新HPCの歩み(第277回)-2009年(a)-
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次世代スーパーコンピュータ計画が大詰めを迎える。システム構成案についての議論と平行して、国として戦略的・重点的に研究を推進していく5つの戦略分野とその代表機関が決まった。アメリカに勝てるのか。「次世代スパコンを念頭においた人材育成のあり方について」の検討が始まった。 |
社会の動き
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社会の動きとしては、1/1スロバキアでユーロ導入、1/8防火窓の5社が性能偽装(日本)、1/12アメリカへのビザなし入国手続にESTAが必須となる、1/14松浪健太、政務次官を罷免、1/14中央大学教授刺殺事件、1/15 US Airways 1549便不時着水事故(ハドソン川の奇跡)、1/20オバマ大統領就任、1/21ジュエリーマキ、民事再生法適用を申請、1/28-2/1ダボス会議、1/29丸井今井(北海道)が民事再生法適用を申請、2/10初の人工衛星同士衝突事故、2/14ローマでのG7財務大臣・中央銀行総裁会議後の記者会見で、中川昭一大臣の呂律が回らず、2/17中川昭一大臣辞表提出、2/19オバマ政権のサブプライムローン救済策に対し、Rick Santelli がTea Party運動を呼びかける、2/22映画『おくりびと』が第81回アカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞、3/3西松建設の闇献金疑惑で小沢一郎秘書や西松建設前社長らを逮捕、3/4二次補正予算成立、小泉純一郎欠席、3/10桜島大噴火、3/10日経平均がバブル崩壊後の最安値を7054.98で更新、3/10道頓堀に1985年に投げ込まれたカーネル・サンダース人形が発見される、3/11日本人拉致被害者親族が釜山で金賢姫と面会、3/13海上自衛隊のソマリア沖派遣を決定、3/20難波駅で阪神と近鉄が相互乗り入れ、3/23 Fedexの飛行機が成田で着陸失敗炎上、4/1-2 G20ロンドンサミット、4/5北朝鮮の自称人工衛星のミサイルが日本上空通過(前日は発射誤認)、4/5オバマ大統領プラハ演説、4/6イタリアでラクイラ地震、4/10天皇皇后金婚式、4/21和歌山毒物カレー事件、死刑確定、4/22道路特定財源制度廃止決定、4/23 SMAPの草彅剛が公然わいせつ罪で逮捕、4/28 WHOが豚インフルエンザの警戒レベルを4に、4/30クライスラー社が経営破綻、5/9カナダから帰国の高校生と教員の新型インフルエンザ感染を確認、隔離、5/11小室哲哉に詐欺で懲役3年、執行猶予5年の判決、5/16神戸高校の生徒1名が新型インフルエンザ感染(渡航歴なし)、5/21裁判員制度施行、5/23韓国盧武鉉元大統領自殺、5/25北朝鮮2度目の核実験、5/31横浜港開港150周年式典、6/1改正道路交通法施行、高齢運転者の認知機能検査義務化、6/1アメリカGMが経営破綻、6/4静岡空港開港、6/7オタマジャクシ騒動(空から降ってきた)発端、6/8 Lady Gaga初来日公演、6/10クライスラーが再建手続完了、6/11 WHOが新型インフルエンザの警戒レベルを6に引き上げ、パンデミックを宣言、6/14障がい者団体向け郵便割引制度悪用事件で、厚労省の村木厚子を逮捕、6/25マイケル・ジャクソン死亡、7/5ウルムチでウィグル騒乱、7/10 GMが再建手続完了、新生GM設立、7/19国際宇宙ステーションの実験棟「きぼう」が完成、7/21衆議院解散、7/22硫黄島付近の洋上で皆既日食、7/31宇宙飛行士若田光一、地球に帰還、8/3初の裁判員裁判、8/4-5クリントン元大統領が北朝鮮を訪問、7日2名の記者とともに帰国、8/8酒井法子が覚醒剤の所持および使用で逮捕される、8/11駿河湾を震源とする地震(M6.5)、8/15新型インフルエンザによる国内初の死者、8/18金大中元大統領死去、8/30衆議院議員総選挙、民主党308議席、9/1消費者庁発足、9/16鳩山由紀夫首班指名、組閣、9/24-25 PittsburghでG20首脳会合、9/25首都圏連続不審死事件で木嶋佳苗を逮捕、9/29前原誠司国交相が八ッ場ダムの予算要求をしないと明言、10/8大阪高裁はWinny開発者への裁判で逆転無罪、10/19新型インフルエンザの予防接種開始、11/5玄海原発でプルサーマル運転開始、11/11-17政府の行政刷新会議が「事業仕分け」、11/13-14オバマ大統領訪日、11/20外務省で、核兵器持ち込み密約の存在を裏付ける日本側文書を発見、11/24-27「事業仕分け」再開、11/26東京外為で、1ドル86.29円まで上昇、12/1リスボン条約(EUの新基本条約)発効、12/14ヨーロッパでオリエント急行廃止、12/17-21伊豆半島東方沖を震源とする群発地震、など。(写真は、O2Himawariから。筆者撮影)
この年の流行語・話題語としては「政権交代」「新型インフルエンザ」「H1N1」「事業仕分け」「草食男子」「歴女」「ティーパーティー運動」など。
チューリング賞は、Xerox Altoの先駆的な設計と実現、さらにイーサネットとタブレットPCへの貢献に対してCharles P. Thacker(Microsoft Research)に授与された。
