世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


6月 16, 2025

新HPCの歩み(第237回)-2006年(c)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

総合科学技術会議では、政府が重点的に推進する第3期科学技術基本計画が了承され、次世代スーパーコンピュータが世界最高水準の科学技術の発展基盤であると述べられた。ワシントンDCで開催されたJSPS主催のThe Eleventh “SCIENCE IN JAPAN” FORUMでは、日本の次世代スーパーコンピュータについてアメリカ政府関係者などに宣伝した。

日本政府関係の動き

1) 総合科学技術会議
2006年3月22日、総理大臣官邸で第53回総合科学技術会議が開催され、平成18年度から22年度までの5年間において、政府が重点的に推進する第3期科学技術基本計画が了承され、分野別推進戦略が決定された。情報通信分野においては、

「世界に誇れる科学技術用情報処理基盤を構築することは、第3期基本計画を実現するためには不可欠であり、また、世界最高レベルのスーパーコンピュータの構築そのものが、総合的な科学技術力の結果で、「国力の源泉を創る」ことに直接的に貢献する。この観点から、我が国のスーパーコンピューティング技術を世界トップに維持することが必要である。

また、今後開発されるスーパーコンピュータ等は、問題解決に対するコスト効率(電力費用など運用費を含むコスト)も競争力を持つことが必要であり、これ無くしては、広く用いられる科学技術の基盤となることは困難である。」

と指摘し、科学技術を牽引する世界最高水準の次世代スーパーコンピュータは、世界最高水準の科学技術の発展基盤として、国家的な目標と戦略の下に集中的に投資すべき大規模プロジェクトであり、国主導でなければ実現できないものであることから、国家基幹技術として位置付けた。

この第3期科学技術基本計画は、3月28日閣議決定され、スーパーコンピュータは国家基幹技術に位置づけられた。

2) 日本学術会議
日本学術会議の会員選出方法は1984年5月30日に公選制から学会推薦制に変更されたが、2005年10月1日、会員選出法を日本学術会議が自ら選考する方式に変更し、7部制から3部制に変更した。学術会議が学協会との関係を失うことについては多くの批判を受けた。また、連携会員を新設し、2006年8月20日付けで2000名の名簿が公表された。分野を「情報学」と自己申告した人は、筆者を含め96名であった。任期は3年と6年が半々で、筆者は6年であった。以下の分科会が設置された。

情報学展望分科会

E-サイエンス分科会

情報ネットワーク社会基盤分科会

情報関係教育問題分科会

セキュリティ・ディペンダビリティ分科会

ウェブ・メディア社会基盤分科会

大量実データの利活用基盤分科会

国際サイエンスデータ部会

 

 

筆者は、E-サイエンス推進分科会(委員長は西尾章次郎)と国際サイエンスデータ部会(委員長は岩田修一)に所属した。後者はCODATAの活動に対応する国内組織である。昔のCODATAは小谷正雄先生のような物理学関係者が活躍していたが、現在は科学データ一般に対象が広がっている。メンバは土居範久、長島昭、岸浪建史、小柳義夫、安達淳、岩田修一である。2006年度は、CODATA関係では多くの動きがあったが、分科会としての活動はほとんどなかった。

3) 情報科学技術委員会
文部科学省 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 情報科学技術委員会はつぎの通り会議を進めた。

回数

日付

HPC関連の主な議事

第30回

2006年3月13日

「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」進捗報告、次世代スーパーコンピュータ共用ワーキングループ設置について、ITBLプロジェクト事後評価の方針について。

配付資料)(議事概要

第31回

2006年4月26日

次々世代超高性能コンピューティングのための基盤要素技術研究の提案

配付資料)(議事要旨

第32回

2006年5月15日

情報科学技術に関する研究開発の推進方策について、平成19年度に重点的に推進すべき研究開発について

配付資料)議事要旨

第33回

2006年6月14日

情報科学技術に関する研究開発の推進方策について、次世代スーパーコンピュータの共用について

配付資料)(議事要旨

第34回

2006年8月3日

計算科学技術推進ワーキンググループ報告書について、(配付資料)(議事要旨

第35回

2006年8月24日

ITBLプロジェクト事後評価の方針について、「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」プロジェクトの進捗状況について

