世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


12月 18, 2017

HPCの歩み50年(第147回)-2007年(m)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

インドのTata財閥傘下のComputational Research Laboratoriesに設置されたEKAが、突然Top500の4位に登場したので度肝を抜かれた。中国は着々と独自プロセッサの開発を行っている。ロシアのT-Platforms社は、ロシア初のTFlopsマシンを建設した。

ヨーロッパの動き

1) CSCS(スイス)
スイス国立スーパーコンピュータセンターCSCS (Centro Svizzero di Calcolo Scientifico, Swiss National Supercomputing Centre)は、1991年にLugano湖畔のMannoに設立された(2012年3月にLugano-Cornaredoに移転)。アルプスの麓のイタリア語圏にあるので、正式名称はイタリア語である。1999年に外部諮問委員として訪問したことはすでに述べた。

2007年4月16日、これまで設置してあったCray XT3をXT4にアップグレードしてピーク23 TFlopsのシステムとする契約をCray社と締結したと発表した。WikipediaによるとXT4は2007年5月から2台稼動しているが、Piz Buinは264 Opteron(1056 cores)でRpeak=9.71 TFlops、La Dôleは146 Opteron (640 cores)でRpeak=5.88 TFlopsである。合わせても23には程遠い。Top500リストではXT3が残っていて、この方が性能は上である。アップグレードではなかったのか?

2) SARA(オランダ)
2007年3月29日、SARA (Stichting Academisch Rekencentrum Amsterdam)は、オランダの国立スーパーコンピュータセンターの建設をIBMと契約したと発表した。2008年までのつなぎとして、2007年の第2四半期にPOWER5+に基づく14 TFlops以上のシステムを設置する。最終的にはピーク60 TFlops、メモリ15 TBのシステムとする予定。

3) ClearSpeed社
ClearSpeed Technology社は2007年5月1日、ハードウェアおよびソフトウェアの新版を発表した。とくに、CSXLライブラリの2.50版は、Microsoft Windows上で動く。

2007年9月26日、同社は韓国のTao Computingと契約を結び、韓国の国立研究所や主要大学や主要企業に販売を進めると発表した。

また同日、同社の加速ボードがSun Microsystems社の価格表に加わったと発表した。

中国の動き

1) 情報産業「第11次5ヵ年」規画
中国の国家情報産業部は2007年3月1日に情報産業「第11次5ヵ年」規画を発表し、「2010年までに情報産業総売上高10兆元、年平均伸び率17.6%。このうち、通信業界の売上高は8860億元、年平均伸び率は7.6%、電子情報産業の売上高 は9兆元、年平均伸び率は18%。」を発展目標としている。

また、国家発展改革委員会は2007年4月28日にハイテク産業発展「第11次5ヵ年」規画を発表し電子情報産業とハイテクサービス業を発展の重点と位置付けている。

2) 中国科学院
2006年11月18日、MIPSアーキテクチャの中国製CPU「龍芯」の英語名をLoongsonと決めたと発表した。これまではGodsonと呼ばれていた。これを開発したのは、中国科学院コンピュータ技術研究所で、開発者はHu Weiwu(胡偉武)教授。2001年から開発を始め、2002年には龍芯1号(32ビット、266 HHz)、2003年には龍芯2号(64ビット、300-500 MHz)を完成している。何種類かのチップがあるが、2006年9月に開発されたLoongson 2Eは、Wikipediaによると

-four-way superscalar, out-of-order execution, 64-bit MIPS architecture processor core
-Little-endian MIPS III-compatible ISA
-five execution units: two ALUs, two FPUs, and one address generation unit (AGU)
-SIMD unit is integrated with one of the two FPUs
-Separate 64/64 KB instruction and data L1 caches
-On-chip 512 KB four-way set-associative L2 cache
-Integrated DDR memory controller
-Max. 7 W at 1 GHz