エッカート・モークリー賞は、VAXの性能評価などで有名なJoel S. Emerに授与された。Emerは、DEC、Compaq、Intelを経て、現在NVIDIAとMIT SCAIL。
ノーベル物理学賞は、光通信を目的としたファイバー内光伝達に関する画期的業績に対してCharles K. Kao(高錕)に、CCDセンサーの発明によりWillard BoyleとGeorge E. Smithに授与された。化学賞は、リボソームの構造と機能の研究に対し、Venkatraman Ramakrishnan、Thomas Arthur Steitz、Ada E. Yonathの3名に授与された。生理学・医学賞は、テロメアとテロメラーゼ酵素が染色体を保護する機序の発見に対し、Elizabeth H. Blackburn、Carol W. Greider、Jack W. Szostakの3名に授与された。
次世代スーパーコンピュータ開発
1) 2009年概観
中間評価作業部会では複合システムという原案(下図)について疑問の声が出て、4月22日の第3回作業部会は、システム構成の再検討を要請した。すなわち、
・米国の開発が加速している中、現行計画ではプロジェクトの目標達成は困難
・複合システムの将来的な可能性は認めるものの、現時点の開発状況を踏まえれば複合システムとしての性能は十分でなく、一定の見直しを行うことが必要
という状況にあることが認識されたと結論している。
この時点で、日本の次世代スーパーコンピュータ計画と競合しそうなアメリカの計画は以下のとおり。
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省庁 |
計画名 |
マシン |
ベンダ |
予定性能 |
完成予定 |
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国防省(DOD) |
HPCS |
Cascade |
Cray |
10 PFlops |
2010年末 |
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PERCS |
IBM |
10 PFlops |
2010年末 |
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全米科学財団(NSF) |
(NCSA) |
Blue Waters |
IBM |
10 PFlops |
2011年 |
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エネルギー省(DOE) |
ASC |
Sequoia |
IBM |
20 PFlops |
2012年 |
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NLCF |
Cascade |
Cray |
20 PFlops |
2011~2012年(未確定) |
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Blue Gene/Q |
IBM |
20 PFlops |
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米国航空宇宙局(NASA) |
Pleiades |
Pleiades |
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1~10 PFlops |
2009~2012年 |
(2009年7月 中間評価報告書から)
この通り完成したら、日本の次世代スーパーコンピュータに勝ち目はない。とくに強敵はBlue WatersとSequoia (Blue Gene/Q)であった。そのため作業部会は、理化学研究所に対し、複合システムの在り方(はっきり言えば「ベクトル(ユニットB)を止める」という選択肢)を含め、プロジェクトの目標達成を念頭に置いた最適なシステム構成を再検討することを要請した。ところが、再検討の結果が示されないうちに、2009年5月13日、日本電気と日立製作所は次世代スーパーコンピュータ開発の製造フェーズから撤退する方針を明らかにした。理化学研究所は大規模な設計の見直しを行い、富士通単独によるスカラ超並列システムを提案した。ところが、民主党政権の事業仕分けで開発中止の瀬戸際まで追い込まれた。
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2) 次世代スーパーコンピュータ戦略委員会(1月~9月)
2008年11月18日に設置された戦略委員会は精力的に活動した。
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第2回 |
2009年1月9日 |
1.戦略分野について(ナノサイエンス分野、ナノ物性分野) |
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第3回 |
2009年1月21日 |
1.戦略分野について(マテリアルデザイン、ものづくり分野) |
