世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


3月 5, 2018

HPCの歩み50年(第153回)-2008年(f)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

富士通はquad-coreのSPARC64 VIIを用いたFX1をJAXAから受注した。日立はPOWER6を搭載するSR16000を発表し、核融合研から受注した。ベストシステムズは創立十周年を迎えた。

日本の企業の動き

1) 富士通
2008年2月19日、富士通はJAXA(宇宙航空研究開発機構)からFX1を用いたスーパーコンピュータを受注したと発表した。これは3392基のノードからなり、ピーク性能は135 TFlopsである。これは2002年から使っていた富士通のPRIMEPOWER HPC2500(ピーク9.6 TFlops)(第3世代のNSシステム)を、2008年4月からリプレースする。全システムが設置され稼働したのは2009年4月で、4月2日に披露された。FX1はquad-coreのCPU SPARC64 VIIを採用した富士通のテクニカルコンピューティングサーバである。

SPARC64 VII(コード名Jupiter)とFX1が富士通から正式に発表になったのは2008年7月中旬であった。これまでのSPARC64 VI(コード名Olympus)との比較は以下の通り。

SPARC64 VII SPARC64 VI
Jupiter Olympus
quad-core 2.4-2.7 GHz dual-core 2.4 GHz
65 nm 90 nm
simultaneous multithreading vertical multithreading
135W 120W
2 threads per core 2 threads per core
6 MB L2 per socket 6 MB L2 per core

 

コア数が倍増したのに電力がほとんど増えていないところが注目される。ただ、L2 cacheが共有になり、4コアに対して6 MBしかないので、より高い局所性が必要である。富士通とSun Microsystemsはこれを用いたテクニカル・サーバを発売する。2009年11月のTop500には、SPARAC64のマシンが2台登録されている。

順位 設置場所 機種 コア数 Rmax Rpeak
36 JAXA Fujitsu FX1, Quadcore SPARC64 VII 2.52 GHz, Infiniband DDR 12032 110.6 121.282
243 名古屋大学 Fujitsu FX1, Quadcore SPARC64 VII 2.52 GHz, Infiniband DDR 3072 28.51 30.965

 

なおJAXAのマシンは、最初に登録された2008年11月のTop500では約1/6の2048コアでRpeka=20.643TFlops, Rmax=18.54 TFlopsで222位、2009年6月のTop500では28位となっている。

富士通が製造して宇宙航空研究所(JAXAの前身の一つ)に設置され、1993年からTop500のトップを占めたNWT(の一部)がシリコンバレーのMountain ViewにあるComputer History Museum に寄贈された。2008年9月12日に寄贈式典が行われた。ルパック・ビスワス(NASA)、浦野哲夫(富士通)、高村守幸(富士通研)、廣瀬直樹(元JAXA)、三浦謙一(NII、元富士通)が講演を行った

2) 日立
日立は2008年4月10日、POWER6プロセッサを搭載するスーパーコンピュータ「SR16000」を発表した。ラインアップとしては、3.5 GHzのPOWER6を利用する空冷モデルL1と、4.2GHzのPOWER6を利用する水冷モデルL2を用意しており、いずれも1ノードあたり16基のPOWER6を搭載可能である。最大で512ノードの接続に対応する。OSはAIXを採用した。

サーバとしては、2008年4月18日、エンタープライズサーバーのEP8000シリーズに IBM 製の POWER6プロセッサを搭載したEP8000 595を新たにラインアップに追加した。POWER6を最大64wayまで搭載できる。

核融合科学研究所(土岐市)は、2008年9月3日に次期プラズマシミュレータについて発表を行った。現マシンSX-7/160M5は2008年12月で運用を終了し、2009年3月より日立のシステムを設置すると発表した。運用期間は2009年3月~2015年3月の6年間であるが、2012年10月に中間レベルアップを行う。主システムと副システムからなるが、当初の主システムはHitachi SR16000 Model L2/128, Power6 4.7Ghz(Infiniband接続)で4096コアからなる。2009年6月のTop500では、Rmax=56.6 TFlops、Rpeak=77.0 TFlopsで65位にランクしている。中間レベルアップによりHitachi SR16000 Model M1, POWER7 8C 3.836GHz(Custom Interconnect)で10304コアのマシンに置き換えた。2012年11月のTop500ではRmax=253 Tflops、Rpeak=316.209 TFlopsで95位であった。

