HPCの歩み50年(第98回)-2003年(d)-
日米性能評価ワークショップの延長で、日米計算科学Round TableがハワイのHawaii島Konaで開催された。地球シミュレータを含めた日米の協力について議論した。グリッドについては様々な国際会議が世界各地で開かれている。
世界の学界の動き(グリッド関係)
1) GGF
GGF7, GGF8, GGF9については「標準化の動き」のところに記した。
2) GlobusWORLD
第1回のGlobusWORLD会議が、2003年1月13~17日に米国San Diegoのthe Hilton San Diego Resortで開催され、25カ国から約450人が参加した。参加した中島研吾の参加報告のスライドが残っている。大学や政府機関の関係者が240人、産業界が150人とのことである。アメリカ以外の出席者は約100人。Globusによるグリッド利用が、科学技術だけでなく産業界にも広がっているとのことである。Ian Fosterは、グリッドの標準化とアーキテクチャ(OGSA)を強調した。
1995年にANL、Southern California大、Chicago大により始まったGlobus Projectは、2003年9月に参加メンバにEPCC (Edinburgh Parallel Computing Centre、1990年設立)とPDC (Swedish Center for Parallel Computers、1989年設立)を加えてGlobus Allianceに発展した。EPCCはデータベース統合サービスに、PDCはセキュリティ技術に協力する。Globus AllianceはさらにAsia-Pacific地域を含む全世界から参加を期待している。
3) PRAGMA
2002年3月に始まったPRAGMA (The Pacific Rim Application and Grid Middleware Assembly)の第3回が、2003年1月23日~24日にthe Asia-Pacific Advanced Network Consortium Meetingに併設して福岡で開催された。主催は奈良先端科学技術大学院大学、大阪大学、Monash大学であった。組織委員長は関口智嗣(産総研)、副委員長はDavid Abramson (APAC)。
第4回のPRAGMAは2003年6月4日~5日に、ICCS2003に併設してオーストラリアのMelbourneで開催された。主催はMonash大学。組織委員長はDavid Abramson (APAC)、副委員長はFang-Pang Lin (NCHC)。
第5回のPRAGMAは、2003年10月22日~23日に、台湾の新竹(Hsinchu/Fushan)で開催された。主催はNCHC (National Center for High Performance Computing)。組織委員長はFang-Pang Lin (NCHC)、副委員長はKai Nan (CNIC, Computer Network Information Center, CAS)。
4) CCGrid 2003
CCGrid 2003 (The 3rd IEEE/ACM International Symposium on Cluster Computing and the Grid )は、2003年5月12日~15日に東京の都市センターホールで開催された。これは、IEEE Computer Society Task Force on Cluster Computer の主催により、国内外のクラスター・グリッド研究者、開発者、ユーザを一同に集め、クラスターとグリッドという2つの新しいパラダイムをめぐって、今後の研究と製品を推進する最新の技術革新や研究成果について発表および意見交換を行う国際シンポジウムであった。会議には以下の7つのWorkshopsが併設された。
–Global and Peer-to-Peer Computing on Large Scale Distributed Systems | ||
主催者: Franck Cappello, Universit Paris Sud, Orsay Cedex France; Spyros Lalis, Institute of Computer Science, Greece | ||
–GridDemo 2003 | ||
主催者: Peter Kacsuk, MTA SZTAKI and Univ. of Westminster; Rajkumar Buyya, Monash University, Melbourne, Australia | ||
–DSM2003: Distributed Shared Memory on Clusters | ||
主催者: Laurent Lefevre, RESAM/INRIA, Lyon, France; Michael Schoettner, University of Ulm ,Germany | ||
–Agend based Cluster and Grid Computing | ||
主催者: Omer Rana, Cardiff University, Wales, UK; Sven Graupner, Internet and Computing Platforms Research Center, USA | ||
–Parallel I/O in Cluster Computing and Computational Grids | ||
主催者y:Jemal H. Abawajy, Carleton University, Otawa, USA | ||
–Grids and Advanced Networks (GAN’03) | ||
主催者: Laurent Lefevre and Pascale Primet, RESAM/INRIA, Lyon, France; Craig Lee, the AeroSpace corp., California, USA | ||
–BioGrid’03 | ||
