世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


7月 8, 2026

新HPCの歩み(第286回)-2009年(j)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

就任したObama大統領は米国科学アカデミーの年次総会で演説し、研究開発、とくに基礎研究への投資が重要であると指摘し、アメリカの研究開発投資をGDPの3%まで上げると約束した。基礎研究など無駄だと仕分けしてしまうどこかの国とは大違いである。中国で国立スーパーコンピュータセンターが始まった。

アメリカ政府の動き

1) Obama政権
2008年11月にアメリカ大統領に選出されたBarack F. Obamaは、2009年1月20日に大統領に就任した。Obama大統領はこれまでのBush大統領の8年間とは異なり、科学技術への投資を重視すると発表した。4月27日、大統領は米国科学アカデミーの年次総会で演説し、研究開発、とくに基礎研究への投資が重要であると指摘した。「物理学、化学、生物学における特定の研究は、一年では元が取れないことも多く、十年でも取れないこと、ずっと取れないことも多くあります。しかし、ひとたび成果が得られると、それは費用を出した人にも、出さなかった人にも、等しく共有されるものとなります。それが、私企業が一般に基礎研究にあまり投資しない理由です。でも、リスクが大きいからこそ報償も大きいのです。」(科学技術社会論研究 第8号(2011)

Obama大統領はアメリカの研究開発投資をGDPの3%まで上げると約束した。これは従来予算に$70B(約7兆円)追加することになる。もちろん支出増のパーセントでいうなら、イスラエル、スエーデン、フィンランド、日本、韓国はアメリカを超えている。でも、研究開発投資の絶対額では世界一である。世界の研究開発総額(2007年で$962B)の1/3はアメリカである。(HPCwire 2009/4/30)

2) WTEC Report
The World Technology Evaluation Center (WTEC)が報告書“INTERNATIONAL ASSESSMENT OF RESEARCH AND DEVELOPMENT IN SIMULATION-BASED ENGINEERING AND SCIENCE”を出し、アメリカのシミュレーション研究開発が、ドイツ・日本・中国より後れつつあると述べている。日本の例としてトヨタを挙げているので、民間セクターの話のようである。WTECは民間の非営利団体であるが、NSF, DOE, AFOSR, and DTRの依頼で行われた。426ページにも及ぶ長文のレポートであるが、第5章「次世代のアーキテクチャとアルゴリズム」、第6章「ソフトウェア開発」はエクサスケールの観点から注目される。(HPCwire 2009/5/7)

WTECには2004年に地球シミュレータについての調査インタビューを受けたことがある。その時の報告書も出ている。

3) DOE(2009年度予算)
George W. Bush大統領(息子)は、2009会計年度(2008年10月~2009年9月)のDOE予算として$25Bを要求した。この内、Office of Scienceの予算は$4.7Bである。(DOE Press release 2008/2/4)

4) LLNL(Sequoia)
IBMとNNSA (US National Nuclear Security Administration)は、2009年2月3日、LLNL (Lawrence Livermore National Laboratory)が2011年前半に”Sequoia”と呼ばれる20 PFlopsのBlue Gene/Qを、核兵器の老朽化をコンピュータでサポートするために設置すると発表した。2011年から、BlueGene/LおよびASC Purpleのリプレースとして設置する。(HPCwire 2009/4/28)

 
   

Sequoiaはアメリカ西海岸にみられる世界有数の大高木である。1975年にBerkeleyに滞在していた時、地元の日本人研究者にカリフォルニア州北部にあるレッドウッド国立州立公園(Redwood National and State Park、写真はWikipediaから)を案内していただいたことがあるが、そこのRedwoodはSequoiaのことであった。ASCプログラム下の核兵器シミュレーションは、ASC PurpleやBleuGene/Lを用いてきたが、今後はSequoiaのためにコードを書き換える。日本の次世代スーパーコンピュータは、Blue WatersとSequoiaの挟み撃ちか!!

