世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


10月 2, 2017

HPCの歩み50年(第137回)-2007年(c)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

グリッド関係では、OGFを初めて名乗るOGF19が開かれた。日本ではNAREGIプロジェクトが次世代スーパーコンピュータ開発利用プロジェクトの一環として、これを各大学のHPCと連携させて利用するグリッド環境も合わせて研究開発することとなった。このような情勢のなかで大学の情報基盤センターの意義は何か?

日本政府の動き

1) NAREGI
2007年2月20日(火)に、NAREGIシンポジウム2007「グリッドで切り開く次世代研究環境」が一橋記念講堂で開催された。開催趣意書には、「NAREGIはグリッドミドルウェアを研究開発するプロジェクトとして2003年にスタートしましたが、2006年からは次世代スーパーコンピュータ開発利用プロジェクトの一環として、次世代スーパーコンピュータを各大学のHPCと連携させて利用するグリッド環境も合わせて研究開発することとなりました。これらの研究開発を進めるためには、HPCを使う方々、HPCを管理する方々、HPCを開発する方々など多方面の方々から意見をいただき、それを我々の研究開発にフィードバックしていくことが重要であると考えています。今回のシンポジウムでは下記プログラムの講演をはじめ、グリッド環境を自由に体験していただくコーナなどを設けます。多くの方々に参加いただき、忌憚の無いご意見をお願いいたします。」とある。プログラムは以下の通り。

10:15 次世代研究環境を切り開くNAREGIサイエンスグリッド 三浦 謙一 (NII)
11:00 グリッド環境を利用したこれからの計算科学 平田 文男(分子研)
11:30 次世代研究環境を目指すNAREGIグリッドミドルコア技術 松岡 聡(NII/東工大)
13:30 次世代研究環境を目指すNAREGIデータグリット゛ 松田 秀雄(大阪大)
14:10 次世代研究環境を目指すNAREGIグリッドミドル利用環境 宇佐見 仁英(NII)
15:50 NAREGIグリッドミドルを使ったシステム構築に向けて ① 東京工業大学
② 大阪大学
③ 高エネルギー加速器研究機構

 

チュートリアル

12:30 GridMPIの概要と使い方
14:00 GridRPCによるグリッドプログラミング入門
15:30 Mediatorの利用法

 

2) 地球シミュレータ
2007年2月12日に公表されたところによると、WRN (Willis Research Network)は、これまでも国際的に著名な大学と共同研究を行っているが、今回、気候モデルから気候変動による災害の確率を計算し、保険会社に提供するということで、地球シミュレータセンターと3年の契約を締結した。

2007年11月14日、各紙に「地球シミュレータが部品交換で能力を2倍にする」計画を概算要求しているとの記事が出た。来年度予算では、維持費とは別に5億円を計上し、2009年3月を目途に640台ある計算ノードの半数など主要部品をレンタルで更新し、残り半分はその時点で運用を終える、とのことである。要は更新なのであるが、地球シミュレータは独自開発機器なので、これを汎用品に転換し、コストを抑えて性能向上を図る、という言い方になった。10月から次期機種の選定を行っており、来春にも入札を実施する。クラスタの性能も上がっており、SX-9採用の出来レースではないことを強調した。次世代スーパーコンピュータ計画が進む中での生き残り策であった。

3) JST シミュレーション
2002年から始まったJSTシミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築(CREST型とさきがけ型の混合)は、2007年6月19日~20日アルカディア市ヶ谷でさきがけの合宿を行い、2007年11月21日には「JSTシミュレーションシンポジウム」を開催した。

「複合手法を用いた電子構造計算技術の開発」(代表:藤原毅夫)では12月23日にInternational Workshop on Large-scale Matrix — Computation and Applications in Physics and Engineering Scienceを開催した。筆者も呼ばれてInvited Lecture “Architecture-Algorithm Codesign”を行った。

4) JST CREST「情報システムの超低消費電力化を目指した技術革新と統合化技術」
2005年から開始された標記のCREST(研究総括 南谷崇)は、最後の採択を行った。研究代表者と課題は以下の通り。

市川晴久(電気通信大学) 環境知能実現を目指す超低消費電力化統合システムの研究開発
西川博昭 (筑波大学) 超低消費電力化データ駆動ネットワーキングシステム
前田龍太郎(産総研) ULPユビキタスセンサのITシステム電力最適化制御への応用
松岡聡(東京工業大学) ULP-HPC:次世代テクノロジのモデル化・最適化による超低消費電力ハイパフォーマンスコンピューティング

 

5) 科学技術・学術審議会学術情報基盤作業部会
文部科学省、研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(主査:有川節夫)は、2005年1月から開催されているが、2007年には以下の会議が開催された。「学術情報基盤の今後の在り方等」が議論された。

  日付 主な議事
第7回 2007年4月27日 学術情報基盤について、「最先端学術情報基盤形成の現状と展開」について(議事要旨
第8回 2007年8月10日 研究環境基盤部会および学術研究の推進体制に関する作業部会合同会議における審議経過の概要等について、次世代スーパーコンピュータ開発プロジェクトについて、学術情報基盤の整備に関する検討について。特に、東工大と筑波大は情報基盤センターには入っていないが、今後とも全国共同利用施設として議論すべきであるとの発言あり。 (議事要旨
第9回 2007年10月11日 平成20年度概算要求について、学術情報基盤作業部会について、情報基盤センターの在り方等について、(議事要旨)この回から議事要旨に発言委員名が明記されている。
第10回 2007年11月8日 学術情報ネットワークの在り方等について、東京工業大学学術国際情報センターGSICのご紹介、作業部会委員による情報基盤センター訪問及び意見交換の概要(議事要旨
第11回 2007年12月6日 有識者からの意見発表(小柳義夫と村岡洋一)、(議事要旨