主催者: Chun-Hsi Huang University of Connecticut, USA; Eugene Santos University of Connecticut, USA |
世界の学界の動き(会議)
ISC2003とSC2003は別に記す。
1) Japan-US Computational Science Roundtable
前に述べたように、US-Japan Performance Evaluation Workshopが、1991年8月にKauai島で、1994年9月にKona(Hawaii島)で、1995年8月に別府で(PERMEAN’95として)開催された。その後しばらく動きはなかったが、2002年12月頃、アメリカ側の座長であったGary Johnsonから関係者に連絡があり、US-Japan Computational Science Roundtableを1月12日晩~15日に第2回と同じKonaのHilton Waikoloa Villageで開こうということになった。事務局はThe Krell Instituteであった。
これまでは性能評価が中心テーマであったが、今回のテーマは計算科学で、日本もアメリカも、大きな実験科学が幅を効かせている中で、どうやって計算科学を振興させようか、またそれに必要な計算リソースをどう確保しようか、ということを議論しようということであった。Garyによれば、“Promote and facilitate collaborative computational science research activities among researchers from our two countries”とまとめていた。当然のことながら「地球シミュレータ」の稼働がその背景にあり、「アメリカにも使わせてくれ」という雰囲気を感じた。直前の2002年暮れから動き始めたので、準備の時間が短く、日米とも参加者の確保に苦労した。
手元の不正確な記録によると、日本側の参加者は、関口智嗣(産総研),横川三津夫(産総研),松岡聡(東工大),岸本泰明(原研)、林隆也(核融合研)、小柳義夫(東大)、佐藤哲也(地球シミュレータ)。アメリカ側の参加者は、Lawrence Buja (NCAR), Stephen C. Jardian (Princeton Plasma Physics Laboratory), Gary Johnson (DOE, Office of Science),Alan Laub (DOE, Office of Science), Bob Malone (LANL), Reinhold C. Mann (PNNL), Jeff Nichols (ORNL), C. E. Oliver (DOE, Office of Science), Horst Simon (LBNL), Michael Strayer (ORNL), James Tomkins (SNL) だったと思う。たしかKrell Instituteの方もおられたと思う。
ただ問題は、アメリカ側の出席者には Gary Johnson にしても、そのボスの Oliver にしても、政策や予算を動かす実力をもつ人物が いるのに対し、日本側は研究者ばかりで、多少選考や評価に関与するにせよ、彼らほどの政治力がないことである。だいたい、日本にはかれらのような研究者で政策的な力をもつという人物像がない。逆に文部省や学振やJSTのだれかを連れて行っても、どうであろうか。このアンバランスは、最初から分かっているが、本質的な問題である。
プログラムは大略以下の通りであった。
1月13日(月)
8:30 | C. E. Oliver (DOE, OS) | 開会挨拶 |
9:05 | Gary Johnson (DOE, OS) | General Purpose |
Reinhold C. Mann (PNNL) | Computational Science Projects in PNNL—A Summary | |
Horst Simon (LBNL) | NERSC Overview | |
Jeff Nichols (ORNL) | The DOE Center for Computational Sciences | |
James Tomkins and Bill Camp (SNL) | Sandia HPC Resources | |
10:45 | Yoshio Oyanagi (U. Tokyo) | HPC Resources and Computational Sciences Projects in Japan |
11:10 | Tetsuya Sato (JAMSTEC, ES Center) | The Earth Simulator and International Collaboration |
11:40 | Satoshi Matsuoka (Titech) | Building a Plateau of Petascale Computing Infrastructure: A Proposal for Japanese University Supercomputer Centers |
11:57 | Satoshi Sekiguchi (AIST) | Grid Technology |
14:00 | Michael Strayer | Supernova Science |
15:00 | Yasuaki Kishimoto | NEXT (Numerical EXperiment of Tokamaks) activities at JAERI |
15:32 | Stephen Jardin (Princeton) | US/Japan Collaboration Opportunities in Computational Fusion Science |
15:59 | Takaya Hayashi (NIFS) | Large-scale Computer Simulation Research on Fusion Science and “Simulation Science” at NIFS |