配付資料)(議事要旨

第36回

2006年10月17日

ITBLプロジェクト事後成果報告会

配付資料)(議事要旨

第37回

2006年11月9日

ITBLプロジェクト事後評価について、総合科学技術会議による平成19年度概算要求における科学技術関係施策優先順位付けの結果について、総合科学技術会議 評価専門調査会による「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」のフォローアップの結果について、次世代スーパーコンピュータ概念設計の評価について。「次世代スーパーコンピュータ概念設計評価作業部会」の設置を決定(開催は2007年)

配付資料)(議事要旨

 

4) NAREGI
NAREGIは元々独立のプロジェクトであったが、2006年度より文部科学省が推進する「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用プロジェクト」の一環であるサイエンスグリッドNAREGIプログラムとして研究開発を進めることとなった。

グリッド研究開発推進拠点は、国立情報科学研究所の三浦謙一教授をリーダーとして、グリッドミドルウェアの研究開発、グリッドミドルウェアの統合・運用を大学を初めとする各機関と連携して進めている。また、海外のグリッド関係部門とも国際連携し、ワールドワイドに連携できるグリッド環境の構築を目指していす。

アプリケーション研究開発拠点である、自然科学研究機構の分子科学研究所はナノサイエンスを通して、グリッドミドルウェアの実証研究を行う。また、NAREGIはスーパコンピューティング技術産業応用協議会とも連携し、産業界の国際競争力強化等にも寄与する計画である。

2006年2月24日に東京の学術総合センターにおいて、「NAREGIシンポジウム2006」を開催した。

2006年4月4日~5日にNAREGIナノサイエンス実証研究 第4回公開シンポジウムが、自然科学研究機構 岡崎コンファレンスセンターで開催された。

5) 地球シミュレータ
7月18日のAP電によると、地球シミュレータは次年度から30年もの長期の天気予報を計画しているとのことである。これにより、温暖化による台風、嵐、ブリザード、干ばつなどの気象災害の傾向を予言する。台風の経路や大雨、豪雪、高波などの変化を分析し、害を受けやすい地域を特定する。2007年~2011年に実施される「21世紀気候変動予測革新プログラム」のことを言っているのであろう。

6) 次世代気候モデル開発(RIST)
RIST(高度情報科学技術振興機構)の主催による最先端並列計算機における次世代気候モデル開発に関わる国際ワークショップは、1999年のハワイ会議から(2012年まで)日米欧を会場に毎年開かれているが、2006年2月23日~25日には「第8回アルバカーキ会議」(The 8th International Workshop on Next Generation Climate Models for Advanced High Performance Computing Facilities Albuquerque)がHilton Albuquerqueで開催された。第3回共生ワークショップと併催であった。どういうわけか筆者も出席し基調講演 “Prospects for Future Supercomputing in Japan” を行った。プログラムは以下の通り。

February 23, 2006 (Thursday)

8:30

Welcome Speech by David Kahaner (ATIP)

8:40

Opening Remark by Akimasa Sumi

8:50

Masahide Kimoto (Center for Climate System Research, The University of Tokyo)

 – High-resolution coupled ocean–atmosphere modeling for climate studies

9:20

Akira Noda (Meteorological Research Institute)

 – The SST dependence found in time-slice experiments with a 20-km-mesh AGCM

9:50

Michio Kawamiya (Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)

 – Dealing with complexity in climate modeling

10:40

William Camp (Sandia National Laboratories)

 – Petascale Computing for Environmental and Energy Sciences-architectural requirements

11:10

Erik DeBenedictis (Sandia National Laboratories)

 – Petaflops Exaflops and Zettaflops for Climate Modeling

11:40

Yoshio Oyanagi (The University of Tokyo)

 – Prospects for Future Supercomputing in Japan

13:30

Koki Maruyama (Central Research Institute of Electric Power Industry)

– Global warming projections for IPCC AR4 and CRIEPI’s future perspective on new models

13:50

Peter Gent (National Center for Atmospheric Research)

