世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


12月 29, 2025

新HPCの歩み(第262回)-2008年(a)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

リーマンショックの2008年である。日本の次世代スーパーコンピュータ計画では、計算機棟が着工するとともに、文部科学省に次世代スーパーコンピュータ戦略委員会が設置され、運営の基本方針を企画することとなった。ナノ分野のグランドチャレンジでは2回目のシンポジウムが開催された。

社会の動き

2008年(平成20年)の社会の動きとしては、1/2原油先物相場が100ドル台に、1/11新テロ対策特措法が、参院で否決の後、衆院の2/3で成立、1/11薬害C型肝炎被害者救済法案が可決成立、1/12グリーンピースが南極海で日本の捕鯨船団を妨害、1/17中央教育審議会が新しい学習指導要領(ゆとり教育脱却)を答申(2/15文部科学省が新学習指導要領発表)、1/24京都府警、日本で初めてコンピュータウィルス作成者3名を逮捕、1/27大阪知事選で橋下徹が初当選、1/30中国製餃子で10人食中毒、メタミドホスを検出、1/31教育再生会議、道徳の教科化などを求めた最終報告、2/1海外から日本に入国する全ての旅客に税関申告書義務化、2/3関東地方などに大雪、2/10ソウルの南大門で放火により火災発生、2/14アメリカ、北イリノイ大学で銃乱射事件、2/17コソボ独立宣言、2/19野島崎沖でイージス艦衝突事故、2/19日本の最高裁でメイプルソープ事件勝訴(持ち込み禁止取り消し)、2/22ロス疑惑で日本において無罪確定の三浦和義がサイパン島で逮捕される、2/24キューバ国家評議会、ラウル・カストロを議長に選出、2/25李明博が第17代韓国大統領に就任、2/26東京高裁、鈴木宗男に実刑判決、3/1 AOLはNetscape Navigatorのサポート終了、3/10ラサ市でチベット騒乱、3/13東京外為市場で12年ぶりに1ドル100円を突破する円高、3/15土井孝雄宇宙飛行士が国際宇宙ステーションに入室、3/15寝台急行「銀河」が廃止、3/19日銀総裁人事案否決、空席に、3/19土浦連続殺傷事件(住宅)、3/20赤坂サカスオープン、3/23土浦連続殺傷事件(荒川沖駅)、3/23熊本県知事に蒲島郁夫初当選、3/28イーモバイル、音声通話サービス提供開始、3/30日暮里舎人ライナー開業、横浜地下鉄グリーンライン開業、4/1慶應義塾大学が共立薬科大学を併合、4/14デルタ航空とノースウェスト航空が買収による合併に合意(10/29に合併しデルタ航空となる)、4/16南極観測船しらせ進水式、4/30上野動物園のパンダ「リンリン」死亡、5/1第1次エリアにおいて、自動販売機でタバコを購入する際にtaspoが必要になる、5/2「主婦の友」休刊、5/6胡錦涛主席来日、5/8茨城県沖で地震(M6.7)、5/12四川大地震発生(M8.0)、5/13『道路整備財源特例法』成立、5/20台湾の馬英九総裁就任、5/21宇宙基本法案成立(日本)、5/25アメリカNASAの探査機Phoenixが火星の北極近傍に着陸、5/28ネパール王政廃止、5/28船場吉兆が廃業、6/? 居酒屋タクシーが問題となる、6/1第2次エリアでtaspoが必要になる、6/3米国のビザ免除プログラム渡航者にESTAを義務化と発表、6/8秋葉原無差別殺傷事件(2022年7月26日死刑執行)、6/11 Fermiガンマ線宇宙望遠鏡打ち上げ(8月から運用)、6/14平成20年宮城内陸地震(N7.2)、6/17宮崎勤死刑執行、7/1関東など第3次エリアにおいてtaspoが必要になる、7/7-9第34回主要国首脳会議「洞爺湖サミット」開催(日本で5回目)、7/11日本でiPhone 3G発売、7/16名古屋駅発東京駅行きのJR東海バスがバスジャック、7/22八王子ショッピングセンター内通り魔殺人事件、7/28神戸市の都賀川でゲリラ集中豪雨による異常増水で児童等5人が死亡、8/6毒餃子中毒事件(2007年~)発覚後、回収された天洋食品製の餃子が中国国内で流通し、それを食べた中国人が中毒症状を起こしていたことが報じられる、8/8南オセチアの独立をめぐってグルジアとロシアが戦闘状態、8/8-24北京オリンピック、8/18大相撲の大麻問題、8/20赤塚不二夫死去、8/26アフガニスタンで日本人が誘拐される、9/1福田康夫首相辞意を表明、9/6-17北京パラリンピック、9/8中国でメラミンで汚染された「三鹿集団」製粉ミルクを飲んだ乳児14人が腎臓結石になったことが明らかに、その後世界中に波及、9/10 CERNでLHC稼動開始、9/15アメリカのLehman BrothersがChapter 11を申請し経営破綻、9/16日本法人リーマン・ブラザーズ証券が民事再生法適用申請、9/16アメリカの保険会社AIG救済のためFRBが$85Bの融資を承認、9/22自民党総裁選挙で麻生太郎を選出、24日福田康夫にかわって首相に、9/29アメリカ合衆国下院で金融安定化法案を否決、NY市場暴落、10/1大阪市浪速区の個室ビデオ店で火災発生、15名死亡、10/1松下電器産業が社名を「パナソニック株式会社」に変更、10/3アメリカで緊急経済安定化法が成立、10/7アメリカ金融危機のあおりで日経平均株価が1万円を割り込む、10/7小林誠、益川敏英、南部陽一郎のノーベル物理学賞が決定、10/7微少天体2008 TC3がヌビア砂漠上空で大気圏に突入し爆発、10/8下村脩のノーベル化学賞が決定、10/10三浦和義がLos Angeles警察署内で自殺、10/10大和生命保険が経営破綻、10/15中国から輸入した冷凍インゲンで健康被害、ジクロルボス検出(同種の事件頻発)、10/24東京市場の日経平均が8000円を割る(27日には7162.90円)、10/29大阪のエキスポランドが民事再生法適用申請(2009/2/9閉園決定)、11/1パナソニックが三洋電機を買収する意向、11/4小室哲哉が詐欺で逮捕、11/4アメリカ大統領選挙でバラク・オバマが圧勝、11/14-15ワシントンでG20金融サミット、11/26-29インドのムンバイで同時多発テロ、12/1公益法人制度改革3法施行(日本)、12/1『週刊読売』この日発売の12月14日号で休刊、12/4オスロでクラスター弾に関する条約の署名式、12/11アメリカの相場師Bernie Madoffが世界最大のPonzi scheme事件で逮捕される、12/12新テロ対策特別措置法改正案成立、12/31新宿コマ劇場閉館、など。

