世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


7月 10, 2017

HPCの歩み50年(第127回)-2006年(c)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2006では、6つの分科会が2つずつ並列で開催され、各分科会から出された提言をまとめて、シンポジウムとしての提言を発表した。総合科学技術会議の事前評価のフォローアップにおいては、事前評価で指摘された事項への対応状況が報告された。

次世代スーパーコンピュータ開発(続き)

9) 立地検討部会
2006年7月、改正供用法が施行され、理研がスーパーコンピュータの設置者と公式に規定されると同時に、理研は次世代スーパーコンピュータの立地選定の基本方針を決め、7月7日、立地候補地をリストアップするための立地調査を開始した。7月11日、立地検討部会を設置した。委員は以下の通り。

氏名 所属
(部会長)黒川 清 内閣特別顧問(日本学術会議会長(設置当時))
(副部会長) 土居 範久 中央大学理工学部教授
今村 努 独立行政法人海洋研究開発機構理事
梶谷 文彦 川崎医療福祉大学教授
川本 要次 スーパーコンピューティング技術産業応用協議会スーパーコンピュータ部会長(三菱重工㈱高砂研究所次長)
高田 章 スーパーコンピューティング技術産業応用協議会運営小委員会委員長(旭硝子㈱中央研究所主幹研究員)
高橋 英明 ㈱三菱総合研究所安全科学研究本部長
刀根 薫 政策研究大学院大学リサーチフェロー
中村 宏樹 自然科学研究機構分子科学研究所所長
福山 秀敏 東京理科大学理学部教授
三浦 謙一 情報・システム研究機構国立情報学研究所教授
矢川 元基 東洋大学教授/日本原子力研究開発機構システム計算科学センター長
渡邉 豊英 名古屋大学情報連携基盤センター長
渡邉 敏正 広島大学情報メディア教育研究センター長

 

理化学研究所は、次世代スーパーコンピュータ施設の立地候補地を選定するための調査を実施した。理化学研究所の各事業所及びこれまで次世代スーパーコンピュータ施設の誘致に関して要望等を出していた地方公共団体に対して行い、調査票を発出した。それ以外の地方公共団体からも受け付ける。締め切りは7月20日であった。候補地は北海道から九州まで15カ所であったが、議論の経緯は以下の通り。

日付 会議 主な議論
2006年7月25日 第1回立地検討部会 評価方法と手順の検討、評価項目設定の検討
2006年8月29日 第2回立地検討部会 評価項目、評価基準等の検討
2006年9月29日 第3回立地検討部会 評価項目、評価基準等の決定
  第1回重み付けWG会合  
  第1回評点付けWG会合  
2006年10月23日 第2回重み付けWG会合  
2006年11月25/26日 誘致団体からのヒアリング 第23回評点付けWG会合開催
2006年11月27日 第4回立地検討部会開催 評価結果の中間とりまとめの検討
2006年12月28日   15の候補地を5地点に絞り込み
2007年1月29日~2月16日 委員による現地調査  
2007年3月13日 第5回立地検討部会 評価結果及び報告書案の検討
2007年3月23日   報告書最終とりまとめ

 

立地決定は誘致希望者も多く政治問題にもなりかねないので、客観的・科学的な観点から検討した経緯は「次世代スーパーコンピュータ施設立地評価報告書」にきわめて詳細に記録されている。

10) 次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2006
「次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2006」が2006年9月19日~20日、丸の内にある明治安田生命ビルのMY PLAZAホールおよびMY PLAZA会議室で開催された。昨年に引き続き2回目であった。プログラムが公開されている。主催は理化学研究所、共催は文部科学省、国立情報学研究所、内閣府、経済産業省、日本学術会議、日本経済団体連合会、各学会等が後援。

開会挨拶は、理研の野依良治理事長、河本三郎文部科学副大臣、国立情報研の坂内正夫所長が行い、来賓として尾身幸次スーパーコンピュータ推進議員連盟会長、渡海紀三郎科学技術立国調査会会長、後藤茂之スーパーコンピュータ推進議員連盟事務局長、小林温経済産業大臣政務官、清水一治内閣府大臣官房審議官(科学技術政策担当)などそうそうたる面々があいさつした。

基調講演は、日産自動車株式会社 技術開発本部統合CAE部の鈴木盛雄部長が、「クルマの開発におけるCAEの役割と今後の可能性―計算スピードの飛躍的向上で何が変わるか―」と題して講演し、政策講演として、藤木完治文部科学省大臣官房審議官(研究振興局担当)スーパーコンピュ-タ整備推進本部長が、「スーパーコンピューティングの国家戦略」の講演を行った。また、評論家の立花隆氏が招待講演「ペタコン時代の『知』の行方」を行った。

前年とは異なり、6つの分科会が2つずつ並列で開催され、各分科会から出された提言をまとめて、シンポジウムとしての提言を発表した。各分科会のテーマとモデレータは下記の通り。

  テーマ モデレータ
分科会A(ライフサイエンス) 「生命科学の新たな可能性を拓く」 郷通子
分科会B(工学) 「シミュレーションが拓く知的モノづくりの夢」 小林敏雄
分科会C(ナノ・材料) 「量子シミュレーションが拓くナノの世界」 平尾公彦
分科会D(環境・防災) 「持続的発展と安全・安心な社会のために」 沖 大幹
分科会E(利用環境) 「サイバー・サイエンス・インフラストラクチャ(最先端学術情報基盤)の構築に向けて」 西尾章治郞
分科会F(物理・天文) 「理論・実験・観測と計算科学の展望」 小柳義夫

