世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


9月 4, 2017

HPCの歩み50年(第133回)-2006年(i)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

SC06では渡辺貞がSeymour Cray賞を受賞するとともに、理研のグループがGordon Bell賞でHonorable Mentionをいただいた。

SC06

1) 全体像
SC06, the international conference of high performance computing, networking, storage and analysis(通称 Supercomputing 2006)は、19回目の今年、フロリダ州TampaのThe Tampa Convention Centerにおいて、2006年11月11日(土)から18日(金)まで開催された。会議名は毎年のように変わっているが、去年と比べては”Analysis”が加わった点が新しい。今年の会議の標語は、”Powerful beyond Imagination”で、これは

“Computers are incredibly fast, accurate and stupid; humans are incredibly slow, inaccurate and brilliant; together they are powerful beyond imagination.”

というアインシュタインの言葉に由来している。今年の参加者は昨年には及ばなかったものの、かなりの盛況であった。参加者数は、HPCwireの Michael Feldmanによれば9000以上とのことである。今年は工学院大学の推薦入学の時期に当たってしまい出席できなかったが、「SC2006不参加報告」を書いたので詳しくはこちらを。筆者が参加できなかったのは第1回、第4回、第12回、および今回の19回である。

日本関係でのニュースは、まず渡辺貞博士(日本電気→文部科学省スーパーコンピュータ整備推進本部副本部長→理研次世代スーパーコンピュータ開発実施本部、62)が、Seymour Cray賞を受賞したことであろう。また、理研のグループがGordon Bell賞でHonorable Mentionを取り、筑波大・KEKのグループがStorage Challengeで受賞したことも大きな成果である。原著論文では産総研のグループが1件採択され発表した。研究展示では日本から18件の出展があった。

2) 展示
Exhibitor Portalによると、今年は企業展示152件、研究展示106件、全体で258件があった(HPCwireでは総数274とある)。これらが適当に混じって所狭しとブースを出している。ただし今年は面積が200,000ft2(18,000m2)と昨年より狭く、展示スペースは相当制限されたようだ。

国別では、当然アメリカが最大の195件であるが、次が日本の22件、イギリス8件、ドイツ6件という所である。ただし、企業については、どこまで意味あるか不明(富士通はアメリカとして分類されている)。

今年の企業展示152件の、主催者による内訳は、Analytics (26) 、Communication (26) 、Data Management (42) 、Grid (66) 、Networking (66) 、Server (54) 、Software (72) 、Storage (65) 、Visualization (48) である。重複があるのでよく分からないが、展示数は昨年の171件から減ったにもかかわらず、どの項目でも昨年より増えている。PC Cluster Consortium 312 も、NPOであるが企業枠で出展していた。2003年に創業したばかりの省電力・省スペーススーパーコンピュータを製造するSiCortex社が注目されていた。資金集めにも効果があったようである。これはMIPS64アーキテクチャの6コアを搭載するチップを開発し、これを用いたスーパーコンピュータを開発する。2009年には活動を停止した。

3) 研究展示
全体で106件(昨年104件)であったが、そのうち日本からの研究展示は以下の18件であった。最後の数字はブース番号。

(1) Advanced Center for Computing and Communication RIKEN 651
(2) AIST 325
(3) Center for Computational Sciences, University of Tsukuba 339
(4) CMC – Cybermedia Center, Osaka University 443
(5) Doshisha University 348
(6) GRAPE Projects 951
(7) IIS – Institute of Industrial Science, University of Tokyo 1842
(8) ITBL 1250
(9) JAEA (Japan Atomic Energy Agency) 351
(10) JAXA (Japan Aerospace Exploration Agency) 851
(11) National Research Grid Initiative (NAREGI) 649
(12) Research Organization for Information Science and Technology (RIST) 2225
(13) Research Organization of Information and Systems 1556 (大学共同利用機関情報・システム研究機構、統計数理研究所が中心)
(14) Saitama Institute of Technology 2235
(15) Saitama University 2239
(16) T2K Open Supercomputer Alliance 1949
(17) Tohoku University 645
(18) University of Tokyo 1557 (平木研を中心)

ほとんどは常連であるが、今年の新顔は(13)と(16)である。なお、昨年展示を出して今年ないのは、九州大学、愛媛大学&NICT、eSocietyの3件である。ただし九州大学と富士通が共同研究している光インターコネクトは、富士通のブースで展示されていたとのことである。