 – Changes in Ocean Ventilation during the 21st Century in the CCSM3

14:10

Junichi Tsutsui (Central Research Institute of Electric Power Industry)

– Atmospheric impacts of 11-year solar variability in climate experiments by the Whole Atmosphere Community Climate Model (WACCM)

14:30

Hideki Kanamaru (Scripps Institution of Oceanography)

– High Resolution Dynamical Downscaling by Regional Spectral Model

14:50

Philip Jones (Los Alamos National Laboratory)

– POP, HYPOP, CICE and other acronym development (AD)

15:30

Keiichi Nishizawa (Central Research Institute of Electric Power Industry)

– Regional Precipitation Changes Due to the Poleward Shift of Storm Tracks in the Global Climate Projections for the 21st Century

15:50

Hisashi Sato (Frontier Research Center for Global Change, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)

– SEIB-DGVM, a new Dynamic-Global-Vegetation-Model using a Spatially-Explicit Individual-Based approach

16:10

Shingo Watanabe (Frontier Research Center for Global Change, Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)

– On source spectra for the Hines gravity wave drag parameterization in KISSME

16:30

Norikazu Nakashiki (Central Research Institute of Electric Power Industry)

– Study on the Effect of Stabilization and Overshoot Scenarios

16:50

Kazutaka Yamada (Japan Meteorological Agency)

– Orographic gravity wave drag parameterization for high-resolution global model

17:10

Kengo Miyamoto (Advanced Science and Technology Organization / Japan Meteorological Agency)

– A New Dynamical Core for the JMA/MRI High-Resolution Global Spectral Atmospheric Model

17:30

Ryouji Nagasawa (Japan Meteolorogical Agency)

 – Improvement of a radiation process for the non-hydrostatic model

17:50

Cecelia DeLuca (National Center for Atmospheric Research)

 – The Earth System Modeling Framework and the Earth System Curator

 

Poster Session

February 24, 2006 (Friday)

8:30

Masaki Satoh (Center for Climate System Research, The University of Tokyo)

– A multi-scale structure of tropical convection simulated with the 3.5km-mesh global cloud resolving model

8:50

Marat Khairoutdinov (Colorado State University)

– Evaluation of the intraseasonal and interannual variability of climate as simulated by a CSU Multi-Scale Modeling Framework

9:10

Chiashi Muroi (Meteorological Research Institute)

– High resolution regional climate simulation using nonhydrostatic model

9:30

Yoshiharu Iwasa (Center for Climate System Research, The University of Tokyo)

 – Atmospheric Experiments using RAMS over the Tropical and Subtropical Band Region around the Whole Globe

10:10

John Dennis (National Center for Atmospheric Research)

– Performance Tuning of the POP2 barotropic solver

– HOMME: A High-Performance Scalable Atmospheric Modeling Framework

10:40

Osamu Arakawa (Advanced Earth Science and Technology Organization)

– Tropical rainfall diurnal variation in a 20km-mesh atmospheric GCM

11:00

George Backus (Sandia National Laboratories)

– Simulating the Strategic Adaptation to Climate Change

11:20

Patrick Worley (Oak Ridge National Laboratory)

– Performance and Scalability of the Community Atmospheric Model

11:40

Bill Spotz & Mark Taylor (Sandia National Laboratories)

– Massively Parallel Performance of the HOMME Spectral Element Atmosphere Model

12:00

Yun (Helen) He (Lawrence Berkeley National Laboratory)

– Efficient parallel I/O with ZioLib in Community Atmosphere Model (CAM)

 – MPH: a Library for Coupling Multi-Component Models on Distributed Memory Architectures and its Applications

12:30

Rene-Andreas Redler (NEC Europe Ltd.)

 – The OASIS4 Multigrid Search Algorythm: Design and First Results

14:20

Doug Kothe (Oak Ridge National Laboratory)

 – TBD

14:50

Ryutaro Himeno (RIKEN)

 – Next Generation Supercomputer R&D Project in Japan

15:20

Yasumasa Kanada (The University of Tokyo)

– Computer systems at the Information Technology Center, the University of Tokyo – Past and Present

15:50

Jonathan Carter(Lawrence Berkeley National Laboratory)

 -Climate Simulations at NERSC: Past and Future

16:40

Jonathan Carter(Lawrence Berkeley National Laboratory)

 -Climate Simulations at NERSC: Past and Future

17:00

Per Nyberg (Cray Inc.)

