世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


6月 18, 2018

HPCの歩み50年(第166回)-2009年(f)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

SACSISではこれまで2年間はCellスピードチャレンジを行って来たが、今回はSACSIS2009 併設企画として「クラスタシステム上での並列プログラミングコンテスト」を行った。和光の理研シンポジウムではベンチマークテストコンテストが行われた。

国内会議

1) HPCS2009
情報処理学会HPC研究会が主催するHPCS2009「2009年ハイパフォーマンスコンピューティングと計算科学シンポジウム」は、2009年1月22日~23日に東京大学武田先端知ビルで開催された。以下の基調講演と招待講演が行われた。

基調講演 “Optimizing Scientific Applications for Multicore Architectures” Jonathan T. Carter (NERSC/LBNL)
招待講演 「タイヤ材料の大規模粗視化分子動力学法解析を実現するための超並列コードの開発」 萩田克美(防衛大)

 

2) 多倍長精度計算フォーラム
多倍長精度計算ライブラリ開発者、 多倍長精度計算を実現するハードウェア開発者およびアプリケーション開発者が 一同に会し情報交換や共同作業などを通じて研究活動の促進を行うために、HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」、計算基礎科学連携拠点 、工学院大学 、KEK(高エネルギー加速器研究機構)計算科学センターの主催により、多倍長精度計算フォーラムが組織され、第1回研究会が2009年2月24日、工学院大学A0477教室で開催された。筆者も出席した。プログラムは以下の通り。

10:00 あいさつ 川端節彌(KEK)
10:05 はじめに 渡部善隆(九州大学)
10:15 PC・WS 用の多倍長計算環境の開発とその利用法 藤原宏志(京都大学)
11:00 異常磁気能率の計算に多倍長精度計算が必要な理由 仁尾真紀子(理化学研究所)
11:45 量子化学計算における多倍長精度計算の必要性 小原繁(北海道教育大学)
12:15 昼食  
13:30 多倍長計算による悪条件な最適PWM問題の数値計算   矢谷健一(京都大学)
14:15 浮動小数点演算のerror-free変換とその応用 荻田武史(東京女子大学)
15:00 休憩  
15:15 MBLASとMLAPACK;多倍長精度版のBLAS/LAPACKの作成   中田真秀(理化学研究所)
16:00 無限精度数値計算の開発と応用   今井仁司(徳島大学)
16:45 自由議論  

 

第2回は2011年。

3) HOKKE 2009

 

第16回ハイパフォーマンスコンピューティングとアーキテクチャの評価に関する北海道ワークショップ(HOKKE-2009)は、2009年2月26日(木)~28日(土)に、北海道大学学術交流会館第一会議室において開催された。第174回 計算機アーキテクチャ研究会と第119回 ハイパフォーマンスコンピューティング研究会との合同開催である。近年講演申し込みが増加しており、ARCとHPCの並列開催の可能性も考慮したが、計算機アーキテクチャ研究会主査 中村宏とハイパフォーマンスコンピューティング研究会主査 朴泰祐は、両研究会共催の意味を重視し、単一セッションを堅持し、両研究会の参加者にとって興味あるテーマに限定して講演を選択すると2008年9月10日にアナウンスした。またこの回からペーパーレス試行となった。懇親会はキリンビール園本館中島公園店。写真は会場の学術交流会館

4) 理研シンポジウム
2008年度理研シンポジウムは、2009年3月12日に理化学研究所 和光本所 鈴木梅太郎ホールにおいて、「第3世代 PC クラスタ」をテーマに開催された。主催は情報基盤センターと次世代スーパーコンピュータ開発実施本部であった。BMTコンテストの結果が公表されている。プログラムは以下の通り。発表資料も公開されている。

10:10 次世代スパコンと 第三世代PCクラスタ 姫野龍太郎、情報基盤センター
10:50 T2K オープンスパコン東大版の紹介 石川裕、東京大学情報基盤センター
13:00 GPU Computing with CUDA & Tesla – Accelerating Scientific Discovery David Kirk, NVIDIA
14:00 GPGPU クラスタの性能評価 成瀬彰、富士通研究所
14:40 単精度 190 TFlops GPU クラスター(長崎大)の紹介 濱田剛、長崎大
15:40 次期システム (RICC) に向けて 黒川原佳、情報基盤センター
16:20 理研スーパー・コンバインド・クラスタ(RSCC)運用報告 重谷隆之、情報基盤センター

 

5) SACSIS 2009
7回目となるSACSIS2009 – 先進的計算基盤システムシンポジウム(Symposium on Advanced Computing Systems and Infrastructures)は、2009年5月28日(木)~29日(金) に、
広島国際会議場で開催された。組織委員長は中村宏(東大)、運営委員長は石川裕(東大)、プログラム委員長は工藤知宏(産総研)であった。招待講演とチュートリアルは以下の通り。

招待講演 The Roadrunner Project and the Importance of Energy Efficiency on the Road to Exascale Computing Don Grice(IBM)
チュートリアル 並列コンピューティングを支える開発ツール群とテクノロジー 菅原 清文(Intel)
チュートリアル HPCユーザが知っておきたいTCP/IPの話 ~クラスタ・グリッド環境の落とし穴~ 高野 了成(産総研)