98,304 nodes で total of 1.6 million cores ということなので、プロセッサは16コアの計算ノードと推定される。これが1個のチップに収まるのか、2個もしくは4個のチップで構成されるのかは公表されていない(結果的には1チップであった)。ノードレベルのキャッシュコヒーレンシを保ち、ノード内はSMP、ノード間はMPIのハイブリッド並列となる。各ノードのメモリは16 GB。

5) ESnet
ESnet (the Energy Sciences Network)は、1986年にHEPnet(High Energy Physics network)とMFEnet (Magnetic Fusion Energy network)とを統合して始まった高速ネットワークで、DOEの研究者とその協力研究者とを結ぶ。運営はLBNLにあるNERSCが行っている。2005年3月には、ESnetのバックボーンとしてNLR (National LambdaRail)を採用するというニュースがあったがその後どうなったかは知らない。

ESnetは米国時間2009年8月10日、$62Mの資金を受けたと発表した。LBNLの研究者らは、Advanced Networking Initiativeと呼ばれる高速ネットワークの研究に着手するとともに、同研究所にネットワークおよびソフトウェアエンジニアを新たに採用するために、資金の一部を投入する。資金の大部分は、100 Gbps技術をサポートするために必要となるインフラを有すると判断したプロバイダから、ネットワーク機器やサービスを購入するために使用される予定である。協力するベンダの社名は公表されていないが、Juniper Networksは2009年6月、業界初の100 Gbpsイーサネット対応ルータインターフェースカードを発表している。

この資金は、Lehmanショック後の世界的な景気後退における米国経済の回復を目的として、Obama政権によって施行された経済刺激政策である米国再生・再投資法の下に割り当てられている。日本で言えば、景気浮揚のための補正予算のようなものであろう。

DOEの高度科学計算研究部門を率いるMichael Strayer氏によると、DOEのビジョンは、1 Tbpsの速度のネットワークを開発することであるという。(HPCwire 2009/8/11)(CNET Japan 2009/8/14)(毎日新聞 2009/8/14)(日経XTECH 2009/8/17

6) NSF(2009年度予算)
2008年2月、NSFは2009会計年度(2008年10月~2009年9月)予算案$6.85Bを連邦議会に送付したと発表した。これは前年の実予算より$822M (14%)増大している。(FY 2009 Budget Request to Congress)

会計年度に入って半年近く経過した2009年3月10日に、上院は2009年度予算を承認した。ちなみに、下院は2月25日に通過させている。承認されたNSFの2009年度予算は$6.49Bであった。(Fiscal Year 2009 Appropriation)

7) NCSA(Blue Waters)
2009年12月7日付けのCNETニュースで、POWER7とそれを用いたIllinois大学NCSA (the National Center for Supercomputing Applications)のBlue Watersについての解説(宣伝)が載っている。有名な「2001年宇宙の旅」に出て来るHAL9000スーパーコンピュータ(というか人工知能)は、Illinois州のUrbanaのHAL研究所に設置された。HALはIBMを1文字ずらしたものである(他説あり)ことから分かるように、最初IBMが支援していたが、人工知能が人間を殺そうとするというストーリーと分かって手を引いたそうである。これはフィクションだが、今度は本当のスーパーコンピュータがIllinois大学のUrbana-Champaignキャンパスに建築中の芸術的な建物に設置される。(HPCwire 2009/12/7)

POWER7が正式に発表されるのは2010年2月8日(米国時間)なので、この時点では非公式であるが、Roadrunnerで使われたCellチップの技術を受け継ぎ、前身のPOWER6に比べて、コアが最大8コア、コア当たり最大4スレッドが走り、クロックも3~4 GHzまで行くと述べている。ピーク性能は10 PFlopsに達し、世界最速である。POWER7はout-of-order実行に戻った。プロセッサは水冷である。DARPAもPOWER7を使ったPERCSを進めており、そこから貴重なノウハウを得ている。ピークは10 PFlopsであるが、現実のアプリでの実効スピードは1 PFlopsを予定している。Top500はメモリバンド幅が少なくても高い値が出るので、現実の性能を反映してない。Blue Watersでは任意の2ノード間の通信バンド幅は192 GB/sである。POWER7は2010年前半にサーバ商品にも登場する。

8) PSC (Warhol)
PSC(Pittsburgh Supercomputing Cener)では、2009年、HP社のブレードシステムC3000を導入した。各ノードは2基のIntel E5440 quad-core 2.83 GHzプロセッサを搭載し、8ノードで構成される。ノード上の8コアは、16 GBのメモリを共有する。愛称はWarholで、Pittsburgh生まれの現代画家のAndy Warholから取ったのであろう。PSCは2008年ごろからTop500には出していないようである。

