HPCの歩み50年(第150回)-2008年(c)-
次世代スーパーコンピュータ計画が進む中、日本独自の素子を用いたコンピュータ「パラメトロン」の50周年記念のシンポジウムがあった。SACSIS 2008では去年に続いて「Cellスピードチャレンジ2008」が開催された。
国内会議
1) HPCS2008
情報処理学会HPC研究会主催、ARC研究会等が協賛するHPC2008(2008年 ハイパフォーマンスコンピューティングと計算科学シンポジウム)は、2008年1月17日~18日に東京工業大学 大岡山キャンパス 西9号館 ディジタル多目的ホールで開催された。アドバイザリ委員長は三浦謙一(NII)、副委員長は横川三津夫(理研)、プログラム委員長は建部修見(筑波大)、副委員長は岩下武史(京大)と片桐孝洋(東大)、実行委員長は朴泰祐(筑波大)、副委員長は高木亮治(JAXA)であった。招待講演「超大規模量子計算が拓く強相関フェルミ原子ガスの新たな世界」(町田昌彦、日本原子力研究開発機構)や、パネルセッション「次世代スーパーコンピュータの利用に関する提言」(モデレータ:朴泰祐、パネリスト:佐藤三久、寒川光、須田礼仁、関口智嗣、松岡聡)が行われた。松岡は、「『ペタコン』も片意地張らず『みんなのスパコン』でダーウィンしようね–」と堤言した。
2) Windows クラスタ講習会
同志社大学およびWindows HPCコンソーシアムは、2008年2月28日、同志社大学の東京オフィスにおいて、並列処理,PCクラスタの基礎的な事項をまなび, Windows CCSによるクラスタの構築方法,プログラムの作成などを学ぶ表記の講習会を開催した。プログラムは以下の通り。
10:00 | 廣安 知之(同志社大学) | 開会あいさつ |
10:05 | 廣安 知之(同志社大学) | 並列処理とPCクラスタの基礎 |
11:00 | 古賀 正章(マイクロソフト) | Windows Compute Cluster Server 2003の概要とインストール |
12:00 | 休憩 | |
13:30 | 柴田 直樹(マイクロソフト) | Windows CCSの使い方とVisual Studio 2008 によるMPIプログラミングおよびデバッグ |
15:30 | 休憩 | |
15:45 | 古賀 正章(マイクロソフト) | Windows HPC Server 2008 のご紹介 |
16:45 | Q and A |
3) Golub追悼研究会
2007年11月16日に亡くなられた数値解析の大家Gene Howard Golub教授(Stanford大学)を忍んで、彼の誕生日の2008年2月29日(金)に世界中で追悼研究集会が催されたが、日本でも筑波大学総合B0112で開催された。存命中も、4年に1度、このうるう日に彼を囲む研究会が行われていた。
4) 科研費 特定領域 「情報爆発IT基盤」平成19年度成果報告会
喜連川優(東大生産研)が提案した科研費特定領域「情報爆発時代に向けた新しいIT基盤技術の研究」は2007年に採択され、2010年度までの6年間進められる。2008年3月3日~4日、秋葉原コンベンションホールにおいて表記の報告会が開催された。プログラムは以下の通り。
3月3日
10:00 | 安達 淳 (国立情報学研究所) | 開会挨拶 |
10:10 | 喜連川 優 (東京大学/ 領域代表) | 領域活動報告 |
10:30 | 宮原 秀夫 (情報通信研究機構) | 基調講演:総合デザイン力の涵養 |
11:10 | 研究項目成果報告 (A01,A02,A03,B01) | |
12:10 | 休憩 | |
13:30 | イノベーション共有プラットフォーム SlothLib マイサーチエンジン Tsubaki 深い言語処理によるサーチエンジン InTrigger広域大規模分散ソフトウエア開発環境 Xsense 100ノードセンサーテストベッド |
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15:00 | デモ・コーヒーブレーク | |
16:30 | 井上(Yahoo), 田中(京大),喜連川(東大) | 産学連携2.0 鼎談 |
18:00 | 懇親会 「東京フードシアター 5+1」 |
3月4日
各研究項目 パラレルセッション 情報管理・検索・融合 |
5) HOKKE-2008
第15回「ハイパフォーマンスコンピューティングとアーキテクチャの評価」 に関する北海道ワークショップ(HOKKE-2008)は、2008年3月5日(水)~3月6日(木)に北海道大学学術交流会館第一会議室及び小講堂で開催された。当時のメールには第14回と誤記されている。第169回 計算機アーキテクチャ研究会および第114回 ハイパフォーマンスコンピューティング研究の合同開催である。36件の講演が行われた。懇親会はキリンビール園本館中島公園店で開催された。
6) 第7回つくばWANシンポジウム