4) 基調講演
今回の基調講演は、Kurzweil TechnologiesのRay Kurzweil氏による、”The Coming Merger of Biological and Non Biological Intelligence” であった。Abstractによると、以下のような講演を行ったようである。

「パラダイムシフトは10年ごとに倍増している。従って、21世紀中の変化は、今の速度で言えば2万年分の変化に相当する。計算、通信、バイオ技術、脳スキャン、人間の脳についての知識、つまり人間の知識全体は、もっと急速に変化している。これらすべては、費用効率比も、容量も、バンド幅も毎年倍増している。ムーアの法則はこのような多くの内在的な加速の一例に過ぎない。同時に、技術の主要なスケールは縮小している。それは10年でリニアスケールで4分の1である。3次元分子計算は2030年までに人間に匹敵する強力な人工知能のハードウェアを提供するであろう。そのためのソフトウェアは、人間の脳のリバース・エンジニアリングによって得られれるであろう。

我々は、生物学の基礎である遺伝子と呼ばれるソフトウェアプログラムを急速に学びつつある。我々は、病気も、加齢も情報過程として理解し、それをプログラムしなおすツールを獲得しつつある。例えばRNAの干渉によって特定の遺伝子のスイッチを切ることができ、新しい遺伝子セラピーにより実効的に新しい遺伝子を加えることさえできる。十年二十年の間に、病気や加齢の進行を止めたり逆行させることができるようになり、劇的な健康と長寿を享受することができるであろう。

製品やサービスのなかで、ソフトウェアや関連した情報の占める割合は急速に100%に近づきつつある。ハードウェアでもソフトウェアでも、情報技術のデフレ率は年当たり50%であり、これにより経済における価格低下を引き起こしている。経済のなかで、情報技術の占める割合自体も指数的に増大しており、二三十年のうちには、経済の大部分は情報とソフトウェアが占めるようになるであろう。

ひとたび、非生物学的な知性が人間の知性の広さと微妙さに到達すれば、情報に基づいた技術や、機械がその知識を瞬時に共有する能力が継続的に加速されることにより、人間の知性を凌駕するであろう。インテリジェントなナノ・ロボットは、環境とも、われわれの身体とも、またわれわれの脳とも深いところで統合され、非常な長命をもたらすだけではなく、すべての感覚を取り込み、経験を輝かせ、人間の知性を高める、完全没入型のバーチャル・リアリティができるであろう。その意味するところは、技術を創造する(人間という)種と、その生み出す進化過程との、完全な合体であろう。」(聞いたわけではないので、本当に何をしゃべったかは知らない)

5) 招待講演
今回は水曜日の夕方と木曜日の朝に、2件ずつ、計4件の招待講演があった。夕方に招待講演を行うのは最近はめずらしい。

(1) “Navy and Marine Corps High Performance Computing” Delores Etter, Assistant Secretary of the Navy for Research, Development and Acquisition
(2) “Open Source Software: A Powerful Model for Inspiring Imagination” Matthew J. Szulik, Red Hat
(3) “Real-time Supercomputing and Technology for Games and Entertainment” H. Peter Hofstee, IBM
Hofstee氏は、an IBM Distinguished Engineer and Chief Scientist for the Cell Broadband Engine family of processorsとある。Cell関係の中心的人物のようだ。
(4) “Chip Innovations and Computer Revolution” Tsugio Makimoto

木曜日の2人目は、牧本次生氏であった。牧本氏は、1959から1999まで日立、2000から2005までソニーに勤め、2005からはテクノビジョン・コンサルティングという自分の会社を創設した。牧本氏は、半導体の開発に長く携わり、いわゆる牧本ウェーブを提唱している。氏は、2005年12月に北京で開かれたHPC Asiaでも招待講演をされている。

6) Masterworks
この国際会議は、単にコンピュータの専門家だけではなく、応用の分野との幅広い交流を目指しているところが特徴であり、その一つの表れとしてMasterworksという招待ベースの講演がここのところ何年か企画されている。Masterworksは、さまざまは応用分野でのハイパフォーマンス計算技術を紹介するもので、今回は16の講演が、ほぼぶっ通しで行われた。

7) Technical Papers
今年のプログラム委員会には日本から誰も入っていないようだ。第10回(1997, San Jose)の時、筆者が加わって以来、ずっと日本人の誰かがプログラム委員会に入っていたが、途切れてしまった。

