世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


9月 19, 2017

HPCの歩み50年(第135回)-2007年(a)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

次世代スーパーコンピュータは立地が神戸に決定し、アーキテクチャはスカラとベクトルとの異機種混合方式が決まった。LLNLのBlueGene/Lはさらに増強されるとともに、Blue Gene/Pも登場し、第1回のGreen500のトップを占拠した。IBM社は64 bitの性能を高めた改良版のCell B.E.を発表した。

社会の動きとしては、1/1潘基文が国際連合事務総長に就任、1/9米Apple社がiPhoneの初代モデルを発表、1/9防衛庁が防衛省に昇格、1/11米ブッシュ大統領、イラクへのアメリカ軍22000人増派発表、1/20ヒラリー・クリントン上院議員が2008年大統領選への出馬を表明、1/20「発掘!あるある大事典II」で放送した納豆ダイエットの内容に不正発覚、放送打ち切りへ、1/21宮崎県知事選挙で東国原英夫当選、2/13北京で北朝鮮の核開発をめぐる六者会合、合意閉幕、2/16「宙に浮いた年金記録」問題報道、2/27中国・上海証券取引所で株価が前日比8.84%マイナスの大暴落(上海ショック)、3/6夕張市、財政再建団体に指定、3/11米、夏時間に入る(前年までは4月から)、3/18仙台空港アクセス線開業、3/25能登半島地震(M6.9)、3/30東京ミッドタウン開業、4/3高松塚古墳、石室解体開始、4/8統一地方選挙、4/16バージニア工科大学銃乱射事件、4/17長崎市長射殺事件、4/23ボリス・エリツィン前ロシア大統領死去、4/27東京駅新丸の内ビルオープン、4/20 San Francisco – Oakland Bay Bridge近くの高速道路でタンクローリーが横転炎上し高速道路一部崩壊、5/6フランス大統領決選投票でサルコジが当選(5/15就任)、5/5エキスポランドのジェットコースターが脱輪し手すりに激突、1名死亡、5/10熊本慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」運用開始、5/15 NTT東日本Fletsや光電話が、14都道府県で障害、6/12朝鮮総連本部の土地と建物が都内の会社に売却されていたことが発覚、6/26時津風部屋力士暴行死事件、6/30久間章生防衛大臣が原爆投下を「しょうがない」と発言、辞任、7/16新潟県中越地震(M6.8)、7/29参院選挙で民主党第一党に、8/1米Minneapolis高速道路の橋が崩落、8/2関空で2本目の滑走路供用開始、8/31初音ミクが発売、9/12安倍晋三首相突然の辞任表明、9/26安倍首相辞任、福田康夫が首相に就任、10/1日本で郵政三事業民営化、10/2-4第2回朝鮮半島南北首脳会議、10/12赤福の賞味期限、原材料表示偽装発覚、10/16西友平塚店で小学生がシンドラー社設置のエスカレータに挟まれ重体に、10/19パキスタンでブット元首相を狙った爆弾テロ(12/27には自爆テロで暗殺)、10/26英会話NOVAが会社更生法申請、11/28前防衛事務次官の守屋武昌とその妻が収賄容疑で東京地検に逮捕、12/19韓国大統領選挙で李明博が選出、など。Albert FertとPeter Grünbergが巨大磁気抵抗効果(GMR)の発見でノーベル物理学賞受賞、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とAl Goreがノーベル平和賞受賞。

東大物理学科在学中にお世話になった中村誠太郎先生(湯川秀樹氏の初期の弟子、享年93歳)が2007年1月22日に亡くなられた。26日、葬儀を四谷たちばな会館で行うことになり、司会を依頼された。仏式や神道式の葬儀はいろいろ経験があり、教会の葬儀にも慣れているが、無宗教の葬儀は初めてのことで足がすくんだがどうにかやり遂げた。

次世代スーパーコンピュータ開発

1) 立地を神戸市に決定
2006年のところに書いたように、立地検討部会は2006年7月から活動を開始したが、2007年3月まで続いた。2007年に入ってからの活動は以下の通り。

2007年1月29日~2月16日 委員による現地調査  
2007年3月13日 第5回立地検討部会 評価結果及び報告書案の検討
2007年3月23日   報告書最終とりまとめ

 

2007年2月21日付け毎日新聞は、次世代スパコンの立地は全国の15自治体が名乗りを上げたが、「仙台、和光、横浜、大阪、神戸」の5カ所に絞られた、と報じている。具体的な選考基準は明らかにされていないうえ、立地場所の選考委員も「圧力がかかるのが心配」(文部科学省)として公表されていないが、「地盤の安定性」「電力やガス供給が十分か」「交通の便」「地元の協力体制」などが客観的に判断されると述べている。立地されれば、国内や海外の研究者が来ると想定できる。付加価値のある新産業創出を目指す都市ビジョンにぴったり一致する」(仙台市)、「医療産業都市構想を進めており、生命科学分野を中心とした研究で協力も可能」(神戸市)など、各自治体はそれぞれの特色をアピール。誘致合戦は熱を帯びてきた。