2008年3月11日、筑波大学大学会館国際会議室において、「第7回つくばWANシンポジウム」が開催された。主催は財団法人国際科学振興財団(つくばWAN推進会議)であった。プログラムは以下の通り。
13:30 | 腰塚 武志(つくばWAN推進会議 委員長、筑波大学副学長) | 主催者挨拶 |
13:40 | 佐藤 聡(つくばWAN NOCチームリーダー) | NOCからの報告(年間活動報告等) |
14:00 | 中尾 実(国立情報学研究所) | 招待講演:未来を感じるSINET3 |
14:50 | 休憩 | |
15:00 | 朴 泰祐(筑波大学) | 講演Ⅰ:筑波大学次期スーパーコンピュータの概要とつくばWANを介した利用について |
15:30 | 登大遊(つくばデータセンター準備会、筑波大学院生) | 講演Ⅱ:つくばデータセンター設置計画 |
16:00 | 休憩 | |
16:10 | 関根 秀太郎(防災科学技術研究所) | 講演Ⅲ:高速ネットワーク網を用いた地震観測データの流通 |
16:40 | 並木 信和(三菱スペース・ソフトウエア) | 講演Ⅳ:つくばWANを利用した農水省所管の研究機関との研究協力について |
17:30 | 交流会 |
7) 理研シンポジウム
2007年度理研シンポジウムは、2008年3月13日~14日に理化学研究所 和光本所 鈴木梅太郎ホールにおいて、「ペタ超級のアプリケーション開発に向けて」をテーマに開催された。主催は情報基盤センターと次世代スーパーコンピュータ開発実施本部であった。プログラムは以下の通り。
3月13日
13:20 | 開会の挨拶 | |
13:30 | 重谷隆之、情報基盤センター | RSCCの運用報告とリプレース計画について |
14:00 | 寺井優晃、情報基盤センター | バイオ研究者向け支援サービス |
14:30 | RSCCユーザー賞表彰、BMTコンテスト表彰 | |
15:30 | 休憩 | |
16:00 | 泰岡顕治、慶應義塾大学 | 分子動力学シミュレーションによる相変化・界面に関する研究 |
16:30 | 沖田浩平、知的財産戦略センター | VCADデータに基づく流体シミュレーション技術の開発 |
17:00 | 中茎隆、ゲノム科学総合研究センター | 細胞システムのモデリングとパラメータ推定に関する研究 |
17:30 | 閉会の挨拶 |
3月14日
10:00 | 渡辺貞、次世代スーパーコンピュータ開発実施本部 | 次世代スーパーコンピュータプロジェクトの概要と進捗状況 |
10:30 | Lali Chatterjee, SciDAC | 【招待講演】Scientific Discovery through Advanced Computing – the U.S. Department of Energy’s SciDAC Program |
12:00 | 昼食 | |
13:30 | Osni Marques,> LBNL | 【招待講演】An Overview of the ACTS Collection |
14:10 | Steven Manos, University College London | 【招待講演】Life or death decision-making: The medical case for large-scale patient-specific medical simulations |
14:50 | Adrian Wander, Daresbury Laboratory | 【招待講演】The UK Collaborative Computational Projects |
15:30 | 休憩 | |
15:45 | 小野謙二、知的財産戦略センター | 次世代スパコンにおける可視化環境 |
16:30 | 姫野龍太郎、情報基盤センター | 次世代計算科学研究開発プログラム(次世代生命体統合シミュレーションソフトウェアの研究開発)について |
17:15 | 閉会の挨拶 |
8) Parametron 50周年
2008年3月26日はパラメトロン完成の50周年ということで、当日のGoogleのロゴもパラメトロンになっていた[写真]。この日、神保町三井ビルにおいて17 階にある(株)インターネットイニシアティブの大会議室で、パラメトロン計算機PC-1完成50周年記念会が開催され、筆者も出席した。東大の小宮山総長が挨拶、続いて情報処理学会会長が挨拶したあと、以下の講演があった。
和田英一 | あの頃の高橋研究室 |
中川圭介 | パラメトロンの歴史 |
相馬嵩 | PC-1 のハードウェア |
石橋善弘 | PC-1 のソフトウェア |
田隅三生 | PC-1 と分子分光学の発展 |
三浦謙一 | フォンノイマン特許 |