 
   

この年の流行語・話題語としては「リーマンショック」「サブプライム・ローン」「アラフォー」「居酒屋タクシー」「埋蔵金」「後期高齢者」「あなたとは違うんです」「ゲリラ豪雨」など。

チューリング賞は、プログラミング言語とシステム設計の実用的・理論的基礎、特にデータ抽象化、フォールトトレランス、分散コンピューティングへの貢献に対してBarbara Liskov(MIT)に授与された。

エッカート・モークリー賞は、UC BerkeleyのDavid Andrew Pattersonに授与された。PattersonはRISCという用語の創始者であり、Berkeley RISCプロジェクトを推進した。2017年にはチューリング賞を受賞している。

2008年の京都賞先端技術部門(情報科学分野)は、Richard Manning Karp(UC Berkeley)に授与された。

ノーベル物理学賞は、上述のとおり、自発的対称性の破れに対し南部陽一郎に、対称性の破れの起源の発見に対して小林誠と益川俊英に授与された。化学賞は、緑色蛍光タンパク質の発見とその方法に対し、上述の下村脩のほか、Martine Lee Chalfie、Roger Yonchien Tsienに授与された。生理学・医学賞は、子宮頸がんを引き起こすヒトパピローマウイルスの発見に対してHarald Zur Hauseに、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)の発見に対してFrançoise Barré-SinoussiとLuc Montagnierに授与された。