 – Microprocessors versus Vector Processors: The Wrong Debate ?

17:20

Yaoko Nakagawa (Hitachi Ltd.)

– Hitachi Super Technical Server SR11000 K1’s Performance of Meteorological Codes

17:40

Wrap-up

February 25, 2006 (Saturday)

8:30

Free Discussion

 

われわれが日本の将来計画について講演するときには、当然のことながら公開情報だけに基づき、私見は私見として話す。今回もその原則は堅持されていたと思うが、どこをどう伝わったか、スーパーコンピュータ推進議員連盟の某議員が、日本側の発表について「しゃべりすぎ」だと激怒しているという噂が流れてきてびっくりした。事情は不明である。筆者としては、公開できる情報はできるだけ日米で共有しておいた方がよいと考えている。

25日土曜日には遠足もあった。Sandia Peakという3000m以上の山頂まで、長いロープウェイ(2.7 miles)でわずか15分で上れる。山頂からの眺めは抜群で、Albuquerque の町はもちろん、Sandia Labやその隣の空軍基地も、LANLもかすかに見えた。そのあと州都Santa Feの町に下った。「宮沢りえを撮影したところ はどこか?」と聞いたら、「オヤナギさん、それは古い(1991)」と一蹴された。私はダウンタウンの一角にある1610年に起源をもつという聖フランシスコ・カテドラル(司教座聖堂)を訪れた。フランスロマネスクの立派な教会であった。

7) 科研費特定領域(C)
2001年4月に発足した科研費特定領域(C)「ITの深化を拓く情報学研究」(領域代表 安西裕一郎慶應義塾大学学長)は、2005年度で終了した。最終評価ではA+(期待以上の研究の進展があった)の評点が与えられた。

8) JST CREST 情報社会
JST CREST「情報社会を支える新しい高性能情報処理技術」主催の第1回 自律連合型基盤システムに関するシンポジウムが、6月9日秋葉原ダイビルで開催された。

また、第3回 公開シンポジウムが11月10日駒場エミナースで開催された。

9) JST CREST「情報システムの超低消費電力化を目指した技術革新と統合化技術」
2005年度から開始された標記のCREST領域(研究総括 南谷崇)は、2006年度に以下の課題を採択した。

小池帆平(産総研)

しきい値電圧をプログラム可能な超低消費電力FPGAの開発

後藤敏(早稲田大学)

超低消費電力メデイア処理SoCの研究

高木直史(京都大学)

単一磁束量子回路による再構成可能な低電力高性能プロセッサ

中村宏(東京大学)

革新的電源制御による次世代超低電力高性能システムLSI の研究

 

2006年12月11日、東京大学生産研において研究戦略公開シンポジウム「超低消費電力化技術のもたらす近未来情報社会像」を開催した。プログラムは以下の通り。

13:00

主催者挨拶

北澤宏一(JST理事)

13:10

基調講演: 「次世代スーパーコンピュータプロジェクトとその技術課題」

渡辺貞(理化学研究所)

13:50

研究領域紹介

研究総括 南谷崇(東大先端研)

14:00

講演:「環境知能とそれを支えるインフラ技術」

市川晴久(領域アドバイザ:NTT)

14:30

講演:「超低消費電力化におけるグランドチャレンジ」

岩野和生(領域アドバイザ:IBM)

15:20

調査報告「低消費電力化技術の市場価値」:

三菱総研

15:50

パネル:「超低消費電力化技術のもたらす近未来情報社会像」

司会:妹尾堅一郎(東大)市川晴久(NTT)、岩野和生(IBM)、中村秀治(三菱総研)、関口智嗣(産総研)、熊坂賢次(慶大)

17:20

来年度公募方針

研究総括 南谷崇

17:40

ポスターセッション(研究紹介)&懇親会

 

