世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


12月 15, 2014

CAEシリーズ:第2回 CAEとHPC

岩田進吉(有限会社イワタシステムサポート代表取締役/中部CAE懇話会幹事)

今回はCAEとHPCについてお話をさせて頂きます。CAEは解析対象を要素分割して微小要素ごとの力と変位の関係から全体の力と変位の関係を求める手法です。高精度な解析をするには形状を忠実に反映するように要素を小さくする必要があり、これにより要素数が増加します。CAEでは主に行列演算を行って変位や力を求めますが、要素数に応じて行列のサイズが大きくなりますので、計算量が膨大になり高速なコンピュータが必要になってきます。

コンピュータが速くなった現在では、線形静解析は大きなモデルでも直ぐに計算をする事ができますが、非線形解析では計算量が膨大になり、現在でも高速なコンピュータが必須になっております。CAEで特に大規模な計算を必要とする分野である 衝突解析、非線形構造解析、流体解析 等では特に高速なコンピュータを必要としております。

CAEを知らない方でもご理解いただける身近な問題としては気象予測計算があります。 台風の進路予測や一般の天気予報等ではCAEと同じ手法でシミュレーションが行われており、大気圏をメッシュ分割して計算をしております。伊勢湾台風が襲来した昭和34年頃は水平方向の格子が381km、高さ方向が一層で計算していたようですが、今では高速のコンピュータがあり、全地球モデルで20kmの格子、日本周辺の予報では従来が5kmで、現在では2kmの格子で計算しているようです。この精密な計算ができ、日本の防災に役立っているのもHPCのおかげです。

同じように企業での設計・開発でCAEが使われており大規模なコンピュータ資源を必要としております。CAEでは解析時間が計算対象によっては1日から数日、長いものでは数週間かかって計算している場合があります。しかし設計・開発する上では数時間以内に結果が欲しい場合が一般的であり、その為にいかに早く結果を出すか、皆さんいろいろ工夫をしているようです。

CAEが一般の製造業で普通に使われるようになったのは2000年以降であり、それまでは航空機産業、自動車産業、そして原子力等の必要性を高く感じていた企業が導入しておりました。理由はソフトウェアが高価であることもありますが、

コンピュータの価格が高い事
コンピュータの性能が低い事

等により、一般の企業で導入をしておりませんでした。

これが1990年代に

  • インテルやAMDのCPUが安価で優れた性能を発揮するようになった。
  • MPIを使った並列計算手法が出てきた。
  • CAEアプリケーションベンダーが1990年代半ばから2005年位にかけてMPI対応をしてきた。
  • 計算時間のかかる衝突解析、流体解析では並列計算により性能がリニアに伸びる。
  • ハードウェアベンダー提供の専用OS主体であったCAE用コンピュータがLinux、Windowsと一般的な使いやすいOSが使われるようになった。

等により、自動車部品メーカー等の幅広い産業でも使われるようになりました。
CPUの性能の伸びを示すと、1990年代からの12年間の間で1コアでの性能伸びは以下の図に示すように浮動小数点演算約60倍、整数演算では100倍以上の性能向上を実現し、急速に早くなってきております。

実数演算の性能の伸び(1995年~2008年)

specfp2000

整数演算の性能の伸び(1995年~2008年)

specint2000

CAEがHPCの恩恵を受けた事例として自動車開発での利用事例が自動車技術の2008年No.5に掲載されております。記事の概要は自動車技術2008年No.5「特集 スーパーコンピューティング」の中にあり、日産自動車の統合CAE部の鈴木様が書かれた記事で「自動車開発における大規模数値解析の役割と期待」です。記事の中では1990年代頃は衝突解析やエンジンのガス流動解析ではMeshが粗く、CAEの解析結果が実験の結果とかなり違っていましたが、2005年頃になるとMeshも100倍近いきめ細かいMeshになり、解析結果が実験結果にかなり近づき、実用的になってきた事を説明しております。

この動向は2000年頃から急速にコンピュータが速くなった事、そしてMPIを使った並列処理プログラムが衝突解析、流体解析を中心に普及し、性能も並列数だけリニアに伸びたので高精度な解析が実現できるようになったことに依存します。

このようにCAEの世界ではHPCは必須のものとなっております。これからも安定した価格で高速なコンピュータを自動車や航空機、精密機器等の開発者が使えることにより、優れた製品開発を実現して頂ければと考えております。

次回は「CAEとソフトウェア」という内容で書かせて頂ければと考えております。

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