3月28日、理研は以下の発表を行った。

立地検討部会がとりまとめた「次世代スーパーコンピュータ施設立地評価報告書(3月23日)」を踏まえ、神戸又は仙台のいずれかを立地地点とすることとして総合的に評価、検討を行いました。その結果、本日、神戸(ポートアイランド第2期内)を次世代スーパーコンピュータ施設の立地地点とすることを決定しました。

朝日新聞3月29日付けはこう報じている。神戸市は、約40億円の土地を無償貸与し、さらに拡張用地も用意するといった大盤振る舞いが功を奏した。大阪や京都など負けた周辺自治体は残念がるが、「世界一」を目指すプロジェクトが神戸に生まれることで、関西全体の経済効果への期待も高まっている。「さまざまな波及効果が期待できる」。誘致が決まった28日夕、記者会見を開いた神戸市の矢田立郎市長は、笑顔が絶えなかった。

ところがトンデモない誤報事件があった。NHKが28日早朝午前5時半からの総合テレビニュースで「仙台市に建設する」と報道してしまったのである。もちろん、同日夕方のニュースで「神戸市に決定した」と報道した後、朝の報道にふれ、キャスターが「ご迷惑をおかけしました。おわびいたします」と謝罪した。筆者はそんな早起きはしないが、工学院大学の先生の中にはこれを聞いて仙台に決まったと思い込んでいた方もおられた。いずれにせよ仙台と神戸が最終候補だったようであるが、「実は仙台に内定していたが、NHKに情報が漏れたので土壇場で神戸に変えた」のではないかなどという揣摩憶測も乱れ飛んだ。理研の発表は昼頃を予定していたが、NHKのニュース誤報があったので、時間を早めたようである。

上記の朝日新聞の記事によると、この日の朝、神戸市の誘致担当部門の幹部は気をもんでいた。NHKが「選定地は仙台市」と報じたためだ。各方面に電話をかけて真偽の確認にあたった。「内定」の一報が理研側から入ると、市役所内外の関係者に連絡を取り、電話越しに「ありがとう、ありがとう」と何度も頭を下げた。

とはいえこのネットワーク時代に、研究拠点と設置場所は必ずしも関係がないはずで、まるでハコモノを勝ち取ったような反応に、関係者は鼻白んだ。

喜んだ神戸市や兵庫県は、「県主導、地元中心で何かを」と盛り上がっていたが、全国的には当然これを警戒し牽制する動きが起こっていた。その中で神戸大学に「計算科学の良識の府」たるべき場を作ろうということになり、筆者も巻き込まれることになる。

2) 理化学研究所アドバイザリーボード
理化学研究所次世代スーパーコンピュータ開発実施本部は、2006年末にアドバイザリーボードを設置した。2006年初めに文部科学省スーパーコンピュータ整備推進本部に置かれたアドバイザリーボードとほぼ委員は重なっている。委員および議事内容は以下の通り。

座長 岩崎洋一 筑波大学長
安西祐一郎 慶應義塾長
小林敏雄 財団法人日本自動車研究所長
郷通子 お茶の水女子大学長
小宮山宏 東京大学長
立花隆 ノンフィクション作家、ジャーナリスト、評論家
中澤喜三郎 元明星大学教授
中村宏樹 分子科学研究所長

 

  日付 主な議題
第1回 2006年12月27日 1.総合科学技術会議フォローアップと結果
2.概念設計中間報告結果について(内容と今後の予定)
3.立地について
4.NAREGIプログラム進捗状況と今後の予定
5.平成19年度予算案について(財務省原案内容報告)
第2回 2007年1月31日 1.概念設計について(内容と方針)
2.今後のスケジュール
第3回 2007年2月28日 1.第2回議事概要確認
2.システム構成案の検討状況
3.COE形成につい
第4回 2007年3月26日 1.第2回議事概要案、第3回議事概要案確認
2.システム構成案の検討状況

 

3) 科学技術学術審議会
2007年中に開かれた文部科学省科学技術学術審議会は以下の4回である。次世代スーパーコンピュータ開発に関する議題はほとんどない(予算の一部に出る程度)。

  日付 主な議題
第20回 2007年1月19日
(第三期最後)
1.平成19年度予算案について
2.各分科会等の審議状況について
3.科学技術・学術の振興方策等について
配付資料)(議事録
第21回 2007年2月1日
(ここから第四期)
1.会長及び会長代理の選出について
2.議事運営等について
3.今後の調査審議について
配付資料)(議事録
第22回 2007年9月6日 1.平成20年度概算要求等について
2.各分科会等の審議状況について
3.学術研究の振興について
配付資料)(議事録
第23回 2007年10月18日 1.長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について(諮問)
2.各分科会等の審議状況について
配付資料)(議事録