10) JSTマルチスケール・マルチフィジックス現象の統合シミュレーション
2005年から始まったこのCRESTは以下の課題を採択した。最後の採択である。

青木百合子(九州大学)

大規模系への超高精度O(N)演算法とナノ・バイオ材料設計

今田正俊(東京大学)

高精度多体多階層物質シミュレーション

臼井英之(神戸大学)

惑星間航行システム開発に向けたマルチスケール粒子シミュレーション

北尾彰朗 (東京大学)

バイオ分子間相互作用形態の階層的モデリング

中辻博(量子化学研究協会)

超精密予測と巨大分子設計を実現する革新的量子化学と計算科学基盤技術の構築

吉村忍(東京大学)

原子力発電プラントの地震耐力予測シミュレーション

 

11) JST領域評価
毎年のことであるが、3月にCRESTとさきがけの領域4件の領域評価を行った。CREST「情報社会を支える新しい高性能情報処理技術」(領域総括田中英彦)で、国際会議発表は多いがジャーナルの論文が少ない、という指摘が議論となった。コンピュータ科学では、査読のちゃんとした国際会議発表は論文並み、場合によっては論文以上の評価を受けるが、他の分野からは不自然に感じられる。会議では、途中経過報告でも面白ければ採択されるので、評価まで含んだ最終報告をジャーナル論文とすることは、コンピュータ科学でも推奨されるべきであろう。

12) 日本学術振興会ワシントンフォーラム
1970年代に筆者が高エネルギー研にいたときお世話になった高エネルギー物理学の政池明氏(京都大学名誉教授)が2005年10月に日本学術振興会ワシントンセンターの所長に就任した。毎年6月に学振がワシントンで一般向けに開催している”Science in Japan” Forumのテーマに何がいいか、と聞かれたので一も二もなく「スーパーコンピュータでしょう」と答えた。言い出しっぺの法則で6月16日、Omni Shoreham Hotelで、“The Eleventh “SCIENCE IN JAPAN” FORUM — Supercomputer and its Applications”を企画することとなった。プログラムは以下の通り。

9:00

Opening Remarks

Akira Masaike

9:10

Moderator’s Speech

Thomas Zacharia

9:30

Supercomputing in Japan

Yoshio Oyanagi

10:20

Coffee

10:40

Outline of Japanese National Project on Development and Application of Advanced High-performance Supercomputer

Ken-ichi Miura

11:30

Overview of Petaflops Projects in the U.S.

Horst D. Simon

12:20

Lucheon

1:50

Moderator’s Speech

Stephen Meacham

2:10

Architectural View and Low Power Technology for PFLOPS Computing

Taisuke Boku

3:00

Building a Supercomputing pipeline from Genome Sequence to Protein Structure and Drug Design

Yutaka Akiyama

3:50

Coffee

4:10

Loosely Coupled Approach on Nano-Science Simulation

Mutsumi Aoyagi

5:30

Cocktails

 

6:00

Buffet-style Reception

 

さすがワシントンで、DOE, NSF, DARPA, DOCなどのかなり偉い人たちも来ていた。筆者の講演では、1980年代90年代に414%の関税など日米スーパーコンピュータ貿易摩擦でアメリカが日本に対しいかに理不尽なことをやったかを力説した。聴衆は分かっているのか、質問や反論はなかった。

13) 日本原子力研究機構
計算科学技術推進専門部会は2006年2月10日に開催され、2005年度の活動について議論した。2006年3月30日には、原子力コード研究委員会と原子力計算科学研究評価専門部会が開催された。2006年度としては、2006年9月13日に計算科学技術推進専門部会を開催した。

14) 高エネルギー加速器研究機構(KEK)
高エネルギー加速器研究機構(元文部省)と日本原子力研究開発機構(元科学技術庁)は、2001年から共同でJ-PARCセンターを組織し、東海村で陽子リニアックの建設を進めてきていた。高エネルギー物理学研究所時代から動いていた12 GeV陽子加速器は、2005年度限りで運転を終了することになり、2006年1月13日~14日に「KEK 12GeV 陽子シンクロトロン—その 35年の軌跡—」と題するシンポジウムを開催した。1976年のところに書いたように、その年(30年前)陽子加速器が加速に成功したとき、全所が祝賀ムードに包まれていたことを思い出した。