 

これまで2年間はCellスピードチャレンジを行って来たが、今回はSACSIS2009 併設企画として「クラスタシステム上での並列プログラミングコンテスト」を行った。主催は、東京大学情報基盤センター、筑波大学計算科学研究センター、東京工業大学学術国際情報センター、京都大学学術情報メディアセンター、PCクラスタコンソーシアムであった。予選には8ノードを使い、本選は32ノードで行う。参加資格は日本国内の大学に在学中の学生である。

6) ITBLシンポジウム
2001年のところに書いたように、ITBL(Information Technology Based Laboratory)、正式名称は「IT革命を先導するための研究開発のIT化」というプロジェクトは、2001年度から2005年度まで進められた。グリッドではないが、このプロジェクトで構築された仮想研究環境は終了後も利用され、コミュニティの意見交換を行われてきた。2009年5月29日には海洋研究開発機構横浜研究所三好記念講堂で、平成21年度ITBLシンポジウムが、「HPCと次世代ITBL」のテーマで開催された。プログラムは以下の通り。

11:00 ES2見学会  
13:00 開会の挨拶 ITBL委員長
13:10 格子QCDデータグリッド ILDG/JLDG 吉江友照、筑波大学計算科学研究センター 
13:40 JAXA統合スパコンの概要とその宇宙開発への応用 松尾裕一、宇宙航空研究開発機構 
14:10 8年目を迎えた地球シミュレータ 島田敏明、海洋研究開発機構 
14:40 ITBL基盤ソフトウェアの現状報告とITBLコミュニティ紹介 鈴木喜雄、日本原子力研究開発機構 
15:10 休憩  
15:30 物性解析・材料設計コミュニティ活動報告 赤井久純、大阪大学
16:00 ITBL環境におけるオープンソース並列CAEシステムADVENTUREの活用 吉村忍、東京大学
16:30 自動チューニング研究の現状と展望 須田礼仁、東京大学
17:00 REDIMPSコミュニティ活動報告 櫛田慶幸、原子力研究開発機構
17:30 閉会の挨拶  
18:00 懇親会  

 

7) 第3回先端的大規模シュミレーションプログラム利用シンポジウム
7大学情報基盤センターが主催する「第3回先端的大規模シュミレーションプログラム利用シンポジウム」が、2009年7月3日に東京の丸ビルホールで開催され参加した。「先端的大規模計算シミュレーションプログラム利用サービス」は,文部科学省先端研究施設共用イノベーション創出事業の支援を受けて,平成19年7月より平成21年3月まで,全国共同利用施設であるスーパーコンピュータを有する7大学が,社会貢献の一環として,大学で開発された応用ソフトウェアとスーパーコンピュータの民間企業への提供を行ってきたプログラムである。シンポジウムのプログラムは以下の通り。

13:30 主催者挨拶 美濃導彦 (京都大学学術情報メディアセンター センター長)  
  文部科学省挨拶 文部科学省研究振興局研究環境・産業連携課 課長
14:00 ~戦略分野利用推進課題の成果報告~
  大規模並列化手法による高周波電磁界解析技術開発 村山敏夫(ソニー株式会社)
  熱アシスト磁気記録の記録磁化過程シミュレーション 水野友人(TDK株式会社)
  国産小型民間航空機空力設計への大規模空力解析技術の適用 真保雄一(三菱航空機株式会社)
15:00 休憩  
15:20 ~新規利用拡大課題の成果報告と有償利用移行への課題について~
  量子化学計算ASPにおける有効な資源配分の研究 英憲悦(HPCシステムズ株式会社)
  大規模HPC向けASPサービスに関する研究成果と課題 松井周一(NECソフト株式会社)
  HA8000システムによる大規模流体解析 山出吉伸(みずほ情報総研株式会社)
16:30 ポスターセッション  
17:30 懇親会  

 

8) SS研究会HPCフォーラム
SS研究会HPCフォーラム2009(公開)は、2009年9月3日に汐留シティセンター24階で開催された。開催案内には時節柄「新型インフルエンザへの対応」のアナウンスが出ている。プログラムは以下の通り。

10:30 SS研会長あいさつ 村上和彰、九州大学情報基盤研究開発センター
10:35 海外招待講演:
Current Trends in High Performance Computing and Challenges for the Future
Jack Dongarra, University of Tennessee and Oak Ridge National Laboratory
11:40 実用化を目指すマルチスケール・マルチフィジックス心臓シミュレータ 久田俊明、東京大学
14:00 JAXA Supercomputer System (JSS) の紹介と性能概要 高木亮治、宇宙航空研究開発機構
15:00 核融合プラズマシミュレーションとその大規模並列ベンチマーク 渡邉智彦、核融合科学研究所
16:15 構造解析オープンソースソフトFrontISTR (フロントアイスター)の大規模並列解析戦略 奥田洋司、東京大学
17:15 ペタスケールコンピューティングに向けた富士通の取り組み 井上愛一郎、富士通(株)
18:15 閉会あいさつ 松尾裕一、宇宙航空研究開発機構
18:40 懇親会  