9) SDSC(Berman辞任)
TeraGridを引っ張って来たFrancine Bermanは、2001年からSDSC (San Diego Supercomputer Center、1985創設)の所長を務めてきたが、NSFのTrack 2に応募していたのに落選するなど、彼女の指導力を危ぶむ声もあった。2009年4月6日に、氏が8月1日付けで辞任し、The Rensselaer Polytechnic Institute(レンセラー工科大学)の研究担当副学長に就くとの発表があった。その後2012年からはthe Edward P. Hamilton Distinguished Professor in Computer Science at Rensselaer Polytechnic Instituteに就いた。(Supercomputing Online 2009/4/6)

SDSC所長の後任はProf. Michael L. Norman (Physics, UCSD)で、1年間の所長代行の後、2010年9月から所長に任命された。

10) Keeneland Project
2008年秋にNSFのOffice of Cyber InfrastructureはTrack 2Dの公募を行った。4つのカテゴリーがあるが、その一つに「革新的な(innovative)実験的HPCシステム」があり、期間は5年、総額は$12Mとのことであった。これにJeffrey Vetter教授(Georgia工科大学)を中心に、NICS (National Institute of Computational Sciences), ORNL, Tennessee大学、さらにNVIDIA社とHewlett-Packard社が協力してKeeneland Projectとして応募し採択された。2010年、第1期のシステムKIDS (Keeneland Initial Deliversy System)を導入する。これは120ノードのHP SL390システムで、240個のIntel Xeonと360個のNVIDIA Fermi GPUを含み、ピーク201 TFlopsである。相互接続はInfiniBand QDRである。2010年11月のTop500では、コア数6048、Rmax=63.92 TFlops、Rpek=188.09 TFlopsで、118位にランクしている。

ヨーロッパの政府関係の動き

1) Forschungszentrum Jülich
2008年9月頃、FZJ (Jülich研究センター)を運営するHelmholtz協会(Helmholtz-Gemeinschaft Deutscher Forschungszentren)から依頼されて、FZJの外部評価に参加することになった。この協会は16の研究センターから構成される。Helmholtz協会は、Max Planck協会やFraunhofer協会と並ぶドイツの研究機構である。評価委員会は3月25日午後からということで、3月24日朝、成田空港に向かったがDHL機の炎上事故で長い方の滑走路が閉鎖されていた。アメリカ西海岸行きの777は、ぎりぎり第二滑走路から飛び立てたようである。翌日に予約変更して出発したが、余裕を見ておいたので会議には1時間ほど遅刻しただけで済んだ。拍手で迎えられたが、私の飛行機が事故を起こして生還したたみたいであった。

評価委員会のメンバは以下の通り。

委員長:Horst Simon

LBNL(米)

Rosa M. Badia

Barcelona Supercomputer Centre(スペイン)

Kurt Binder

Mainz大学(独)

Hans-Joachim Bungartz

München工科大学(独)

Guillaume Colin de Verdière

Commissariat à l’énergie atomique(仏)

Richard Kenway

Edinburgh大学(英)

Louis Komzsik

Siemens PLM Software(米)

Douglas Kothe

ORNL(米)

Volker Lindenstruth

Heidelberg大学(独)

Wolfgang Nagel

Dresden工科大学(独)

Yoshio Oyanagi

工学院大学(日)

Thomas Schulthess

CSCS(スイス)

Edward Seidel

Louisiana州立大学(米)

Raj. Thampuran

iHPC(シンガポール)

 

会議はAachenのPullman Aachen Quellenhof Ex Sofitelホテルで行われたが、26日にはJRZを訪問した。かなりの田舎にある。JUGENE (BlueGene/P)はごく一部だけ設置されていた。評価・勧告のテーマは大きく分けて2つあり、「計算科学と数学的手法」および「グリッド技術とそのインフラストラクチャ」であった。それに加えて[大規模施設としてのスーパーコンピュータ]についても評価を行った。研究は多岐にわたり、そのレベルは非常に高かった。ただ、エクサスケールに向けてIBM一社だけと共同研究するというので、筆者はもっと広い観点で考えた方がよい、と発言した。