 
   

15)『忘れられた科学 数学』
科学技術政策研究所 科学技術動向研究センターの細坪 護挙、伊藤 裕子、桑原 輝隆は、2006年5月に『忘れられた科学 – 数学 ~主要国の数学研究を取り巻く状況及び我が国の科学における数学の必要性~』というレポートを発表し、センセーションを巻き起こした。5月17日には日本学術会議でシンポジウム「礎の学問:数学」が開催されている。写真は桑原輝隆のプレゼンから。

筆者は2006年4月から日本応用数理学会の会長を務めており、9月17日15:00~16:15に日本応用数理学会年会(筑波大学春日キャンパス)において「忘れられた科学–数学 応用数学の立場から」というシンポジウムを企画することになった。司会は筆者、パネリストは、桑原輝隆(科学技術政策研究所)、森田康夫(東北大学)、加古孝(電気通信大学)、楠岡成雄(東京大学)、高田俊和(日本電気)、萩原一郎(東京工業大学)であった。以下のような議論が行われた。

 司会:それでは「忘れられた科学-数学と数理科学をめぐって 応用数理の立場から」というシンポジウムを始めたいと思います。(ここで、「失われた科学」と言ってしまって聴衆が苦笑)桑原先生には20分、他のパネリストには5分のポジショントークをお願いします。

 桑原:文部科学省は日本の数学は盤石で、むしろ手を入れない方がよいと思っている。文部科学省は、大型設備のような箱物には慣れているが、数学のようなソフトな科学の振興にはどうすればよいか、展望を持っていない。今年6月の第三次科学技術計画の中で、イノベーションの創出ということで数学が取り上げられた。19年度概算要求では、研究拠点に76億、異分野融合として10億を要求している。全部が数学ではないが。

 日本の数学の論文数は、200x年に初めて中国に追い越された。日本の数学論文は純粋数学に偏っている。研究投資でみると、科研費の中の数学の比率は年々下がっている。国によって数学の分類が共通でないので比較は困難であるが、米国は440億円で増加中である。日本は、数学の科研費は20億以下である。フランスは数学への投資が多く190億円で、全研究投資の2%である。ドイツでは、JSPSに相当する組織が数十億円出している。研究拠点を作っているが、応用指向である。(本当はもっと詳しく、データも豊富であった)

 森田:日本には和算の伝統がある。日本で純粋数学に人材が集中したのは、高木貞治の影響が大きい。日本の数学はスケールメリットに疎く、政治的に未熟である。数が少なく、小規模大学が多い。重要なことは、

1) 他分野との連携、

2) 院生が増えたのだから、就職の際に、別の分野に進出すべきである、

3) 応用分野への数学へのてこ入れ(例として、量子力学と相対論を挙げた)。

 加古:何が問題か。資源の配分を忘れている。資源とは人(ポスト)と金である。数学とは何か?数理科学とはどう違うのか。

 楠岡:数学が社会に影響を及ぼした例として確率論とファイナンスが挙げられるがそれには歴史がある。ファイナンスへの応用を最初に言い出したのは、サミュエルソンで、そこからブラック・ショールズが出た。何を言いたいかというと、数学は一夜にして成らず、ということである。重要なのはアイデアである。○○さんがよく「自転車の発明者は、自分が乗れない道具を作った」という。問題意識とアイデアが重要である。そもそも、応用に役立った数学と、応用を意識して創った数学とは「違う」。

 数学を外から変えることは不可能。北風でもだめ、太陽でもだめだ。(教育について最後に触れられた)

 高田:私は量子化学の研究者であるが、CI (Configuration Interaction)法では大規模な固有値と連立一次方程式が出てくる。これを解きたい。

 萩原:私は機械工学の専門で、自動車のCADや衝突を扱っている。道具としての数学に興味がある。

 司会:幸い10分ほど残りましたので、数学と諸分野との連携に焦点を絞って議論したいと思います。ます楠岡さんにお伺いしたいのですが、「太陽でも(数学を)変えられない」とおっしゃいましたが、それはどういうことでしょう。北風ではダメ、というなら分かりますが。(以下10人ほど発言したが、司会に専念したのでメモなし)