出席者は90人ほどで、筆者でも若手のほうであった。会場の後ろには、いろんな昔の資料が展示されていた。橋爪宏達(NII)・前田泰成(グランドデザイン株式会社)両氏が、「現在の素子を使用したパラメトロンの再現」のデモを行った。当時の非線形磁性材料の入手は困難なので、非線形誘電体を使って、LではなくCを変化させる方式で作ったそうである。励振周波数4 MHzで、3相繰り返し周期は16μs、96個のパラメトロンを使って、高速桁上げ回路付き8ビット加算器で、加算時間は32μsとのことである。コントロールはパソコンであるが、プリンタが古いテレタイプで懐かしい音を立てていた。思えばパラメトロンは50年前当時のスーパーコンピュータであった。
このあと、学士会館で懇親会があり、後藤英一氏の喜世子未亡人なども見えられた。
9) SACSIS 2008
SACSIS 2008 – 先進的計算基盤システムシンポジウム は、2008年6月11日(水)~6月13日(金)につくば国際会議場を会場として開催された。主催は、情報処理学会のARC研究会、OS研究会、HPC研究会、PRO研究会、電子情報通信学会のCPSY研究専門委員会、DC研究専門委員会、RECONF研究専門委員会、およびIEEE/CS Japan Chapterである。組織委員長は関口智嗣(産総研)、プログラム委員長は山名早人(早稲田大学)である。
以下の基調講演、招待講演が行われた。
基調講演 | 岸本光弘 (富士通研究所,NII) | グリッドコンピューティングの現状と将来 -明日はクラウディなのか?- |
招待講演 | Doug Burger (Microsoft Research) | Why Computer Architecture will Now Drive Computer Science |
昨年と同様に、Cellスピードチャレンジ2008を行った。規定課題部門は密行列係数の連立一次方程式に求解であった。成果や順位は公開されている。
会議終了後に、希望者に対して、T2K-Tsukubaが動き出した筑波大学計算科学研究センターの見学が行われた。
10) 数値解析シンポジウム
第37回数値解析シンポジウムは、小澤一文(秋田県立大学)を実行委員会代表として、2008年6月12日~14日に秋田県仙北市たざわこ芸術村 温泉ゆぽぽで開催された。日程がSACSIS2008と重なってしまい筆者は出席できなかった。実行委員会も気づいてはいたが、変更できなかったとのことである。数値解析の領域とHPCの領域がだんだん疎遠になっていくような感じがして、残念であった。最終日の6月14日8時43分に岩手県内陸南部で、M7.2の「岩手・宮城内陸地震」が起こり、仙北市は震度4であった。東京でも緊急地震速報が出た。交通機関が乱れ、参加者は帰路で苦労した。数値解析シンポジウムは2007年から応用数理学会主催となっている。「応用数理」18巻(2008)3号に『第37回数値解析シンポジウム(NAS 2008)参加報告』(廣田千明)が掲載されている。
11) Grid World 2008
グリッド協議会の活動はイベント一覧に詳しく記録されている。大きなイベントとしては、2008年6月24日~25日に東京国際フォーラムでGridWorld 2008を開催した。主要なプログラムは以下の通り。
6月24日
関口 智嗣(産業技術総合研究所/グリッド協議会会長) | 開幕挨拶 |
経済産業省(経済産業省) | グリッド協議会 開幕記念講演「グリーンITが創り出す新たな情報経済社会」 |
合田 憲人(国立情報学研究所) | GridWorld チュートリアル1「グリッド入門 〜パソコンユーザからグリッドユーザへ〜」 |
岸本 光弘(富士通研究所) | GridWorld チュートリアル2「グリッドアーキテクチャとサービスアーキテクチャとしてのクラウドコンピューティング」 |
小島 功(産業技術総合研究所) | GridWorld チュートリアル3「サービス基盤に基づく異種・分散データベース統合とその応用」 |
手塚 敬一(日立製作所) | GridWorld チュートリアル4「ストレージの仮想化とGreen ITへの取り組み」 |
6月25日
駒形 康吉(三菱UFJ証券) | グリッド協議会 基調講演「グリッドコンピューティングが変える金融ビジネス」 |
Dr. Craig A. Lee(Open Grid Forum) | グリッド協議会 セッション「グリッド技術とグリッド市場における”進化の圧力” 〜Evolutionary Pressures on Grid Technology and Markets〜 |
田中 良夫(産業技術総合研究所) | GridWorld チュートリアル5「グリッドミドルウェア入門」 |
伊藤 智(産業技術総合研究所) | GridWorld チュートリアル6「グリッド技術を活用したデータセンタのユーティリティコンピューティングサービス」 |
中田 秀基(産業技術総合研究所) | GridWorld チュートリアル7「データセンターの仮想化」 |
峯尾 真一(理化学研究所) | GridWorld チュートリアル8「GridWorld チュートリアル8」 |
展示会場は昨年と大きく違って、データセンター関連の展示が多くグリッドは少数だったとのことである。6000人近い事前登録があった。
SWoPP2008など国内会議の続きは次回。