という仕様である。2007年12月に開発されたLoongson 2Fの仕様は、

-four-way superscalar, out-of-order execution, 64-bit MIPS architecture processor core
-Little-endian MIPS III-compatible ISA
-five execution units: two ALUs, two FPUs, and one address generation unit (AGU)
-SIMD unit is integrated with one of the two FPUs
-Separate 64/64 KB instruction and data L1 caches
-On-chip 512 KB four-way set-associative L2 cache
-Integrated DDR2 memory controller
-Integrated very simple video accelerator
-Software-controlled dynamic power management
-Max. 4 W at 1 GHz

であり、マルチメディア系命令が追加されている。2Fは最高1.2 GHzで動作し、HPCにも十分使える仕様になっている。このあと2Gと2Hが65nmで開発された。

3) 曙光(Sugon)
2007年10月26日に深圳で開催された会議において、中国科学院国家智能計算机研究開発中心(the National Research Centre for Intelligent Computer Systems)所長のSun Ninghui(孫凝暉)博士は、Dawning 5000A(曙光)が来年後半に稼働すると発表した。5000Aは、中国で独自に開発したLongxin(龍芯)III CPUを利用する予定であり、10 TFlopsのDawning 4000Aより10倍高性能であろうと期待される。また、さらに高速化した5000Lが2010年中にも稼働するであろう。

実際には、1.9 GHzのquad-core AMD Opteron 7680個をInfinibandで結合したもので、Windows HPC 2008が搭載されている。上海スーパーコンピュータセンターに設置されMagic Cubeと命名された。2008年11月のTop 500では、Rmax=180.6 TFlops、Rpeak=233.472 TFlopsで11位にランクしている。「龍芯」は使われなかったようである。

4) 龍芯を搭載したスーパーコンピュータ
人民網日本語版の2007年12月28日号によると、中国科学技術大学(安徽省合肥市)は中国科学院コンピュータ技術研究所と共同して、このほど中国初の国産CPUチップ「龍芯2F」とその他国産部品、設備と技術を採用したTFlopps級高性能コンピュータ“KD-50-I”の開発に成功したとのことである。中国科学技術大学が来年創立50周年を迎えるので“50”という名前をつけたようである。とするとKは「科学kexue」、Dは「大学daxue」であろうか。同2008年1月14日号は、中国科学院王守覚院士が主任を務める専門家委員会の審査を2006年12月26日に通過したと報じた。“KD-50-I”は、338個の龍芯2Fが搭載され、華為技術有限公司の開発したイーサーネットスイッチで接続されている。消費電力は6 kW以下とのことである。2008年10月7日付の新華社電は、曙光情報産業有限公司の歴軍・総裁が、中国が独自に開発した「龍芯4号」を用いて2010年に1000 TFlopsのスーパーコンピュータ「曙光6000」を完成させる方針を明らかにしたと報じた。

5) 国家並列計算機工程技術センター
高性能並列計算機システムを研究開発するために、1996年、中国国家並列計算機工程技術センターが設立され、「神威」というシリーズを開発している。1999年に発表された神威-Ⅰ(384 GFlops)(国家気象センター)からスタートし、2007年には神威3000A(18 TFlops)を開発した。国家海洋海洋予報センターに納入された。プロセッサは不明である。OSはlinuxらしい。

6) 中米合同科学計算センター
中国科学院・スーパー計算センターは2007 年5 月31 日、米国ニューヨーク科学計算センター、北京泰瑞世紀科技有限公司と共同で北京に中米合同科学計算センターを立ち上げた。同センター設立の目的は、高性能計算応用技術の研究開発に加えてコンサルティングサービスなどを展開することにある。

7) 聯想集団(Lenovo)
2007年7月17日、Lenovo社は英国OxfordshireにAT&T Willimasのためにスーパーコンピュータを設置したことを発表した。これは英国におけるFormula Oneのための風洞シミュレーションを目的としている。ピーク性能は8 TFlops。IBM社がIBM System xやIBM BladeCenterを含むサーバビジネスをLenovo社に売却するのは2014年である。