2007年のサブプライム住宅ローン危機に端を発した、アメリカの住宅バブル崩壊は、2008年9月15日のリーマンショックに始まる世界的な金融危機を起こした。HPCにも向かい風が吹いてきたようで、2009年にかけて多くの会社が姿を消した。(写真は神戸ポートアイランドにあるO2HIMAWARIより。筆者撮影)

これは個人的なことだが、年末の7日間、家内とベトナムに出かけ、中部高原のDalatという観光地のリゾートホテルに滞在した。ベトナムは12年前に学術振興会の調査で出かけた時以来であるが、街にはますます活気があふれていた。1円=184ドンで、1万円を両替すると百万長者であった。

次世代スーパーコンピュータ開発

前年決定したベクトルとスカラを組み合わせたアーキテクチャに基づき、システムの詳細設計が進められた。同時にこれを利用した研究開発をどう戦略的に進めるべきかについても検討がはじまった。スカラー部のプロセッサについてはSPARC64アーキテクチャであること以外(コア数など)はまだ公開されていなかった。ところが、5月9日のSS研究会総会での「フィールド・イノベーション」と題した講演で、秋草直之富士通社長が次世代のプロセッサは8-coreだと漏らしてしまった。2008年に発表されたSPARC64 VIIはquad-coreなので、誰が考えてもそんなところであろうが、せっかく末端が一生懸命NDAを守っているのに社長から破ってしまったのでびっくりした。

1) 施設
施設については、2007年3月28日に神戸での立地が決定した直後から基本設計が始まっていたが、2008年3月21日、計算機棟が着工し、4月28日に安全祈願祭が行われた。建設風景は理研のページに記録されている。[写真は次世代スーパーコンピュータ施設の完成予想図。戦略委員会の資料から]

 
   

2) 次世代スーパーコンピュータ作業部会
2007年のところで述べたように、文部科学省情報科学技術委員会は2007年11月7日「次世代スーパーコンピュータ作業部会」設置し、第1回を2007年12月26日に開催した。合計7回の会議が行われた。

 

日付

主要議題

第2回

2008年2月14日

1.次世代スーパーコンピュータを中核とした教育研究のグランドデザインについて

配付資料)(議事録

第3回

2008年3月12日

1.次世代スーパーコンピュータを中核とした教育研究のグランドデザインについて

配付資料)(議事録

第4回

2008年4月22日

1.次世代スーパーコンピュータを共用する際の基本的な考え方について

配付資料)(議事録

第5回

2008年5月21日

1.次世代スーパーコンピュータを中核とした教育研究のグランドデザインについて

配付資料)(議事録

第6回

2008年6月19日

1.次世代スーパーコンピュータを中核とした教育研究のグランドデザインについて

配付資料)(議事録

第7回

2008年6月25日

1.次世代スーパーコンピュータを中核とした教育研究のグランドデザインについて

配付資料)(議事録)(作業部会報告書案

 

筆者は委員ではないが、第2回会議に呼ばれ、共用施設である次世代スパコンの利用の基本的考え方、スパコンを活用した研究開発、人材育成、利用者支援、次世代スパコンを中核としネットワーク機能も含めた拠点形成の考え方等について意見を述べた。私事であるが、意見陳述の直後、横浜に住む岳父(95歳、元半導体研究者)と連絡が取れないとの連絡が親戚からあり、会議後駆けつけると自宅ですでに息絶えていた。

この作業部会での審議のための基礎資料として、我が国の計算機科学やシミュレーション研究に対する取り組みの状況、課題等を俯瞰的に把握したいとのことで、4月25日付で、スーパーコンピュータ整備推進室から「我が国の計算機科学の状況調査」のお願いが送られて来た。我が国で行われている計算機科学研究について、その研究者、所属(所属する研究室も含む)、研究テーマ(研究内容)等をご教示いただき、これを整理したいとのことであったが、計算機科学(computer science)とシミュレーションを含む計算科学(computational science)とを混同しているところもあった。第5回作業部会において「我が国の計算科学技術の現状に関する調査について」として報告され、シミュレーション研究については85人に調査を依頼し、39人から回答、計算機科学については51人に調査を依頼し、28人から回答があったとのことであった。