論文投稿総数は239、そこから54編が選ばれた。採択率は23%である。日本人が登壇した論文は、次の1件だけのようである。

“Sustainable Adaptive Grid Supercomputing: Multiscale Simulation of Semiconductor Processing across the Pacific”, Hiroshi Takemiya, Yoshio Tanaka, Satoshi Sekiguchi, Shuji Ogata, Rajiv K. Kalia, Aiichiro Nakano, Priya Vashishta

これは、産総研グリッド研究センター、名古屋工業大学、USCの共同研究によるもので、古典分子動力学、量子論的分子動力学の混成問題を、世界に広がったグリッド上で解く技術を開発したもので、日本発のグリッド・ミドルウェアNinf-Gが活用されている。

このほか、日本人が著者に入っている論文としては、

“Problem Diagnosis in Large-Scale Computing Environments”, Alexander V. Mirgorodskiy, Naoya Maruyama, Barton P. Miller

があった。これは東京工業大学松岡研究室の丸山直也氏が、ウィスコンシン大学に留学していた時に向こうの(当時)学生(Alexander Mirgorodskiy)と、Barton Miller教授の指導のもと行った研究成果をまとめたものとのことである。

なお、今年からは、Gordon Bell Prizeの最終候補の発表は、Technical Papersとは別のセッションとなった。Gordon Bell最終候補6件のうち4件は日本からであり、これを入れれば6件の発表があったことになる。

8) Seymour Cray賞およびSidney Fernbach賞
Supercomputingで出される賞のうち、この二つはIEEE ComputerSocietyが与える賞であり、特別な意味がある。2005年までは論文賞などとともに表彰されていたが、昨年からは、この二つだけ独立し、水曜日の朝に表彰式と受賞記念講演が行われるようになった。

(1) Seymour Cray Computer Engineering Award
Seymour Cray Award は、1996年10月に自動車事故で亡くなったSeymour Cray を記念して、1997年に設けられ、SGI社(当時Cray Research Inc. を併合中)はそのため20万ドルを拠金した。この賞は、コンピュータ・システムについて革新的なアプローチによって寄与したものに与えられる。第1回は1998年である。今年はうれしいことに、現在次世代スーパーコンピュータ開発実施本部のリーダーとして、次世代スーパーコンピュータの開発を進めている渡辺貞氏が受賞された。11月9日にこのニュースが発表された。授賞理由は、”For serving as lead designer of the NEC SX series of supercomputers, and especially for the design of the Earth Simulator, which was the world’s fastest supercomputer from 2002 to 2004.”(NEC SXシリーズスーパーコンピュータの主任技師としての活躍、とくに2002年から2004年まで世界最速のスーパーコンピュータであった地球シミュレータの開発)である。渡辺氏は、東京大学工学部で修士課程修了後日本電気に入社し、一貫してSXスーパーコンピュータの開発に従事してきた。東大では筆者と同学年であった。2006年からは文部科学省の次世代スーパーコンピュータのリーダーとなり、8月から理化学研究所スーパーコンピュータ開発実施本部に所属している。

表彰は、賞状、Cray-1を模したガラスの記念品と、賞金1万ドルである。

筆者も今回渡辺氏の推薦者の一人であり、大変うれしい。実は筆者は、2002年から2004年まで、この賞の選考委員をしており、2002年には、地球シミュレータの推進者であった三好甫氏を推していたが、三好氏は完成直前に他界されてしまったので、原則存命者というこの賞の選考において、善戦はしたものの、受賞を逃してしまった。渡辺氏は、受賞記念講演の最後に、「私がこの賞をいただけたのは三好氏のおかげである。三好氏に感謝している。」と述べたが、三好氏のことは海外では知られておらず聴衆の反応は今ひとつであった。T大学の某B教授がそこで拍手の先導役を務めたとのことである。

この受賞により、我が国の次世代スーパーコンピュータの開発に大きく弾みがつくことを期待する。

なお、2007年1月19日には、渡辺氏の受賞を祝う会が都内で開かれた。

(2) Sidney Fernbach Award
Sidney Fernbach Awardは1992年にIEEE Computer Society 理事会によって制定され、1993年のSCから授与されている。大規模な問題を解くためにhigh performance computerを開発し利用することについてのパイオニアであったSidney Fernbach (LLNL) を記念して、革新的なアプローチによるHPC応用分野への寄与に対して送られる。今年の受賞者はLouisiana State UniversityのEdward Seidel で、授賞理由は”For outstanding contributions to the development of software for HPC and Grid computing to enable the collaborative numerical investigation of complex problems in physics; in particular, modeling black hole collisions.”であった。かれは、”Solving Einstein’s Equations through Computational Science”と題して受賞記念講演を行った。

