世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


提 供

7月 23, 2018

HPCの歩み50年(第171回)-2009年(k)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

Top500では、上位20位までに日本は一つも入らなかったが、中国が5位(天津)と19位(上海)、韓国が14位(KISTI)、サウジアラビアは18位(KAUST)を取った。日本は完全に出遅れている。HPC Challenge Class 2 Awardsでは筑波大学のXcalabelMPがHonorable Mentionを受けた。

SC2009(続き)

10) 展示
主催者発表によると、今年は企業展示195件(去年の220件より減った)、研究展示123件(去年の117件より多く過去最多、全体で318件(去年は337件)であった。展示の純面積(ブース面積の合計の意味か)は131,650 ft2(11800m2)とのことである。これは1階におかれている。もともと2階にも別の展示会場が予定されていたようであるが、企業展示のキャンセルがあり1階だけに配置したようである。

例年のごとくTechnical programとは独立にExhibitor Forumが2並列で火水木にあり、展示出展企業が30分ずつ講演した。このほか、各展示ブースでは企業展示でも研究展示でも、プレゼンテーションがひっきりなしに行われており、とてもつきあいきれない。

11) 企業展示
今年の企業展示は195件であった。今年目立ったのはGPGPUなど広義のmanycore関係のハード・ソフトの出品が多かった。ただすべてが順調なわけではない。常連の企業は日本系の企業を含めてそれぞれ元気に出展していた。

 

(a) Microsoft
 SCへの登場の歴史は短いが、今回最大のブース(4,500 ft2)をかまえていた。Windows HPC Server 2008が目玉のようで、いろいろなデモを示していた。大きな会場を用意して、自社関係者だけではなくいろいろな人のプレゼンが行われていた。
(b) IBM
 SCxyの常連であり、大きなブースを会場のいい場所に出していた。今年の目玉はPOWER7を搭載したボードで、黒山の人だかりになっていた。水冷の銅パイプが印象的だった。ボードは、幅1 mで奥行きが1.8 mであり、まるで畳である。重量は160 Kgもあり、とても1人では持ち上がらない。専用の昇降機があるようである。ボード自体はIBMと親しい日本のH社製だという噂が流れていた。これはNCSAのBlue WatersやHPCSのPERCSに使われるのであろう。
(c) 富士通
 富士通は、SPARC64 VIIIfxのチップを4個搭載した次世代スパコンのボードを展示していた。これも水冷の銅パイプが印象的である。ウェファーの展示と合わせて結構客を集めていた。
(d) 日本電気
 SX-9を展示していた。日本の次世代スーパーコンピュータ開発からは撤退したが、ベクトルスーパーコンピュータ開発は継続すると表明している。
(e) 日立
 今回はパネルが主だったので、若干迫力に欠けた。IBMのPOWER7を搭載したハードウェアをOEMで販売することになると思われる。
(f) NVIDIA
 大きなブースを出していた。9月に次期GPUであるTesla Fermiを発表したが、11月10日になって出荷が遅れそうだというニュースがあった。どうなるのであろうか。割に広いプレゼンテーションスペースがあり、以下のような講演があったそうである。
  * Jack Dongarra‚ University of Tennessee
  * Jeff Vetter‚ Oak Ridge National Laboratory
  * Satoshi Matsuoka‚ Tokyo Institute of Technology
  * Pat McCormick‚ Los Alamos National Laboratory
  * Paul Crozier‚ Sandia National Laboratories
  * Ross Walker‚ San Diego Supercomputing Center / UC San Diego
  * Mike Clark‚ Harvard University
(g) Cray社
 Cray社はORNLのJaguarのCPUを6コアのOpteron(Istanbur)に更新して、今回念願のTop500のトップを獲得した。今後は、POWER7に対抗するCray XT6を展示した。これはCPUとして12コアのMagny-Coursを使う。
(h) 今年登場しなかった会社としては
  (1) ClearSpeed: 去年はリスク分析市場で活躍すると言っていた。昨年5月にこの会社のCTOを辞めたJohn Gustafson氏は、Director of Intel Research, Santa Clara at Intel とのことである。
  (2) Quadrics: 去年は展示がキャンセルされたが、今年の6月閉鎖。レイテンシが小さいことをうたっていたQsNet IIIは期待されていたが遂に出なかった。

 