報告書では、次世代スーパーコンピュータの共用のあり方として、研究、研究支援、研究成果、人材育成、理解増進などが述べられている。また、次世代スーパーコンピュータにおける研究機能の構築として、戦略的利用のあり方、研究機能の充実、諸機能の有機的な形成が論じられている。その後、この作業部会報告書の基本方針に従って、次世代スーパーコンピュータ計画が進められていくことになる。

3) 計算科学研究拠点構想検討委員会の設置
上記の次世代スパコン作業部会の報告書を踏まえ、理研において次世代スーパーコンピュータを中核とする研究拠点の在り方等を検討するため、計算科学研究拠点構想検討委員会が2008年10月に設置された。以下の考え方が示され、具体的な準備体制の構築が提言された。

・オールジャパン体制の構築
・次世代スパコン利用の戦略分野を担う「戦略機関」との連携
・共通基盤的研究と一体化した次世代スパコンの運用
・「登録機関」との連携
・研究人材のシャトル化と人材育成
・「世界的拠点」としての構築とオープンイノベーション
・神戸の研究施設へのポテンシャルの集積

4) 次世代スーパーコンピュータ戦略委員会
次世代スーパーコンピュータ作業部会からの報告に基づき、2008年11月18日、文部科学省は次世代スーパーコンピュータプロジェクトがその目的を達成するためには、研究開発を着実に進めるとともに、次世代スパコンの完成後をにらみ、その利活用のあり方を検討するため、次世代スーパーコンピュータ戦略委員会を設置した。検討事項は以下の通り。

1.戦略分野、戦略目標の設定
2.一般的利用(教育枠、産業枠)の制度設計
3.資源配分の検討
4.登録機関の業務内容の検討
5.関係機関との連携のあり方検討
6.利用料金の方針検討
7.戦略プログラム全体の研究教育の進捗状況の把握・評価
8.戦略分野間の研究費の配分計画の策定
9.その他

委員は下記の通り。任期は平成20年11月25日~平成29年3月31日という長期で、筆者等老人は「終わりまで生きているか?」と心配になった。実際には、行政刷新会議の仕分けのため、平成22年(2010年)初めにリセットされた。

主査:土居 範久

中央大学理工学部教授

伊東 千秋

富士通株式会社取締役副会長

宇川 彰

筑波大学副学長

小柳 義夫

工学院大学教授

小林 敏雄

財団法人日本自動車研究所所長

寺倉 清之

北陸先端科学技術大学院大学教授

中村 春木

大阪大学蛋白質研究所教授

平尾 公彦

独立行政法人理化学研究所特任顧問

矢川 元基

東洋大学計算力学センター長

米澤 明憲

東京大学情報基盤センター長

 

2008年中は1回だけ開催された。

 

日付

主要議題

第1回

2008年12月3日

1.次世代スパコンを中核とした研究教育拠点形成について

2.戦略的研究開発プログラムについて

配付資料)(議事録

 

2回目を12月18日に予定していたが、調整がつかず年明けの2009年1月9日となった。

 
   

5) 次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2008
理化学研究所 次世代スーパーコンピュータ開発実施本部は、「次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2008 -次代を担う世界水準の人材育成に向けて-」を、2008年9月16日~17日に東京丸の内の明治安田生命ビル内MY PLAZAホール及びMY PLAZA会議室で開催した。4回目の開催である。筆者は再びポスターセッション審査委員会の委員長を務めた。参加者は一般422名、ポスターセッション30名、講演者等49名であった[写真はポスターセッション風景]。受賞者は以下の通り。

最優秀賞

優秀賞

優秀賞

特別賞

斎藤 貴之

萩田 克美

牧野 浩二

佐藤 義永

 