これも余談であるが、3月27日の朝帰宅のためホテルを出たが、AachenからFrankfurtへの直通の鉄道が停電運休し大回りの経路をとることになった。ドイツでもそんなことがあるのか。私は間に合ったが、一緒に行ったシンガポールのThampuran氏は予定の便に乗り遅れて予約変更など大変であった。

 
   

2009年5月26日、FZJでJUGENE (Blue Gene/P)が稼働し、ヨーロッパ初のPFlops級のスーパーコンピュータとなった。(Press Box 2009/5/28) (HPCwire 2009/5/28) 2009年6月のTop500では、コア数294912、Rmax=825.5 TFlops、Rpeak=1002.7 TFlopsで3位にランクされている。JUROPA (Jülich Research on Petaflop Architectures, Sun Blade server with Nehalem, 2208 nodes, 207 TFlops peak)とHPC-FF (High Performance Computing — for Fusion, 1080 nodes with two Nehalem EP quadcore, 101 TlopsF peak)も稼働しており、3機体制となった。JUGENEの写真は(HPCwire 2010/6/28)から。

2) CSCS
スイス国立スーパーコンピュータセンターCSCS (Centro Svizzero di Calcolo Scientifico) は、2009年6月4日、ピーク141.8 TFlopsのMonte Rosa (Cray XT5)を稼働させた。(HPCwire 2009/6/4) 2009年6月のTop500では、コア数14740、Rmax=117.6 TFlops、Rpeak=141.5 TFlopsで23位に位置している。その後増強し、2009年11月のTop500では、コア数22032、Rmax=168.7 TFlops、Rpeak=211.5 TFlopsで21位にランクしている。

3) Intel Labs Europe
2009年11月18日、大規模コンピューティングの課題を研究するため、Intel Labs Europeがフランスの3つの機関と協力することが明らかになった。3つの機関とは、フランス原子力庁(CEA)、大型集中計算施設(GENCI)、ベルサイユ・サン・カンタン大学である。Intel社は3年間の提携に数百万ドル規模の資金を投じると同社は述べている。Intel社のSteve Pawlowski氏は、声明の中で「フランスはヨーロッパにおける高性能コンピューティング研究を牽引する重要な役割を担ってきた。われわれがこの3つの機関と協力することを選んだのは、エクサスケールでの高性能コンピューティングにおいて世界的水準のソフトウェア能力を有しているからだ」と述べた。(CNET Japan 2009/11/20)

2009年現在、Intel社は欧州委員会から独占禁止法違反で€1.06B ($1.58B)の制裁金を課せられ、上訴中である。

4) ロシア
文部科学省科学技術政策研究所の『科学技術動向』2009年9月号の記事「ロシアにおけるスーパーコンピュータの開発強化の動き」によると、2009 年7 月28 日に開催されたロシアの安全保障理事会において、ロシアのメドベージェフ大統領は、ロシアの競争力強化を目標に、国内でのスーパーコンピュータの需要と利用を高めるべきであると述べた。ロシアが保有するスーパーコンピュータのシステム数と性能合計は、増加傾向にあるが、米国の1/50 以下、ドイツ・英国・フランス・日本・中国などの1/3 以下である。これに対し、メドベージェフ大統領は、ロシアの競争力の強化を目標に、ロシア国内でのスーパーコンピュータの需要と利用を高めるべきであると述べた。全ロシア実験物理学学術調査研究所は、2011年迄に1 PFlopsのスーパーコンピュータの開発を明らかにしており、ロシア政府から25 億ルーブル(約75 億円)が拠出される予定である。

中国の動き

1) 自主開発
科学技術政策研究所発行の『科学技術動向』2009年2月号の記事「中国におけるスーパーコンピュータの自主開発への動き」によれば、中国では、スーパーコンピュータの導入と開発が強化されているとのことである。今までTOP500リストに登場した中国の15システムをみると、中国製は2システムのみで、しかもそれらには米国製のCPUチップが採用されていた。

しかし、この状況にも変化が見られる。2008年12月3日に中国企業の曙光信息産業有限公司は、中国科学院計算技術研究所と共同開発中のペタフロップス級スーパーコンピュータ「曙光6000」に、中国製のCPUチップ(名称は「龍芯」、英語名:Loongson)を採用する計画を明らかにした。中国製のスーパーコンピュータに初めて自国製のCPUチップが採用されることになる。このCPUチップは、65 nmの微細化プロセスルールで製造した4つのコアを内蔵するもので、すでにチップは完成し、近く量産に入るとのことである。このCPUチップに関しては、2008年8月に開催された国際会議「HOT CHIPS 20」において、アーキテクチャに関する論文が中国科学院計算技術研究所から発表されている。2009年6月、MIPS Technologies社と正式なライセンス契約を結んだ。