9) 論文賞・チャレンジなど
Supercomputingでは、論文や種々の成果に対して様々な賞が授与される。

(1) Best Papers
最優秀論文賞は、下記の論文に与えられた。

“Scalable Algorithms for Molecular Dynamics Simulations on Commodity Clusters,” by Kevin J. Bowers, Edmond Chow, Huafeng Xu, Ron O. Dror, Michael P. Eastwood, Brent A. Gregerson, John L. Klepeis, Istvan Kolossvary, Mark A. Moraes, Federico D. Sacerdoti, John K. Salmon, Yibing Shan, and David E. Shaw, all of D. E. Shaw Research.

最優秀学生論文賞は、下記の論文に与えられた。

“The Design Space of Data-Parallel Memory Systems,” Jung Ho Ahn, Mattan Erez and William J. Dally (advisor), Stanford University.

最優秀ポスター発表は、下記の論文に与えられた。

“IANUS: Scientific Computing on an FPGA-Based Architecture,” Mantovani Filippo, University of Ferrara, Italy.

(2) The Gordon Bell Prizes
Gordon Bell賞は、Gordon Bell氏が私財を投じて1987年に創設した賞で、high-performance computingの応用的利用の高性能やスケーラビリティに対して与えられてきた。Gordon Bell氏は、Digital Equipment Corporationにおいて、PDPやVAXなどのいわゆるミニコンの開発の中心人物であり、Encore社、Ardent社などの創立にも関係している。現在はMicrosoft社のBay Area Research Centerに所属している。この賞は1987年からであるが、いつからSCで授与されることになったかは記憶がない。

賞の分野については年ごとに違うが、最近は、以下の4つの分野に対して与えられてきた。年によって該当のない分野もある。

1) Peak performance based on sustained floating point operations per second
2) Price per performance ratio measured in sustained flop/s per dollar of acquisition cost
3) Special accomplishment for innovation in scalable implementation
4) Scalability achieved through language constructs

また、最近何年かは、Gordon Bell賞の応募論文も、technical papers(原著論文)として処理され、論文として採択されたものだけが最終候補(finalists)として発表され、その中から選考されたが、今年は原著論文とは別に発表されたようである。

今年の最終候補は以下の6件であった(発表順)。

1) “Large-Scale Electronic Structure Calculations of High-Z Metals on the BlueGene/L Platform” Francois Gygi, Erik W. Draeger, Martin Schulz, Bronis R. De Supinski, John A. Gunnels, Vernon Austel, James C. Sexton, Franz Franchetti, Stefan Kral, Christoph Ueberhuber, Juergen Lorenz
2) “Large Scale Drop Impact Analysis of Mobile Phone Using ADVC on Blue Gene/L” Hiroshi Akiba, Tomonobu Ohyama, Yoshinori Shibata, Kiyoshi Yuyama, Yoshikazu Katai, Ryuichi Takeuchi, Takeshi Hoshino, Shinobu Yoshimura, Hirohisa Noguchi, Manish Gupta, John Gunnels, Vernon Austel, Yogish Sabharwal, Rahul Garg, Shoji Kato, Takashi Kawakami, Satoru Todokoro, Junko Ikeda
3) “High-Performance Computing for Exact Numerical Approaches to Quantum Many-Body Problems on the Earth Simulator” Susumu Yamada, Toshiyuki Imamura, Takuma Kano, Masahiko Machida
4) “$158/GFLOP Astrophysical N-Body Simulation with a Reconfigurable Add-in Card and a Hierarchical Tree Algorithm” Atsushi Kawai, Toshiyuki Fukushige
5) “A 55 TFLOPS Simulation of Amyloid-forming Peptides from Yeast Prion Sup35 with the Special-purpose Computer System MDGRAPE-3” Tetsu Narumi, Yousuke Ohno, Noriaki Okimoto, Takahiro Koishi, Atsushi Suenaga, Noriyuki Futatsugi, Ryoko Yanai, Ryutaro Himeno, Shigenori Fujikawa, Mitsuru Ikei, Makoto Taiji
6) “The BlueGene/L Supercomputer and Quantum Chromodynamics” Pavlos M. Vranas, Gyan Bhanot, Matthias Blumrich, Dong Chen, Alan Gara, Philip Heidelberger, Valentina Salapura, James C. Sexton