最後に全体討議「次世代スーパーコンピュータの利用と研究開発の新たな展開に向けて」が行われ、提言をとりまとめた。

会期中デモ展示も行われた。

11) 国立情報学研究所と基本協定締結
2006年10月19日、理化学研究所と国立情報学研究所は次世代スーパーコンピュータの利用及び先端的な情報基盤の構築のために基本協定を締結したことを発表した。情報学研究所は全国の大学・研究機関等を結ぶ学術情報ネットワーク(SINET サイネット/スーパーSINET)を運用し、広域分散型の大規模コンピュータ環境を実現するためのグリッドミドルウェア(NAREGI)をはじめとした、次世代の学術情報基盤としてのサイバー・サイエンス・インフラストラクチャ の構築に取り組んでいる。理研が次世代スーパーコンピュータに関して協定を結ぶのは、平成18 年6 月14 日に独立行政法人海洋研究開発機構(理事長:加藤康宏)、9 月8 日に国立大学法人筑波大学(学長:岩崎洋一)との締結に続いて、3 件目である。

12) 総合科学技術会議フォローアップ
2006年5月26日に開催された、総合科学技術会議評価専門調査会(第55回)において、大規模研究開発の一つである「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」について、事前評価のフォローアップを行うことがきまった。委員は以下の通り。

氏名 所属
柘植 綾夫 総合科学技術会議議員
伊澤 達夫 評価専門調査会専門委員
笠見 昭信
小林 麻理
土居 範久(座長)
浅田 邦博 東京大学大規模集積システム設計教育研究センター長・教授
天野 吉和 トヨタ自動車株式会社常務役員
小柳 義夫 工学院大学情報学部長
田中 英彦 情報セキュリティ大学院大学情報セキュリティ研究科長
森下 真一 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授

 

会議は3回行われた。なお、第3回は「フォローアップ結果」には書かれていない。

日付   主な議事
2006年8月30日 第1回 検討会の調査・検討の進め方について、指摘事項への対応状況等の説明、質疑応答
2006年9月11日 第2回 文部科学省からの追加説明、質疑応答、討 議、フォローアップコメントの提出について
2006年10月3日 第3回 まとめ

 

2006年10月5日に開催された、第59回評価専門調査会に「最先端・高性能汎用コンピュータの開発利用」のフォローアップ結果(案)が提出された。評価結果の概要は以下の通り。

平成17年度に実施した総合科学技術会議による事前評価で指摘された事項への対応状況について確認した結果、マネジメント体制の構築についてはメーカー、大学、研究所の三者による協力体制が確立され、ターゲットを明確にした開発の推進についてはターゲットアプリケーションが選定され、京速計算機システムの構成の最適化についてはシステム構成の練り直しが行われるなど、指摘に対応するべく積極的な取組が見られた。一方、一部の開発体制の確立、アーキテクチャ案の決定などについては作業の遅れが見られたため、取組結果を確認するには至らなかった。この検討作業の遅れは、フロントローディングの充実を図り、その一環としてシステム構成を基本に立ち返って検討し直すこととしたことによるものであり、文部科学省は、来春には概念設計を終了させるとともに、その後の開発スケジュールに遅れを生じさせないよう全力を挙げて取り組むべきである。

なお、概念設計が終了した後速やかに、今回取組結果を確認できなかった項目についての対応状況の確認と併せ、評価を実施する。

13) スーパーコンピュータ産業応用協議会
前年発足したスーパーコンピュータ産業応用協議会は、2006年12月15日に東大の生産研で公開シンポジウムを開催し、筆者が記念講演「スーパーコンピュータと計算科学技術」を行ったほか、パネルディスカッションなどが行われた。

14) PSIシンポジウム2006
九州大学は、富士通、(財) 福岡県産業・科学技術振興財団、(財) 九州システム情報技術研究所とともに、研究開発領域「将来のスーパー コンピューティングのための要素技術の研究開発」研究開発課題「ペタスケール・シ ステムインターコネクト技術の開発」(PSIプロジェクト)を実施していたが、2006年12月20日、理研の次世代スーパーコンピュータ開発開発実施本部のある明治安田生命ビルにおいて、前年に引き続きPSIシンポジウム2006を開催した。参加者165名。プログラムは以下の通り。

土居範久(中央大) プログラムディレクターご挨拶
Denis Noble (Oxford) 基調講演:Computational modeling of the heart: from genes to the whole organ
村上和彰(九大) プロジェクト全体概要
尾中 寛(富士通) 「光技術を用いた超高バンド幅スイッチング技術の開発」
石畑宏明(富士通) 「コレクティブ通信をサポートする高機能スイッチの開発」
南里豪志(九大) 「動的最適化を用いたMPI高速化技術の開発」
青柳 睦(九大) 「ペタスケール・システムインターコネクトの性能評価環境の構築」
朴泰祐(筑波大) 招待講演(全体総括)
三浦謙一(情報研) プログラムオフィサーご挨拶(全体総括)

 

次回は、次世代スーパーコンピュータ以外の日本政府関係の動きを述べる。

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