12) 研究展示
全体で123件であったが、そのうち日本からの研究展示は以下の25件であった。去年出典していなかったところはNewと記す。

・ National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST、産総研)
  ブース内にプレゼンテーションの場所を設け、多くのプレゼンを行っていた。スピーカーは以下の通り。
  -Kate Keahey (ANL) / Hidemoto Nakada (AIST)
  -Tony Hey (Microsoft)
  -Eric Kronstadt (IBM) / Satoshi Itoh (AIST)
  -Jesus Labarta (BSC)
  -Philip Papadopoulos (SDSC) / Takahiro Hirofuchi (AIST)
  -Craig Lee (OGF)
  -Rudolf Eigenmann (Purdue U.) / Masashi Matsuoka (AIST)
  -Stuart Martin (ANL) / Yoshio Tanaka (AIST)
  -Eddy Caron (ENS Lyon) / Hidemoto Nakada (AIST)
  -Franck Capello (INRIA)
  -Evangelos Haniotakis (ESnet) / Ryosei Takano (AIST)
  -Matthias Mueller (TU Dresden)/Yoshio Tanaka (AIST)
  -Jack Dongarra (UTK)
  -Geoffrey Fox (Indiana U.) / Isao Kojima (AIST)
・ Center for Computational Sciences, University of Tsukuba(筑波大計算科学研究センター)
  PAX以来の研究活動とともに、現在のセンターの研究活動を紹介。
・ Center for the Promotion of Excellence in Higher Education, Kyoto University (New)
  高等教育研究開発推進センターであるが、情報メディア工学講座情報可視化分野 小山田研究室のhome pageがリンクされている。
・ Cybermedia Center
  去年はIST/CMC – Osaka Universityの名前で出展。今年は大阪の文字がないので、どこの国かわからない。
・ Doshisha University
・ GRAPE Projects
・ Hokkaido University
  去年はIndustry Exhibitorだったが、今年はResearch Exhibitor
・ Information Technology Based Laboratory (ITBL)
・ Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology (JAMSTEC)
  去年はIndustry Exhibitorだったが、今年はResearch Exhibitor。去年出展したが、今年は出さなかったEhime Universityの活動も入っていたようである。
・ Japan Advanced Institute of Science and Technology (JAIST)
・ Japan Atomic Energy Agency (JAEA)
・ Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA)
・ Kansai University
・ Kyushu University
・ Nara Institute of Science and Technology (NAIST)
・ National Institute of Informatics (NII)

 

・ National Institute of Information and Communications Technology (NICT)
  去年はIndustry Exhibitorだったが、今年はResearch Exhibitor
  NTTは新世代ネットワークテストベッドを用いた実証実験をNICTブースで公開
・ Research Organization for Information Science & Technology (RIST)
・ RIKEN
  写真は理研次世代スーパーコンピュータの展示風景(レポーター出張報告から)
・ Saitama Institute of Technology
・ Saitama University
・ T2K Open Supercomputer Alliance
  去年はITC, The University of Tokyoとして出展
・ The University of Tokyo 平木研究室
・ Tohoku University
・ Tokyo Tech (Tokyo Institute of Technology)

13) Top500(世界)
第34回のTop500が出た。20位までを記す。前回の順位に括弧がついているのは、アップグレードまたはチューニングによって前回より性能向上(Roadrunnerについては性能低下)があったことを示す。

順位 前回 設置場所 機種名 cores Rmax Rpeak
1 (2) ORNL Jaguar – Cray XT5-HE 6-core 2.6 GHz 224162 1759.0 2331.0
2 (1) LANL Roadrunner-QW22/LS21, Cell 8i 3.2 GHz 122400 1042.0 1375.78
3 (6) NICS, Tennessee Kraken Cray XT5-HE – 6-core 2.6 GHz 98928 831.7 1028.85
4 3 FZJ JUGENE – Blue Gene/P 294912 825.5 1002.7
5 国防科学技術大 天河1号 – Xeon E5540/E5450 + Radeon 71680 563.1 1206.19
6 (4) NASA/Ames Pleiades – SGI Altix ICE 8200EX, Xeon QC 3.0/Hehalem EP 2.93 GHz 56320 544.3 673.259
7 5 LLNL BlueGene/L 212992 478.2 596.378
8 (7) ANL Intrepid – Blue Gene/P 163840 458.611 557.056
9 8 TACC, Texas Ranger – SunBlade x6420, Opteron QC 62976 433.2 579.379
10 SNL Red Sky – Sun Blade x6275 41616 423.9 487.74
11 9 LLNL Dawn – Blue Gene/P 147456 415.7 501.35
12 Moscow State U. Kinibisiv – T-Platforms Xeon 5570 35360 350.1 414.419
13 10 FZJ JUROPA – Sun Constellation 26304 274.8 308.283
14 KISTI(韓国) TachyonII – Sun Blade x6048 26232 274.8 307.439
15 11 NERSC Franklin – Cray XT4 QuadCore 2.3 GHz 38642 266.3 355.506
16 12 ORNL Jaguar – Cray XT4 QuadCore 2.1 GHz 30976 205.0 260.2
17 13 SNL Red Storm, XT3/4, 2.4/2.2 GHz dual/quad-core 38208 204.2 284.0
18 (14) KAUST Shaheen – Blue Gene/P 65536 190.9 222.822
19 15 上海スーパーコンピュータセンター Magic Cube – Dawning 5000A, QC Opteron 1.9 Ghz 30720 180.6 233.472
20 Edinburgh大(英国) HECToR – Cray XT4 2.3 GHz 22656 174.083 208.435