最優秀賞、優秀賞を受賞した3名がSC08レポーターとして参加し出張報告を公開した。

シンポジウムでは、下記の5つの分科会が行われた。

分科会A

次世代の産業界をリードする人材育成を目指して

分科会B

計算機科学と計算科学の学際融合

分科会C

生命体統合シミュレーション

分科会D

ナノ統合シミュレーション

分科会E

素粒子・原子核・天文宇宙

 

最後に提言をまとめた。

提 言

 

 計算科学は、「予測の時代」である21 世紀の科学技術や先端産業を牽引する基盤である。これまで我が国がこれらの分野で果たしてきた役割を継承し、さらに発展させていくためには、「予測の時代」を担う人材を輩出し、その活躍の場をこれまで以上に拡げていくことが必要である。

 21 世紀の科学技術を牽引する計算科学は、計算機科学と様々な科学技術領域の有機的・効果的学際融合により、新たな革新的分野に発展すべきであり、それを支える人材とその育成を求めている。新しい学術分野の創成や、イノベーションによる産業の国際競争力の強化に果敢に取り組む世界水準の人材は、これからの我が国、ひいては人類社会の発展に大きく貢献していくことになろう。

 以上の認識の下、このシンポジウムでは次世代スーパーコンピュータ開発利用プロジェクトを一つの契機に、次代を担う人材の育成に積極的に取り組む必要性を共通の理解として、以下のような取り組みを強力に推進すべきである旨提言する。

 

一、 教育、人材育成プログラムの多様な展開

 21 世紀の学術の展開を見据え、計算科学・計算機科学、さらにはその融合による新たな学術分野の展開を追究する研究科や専攻、教育研究の中核となる研究センターの設置が進展しつつある。また、大学院教育改革支援プログラムなどを活用したユニークな人材育成も進められている。

 今後、進展する科学技術、産業の要請に適切に対応していくためには、将来の活動を支える人材に求められる素養を明らかにし、人材育成に係る関係者間でこの認識を共有することが必要である。大学・大学院教育では確実にその素養を身に付けさせるべきである。

 さらに、数理科学など関連する他分野との連携、国内の大学・研究機関間の連携、国際協力等の国際的視点を重視しつつ、計算科学と計算機科学の融合と、その推進を担う人材の育成を目指した教育研究プログラム、学際融合型プロジェクトの具体化、制度整備を強力に推し進めることが必要である。

 このため、大学・研究機関の取り組みの一層の深化、全体としての多様化、その規模の拡大と分野を超えた連携を積極的に推進し、教材の開発・共有、単位互換など大学・研究機関間における具体的な協力を促進すべきである。また、計算科学、計算機科学などの異分野の融合を担う人材の重要性を認識し、人材のキャリアパスを保証することにより、人材を継続的に確保する必要がある。

 

一、 人材育成に係る一層の産学の連携促進

 人材育成における大学・研究機関間の協力はもとより、「実践力」の涵養を目的とした教育への人的な貢献や、インターンシップの充実・促進、共同研究の実施などを通じた大学・研究機関と産業界との間の相互協力を加速すべきである。さらに、このような活動を進めるために、大学・研究機関と産業界の相互理解を深め、大学のシーズと企業のニーズを共有・理解する場を作る必要がある。

 また、産業界のスーパーコンピューティング技術の利用を促進し、それによってキャリアパスが確保されるという、人材の育成・確保の「正のスパイラル」を確立することも必要である。このため、次世代スーパーコンピュータ利用に係る「戦略的研究開発プログラム」において、大学と産業界との連携を加速するための戦略分野を設定するなど、次世代スーパーコンピュータをはじめスーパーコンピューティング技術の利用による成果を、速やかに創出するための具体的な措置を講じるべきである。

 

一、 拠点形成における人材育成機能の明確化・具体化

 次世代スーパーコンピュータ開発利用プロジェクトは、次世代スーパーコンピュータ施設を中核とした研究教育拠点の形成を一つの目標としている。拠点形成に係る検討にあたっては、人材育成機能を明確化するとともに、計算科学に関する拠点や大学の情報基盤センターとの具体的な連携協力のあり方などを含め関係機関が担うべき役割を早期に具体化する必要がある。特に、利用のあり方については、産学官を問わず、大学や大学院学生を含む若手研究者・技術者の利用機会の確保と、利用にあたっての支援体制などの充実を図るべきである。