16:20 | Bob Malone (LANL) | Ocean and Climate Modeling |
16:45 | Lawrence Buja (NCAR) | Computational and Data Infrastructure needs for Climate Simulation |
14日(火)
8:00 | Gary Johnson (DOE, CS) | The Applications Performance Matrix |
8:40 | Alan Laub (DOE, OS) | SciDAC: Scientific Discovery through Advanced Computing(何とOHP) |
9:30 | Collaboration talks | |
10:50 | Jose Munoz | (映画)HPCS: High Productivity Computing Systems |
午後 | 自由行動 |
15日(水)
8:00 | 報告書の作成、今後の進め方、ベンチマーク、資源の相互利用 | |
9:55 | 報告書の議論、まずHPC Resourcesの総論を書き、あとは分野別(宇宙物理、核融合、気象など) | |
午後 | 自由行動 |
議論の中で、日本側から「なんで日本のマシンを買わないのか。すでに存在しているし、割引もするであろう。SciDACにも役立つのではないか。最初は日本のマシンを買って、そのうちにアメリカのマシンが育ったら次にはそれを買ったらいい。」などという上から目線の発言もあった。アメリカ側からは一言「$400Mは高いよ」。Simonは「NERSCの調達のときに日本の会社も考慮したが、NCARの例にあるようにpolitical costが高すぎる。」と発言。本音であろう。
アメリカ側の誰かから、「昔、DARPAが多くのアーキテクチャを育てたが皆死んでしまった。この轍を踏んではならない。」という発言もあった。CrayのベクトルやTMCのことなどを言っているのか。
両国の協力については、高エネルギー物理学や核融合のような正式の日米協力の枠組みを作る必要があるという話になったが、トップダウンで考えるかボトムアップで考えるか、両方の意見が出た。筆者はexpertiseの共有から始めるべきであると主張した。
今回筆者は家内を同伴したが、車でキラウェア火山まで足をのばしたり、すばる望遠鏡を見に行ったりした。実は国立天文台の友人がすばるで働いていて案内してくれるという話だったのだが、直前に日本に出かけており、やむを得ず有料で業者のツアーに参加した。おきまりのコースで、まずマウナケアの中腹にあるOnizuka Visitor Center(標高2800m)で体を慣らし、防寒服に身を固めて標高4200mの頂上近くの望遠鏡の建物を外側から見た。友人の案内なら中まで入れた所であった、残念。寒い上に風が強く、空気も薄いので立っているのがやっとであった。すぐ下まで降り、標高1000mぐらいのところで反射望遠鏡で天体観測をした。土星や木星がきれいに見えた。案内のハワイ人が日本語ぺらぺらで、「皆さん、宇宙人はいると思いますか?」と質問。参加者「‥‥」。案内「僕はいると思います。われわれが宇宙人です。」
2) IPDPS 2003
IPDPS 2003 (17th Annual International Parallel & Distributed Processing Symposium)は2003年4月22日~26日にフランスのNice Acropolis Convention Centerで開催された。主催者はINRIA, CNRS および Nice大学。
3) ICCS 2003
ICCS 2003 (THE 3rd INTERNATIONAL CONFERENCE ON COMPUTATIONAL SCIENCE)が2003年6月2日~4日に、オーストラリアのMelbourneとロシア連邦のSt. Petersburgの2カ所を会場に同時開催された。趣旨は数学やコンピュータ科学の研究者と、種々の応用分野の研究者とが一同に会し、学際計算科学を構築しようとことのようである。2カ所開催はこの回だけのようである。
27件のworkshops(10件がSt. Petersburg、17件がMelbourne)が併設された。
基調講演はDmitry K. Ofengeim and Alexander I. Zhmakin, “Industrial Challenges for Numerical Simulation of Crystal Grouth”など6件。
4) ICS’03
ACM/SIGARCHが主催するICS’03 (17th International Conference on Supercomputing)は、2003年6月23日~26日にSan Francisco市内で開催された。基調講演は、Louis Christodoulides (Vodafone)の“Wireless Networks… What Does the Future Have in Store?”と、James E. Smith (Wisconsin大学)の“Is There Anything Left to Learn About High Performance Processors?”であった。ProceedingはACMから発行されている。
5) OpenMP関係
WOMPAT 2003 (Workshop on OpenMP Applications and Tools)が、6月26日~27日にカナダのTorontoで開催された。基調講演はManish Gupta (IBM T.J. Watson)。
WOMPEI 2003 (International Workshop on OpenMP: Experiences and Implementation)は、第5回ISHPC (International Symposium on High Performance Computing) 2003に併設して2003年10月20日~22日に東京台場の東京ファッションタウンで開催された。組織委員長は佐藤三久(筑波大)とEduard Ayguade (Technical University of Catalunya)。
