPUではなかった。ちなみにこのTop500では、Roadrunnerが初めてRmaxで1 PFlops超えを実現した。

4) 聯想集団(Lenovo)
昨年のところで述べたように、2004年12月、IBM社は全PC事業を$1250Mで中国のLenovo社(聯想集団)に売却すると発表し、世界を驚かせた。「IBM」および「ThinkPad」のブランド名も5年間維持するという約束であった。2005年5月1日、Lenovo社はIBMのPC部門を買収した。。

Lenovo社の広報担当者は2005年7月28日、1 PFlopsのスーパーコンピュータを構築するプロジェクトに取り組んでいることを認めた。完成の具体的な時期は明かさなかったが、中国の第11次5ヵ年計画(2006年~2010年)中を目指しているのではないかと見られている。

5) Galactic Computing
前に述べたように、Chen Systems社は1995年、SCI (Supercomputer International)はChen Systemsと社名変更したが、1996年6月Sequent Computer Systems社に買収され、Steve Chen(陳世卿)はSequent社のCTOとなった。ところが1999年7月12日、IBM社とSequent Computer Systems社は合併の合意に達した。その後の経緯は不明であるが、2000年代に入って、Steve ChenはGalactic Computing Ltd.という会社をHell Electric Mfg. (Holdings) Co. Ltd (SMC)の子会社として深圳に設立しCEOとなった。この会社はGTという名前のBlade Systemを販売して来た。2004年11月にはBeijing Biomedical Research Instituteに1 TFlopsのGT1000を設置した。2005年7月には自社内にブレード281枚、562個のXeon processorからなるGT4000を設置し、Rmax=3.413 TFlops, Rpeak=4.046 TFlops(効率84.35%)を実現した。この数字はx86 processorとしては最高である。

6) 中国のHPC
2005年11月のTop500における中国設置のマシンは以下の17件である。急速に増えている。

順位 設置場所 システム コア数 Rmax Rpeak
26 中国気象庁 p655 (1.7 GHz Power4+) 3200 10.31 21.76
41 上海スーパーコンピュータセンタ Dawning 4000A, Opteron 2.2 GHz 2560 8.061 11.264
92 中国科学院計算机網絡信息中心(北京) DeepComp 6800 (Itanium2+QsNet) 1024 4.193 5.3248
129 Galactic Computing Ltd. GT4000 (Xeon 3.6 GHz) 562 3.413 4.046
134 南開大学(天津市) Nankai Stars (Xeon 3.06 GHz) 768 3.328 4.70016
149tie ゲーム会社(5台) HP BL-20P (Xeon 3.2 GHz) 860 3.0767 5.504
248tie Sinopec(2台) IBM HS20 (Xeon 3.4 GHz) 692 2.5376 4.7056
282 Sinopec IBM HS20 (Xeon 3.6 GHz) 576 2.31482 4.1472
323 石油会社 IBM HS20 (Xeon 3.06 GHz) 512 2.07565 3.6864
390 石油会社 IBM (Xeon 3.2 GHz) 512 1.92256 3.13344
443tie Digital China Ltd.(2台) SuperDome (PA-8800 2C 1 GHz) 768 1.7326 3.072

 

 その他のアジアの動き

1) KISTI
KISTI (The Korea Institute of Science and Technology Information、韓国科學技術情報研究院)は、2005年9月、GLORIAD (the Global Ring Network for Advanced Applications Development)を通して世界中の科学技術者をつなぐ国際グリッドにForce10 TeraScale E600を採用したと発表した。

ベンチャー企業の終焉

1) Avaki Corporation
Avaki社は、1998年、企業内の分散データを統合しアクセスを可能にするソフトウェアを開発するためにマサチューセッツ州Buringtonに創立したApplied MetaComputing社が後にAvaki Corporationと社名変更したものである。2005年4月25日、同社はデータベース関連製品を専門とするSybase社に買収された。

2) Transmeta社
2005年6月、Transmeta社は技術資産を香港企業Culturecom Holdings傘下のCulture.com Technology Ltdに売却し、プロセッサ製造から撤退した。1995年にSanta Claraで創立されたTransmeta社はLinus Torvaldsを社員として迎え省電力型プロセッサを武器に、Intelに戦いを挑んだ。同社は2000年、ソニーや富士通など大手メーカーとの契約を獲得したが、、2001年、性能に対する評価の低さや製品化の遅れに直面する。契約を失い、3人のCEOが次々に交代し、赤字額は膨れ上がった。1998年以降、1億3400万ドルの売上高に対して、同社の累積赤字は6億3500万ドルに達した。その背景には既存のプロセッサベンダが省電力に力を入れたことがある。今後Transmetaは、チップを販売する代わりに、知的財産のライセンス事業に力を入れる予定である。

3) nCUBE社
往時は超並列の寵児であったnCUBE社は、1983年に、Intelの複数の社員によってOregon州Portland近郊のBeavertonで創立された。並列マシンnCUBE10、nCUBE2は順調であったがnCUBE3は実現せず、1996年、Ellisonは nCUBE を縮小(上場廃止)させ、CEOに就任してOracle社のネットワークコンピュータ部門に編入した。その後、nCUBE社は完全にストリーミング配信サーバのメーカとなる。2005年にC-COR社に買収され完全に名前が消えた。

4) Storage Technology社
1969年に4人の元IBMの技術者によってカリフォルニア州Redwood Shoresに設立されたStorage Technology Corporationはテープバックアップ機器やその管理システムを開発していたが、2005年6月、Sun Microsystemsは$4.1B(1株当たり$37.00)で買収すると発表し、2005年8月買収を完了した。現在はOracle社の所有でOracle Storege Tekと呼ばれる。

次は2006年。東工大のTSUBAMEが6月のTop500で7位を獲得する。Cray社はCray XT4とCray XMTを発表する。PlayStation 3が発売される。中国ではShenWei(申威) SW-1プロセッサが開発される。

(画像:Dawning 5000A 出典:Dawning社ホームページ)

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