HAS研(HITACHIアカデミックシステム研究会)は、2008年3月18日、JR品川イーストビルにおいて、第23回研究会および平成19年度総会を開催した。プログラムは以下の通り。

13:00 有澤 博(横浜国立大) 開会挨拶(会長)
13:10 篠原 一光(大阪大学) 「 ドライバーの注意力とITS 」
14:00 山崎 秀夫(野村総合研究所) 「 ソーシャルネットワーク・サービスと大学の関わり方 」
15:10 河石 勇(警視庁) 「 サイバー犯罪等の現状について 」
16:00 コーディネータ:渡辺 知恵美(お茶の水大)・津田順子(日立)
パネリスト:山崎英生、河石勇他
パネルディスカッション「 SNSは大学でどこまで活用できるか!? 」
17:00 井門 俊治(埼玉工業大) 閉会挨拶
17:05 平成19年度総会 平成19年度行事報告、平成20年度役員選出・活動計画
18:00 懇親会  

 

2008年9月12日には20周年記念大会を「Cool Earth」をテーマにホテルメトロポリタンエドモントで開催した。プログラムは以下の通り。

13:30 安達 淳(国立情報学研究所) 開会挨拶(会長)
13:40 住 明正(東京大学) 「 地球温暖化問題と数値シミュレーション 」
14:40 武田 英次(日立) 「 環境・エネルギー問題に向けた日立グループの研究開発 」
16:00 岡田 雅樹(国立極地研究所) 「 南極観測の現場から 」
17:00   HAS研20年の流れ
17:10 第二代会長 石田 晴久 歴代会長ご挨拶
17:20 第三代会長 有澤  博 歴代会長ご挨拶
17:30 全 炳東(千葉大学) 閉会挨拶(副会長)
17:40 20周年記念パーティー  

 

3) 日本電気
昨年のところに書いたように2007年10月25日にSX-9を発表し、その営業を行っていた。また、日立と共同して、次世代スーパーコンピュータのベクトル部分の開発を行っていた。

2008年6月19日、NEC本社ビル 地下1階において、「地球環境問題へのアプローチ」をテーマに第25回 NEC・HPC研究会を開催した。講演は以下の通り。

住明正(東京大) 基調講演:「数値シミュレーションを用いた地球温暖化対策の将来
田村英寿(電力中研) 東京23区を対象としたヒートアイランド対策効果の数値予測
松尾亜紀子(慶応大) 水素利用をめぐるシミュレーション:超音速エンジン開発から爆発安全評価まで
山本肇(大成建設) 地球シミュレータを用いた二酸化炭素の地下貯留シミュレーション
島本浩樹(NEC) NECのHPC戦略について

 

2008年12月16日(火)、NEC本社ビル 地下 1 階において「流体計算関連の大規模シミュレーションを含めた今後のHPCへの展望」をテーマに第26回 NEC・HPC研究会を開催した。講演は以下の通り。

青木尊之(東工大) 基調講演:マルチモーメント型高精度流体計算スキームとGPUアクセラレータによる超高速計算
佐藤三久(筑波大) ペタスケールシステムへの並列プログラミング言語の課題- e-scienceプロジェクト並列言語検討会からの中間報告 –
久光文彦(NEC) 多彩なニーズに対応するNECのHPCソリューション、スーパーコンピューティング環境の提供に向けて

 

4) 日本IBM
日本IBMは、2008年3月11日、日本IBM箱崎事業所において、「Cell/B.E. 実践活用セミナー」を開催した。第二世代のCell Broadband Engine( Cell/B.E.) QC21を搭載したLANLのRoadrunnerも完成に近づいていた。アルゴグラフィックス、フィックスターズ、Terra Soft Solutionsが共催。