 

ORNL(Oak Ridge National Laboratory)のJaguarは、前回僅差でRoadrunnerに破れたが、今回プロセッサを6コアのIstanbul(クロック2.6 GHz)に代えて1位を奪取した。同様に6コアに更新したKrakenは6位から3位に上昇した。なお、Roadrunnerは、前回は1.1 PFlopsを若干超えていたのであるが、一部を別の用途に回した(戻した?)とのことで、前々回のスコアに戻っている。Jaguarにはとてもかなわないからであろう。

注目すべきは、天津スーパーコンピュータセンター(超級計算中心)に設置される予定の中国の国防科学技術大学の天河1号が、Intel Xeon E5540/E5450とATI Radeon HD 4870 2という面白い組み合わせにより5位に進出したことである。ノードは2個のIntel Xeonプロセッサと2個のAMD GPUで構成されている。

韓国KISTIのTachyonIIは14位を獲得し、韓国初のTop20 入りを果たした。

King Abdullah University of Science and Technolgoy(KAUST)のShaheenシステムは18位に入り、今回、中近東トップとして表彰された。またアフリカの第1位として南アフリカのSunブレードベースで311位、25.64 TFlopsのシステムが表彰された。

設置場所の国別で見ると、米国が55%と過半数を占め、英国、ドイツ、フランスと続く。注目すべき点は中国が21システム入っていることである。日本は16システムであり、Flops性能値の合計でも、中国が全体の4.2%を占めたのに対して日本は3.2%である。システム数の年次推移を見ても、日本のスパコン投資の不足による長期低落傾向は明白である。

さらに、中国と日本の上位3システムを比較すると、中国は5位、19位、43位であるのに対して、日本は31位、36位、45位であり、一面的なLINPACKによるランキングではあるが、スパコンでは質、量ともに中国に抜かれたと言える。

全体としては、6 core CPUを使ったシステムが急速に普及し、全体の内427システムにまで達した。IntelのCPUを使うシステムが402、IBMは55、AMDは42で減少傾向。

システムベンダとしては、HP (210)とIBM (186)が首位を争っている。Linpack性能合計値では、IBMが35.1%、HPが23.0%を占めている。Crayは15.9%、SGIは6.6%である。

Top500入りの閾値は、前回の17.1 TFlopsから20 TFlopsに上がった。

14) Top500(日本)
日本に設置されているマシンは以下の通り。前回の14システムから16に増えた。

順位 前回 設置場所 機種 コア数 Rmax Rpeak
31 22 JAMSTEC Earth Simulator 2 – SX-9/E/1280M160 1280 122.4 131.072
36 28 JAXA FX-1 12032 110.6 121.282
45 (42) 東京大学 T2K Open Supercomputer (Todai Combined Cluster) 15104 101.7 139.0
47 (40) 理研 PRIMERGY RX200S5 9048 97.94 106.042
56 41 東京工業大学 TSUBAME Grid Cluster with CompView TSUBASA 31024 87.01 163.188
62 47 筑波大学 T2K Open Supercomputer – Appro Xtreme-X3 Server 10369 77.28 95.385
81 65 核融合科学研 Plasma Simulator – SR16000 4096 77.0 645.00
84 69 東大医科研 SHIROKANE – SunBlade x6250 5760 54.21 69.12
92 気象研究所 Hitachi SR16000 L2/121 3871 51.21 72.7936
95 78 京都大学 T2K Open Supercomputer/Kyodai 6656 50.51 61.235
114 93 物材機構 Altix ICE 8200EX 4096 42.69 45.8752
143 自動車会社 HPE Cluster Platform DL4x170h 4592 37.39 48.858
207 統計数理研究所 PRIMERGY RX200S5 Cluster 2880 31.18 33.753
243 名古屋大学 Fujitsu FX-1 3072 28.51 30.965
431 261 国立天文台 Cray XT4 QuadCore 2.2 GHz 3248 22.93 28.582
447 279 国立天文台 GRAPE – DR 8192 22.0 84.5

 