 

座長をしていた筆者が驚いたのは、高名な数学者である楠岡数学会長が、「数学者を外から動かすことはできない。北風でもだめ、太陽でもダメだ。」と言い切ったことである。つまり、数学は学問独自の論理で発展するので、外からのモーメント、応用への展望とか研究資金とかでは動かない、という主張のようであった。太陽(研究資金)が不要といったわけではないのであろう。

筆者が懸念したのは、これは研究者にありがちな発想で、研究者は学問の論理だけで自律的に動いていると思っているが、学問の営為が文化現象である以上、何らかの社会的制約が影響を与えているはずある。もちろんそれは学問の論理をゆがめるものであってはならない。このあたりの認識は、学問が純粋であればあるだけ不足しているように思う。

シンポジウム後の議論で、細坪氏は、問題は、

①日本の数学界全体が純粋数学側に傾き過ぎていること、
②日本の数学界は①が自らに悪い影響を及ぼしてきたことを理解していないこと、
③日本の数学界をよりよく変化させることができるのは数学界自体以外にはないことが理解されていないこと、

にあると指摘している。その後も「数学イノベーション」などの動きがあり、シミュレーション科学でもデータ科学でも「数学的手法」が重要である、などと強調される。それを聞くと、数学者は、「今こそ数学者の出番」と喜んでいるが、必ずしもお呼びではない。数学者だけが数学的手法の専門家ではない。私見では、数学の方が変革を必要としているのではないか。

科学技術・学術政策研究所は、10年後の2015年に「数学は世界を変えられるか? ~「忘れられた科学-数学」から 10 年 数学イノベーションの現状と未来」という講演会を行っている。20年後の今年にも何かあるのか?

16) 産総研
産総研グリッド研究センターでは、開発してきたNinf-Gについて、設計と実装、大規模環境での実証実験、APIの標準化、成果普及などを中心に、2006年1月18日、秋葉原ダイビルでNinf-G Workshop 2006を開催した。2005年には Ninf-G Version 2.4.0 が「非米国産」のソフトウェアとして初めて米国 NSF Middleware Initiative Release 8 に組み込まれるとともに、NPACI Rocks Version 4.1 にも Ninf-G Roll が提供され、また、Ninf-G2 のダウンロード数も1000件(5大陸、17ヶ国)を越えるなど、Ninf-G にとって節目の一年となった。

また、現在ベータ版がリリースされている Ninf-G Version 4(Ninf-G4)の正式版が2006年2月24日NAREGIシンポジウム(次項)において公開された。

17) 次世代OS環境「セキュアVM」
内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)は2006年5月23日、高セキュリティ機能を実現する次世代OS環境の開発が文部科学省により採択されたと発表した。これは、内閣官房長官を議長とする情報セキュリティ政策会議で策定中の「セキュア・ジャパン2006」の一項目に該当する技術開発で、NISCではこの技術開発を積極的に推進するとしている。この環境は、WindowsやLinuxなどをゲストOSとして稼動させることのできるVM(Virtual Machine)環境をイメージし、このVM環境にセキュリティ機能を組み合わせた「セキュアVM」と呼ぶ環境の構築を目指す。セキュアVMが仮想マシン環境を提供し、WindowsなどのOSはその上で動作する。OSからはセキュアVMを経由してネットワークやファイルなどにアクセスする形となり、セキュアVMがこれらのアクセスに対してセキュリティ機能を提供するため、OSから独立した形でセキュリティ機能が実現できるとしている。3年後までに開発し、政府機関内での利用を行った上でオープンソースソフトウェア(OSS)として無償で公開する予定。

次は日本の大学センターの動き、学界の動きである。東京工業大学のTSUBAMEが、地球シミュレータを抜いて日本最高速のコンピュータとなった。

 

left-arrow   new50history-bottom   right-arrow