日本IBMでは、恒例のIBM HPCフォーラム2008を2008年9月11日に箱崎事業所で開催した。プログラムは以下の通り。

平尾公彦(東京大学 副学長) 【基調講演】HPCを国力増強の基礎に–計算科学の人材育成への東京大学の試み
デニス・クアン(IBM) HPCにおけるクラウド・コンピューティングの最新状況とIBMの戦略
ジェド・ピテラ(IBM) 計算化学における大規模シミュレーション事例とBlue Gene
笠原博徳(早稲田大学) 低炭素社会実現のためのマルチコア・テクノロジーと利用技術への挑戦
Rob Pennington(NCSA) 【特別講演】科学技術のためのペタスケール・コンピューティング: Blue Watersの課題とチャンス
グスタボ・ストロビッツキー(IBM) システムズ・バイオロジーとHPC

 

12月6日~7日には大学/研究機関/企業の、教授、シニアリサーチャ、R&D部門の部長クラスを対象に、IBM天城HPCセミナーが開催された。テーマは「Expect Unexpected -大規模アプリケーションと大規模システムのCollaboration」であった。以下の講演が行われた。

宮田 竜彦(分子研) 3 次元RISM 理論に基づく溶媒効果を取り入れた分子動力学シミュレーション: ミセルのモデル化へ向けて
平木 敬(東大) Exa-scale スーパーコンピューターの実現を目指して、今何をするか
高橋 大介(筑波大) ペタスケール時代に向けたHPC プログラミン
中島 研吾(東大) 人材強化も視野に、スーパーコンピューティング・ミドルウェアの開発
清水 茂則(日本IBM) IBM のペタスケール・コンピューティング製品と日本IBM 研究開発部門の寄与

 

日本IBMが主導し、秋葉原電気街振興会とNPO法人産学連携推進機構の協力により、ソフマップなど5社の店頭PC計約100台にWorld Community Grid専用ソフトをインストールし、「チーム・アキバ」として、栄養価の高い稲を開発するWashington大学の研究プロジェクトに取り組む。グリッド協議会も後援している。「栄養価の高いコメを世界に」に提供する研究活動に計算能力を寄付するユニークな試みを、6月30日から7月6日まで試行すると、各紙が報じている。開催店舗は石丸電気、オノデン、九十九電機、ソフマップ、ラオックス。具体的には、日本IBMが展示PC約100台に専用ソフトウェアを導入する。PCが一定時間使われていない状態になるとソフトウェアが起動し、余った処理能力を提供する。典型的な遊休資源グリッドである。

産総研の関口智嗣氏はIBMの World Community Grid の Advisory Board を務めており NPO法人産学連携推進機構の理事もやっている関係から、両者を引き合わせたとのことである。アキバの活性化としてこれまでの街作りの一環として、アキバの店頭にあるPCを「活エネ」というコンセプトでなんとかならないか、という商店街側からの要望にも応えたと述べている。

5) ソニー
昨年のところに書いたように、2007年10月18日、東芝、ソニーおよびソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)は、ソニーグループが所有する長崎県諫早市の半導体製造施設を東芝に譲渡することで基本合意し、2008年3月に売却した。東芝への製造施設の売却後は、両社が出資する新会社が東芝の施設を借りる形で生産を行なう。新会社の出資比率は東芝が60%、ソニーが20%、SCEIが20%である。これでソニーはCell B.E.から撤退したのではなく、現行の65nm SOI(Silicon on Insulator)から、45nm SOIへと移行し、東芝とは新たな共同出資会社を通じて、45nmバルクプロセスへ移行させる。さらに、米IBMおよび東芝との45 nmプロセス量産で合意したと発表した。IBMが米国ニューヨーク州に持つ製造施設でもCell B.E.を製造する。2008年9月22日の日刊工業新聞によると、近々量産がはじまるとのことである。

6) ベストシステムズ
ベストシステムズ社は2008年2月9日に創立十周年を迎え、2008年11月27日にホテル・グランドパレスで盛大な記念パーティが開かれた。

次はアメリカ政府関係の動きである。LANLのRoadrunnerは始めてLinpackで1 PFlopsを越えた。

(画像:FUJITSU HPC2500   出典:富士通株式会社   )

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