 

9) IC2009
第14回目となるIC2009(インターネットコンファレンス2009)は、情報処理学会ハイパフォーマンスコンピューテング研究会 (HPC)、日本学術振興会産学協力研究委員会インターネット技術第163委員会 (ITRC)、日本ソフトウェア科学会インターネットテクノロジー研究会 (ITECH)、日本UNIXユーザ会 (jus)、WIDEプロジェクト (WIDE)の主催により2009年10月26日~27日に京都大学 百周年時計台記念館において開催された。事情は知らないが、電子情報通信学会インターネットアーキテクチャ研究会 (IA)と財団法人インターネット協会 (IAjapan)は主催者名から外れている。プログラム委員長は石山 政浩 (東芝)と宇多 仁 (北陸先端科学技術大学院大学)、実行委員長は宮地 利幸 (情報通信研究機構)である。2件の招待講演が行われた。

中島浩(京都大学) 「T2Kオープンスパコン@京大とそのコラボレーション」
大江将史(国立天文台) 「硫黄島皆既日食観測を支えたネットワークシステム」

 

10) HOKKE-17
第17回 ハイパフォーマンスコンピューティングとアーキテクチャの評価に関する北海道ワークショップ(HOKKE-17)は、2009年11月30日(月)~12月1日(火)に北海道大学学術交流会館において開催された。第178回 計算機アーキテクチャ研究会と第123回 ハイパフォーマンスコンピューティング研究会との共同開催である。この年度から年末に開催することにしたので、2009暦年には2回開催されることとなり、この回からは年号でなく回数でHOKKE-17のように表記することとなった。今回は、「アプリケーション・アルゴリズム・アーキテクチャの3つのAの協調による高性能計算」という募集テーマを設定した。今の言葉で言えば「コデザイン」であろう。講演申し込みに際しては、研究発表がHOKKE-17のテーマにどのように沿っており、なぜARC・HPC共催研究会で発表すべきなのかという主張を記すこととなった。31件の講演が行われた。懇親会はキリンビール園本館中島公園店。

なお2009年4月から、情報処理学会の研究会報告は、紙媒体での出版が廃止され、オンライン出版のみとなった。

11) IPAB
特定非営利活動法人 並列生物情報処理イニシアティブ (IPAB)は、2009年度第1回IPABセミナー「GPUによる最新研究・運用事例の紹介」を、2009年5月22日にSun Microsystems 用賀オフィスで開催した。プログラムは以下の通り

15:00 開会挨拶 小西史一(IPABアクセラレータWG主査, 東京工業大学)
15:10 手作り大規模GPUクラスターを使った安定運用バッドノウハウ集 濱田 剛(長崎大学)
15:55 休憩  
16:10 分子動力学シミュレーションのGPUによる高速化 成見 哲(電気通信大学)
17:00 IPAB総会  
18:00 懇親会  

 

第3回IPABセミナー(公開)は、2009年7月3日に東工大蔵前会館で開催した。プログラムは以下の通り。

15:00 創薬情報学WGの活動について 関嶋 政和(東京工業大学)
15:10 Fragment-Based Drug Discoveryによる創薬 折田正弥(アステラス製薬)
16:00 休憩  
16:10 ミドリムシ青色光センサー蛋白質PACと発色団の結合特性:FMO法計算による解析 長谷川 浩司(アドバンスソフト)
17:00 閉会  
17:30 懇親会  

 

IPABは2009年11月27日、SGIホール(恵比寿)において、創立10周年記念シンポジウムを行った。タイトルは「これからの10年 ~医学・生物学の大量データ~」。プログラムは以下の通り。

10:00 開会のご挨拶    秋山 泰(IPAB 理事長)
10:10 Fragment-Based Drug Discoveryによる創薬 折田正弥(アステラス製薬)
11:00 最先端CT画像再構成-医用画像生成のソフトウェア技術」 工藤博幸(筑波大学)
12:00 ランチョンセミナー1: サンマイクロシステムズ  
12:30 ランチョンセミナー2: ベストシステムズ  
13:00 来賓挨拶 参議院議員(木俣佳丈 民主党)
13:15 来賓挨拶 荒木由季子(経済産業省)
13:30 新型シークエンサーによるメタゲノム解析 黒川 顕(東京工業大学)
14:20 Panasas Parallel File System in HPC and Bioinformatic Applications Brent Welch (Panasas Inc.)
15:10 コーヒーブレーク  
15:30 次世代疾患オミックスとシステム創薬 田中 博(東京医科歯科大学)
16:20 パネル討論「これからの10年 ~技術動向とビジネスチャンス~」 モデレータ:西克也(ベストシステムズ)
17:50 閉会挨拶  
18:00 創立10周年記念レセプション・ビヤステーション恵比寿

 

この日は、事業仕分けで産業技術総合研究所関連がまな板の上に載っており、NEDOを縮小して産総研に統合せよなど、とんでもない意見が飛んでいた。シンポジウム発表そっちのけで中継を見ていた人もいたようである。

次回は、会議以外の国内の学界の動きをまとめる。

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