 

4) 総合科学技術会議
同会議の専門調査会の一つに評価専門調査会がある。必ずしも全部が関係あるわけではないが、2007年度の活動を記録する。

  日付 主な議題
第62回 2007年2月26日 評価システム改革の推進について(配付資料)(議事録
第63回 2007年3月29日 評価システム改革の推進について、「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」の評価について(配付資料)(議事録
第64回 2007年5月22日 大規模研究開発の事前評価フォローアップ実施方法について、評価システム改革の推進について(配付資料)(議事録
第65回 2007年6月1日 評価システム改革の推進について(配付資料)(議事録
第66回 2007年7月5日 大規模研究開発の事前評価のフォローアップについて(配付資料)(議事録
第67回 2007年8月6日 国家的に重要な研究開発の評価「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」について、大規模研究開発の事前評価のフォローアップについて(配付資料)(議事録
第68回 2007年9月7日 平成19年度における大規模研究開発の事前評価について、各府省における研究開発の中間・事後評価等の実施状況について、評価システム改革の推進について(配付資料)(議事録
第69回 2007年11月5日 平成19年度における大規模研究開発の事前評価について(配付資料)(議事録

 

3月29日の第63回会議では、机上に

○ 「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」について(平成17年11月28日)
○ 「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」のフォローアップ結果(平成18年10月5日)

が置かれていた。評価検討会の委員を会長が選任して評価検討会(座長:伊澤達夫NTTエレクトロニクス株式会社特別顧問)を発足させる。文部科学省で概念設計の評価を進め、それをこの評価検討会で聞き取るという形をとることとなった。理研とメーカーとの関係、および国益という点で、公開できない情報を議論する必要があり、それには総合科学技術会議より文部科学省の会議の方がふさわしいとの議論があった。

次に述べるように情報科学技術委員会 次世代スーパーコンピュータ概念設計評価作業部会が3月から活動を開始し、6月12日に最終報告書がまとめられた。これを受けて、6月21日に第1回評価検討会が、7月6日に第2回評価検討会が開催され、文部科学省から資料が提出された(この資料はwebには残っていない)。

上記のように、8月6日の第67回評価専門調査会評価検討会に国家的に重要な研究開発の評価「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」についての原案が示され、了承された。これによると、

・理研のシステム構成案が適切なものであり引き続き研究開発を進めるべきであるとした、文科省の評価結果はおおむね妥当。
・ 文科省は、(文科省の)作業部会による評価において課題とされた事項の状況等につき随時フォローしつつ、引き続き研究開発を推進すべき。

との評価を受けた。

この原案は、9月13日、総合科学技術会議第69回会議に提出され、正式に決定された。

5) 情報科学技術委員会
上記と並行して、文部科学省科学技術・学術審議会の情報科学技術委員会が開かれている。第41回では次世代スーパーコンピュータの立地地点の決定が了承され、第43回では次世代スーパーコンピュータの概念設計の評価が正式決定されている。

  日付 主な議事
第38回 2007年1月26日 ITBLプロジェクト事後調査について、平成19年度世英府予算案について (議事要旨)(配付資料
第39回 2007年3月8日 次世代スーパーコンピュータ概念設計評価作業部会について、ITプログラムの事後評価について、平成19年度における「次世代IT基盤構築のための研究開発」の公募について (議事要旨)(配付資料
第40回 2007年3月19日 「ITプログラム」最終成果報告会 (議事要旨)(配付資料
第41回 2007年4月2日 次世代スーパーコンピュータ立地地点の決定について、平成20年度より重点的に推進すべき研究開発について (議事要旨)(配布資料
第42回 2007年4月25日 「ITプログラム」の事後評価について、平成20年度より重点的に推進すべき研究開発について、次世代スーパーコンピュータの概念設計の評価について (議事要旨)(配付資料
第43回 2007年6月12日 次世代スーパーコンピュータの概念設計の評価について、「ITプログラム」の事後評価について(議事要旨)(配付資料
第44回 2007年7月30日 平成20年度予算概算要求について(議事要旨)(配付資料
第45回 2007年8月23日 平成20年度における情報科学技術分野の重点事項の評価について(議事要旨)(配付資料
第46回 2007年11月7日 総合科学技術会議による平成20年度概算要求における科学技術関係施策の優先度判定等について、2.次世代スーパーコンピュータプロジェクトについて(議事要旨)(配付資料

 

次世代スーパーコンピュータの構成については、概念設計がまとまった。何と、スカラとベクトルとの混合機であった。

(画像:次世代スパコン設置場所決定時の神戸ポートアイランド)

left-arrow   50history-bottom   right-arrow