15) Green500
第5回のGreen500が発表された。現在のwebにはないが、手元の資料から20位までを記す。

順位 設置場所 機種 MF/Watt Top500
1 FZJ(独) QPACE SFB TR Cluster PowerXCEll 8i 722.98 110
1 Regensburg大学(独) QPACE SFB TR Cluster PowerXCEll 8i 722.98 110
1 Wuppertal大学(独) QPACE SFB TR Cluster PowerXCEll 8i 722.98 110
4tie LANL BladeCenter QS22/LS21 Cluster 458.33 29
4tie IBM Poughkeepsie BladeCenter QS22/LS21 Cluster 458.33 78
6 LANL BladeCenter QS22/LS21 Cluster 444.25 2
7 国立天文台 GRAPE-DR 428.25 445
8 天津スーパーコンピュータセンター NUDT TH-1 379.24 5
9tie KAUST(サウジアラビア) Blue Gene/P Solution 378.77 18
9tie EDF R&D(仏) Blue Gene/P Solution 378.77 49
9tie Ecole Polytech. Lausanne(スイス) Blue Gene/P Solution 378.77 99
9tie IBM Rochester Blue Gene/P Solution 378.77 99
9tie IBM T.J. Watson R. Center Blue Gene/P Solution 378.77 99
9tie MPI/IPP(独) Blue Gene/P Solution 378.77 99
15tie IDRIS(仏) Blue Gene/P Solution 378.77 32
15tie SAITC(ブルガリア) Blue Gene/P Solution 378.77 377
15tie Moscow State U.(ロシア) Blue Gene/P Solution 378.77 377
15tie ORNL Blue Gene/P Solution 378.77 377
15tie Daresbury Lab.(英) Blue Gene/P Solution 378.77 377
15tie Stony Brook/BNL Blue Gene/P Solution 378.77 377

 

ほとんどがCell B.E.のクラスタかBlue Gene/Pである。前回と同様にどれだけが実測によるかについては疑義がある。

16) HPC Challenge
SC09では、HPC Challenge(HPCC) Awardsの表彰も行われた。受賞は以下の通り。Submitterは省略。

2009 HPC Challenge Class 1 Awards

G-HPL Achieved System Affiliation
1st place 1533 TFlops Cray XT5 ORNL
1st runner up 736 TFlops Cray XT5 UTK
2nd runner up 368 TFlops IBM BG/P LLNL
G-Random Access      
1st place 117 GUPS IBM BG/P LLNL
1st runner up 103 GUPS IBM BG/P ANL
2nd runner up 38 GUPS Cray XT5 ORNL
G-FFT      
1st place 11 TFlops Cray XT5 ORNL
1st runner up 8 TFlops Cray XT5 UTK
2nd runner up 7 TFlops NEC SX-9 JAMSTEC
EP-STREAM-Triad (system)      
1st place 398 TB/s Cray XT5 ORNL
1st runner up 267 TB/s IBM BG/P LLNL
2nd runner up 173 TB/s NEC SX-9 JAMSTEC

 

2009 HPC Challenge Class 2 Awards

Award Recipient Afflication Language
Best Performance $1000 Gordon Almasi IBM UPC and X10
Most Elegant Implementation $1000 Steve Deitz Cray Chapel
Honorable Mention Jinpil Lee 筑波大学 XcalableMP

 

G-HPLのトップはTOP500の首位のORNLのJaguarシステムで、スコアは1.533 PFlops、2位は763 TFlopsでTOP500 3位のKrakenが獲得した。そして3位はLLNL所のBG/Lシステムの368 TFlopsである。

G-Streamでは、1位はJaguar、2位はLLNLのBG/Pが占めたが、JAMSTECの日本電気製のSX-9システムが3位に入り、関係者が表彰を受けた。また、JAMSTECのシステムはG-FFTでもJaguarとKrakenシステムに次いで3位に入った。これまで日本電気は、HPCCの多くの項目で世界一を達成したという発表を行ったが、これらは表彰対象の主要4項目以外の項目でのトップ性能であり、今回の2つの表彰対象項目での入賞は画期的である。

そして、HPCCでは解法のエレガントさやプログラム開発効率の観点での言語や開発に対しての表彰があり、エレガントさは10人の審査員の合議で判定される。今回のエントリはCrayのChapel言語でのエントリ、IBMのUPCとX10言語でのエントリと筑波大学のXcalableMP言語によるエントリがあり、解法のエレガントさの観点では、G-Streamを65行で記述し、最長のG-HPLでも176行で超並列処理を記述したCrayのエントリが表彰された。また、筑波大のエントリはエレガントさの点で、Honorable Mentionを獲得した。一方、簡易な記述で高性能達成の観点からは、IBMのエントリが表彰された。

次回はアメリカ企業の動き。

(画像:SC09ロゴ  出典:SC09ホームページ  )

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