なんと6件のうち4件は日本のグループの成果であった。2)は、携帯電話のケースの衝撃解析をBlueGene/Lで行った研究、3)は量子多体系の厳密対角化を地球シミュレータで行った研究、4)は、天体の多体系のシミュレーションをGFLOPS当たり158ドルで実行した費用性能比、5)はイーストのプリオンの1400万個の原子からなる系の分子動力学をMDGRAPE-3で実行して55TFLOPSのsustained performanceを出した研究である。原著論文のうち日本からの発表が、例年の約3件に対し今年は1件しかなかったが、それはゴードン・ベル賞が別トラックになったためと思われる。

ゴードン・ベル賞のピーク性能賞は、1)に対して与えられた。これは、Z(原子番号)の大きな金属の電子構造の計算をBlueGene/L上で実行したものである。

特別達成賞(Special achievement)は、6)に与えられた。これはBlueGene/Lを用いて量子色力学のシミュレーションを行ったものである。

この2つの賞は、いずれもLawrence Livermore National Laboratoryを中心としたグループによる、BlueGene/Lを使った研究であった。

皮肉なことに、6件の最終候補の中で、日本からの4件以外の2件が受賞したわけであるが、理研を中心とする5)については最高性能部門でのHonorable Mention(佳作)として賞された。GRAPEシリーズの専用計算機は、これまでゴードン・ベル賞をしばしば獲得している。なお、sustained performance of 55 TFlopsは、会議での発表による数字であるが、理研の新聞発表では、185 TFlopsに相当すると述べられている。

(3) Analytics Challenge
Supercomputing会議にはいくつかのChallengeと呼ばれる賞があるが、これは割に最近の賞である。High performance analyticsとは、現象やデータや情報の複雑な分析を可能にする技術のことであり、大量のデータを分析して新しい洞察を得る統合的な手法である。このChallengeの目的は、実世界の複雑な問題を、高性能の計算、ネットワーク、記憶装置を用い、データ解析や高度な可視化の手法により解決する実例を提示することである。The Analytics Challengeの受賞者は、

“Remote Rutime Steering of Integrated Terascale Simulation and Visualization” by Hongfeng Yu, University of California, Davis (Technical lead); Tiankai Tu, Carnegie Mellon University (Team lead); Jacobo Bielak, Carnegie Mellon University; Omar Ghattas, The University of Texas at Austin; Julio C. Lopez, Carnegie Mellon University; Kwan-Liu Ma, University of California, Davis; David R. O’Hallaron, Carnegie Mellon University; Leonardo Ramirez-Guzman, Carnegie Mellon University; Nathan Stone, Pittsburgh Supercomputing Center; and Ricardo Taborda-Rios, Carnegie Mellon University; and John Urbanic, Pittsburgh Supercomputing Center

であった。

(4) Storage Challenge
これは大規模記憶装置に関するChallengeで、昨年にStorCloudと呼ばれていたものに対応すると思われる。これは、しばしばシステム全体の性能のボトルネックとなる記憶サブシステムについて、現実の応用に即して、その有効な利用法を実証するものである。Large System とSmall Systemの2つのカテゴリーに分けられている。応募は4件で、各カテゴリーに2つずつである。

1) “Trading Memory for Disk: Using Parallel Access to Fast InfiniBand Disk Arrays for Large Computational Chemistry Applications” Troy Benjegerdes, Brett Bode, Kyle Schochenmaier
2) “Scaling NFS through RDMA for Cluster Computing” Dov Cohen, Jeff Decker, Noah Fischer, Helen Y. Chen, Jackie H. Chen
3) “HUSt: A Heterogeneous Unified Storage System for GIS Grid” Lingfang Zeng, Ke Zhou, Zhan Shi, Dan Feng, Fang Wang, Changsheng Xie, Zhitang Li, Zhanwu Yu, Jianya Gong, Qiang Cao, Zhongying Niu, Lingjun Qin, Qun Liu, Yao Li, Hong Jiang
4) “High Performance Data Analysis for Particle Physics using the Gfarm File System” Osamu Tatebe, Nobuhiko Katayama, Mitsuhisa Sato, Taisuke Boku, Akira Ukawa, Shohei Nishida, Ichiro Adachi

大規模システム部門の受賞は4)で、これは筑波大学・高エネルギー加速器研究機構のグループで、筆頭の建部氏は昨年も産総研の一員としてStorCloudに挑戦していた。