その他の企業

1) T-Platforms
2002年にモスクワで創業されたT-Platforms社は、2007年2月にロシア初のTFlopsマシンをTomsk State Universityに建設した。566個の2.67 GHzのdual-core Xeon 5150でOSはSUSE Linux Enterprise Server 9であるが、その下でWindows CCS 2003 も稼働する。283ノードで構成されている。メモリは1128 GB電力は90 kW。外部ストレージは10 TBしかなく、バランスを欠いている印象である。ピーク12 TFlops, Linpack 7.8 TFlopsとのことである。2007年6月のTop500では、Core=1128、Rmax=9.01 TFlops、Rpeak=12.002 TFlopsで105位にランクされている。1ノードは動かなかったようである。愛称はSKIF-Cyberia。T-Platforms社は後に2011年11月に33072プロセッサのLomonosovを製造し、Top500では18位であった。

2) Tata Group
インドのTata財閥傘下のComputational Research Laboratoriesは、2007年10月Hewlett-Packard社と共同でスーパーコンピュータEKAを建設した。EKAはサンスクリット語で「1番」を意味するそうである。EKAはIntelのquad-core Xeon X5365 (3 GHz)を3588個搭載し、Infiniband 4x DDRで接続している。2007年11月のTop500では、Core=14240(3560 CPU)、Rmax=117.9 TFlops、Rpeak=170.88 TFlopsで4位にランクしている。インドのコンピュータが1桁に入ったのは初めてであった。

ベンチャー企業の終焉

1) Parsytec社
同社は、1985年、ドイツのAachenでFalk-Dietrich Küblerによりtransputerを用いた並列コンピュータを開発するために政府の補助金を受けて設立された。社名はPARallel SYstem TECnologyに由来する。1988年から1994年の間に、64個から16384個までのtransputerを用いた様々な Parsytec GigaClusterを製造した。T9000が出荷されなかったので1994年にT800とPowerPC601を用いてPowerXplorerを出荷したりしていた。2006年4月30日、創業者のFalk-D. Küblerが会社を去り、2007年7月、Parsytec AGの株の52.6%がISRA VISION AGに買収され、12月からは株式市場から姿を消した。

2) Cluster File Systems社(Lustre file system)
2001年、Cluster File Systems Inc.はCarnegie Mellon大学にいたPeter J. Braamによて設立された。かれらは1999年から研究プロジェクトとして分散ファイルシステムLustre file systemを開発していた。LustreはASI Path Forwardプルジェクトの資金で開発された。LustreはLinuxとclusterの合成語である。2007年9月12日、Sun Microsystems社はCluster File Systems社の知的財産(Lustreなど)や大部分の事業資産を買収した。Sunは今回の買収により、Lustre向けのSolarisのサポートを強化し、Linux およびSolarisを搭載した複数のベンダが提供するハードウェアプラットフォーム上で、Lustreが機能するよう努めていくという。Sunは、Lustreの技術をZFS file systemやSolaris OSに導入する方針である。SunはZFS file systemがNetApp (Network Appliance)の特許を侵害しているとして9月5日に訴訟を受けたところであったが、Sunは今回の買収は訴訟問題とは無関係と述べた。

2008年11月にBraamがSun Microsystems社を去り、Eric Barton とAndreas Dilgerがプロジェクトを引き継いだ。しかし、2010年SunがOracle社の買収されたが、2010年12月、Oracle社はLustre 2.xの開発を中止し、Lustre 1.8を(開発をやめて)保守だけを行うと発表した。この発表を受けて、いくつかの組織がオープンなソフトとして開発を続けることになった。

3) United Devices
1999年にAustin, Texasで設立された分散コンピューティングの会社United Devicesは、2007年9月17日、Univa社と合併し、Univa UDとして活動を続けると発表した。

次はLehman shockの2008年である。筑波大学、東京大学、京都大学のT2Kオープンスパコンが稼働する。

(画像:インドEKAのTOP500表彰状)

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