以上の動きに続いて、2008年12月18日には、中国内の10社が発起機関となる中国高性能計算機産業連盟が設立された。国の安全と経済にスーパーコンピュータが果たす役割は大きいとの認識から、スーパーコンピュータ分野の自主革新を支援することを目的としている。連盟の設立の背景としては、国防・情報セキュリティ・石油探鉱・天気予報・バイオ製薬・科学計算・商業計算などの分野で、スーパーコンピュータを使用する要望が多いが、中国のスーパーコンピュータ市場の大半は外国企業に占められている現状がある(工業・情報化部局(工業和信息化部科技司)による報道)。今後の中国の動きに注目したい。(ASCII.JP 2009/4/21)

2009年4月28日、江蘇省常熟市で龍芯コンピュータの初めての政府調達契約を締結した。

2) 中国科学院(龍芯)
中国科学院の胡偉武が、2001年より率いてきた龍芯プロジェクトは、MIPSベースの命令セットアーキテクチャを採用しているが、MIPS Technologiesが特許をもついくつかの命令を欠いているということでライセンスを得ていなかった。今後中国国外に販売する場合にはMIPS Technologiesの特許に抵触する可能性があることから、2009年6月15日、中国のICT (Institute of Computing Technology)はMIPS Technologies社とMIPS32およびMIPS64アーキテクチャについて正式にライセンス契約を結んだと発表した

3) 天河1号
湖南省長沙市の国防科学技術大学は、2009年10月29日にスーパーコンピュータ天河一号(Tianhe-1)を発表した。CPUとしてはIntel社のXeon E5540/E5450 6144個を採用し、GPUとしてAMDのATI Radeon HGD 4870X2を5120個加えている。面白い組み合わせである。ノードは2個のIntel Xeonプロセッサと2個のAMD GPUで構成されている。Rpeak=1206.2 TFlops、Rmax=563.1 TFlopsで2009年11月のTop500で堂々5位にランクされた。中国初のピーク1 PFlops越えのマシンである。Rmax/Rpeak =0.467という値はかなり低く、アプリの開発はかなり苦労するものと予想される。国防科学技術大学のZhou Xingming教授は、今後何千もの中国製のチップを付加して性能を上げ、Rmaxで800 TFlopsを実現する、と述べた。この中国製チップはGodson-3ではないかと推測されたが、実際は違った。(HPCwire 2009/10/29)(共同通信 2009/10/29)(Science Portal China 2009/10/30)(Science Portal China 2009/12/28)

このスーパーコンピュータは、2006年に国務院が発表した「国家中長期科学技術開発計画概要(2006-2020)」に由来する「核高基(Hu Gao Ji)」という国家プロジェクトの成果の一つである。(野村稔 科学技術動向2011/9-10

4) 国立スーパーコンピュータセンター
2009年から、国立(あるいは国家)スーパーコンピュータセンター(国家超級計算中心)が始まった。これは中華人民共和国科学技術部の承認を得て設立された高性能計算機関である。2009年5月には、国立天津スーパーコンピュータセンターと国立深圳(しんせん)スーパーコンピュータセンターが最初の2センターとして発足した。ちなみに、上海スーパーコンピュータセンターは、2000年に中国政府でなく、上海市からの予算で設立された。その後は中国政府の資金も投入されている。

その後、2024年ごろまでに設立されたセンターは以下のとおり。資料は百度百科Wikipediaなど。設立年月日については、承認の日なのか、竣工の日なのか、コンピュータが稼働した日なのか、不明である。設置スーパーコンピュータも詳細は不明である。

センター名

承認/設立

場所

 

天津センター

2009年5月

天津市濱海新区

国防科学技術大学と協力。天河1号、天河3号原型機

深圳センター

2009年5月

 

星雲(Dawning TC3600)、別名「深圳クラウドコンピューティングセンター」

長沙センター

2010年11月28日

湖南大学

天河1号、天河新世代?