 

2008年9月17日

 

次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2008

参加者有志一同

 

6) グランドチャレンジ(ナノ)
グランドチャレンジ「次世代ナノ統合シミュレーションソフトウェアの研究開発」では、第2回公開シンポジウムを2008年3月4日~5日に岡崎コンファレンスセンターにおいて開催した。プログラムは以下の通り。

3月4日

13:00

挨拶

中村宏樹(分子研)、?(文部科学省)、茅幸二(理研)

13:20

次世代スーパーコンピュータプロジェクトの進捗状況

渡辺 貞(理研)

13:40

ナノ分野グランドチャレンジ研究開発報告

平田文男(分子研)

14:00

ナノ分野グランドチャレンジ拠点報告

岡崎進(分子研)

14:20

NAREGIグリッド研究開発報告

三浦謙一(情報研)

14:40

生命・生体シミュレーションの進捗状況

姫野龍太郎(理研)

15:00

休憩

15:20

次世代ナノ情報機能・材料 次世代ナノ複合材料活動報告

寺倉清之(産総研)

15:40

次世代ナノ情報機能・材料 次世代ナノ電子材料活動報告

前川禎通(東北大金研)

16:00

次世代ナノ情報機能・材料 次世代ナノ磁性材料活動報告

常次宏一(東大物性研)

16:20

次世代ナノ生体物質活動報告

岡崎進(分子研)

16:40

次世代エネルギー活動報告

平田文男(分子研)

17:00

次世代ナノ統合シミュレーションソフトウェア2007年度版

米満賢治(分子研)

17:20

スーパーコンピューティング技術産業応用協議会報告

高棹滋(産応協議会)

17:50

懇親会

 

3月5日

9:00

システム運用活動報告

水谷文保(分子研)

9:15

グリッド実証活動報告

斉藤真司(分子研)

9:30

物性科学WG活動報告

寺倉清之(産総研)

9:45

分子科学WG活動報告

榊茂好(京大院工)

10:00

ポスターセッション

 

11:30

昼食

12:45

招待講演:相同蛋白質のフォールディング機構 – イヌ乳リゾチームとヤギαラクトアルブミンの比較研究

桑島邦博(分子研)

13:25

招待講演:金属ナノ構造におけるスピンホール効果

大谷義近(東大物性研)

14:05

招待講演:固液界面における化学的エネルギー変換 – 湿式太陽電池と燃料電池を意識して

魚崎浩平(北大)

14:45

招待講演:ナノピーポットの創製と評価

篠原久典(名大院理) 

15:25

休憩

15:45

クリロフ部分空間に基づく第一原理オーダー (N)密度汎関数法の開発

尾崎泰助(北陸先端大)

16:05

スピンホール効果-解析と数値シミュレーション-

井上 順一郎(名大院工)

16:25

ALPSプロジェクト-量子格子模型のためのオープンソースソフトウェア-

藤堂眞治(東大院工)

16:45

蛋白質の電子状態計算とドラッグデザインへの応用

北浦和夫(産総研)

17:05

励起エネルギーおよび電子移動速度の定量的予測のための理論手法の開発

藪下聡(慶応義塾大)

17:25

挨拶

平田 文男(分子研)

 

また、2008年6月3日~6日には、東京国際交流館国際交流会議場および日本科学未来館みらいCANホールを会場として、第1回国際会議“1st International Conference of The Grand Challenge to Next-Generation Integrated Nanoscience”が開催された。

図は2007年シンポジウムの平田文男のスライドから。

 

次回に記すように、もう一つのグランドチャレンジである「次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発」でもシンポジウムが開催された。また「イノベーション基盤シミュレーションソフトウェアの研究開発」(代表加藤千幸)が始まる。

 

left-arrow   new50history-bottom   right-arrow