EWOMP 2003 (Fifth European Workshop on OpenMP)は、2003年9月22日~26日にドイツのAachen大学で開催された。
6) ICIAM 2003
応用数理国際会議 (International Congress on Industrial and Applied Mathematics, ICIAM 2003) は、2003年7月5日~11日に7月7日から11日までオーストラリアのシドニー国際会議場で開催され、筆者も参加した。この会議は、米国のSIAM (Society for Industrical and Applied Mathematics)やJSIAM(日本応用数理学会)のアンブレラ組織であるICIAMが主催し、4年毎に開かれている。今回1770人が参加し、26の招待講演のほか43もの分科会やミニシンポジウムがあり、原著講演が1692件もあるなどなかなか盛会であった。日本からも100人ほど参加したと思われる。会場は国際会議場だけでは足りず、徒歩10分ほどのところにあるシドニー工科大学の教室も使っていた。招待講演集“Applied Mathematics Entering the 21st Century: Invited Talks from the ICIAM 2003 Congress”がSIAMから出版されている。
筆者は、物理学、HPC、コンピュータ科学など様々な国際会議に参加したことがあるが、それぞれ独自の文化を持っておりやり方は全然違う。カルチャーショックを覚えることも多い。このシリーズは始めての参加であるが、4年毎の開催など数学の伝統に沿っているようである。コンピュータ関係だったら4年間隔の開催など考えられないであろう。GGFなど年3回である。
さてこの会議は International Congress on Industrial and Applied Mathematics という名称であるが、漠然とした印象として、”applied mathematics”はあるが、”industrial”という面が薄いなという感じがした。大きな会議であり、招待講演でさえ3並列で、分科会も多数あるのでなかなか全体像は掴めないが、多くの原著講演は産業への意味などほとんど論じないし、いくつかの招待講演では産業への有用性が語られていたが、筆者には何か産業界への「片想い」のように思われた。長期的な視点では何か寄与するところはあるであろうが、工業数学を看板にした会議としてはどうであろうか。また、全体的にコンピュータの技術に依存している割には、それへのアプローチが甘いなという感じがした。
マルチグリッド法を含む前処理付き反復解法関係のセッションはたくさんあり、それだけで終ってしまうほどである。分科会で興味を引いたものとしては、M. Gutknechtらの企画した新しい前処理のセッション、L. Trefethenが企画した擬スペクトルのセッション、L. Stalsらの企画したマルチグリッド法のセッション、A. WathenとI. Duffの企画した拡大方程式系のセッションなどがある。
招待講演で印象に残ったのは、H. van der Vorstの反復法に関する講演と J. Demmelの高精度浮動小数演算に関する講演などである。Sidneyは2回目であるが、各国の参加者としゃべったり、日本ではあまり会わない日本人と議論したり、市内を観光したり、楽しい一週間を過ごせたのは大きな収穫であった。
7) CCP2003
IUPAPの下に実施される計算物理に関する国際会議CCP2003 (Conference on Computational Physics 2003)は中国の西安で7月に計画されていたが、SARSの蔓延により2004年5月に延期された。その時点で蔓延が収まらない場合は中止となる。2004年にはヨーロッパを中心とした会議CCP2004が9月にイタリア予定されており、計算物理の会議が2つ開催されることになる。
8) ParCo2003
ParCo2003 (Parallel Computing 2003 Conference)は、Dresden工科大学で2003年9月2日~5日に開催された。会議録はElsevierから出版されている。この会議は第1回のBerlin (1983)以来、ヨーロッパを中心に開かれている。」
9) ISHPC-V
ISHPC-V (The 5th International Symposium on High Performance Computing)は、東京台場の東京ファッションタウンで、2003年10月20日~22日に開催された。WOMPEI (International Workshop on OpenMP: Experiences and Implementation) 2003が併設して開催された。会議録はLNCS 2858, Springerとして発行されている。
10) ICPACE2003
International Conference on Parallel Algorithms and Computing Environments (ICPACE)が10月8日~11日に香港の中文大学(Chinese University of Hong Kong)で開催された。筆者は“The Multi-Grid Preconditioned Conjugate Gradient Methods”という講演を予定していたが、直前にぎっくり腰が悪くなりキャンセルした。中国復帰後の香港を見たかったが残念であった。
11) Cluster2003
Cluster 2003 (2003 IEEE International Conference on Cluster Computing)は、12月1日~4日に香港のSheraton Hong Kong Hotel & Towersで開催された。
次はドイツのHeidelbergで開かれたISC2003について。筆者は出席しなかったが、地球シミュレータをめぐってホットな議論が行われたようである。
(タイトル画像: Globus WORLDロゴ 出典:Globus WORLDホームページ)