済南センター

2011年10月27日

 

神威藍光、神威E級超算原型機

広州センター

2014年

中山大学

国防科学技術大学と協力。天河2A号。天河星逸。

無錫センター

2016年6月

無錫市蠡園経済開発区

神威太湖之光

鄭州センター

2020年3月

蘇州大学

(全国7番目)

昆山センター

2020年

 

(全国8番目)

成都センター

2021年

興隆湖畔

2009年12月28日竣工。2019年建設開始、2020年9月稼働、2021年国立センターに組み込まれた。曙光6000A?

西安センター

2020年8月

 

(全国11番目?)

太原センター 

2022年3月

山西省

太航1号

 

5) 国立天津スーパーコンピュータセンター
中国科学技術部は2009年5月に国立天津スーパーコンピュータセンター(天津国家超級計算中心)の設立を認可し6月に設立された。初期投資は6億元(約96億円)である。これは、最初の国立スーパーコンピュータセンターであり、天津市濱海新区(天津市に位置する副省級市轄区)と国防科学技術大学が共同で立ち上げた。

天河一号は、天津センターのホストコンピュータである。2010年1月13日には、全体の1/16が移設され、試験運用を開始したとの報道があった。重点ユーザとして天津市気象局、中海油データセンタ、国家アニメ漫画産業総合示範園区、天津国際生物医薬聯合研究院などが参加しているとのことである。

しかし、中国のInspur社により再構築が進められ、2010年11月までには天河1Aに転換してトップを取っているので、天河一号として実際どの程度使われたかは不明である。もしかしたら、最初からGPUをAMD社のRadeonからNVIDIA社製に取り換えて、天津に搬出していたのかもしれない。この推測が正しければ、天河一号はTop500の5位という記録達成だけが目的のシステムであったということになる。中国の報道では、意図的かどうかは知らないが、天河1号と天河1A号を区別しないで天河1号として報道している。前者はAMD社のGPU、後者はNVIDIA社のGPUを搭載している。

6) 国立深圳(しんせん)スーパーコンピュータセンター
JSTの中国総合研究交流センター第17回研究会(2009年6月25日)の発表「中国の電子情報通信」(鄧 納)によると、2009年6月4日、中国科学技術部が国立スーパーコンピュータ深圳センターの設立を正式に認可したと公表した。2億元を投資し、2010年末までに深圳で1 PFlopsの演算能力を持つスーパーコンピュータの運用をスタートする計画である。

7) 成都
2009年12月7日付けの人民日報英語版によると、四川省の成都(Chengdu)にスパコンセンターが出来るとのことである。この段階では国立スーパーコンピュータセンターではないが、2021年に国立スーパーコンピュータセンターに組み入れられる。曙光信息産業有限公司は成都市政府と協力して、5000万元を投資し、成都ハイテク工業団地の中に中国第2のスーパーコンピュータセンターを建設するとのことである。設置する計算機Dawning 6000Aは、中国製の龍芯3号(Godson-3)プロセッサを搭載し、1 PFlopsの性能をもつ。(HPCwire 2009/12/8

上海に2008年9月に100 TFlopsの性能をもつが設置されて以来、中国中でスーパーコンピュータやクラウドサーバが続々設置されている。

2009年12月31日付けの朝日新聞は、「成都クラウド・コンピューティング・センター」の第1期工事が12月28日、正式に竣工したと報じている。これは、国内で初めて企業が投資、運営、管理を行い、政府調達サービスの形で運営されるスーパーコンピュータセンターであり、スパコンセンターの新しい商業化運営モデル構築の先駆けとなるとのことである。同センターの建設は、成都市政府と曙光信息産業有限公司が今年4月の成都第7回中国国際IT協力座談会で、政府と企業のウィンウィン運営モデルを実現しようと協議が行われ、合意に達したものである。

両者は同じものを指しているようである。

8) China HPC Top100
2009年11月に、第8回目となるChina HPC Top100 2009が発表され、これまで7年連続で台数首位を占めていたHewlett-Packard社が曙光公司に敗れた。内訳は以下の通り。中国の会社が製造したのは半数弱であり、いずれもCPUはアメリカ製である。(Science Portal China 2009/11/13)

会社

台数

曙光

27機

IBM

26機

HP

23機

浪潮 (Inspur)

6機

DELL

4機

聯想 (Lenovo)・神威 (CLAMP)・宝徳

各3機

国防科技大

2機

SUN・北京計算センター・SGI

各1機

 