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第4回 |
2009年1月28日 |
1.戦略分野について(ライフサイエンス分野、医学生物学分野、生命科学分野) |
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第5回 |
2009年2月5日 |
1.戦略分野について(自然災害防災分野、地震防災分野、気象・気候・環境分野) |
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第6回 |
2009年2月25日 |
1.戦略分野について(太陽エネルギー利用技術、原子力エネルギー分野、核融合) |
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第7回 |
2009年2月26日 |
1.戦略分野について(素粒子・原子核・宇宙、流体分野) (配付資料へのリンクなし)(議事録) |
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第8回 |
2009年3月11日 |
1.戦略分野について (非公開) |
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第9回 |
2009年3月30日 |
1.戦略分野について (非公開) |
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第10回 |
2009年4月17日 |
(非公開) |
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第11回 |
2009年4月24日 |
1.戦略分野について 2.教育利用について |
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第12回 |
2009年5月26日 |
1.教育利用について 2.産業利用について |
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第13回 |
2009年6月10日 |
1.教育利用について 2.産業利用について 3.登録施設利用促進機関の業務・体制について |
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第14回 |
2009年7月22日 |
1.登録施設利用促進機関について 2.産業利用について 3.戦略分野について 4.戦略プログラム・戦略機関について |
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第15回 |
2009年8月7日 |
1.研究教育拠点形成について |
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第16回 |
2009年9月29日 |
1.研究教育拠点形成について |
第2回~第10回では戦略分野の選定方針と戦略機関のあり方が議論され、前年の作業部会で定めた下記の方針に基づき、関連分野からのヒアリングを行った。
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○社会的・国家的見地から取り組むべき分野・課題 ○これまでの計算機ではその性能上困難であった課題が解明され、当該研究分野において大きなブレークスルーがもたらされる ○戦略的利用による研究成果がもたらす計算科学技術への理解増進や、分野横断的・共通基盤的な研究開発の進展等により、様々な分野で計算科学技術が定着し、我が国の研究開発そのものに革新をもたらす ○戦略的利用の成果が、一般的利用や大学・公的研究機関で行われるシミュレーション研究にも好影響を及ぼし、我が国全体としてより高いレベルの研究の展開が期待できる |
戦略委員会は基本的に公開であったが、第8回~第10回は、戦略機関の具体的な選定に係わる議論を行うので非公開となった。
第11回では教育利用が議論され、賀谷信幸(神戸大学)と斎藤峯雄(金沢大学)とが人材育成センターについての提言を行った。第12回では、米澤明憲・中島研吾(東京大学)が「学際計算科学・工学」の素案を示し、さらには産業利用の可能性について議論した。
第13回ではこれまでの人材育成の議論を基に、「次世代スパコンを念頭においた人材育成のあり方について」をまとめた。この頃から筆者は文部科学省から相談を受けて、人材養成の具体的な方策について検討する場を設定することを計画していた。これに加えて、登録設備利用促進機関の業務や体制についても議論した。
3) 戦略分野の決定(7/22)
第14回(7月22日)では、戦略分野の設定や戦略機関のイメージについて議論した。この会議は元々6月30日に予定されていたが7月6日に延期され、更にこの日に再延期された。当時、新システム構成案の検討や調整が山場を迎えており、事務局の手が回らなかったようである。戦略分野とは、国として戦略的・重点的に研究を推進していく分野のことである。次世代スーパーコンピュータの計算資源の一定割合を戦略分野に重点的に投入する。第14回において、下記の5つの戦略分野を決定した。選定にあたっては