 

筆者は委員ではないが第11回に招聘された。「学術情報基盤を取り巻く状況及び課題等を把握し、今後の審議に資するため、先生から、スーパーコンピュータに関する有識者として、情報基盤センターの今後に期待することを中心に我が国の学術情報基盤の今後の在り方について、幅広い観点からご意見をお伺いし、意見交換を行いたい」ということだったので、「大型計算機センター」の草創期から論じ、国立大学の法人化後は「使用料金を取って計算資源を切り売りする」というビジネスモデルだけでは役割を果たし得なくなること、センター自ら研究プロジェクトを推進するというモデルを併用すべきことを強調した。すなわち、現在のJHPCNやHPCIに連なる方向性を提案したことになる。

6) 産学人材育成パートナーシップ
2007年、経済産業省と文部科学省にイニシアティブの下、IPA(情報処理推進機構)の協力を得て、「産学人材パートナーシップ」の議論が始まった。これは、各分野・業界を取り巻く環境変化を踏まえ、社会ではどのような活躍の場が想定され、そのためにどのような人材が必要とされるか、そのための人材を育成するためには、どのような取組が必要か、産業界と大学界でどのような役割分担及び協力が可能か、産業界・大学界が協力して実施していくべき取組は何かなどを議論するためとのことであった。筆者も文部科学省高等教育局専門教育課の依頼を受け、情報処理分科会(座長、阿草清滋名大教授)に参加した。分科会は2007年11月15日の第1回から、2012年5月11日の第11回まで開催され、その結論を受けて産学連携推進委員会がIPAに設置された。

7) JEITA
2007年9月14日、JEITA(電子情報技術産業協会)のSTRJ-WG12 (ERD-WG)(半導体ロードマップ委員会)に招かれ、「HPCから見たデバイスの将来」と題して講演を行った。

標準化

1) linux
2007年1月21日、リナックスを一層発展させるためにOpen Source Development Labs と Free Standards Group が合併し、The Linux Foundationが発足した。この財団では先のIBMとインテルに加え、富士通と日本電気も開発に参加している。

2) OGF19
初めてOGFを名乗ったOGF19 (The 19th Open Grid Forum)は、2007年1月29日~2月2日にノースカロライナ州のChapel Hillで開催された。筆者も下記のグリッド標準化調査研究の活動の一環として初めて参加した。2007年3月23日に、秋葉原ダイビルと稚内北星大学で開催されたグリッド協議会の第2回Grid Hotlineで詳細が報告された。報告のスライドも見ることができる。

3) OGF20
OGF20 (The 20th Open Grid Forum – OGF20/EGEE 2nd User Forum)は、2007年5月7日~11日にイギリスのMancesterのManchester Centralで開催された。Tony Heyが”The Social Grid”と題して基調講演を行った。参加者は900人以上。筆者は参加せず。2007年8月23日に秋葉原ダイビルと稚内北星大学で開催されたグリッド協議会の第3回Grid Hotlineに詳しい。報告のスライド参照。

4) OGF21
OGF21 (The 21st Open Grid Forum)は、2007年10月15日~19日にアメリカのワシントン州のSeattleのGrand Hyatt Seattleで開催された。参加者は260人。筆者も参加した。グリッド協議会が2007年12月20日に秋葉原ダイビルと稚内北星大学で開催した第4回Grid Hotlineで報告された。参加報告も参照。私事であるが、筑波大学時代に筆者の研究室にいた帰国子女NK女とひょんなことで再会した。NK女は、修士はアメリカに留学し、国連に勤めたりした後、中東出身の夫君とともにシアトル郊外のマイクロソフトに勤務していた。

5) グリッド標準化調査研究
日本規格協会のINSTAC (情報技術標準化研究センター)では2002年度から2005年3月まで、グリッドコンピューティング標準化調査研究員会(委員長筆者)を設け、グリッド関連技術標準化の調査、日本に於ける標準化活動の調査、ガイドラインの提案、グリッド用語集の作成などを行ってきた。

それに引き続き、産業技術総合研究所グリッド研究センターが、経済産業省情報電気標準化推進室及び日本規格協会情報技術標準化研究センター(INSTAC)から、2005年度から3年間の予定でグリッド技術のガイドライン標準化調査研究活動の委託事業を受けることになり、グリッドコンピューティング標準化調査研究員会を立ち上げ、筆者が委員長を仰せつかった。幹事は産総研の伊藤智氏、委員は産業界を中心に委託し、7月からほぼ月1回のペースで委員会を開催した。グリッドのモデル化に力を入れたが、それぞれの委員のバックグランドが異なり、共通の理解に達するのに苦労した。

6) Android
Google、米クアルコム、独通信キャリアのT-Mobile International などが中心となり設立した規格団体 OHA (Open Handset Alliance)は、2007年11月5日、携帯電話用ソフトウェアのプラットフォームであるAndroidを発表した。リリースは、2008年9月23日。

次回は国内での各種の会議について述べる。

(画像:Linux Foundationロゴ )

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