小規模システム部門の受賞は1)であった。

(5) Bandwidth Challenge
バンド幅チャンレンジは今年6回目であるが、今年はかなり趣向を変えたようだ。つまり、今年は10Gbpsのネットワークを、会場から自分の組織まで、end-to-endで実世界の応用問題でどの位のスピードを出せるか競争するものである。前年まで平木グループは長距離の通信で活躍していたが、今回はそのようなカテゴリーはない。

受賞プロジェクトは、 イリノイ大学シカゴ校のグループによる、”Transporting Sloan Digital Sky Survey Data using SECTOR” であった。ピーク9.18 Gbps、平均8 Gbpsであった。

Honorable mentionが2件あり、インディアナ大学のグループは、「競争のスピリット」に対して、カリフォルニア工科大学のグループは「英雄的な努力」に対して与えられた。

10) Top500
今年のTop 20は以下の通り。性能はTFlops。

順位 前回 設置場所 システム コア数 Rmax Rpeak
1 1 LLNL BlueGene/L 131072 280.60 367.0
2 (9) SNL Red Storm 26544 101.40 127.411
3 2 IBM Watson Lab. BGW – BlueGene 40960 91.29 114.688
4 3 LLNL ASC Purple p5 575 1.9 GHz 12208 75.76 92.781
5 (11) Barcelona S.C. MareNostrum BladCenter JS21 Cluster 10240 62.63 94.208
6 6 SNL Thunderbird – PowerEdge 1850 2.6 GHz 9024 53.00 64.9728
7 (5) CEA(フランス) Tera-10 – NovaScale 5160 9968 52.84 63.7952
8 4 NASA Ames Columbia – Altix 1.5 GHz 10160 51.87 60.96
9 (7) 東工大 TSUBAME Grid Cluster – ClearSpeed 11088 47.38 78.7968
10 (13) ORNL Jaguar – XT3 2.6 GHz 10424 43.48 54.2048
11 Maui HPC Center Jaws – PowerEdge 1955 3.0 GHz 5200 42.39 62.4
12 TACC(Texas大学) Lonestar – PowerEdge 1955 2.66 GHz 5200 41.46 55.4736
13 8 FZJ (ドイツ) JUBL – BlueGee 16384 37.33 45.875
14 10 海洋開発研究機構 地球シミュレータ 5120 35.86 40.96
15 (31) AWE(イギリス) Cray Xt3 2.6 GHz 2C 7812 32.5 40.6224
16 Cray社 Cray XT4 2.6 GHz 6692 27.98 34.819
17 12 ASTRON(オランダ) Stella – BlueGene 12288 27.45 34.4064
18 Leibniz RZ(ドイツ) HLRB-II – Altix 4700 1.6 GHz 4096 24.36 26.214
19 14 LLNL Thunder – Itanium2 1.4 GHz 4096 19.9 22.938
20 Cambridge大学(イギリス) Darwin – PoerEdge 1950 3.0 GHz 2340 18.27 28.08

 

前回の順位に括弧が付いているのはシステムが増強されていることを示す。No. 1はあいかわらずLLNLのBlueGene/Lが占めているが、他はずいぶん入れ替わりがある。SandiaのRed Stormは、前回は36.19で9位であったが、今回はプロセッサ数を2倍以上にし、性能を超100 TFlopsとして堂々2位を獲得した。このため、BlueGene/Wは3位に下がってしまった。

バルセロナのMareNostrumは前回11位であったが、性能を倍増し、5位に食い込んだ。SandiaのThunderbird (Dell PowerEdge)は、チューニングにより性能が向上し、6位を保った。フランス原子力委員会のTera-10もコア数増加により性能を向上させたが、5位から7位に落ちてしまった。

9位は、東京工業大学のTSUBAMEである。今回、ClearSpeedをも使ってLINPACKの性能を38.18から47.38に向上させたにもかかわらず、7位から9位に転落した。向上がなければ確実にTop10落ちであった。

10位のJaguar (XT3)は、前回20.53で13位を占めていたが、性能を倍増させてTop10に入った。

2年半首位を独占した地球シミュレータは、今回14位に落ちてしまった。「沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。 驕れる者久しからず、ただ春の夜の夢の如し。」次世代スーパーコンピュータの開発においても、このことは肝に銘じておきましょう。

Top500のプロセッサーでは、IntelのCPU(IA32, IA64合わせて)は過半数の261システムであるが、以前よりは減少している。これに反し、AMDのOpteronは1年前の55システムから113に増加し、IBMのPower(BlueGeneを含む)も73から93に増加している。

次回はアメリカ、ヨーロッパ、中国などの企業の動きである。

(画像:SC06 ロゴ )

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