(1)次世代スパコンの能力でなければできない課題があるかどうか、
(2)社会的・国家的見地から見て高い要請があるかどうか、
(3)次世代スパコン稼働後5年間で具体的な成果を出せる見通しがあるかどうか
の3点を判断基準の軸にした。
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分野1 |
予測する生命科学・医療および創薬基盤 |
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分野2 |
新物質・エネルギー創成 |
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分野3 |
防災・減災に資する地球変動予測 |
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分野4 |
次世代ものづくり |
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分野5 |
物質と宇宙の起源と構造 |
他には原子力なども議論されたが、分野4に統合することとなった。2009年10月に戦略機関を決定するが、これはFS (Feasibility Study)であり、2010年3月にFSとしての評価を実施する。2010年4月からは準備研究を開始し、戦略プログラムの本体は2011年4月から開始する。
文部科学省計算科学技術推進室では戦略機関の公募要領の検討に入った。「国内の産学官の研究開発機関・組織(複数の研究機関によるネットワーク型の組織も可)を対象とします。なお、研究者個人は対象となりません。研究開発機関の組織の長(研究科長、研究所長、センター長等)が提案者となり、事業遂行に中心的役割を果たす者を統括責任者として任命していただきます。」とあるように、研究機関またはそのネットワークで戦略機関を担うこととなった。第15回(8月7日)の戦略委員会の後には、別の会議室で戦略プログラム公募に係わる打合せ会が開催された。
4) 戦略機関の公募・FS実施機関選定)(10/30)
上記の決定を受けて、平成21年度「次世代スーパーコンピュータ戦略プログラム」実施可能性調査(FS)実施機関(戦略機関)の公募を2009年8月11日~10月13日に行った。10月29日~30日に文部科学省16階で、ヒアリング審査を行った。担当はJST(科学技術振興機構)研究振興支援業務室。その結果以下の機関が条件とともに選定された。
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FS実施機関 |
FS実施機関となるための条件 |
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分野1 |
理化学研究所 |
FS期間において、限られた資源でどのように目的を達成するかの構想を明確にし、本格研究に移行する課題の選択と集中を行うことに合意すること。 |
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分野2 |
東京大学物性研究所 |
FS期間において、物性研が責任を持って分子研や金材研と連携体制を組み、かつ、その体制を踏まえて適切な規模で研究課題を絞り込むことに合意すること。 |
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分野3 |
海洋研究開発機構 |
FS期間中において、戦略分野全体を統括し、戦略機関の核として機能する組織を作ることに合意すること。 |
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分野4 |
東京大学生産技術研究所 |
分野の網羅性がある反面、研究課題数が多く、且つ実施計画の上でも予算を大幅に上回っている。FS期間において課題数を適正に絞り込むことに合意すること。 |
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分野5 |
筑波大学計算科学研究センター |
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もめたのは分野2で、物性研を軸とする物性物理学分野と、グランドチャレンジを担当している分子研を軸とする化学分野との調整が難航し、2機関独立の担当にしてほしいとの希望も示されたが、審査委員会はこれを認めず、結局、この2機関と東北大学金属材料研究所とのトロイカで担当することとなり、物性研が代表となった。筆者は11月初め、地球シミュレータセンターの渡邉國彦センター長から依頼されて、分野3のアドバイザとなった。
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図は、富士通のページから。
次回は中間評価作業部会である。このままでは世界一になれないのではないか、スカラ・ベクトル複合システムで本当によいのかなど強い指摘があり、議論の末、理研に再検討を求めた。
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