10位までを記す。性能の単位はTFlopsである。Top500は2009年11月のTop500での順位を示す。

順位

Top500

設置場所

製造

機種

Cores

Rmax

Rpeak

1

5

国家超級計算天津中心

国防科大

天河一号/3072×2 Intel Quad Core Xeon E5540 2.53GHz/ E5450 3.0GHz+ 2560 ATI Radeon 4870X2@575MHz/ Infiniband

24576

563.1

1206.21

2

19

上海超級計算中心

曙光

魔方/曙光5000A/1920×4 AMD QC Barcelona 1.9GHz/DDR Infiniband/WCCS+Linux

30720

180.6

233,472

3

43

中国科学院超級計算中心

聯想

深腾7000/1240×2 Intel Xeon QC E5450 3.0GHz/140×4 Intel Xeon QC X7350 2.93GHz Infiniband 4xDDR

12160

106.5

145.293

4tie

131tie

網絡公司

IBM

BladeCenter HS22 Cluster/Intel Xeon QC GT 2.53 GHz/Giga-E

7168

38.79

72.54

4tie

131tie

網絡公司

IBM

BladeCenter HS22 Cluster/Intel Xeon QC GT 2.53 GHz/Giga-E

7168

38.79

72.54

4tie

131tie

網絡公司

IBM

BladeCenter HS22 Cluster/Intel Xeon QC GT 2.53 GHz/Giga-E

7168

38.79

72.54

163

Telecomm. Company

HP

Cluster Platform 3000 BL480c, Xeon 5405 2Ghz, GigE

8296

34.9

66.4

7

204

南京大学

IBM

IBM BladeCenter HS22 Cluster/400×2 Intel Xeon 5550 2.66GHz/Infiniband

3200

31.31

34.048

8

 

計算物理国家重点実験室

曙光

曙光5000/420×2 Intel Quad Core 3.0GHz/DDR Infiniband

3360

31.48

40.32

9tie

210tei

網絡公司

IBM

BladeCenter HS22 Cluster/Intel Xeon QC GT 2.53 GHz/Giga-E

5376

31.03

54.41

9tie

210tie

網絡公司

IBM

BladeCenter HS22 Cluster/Intel Xeon QC GT 2.53 GHz/Giga-E

5376

31.03

54.41

9tie

210tei

網絡公司

IBM

BladeCenter HS22 Cluster/Intel Xeon QC GT 2.53 GHz/Giga-E

5376

31.03

54.41

9tie

210tie

網絡公司

IBM

BladeCenter HS22 Cluster/Intel Xeon QC GT 2.53 GHz/Giga-E

5376

31.03

54.41

 

前回はゲーム会社が目立ったが、今度はネットワーク会社が目立つ。

9) 曙光公司(曙光6000)
新華社のオンライン版新華網が2009年7月6日に伝えたところによると、曙光信息産業有限公司は5日、中国科学院計算技術研究所と共同で開発中の高性能スパコン「曙光6000」の開発は順調に進んでおり、来年には発表され、国立華南スーパーコンピュータセンター(深圳センターのことか?)に導入される予定である。(Science Portal China 2009/7/6)

同社によると、「曙光6000」の演算処理速度は最高で1 PFlopsを超えるとされる。同スパコンは初めて国産CPU「Loongson(龍芯)」を使用。これまでの国産スパコンでは最も核心となるCPUでは独自の製品を採用したことがなかった。歴軍(Li Jun)総裁によると、「曙光6000」は現在順調に開発が進められており、2010年に発表予定。これが完成すれば、国産CPUの採用によって技術的な障害がなくなり、スーパーコンピュータのクラスタリング構造がペタフロップス時代に適応した改造を実現するという2つの飛躍が遂げられることになる。歴総裁はまた、「第11次五カ年計画」期間中に、中国科学院計算技術研究所がマルチコア・マルチスレッドプロセッサの高性能CPUを打ち出せば、1000 TFlopsの「曙光6000」に 応用できるだけでなく、低消耗の高性能サーバも構築でき、スパコンの全国産化が早まると紹介した。

景気のいい話であるが、眉につばをつけて聞いたほうがよいであろう。

次回は、世界の学界での動きや国際会議(その一)について記す。

 

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