世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


9月 3, 2018

HPCの歩み50年(第175回)-2010年(a)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

理化学研究所計算科学研究機構が発足し、次世代スーパーコンピュータは「京」と命名された。9月28日に「京」の第一筐体が富士通から出荷された。Coarrayを導入したFortran 2008がやっと規格化された。NVIDIA社はGeForce GTX 400シリーズを発表した。Intel社のメニーコアの運命や如何に?

2010年(平成22年)の社会の動きとしては、1/1平城遷都1300年祭開幕(年末まで)、1/1日本年金機構発足、1/4ドバイの高層ビルBurj Khalifaオープン、1/12欧州委員会がギリシャ財政の統計上の不備を指摘、ギリシャ経済危機始まる、1/12ハイチ地震(M7.0)、1/19日本航空が会社更生法適用申請、2/2国土交通省が高速道路無料化社会実験の日時と路線を発表、2/12バンクーバーオリンピック開幕(日本は銀3、銅2)(~28)、2/27チリ地震(M8.8)、日本にも津波警報、3/9北野武がフランス芸術文化勲章Commandeur章を受章、3/11茨城空港開港、3/26黄海で韓国の哨戒艦「天安」が沈没、3/29モスクワ地下鉄爆破テロ、4/2-10タイ全土でタクシン前首相支持派デモ、4/6名張毒ぶどう酒事件の審理差し戻し決定、4/10ポーランド空軍Tu-154墜落事故、4/14青海地震(M7.1)、4/14アイスランドのEyjafjallajokull火山噴火、ヨーロッパ上空に火山灰、4/16スカイマーク、神戸・茨城線就航、4/20メキシコ湾原油流出事故、4/27日本で殺人罪などの公訴時効が廃止、5/1上海国際博覧会開幕(~10/31)、5/2ユーロゾーンとIMFはギリシャへの€110Bの財政支援合意、5/6イギリス下院総選挙、保守党勝利、5/6 Flash Crash(Dow平均株価がコンピュータ取引で急激に暴落)、5/10フィリピン大統領選挙、Benigno Aquino III当選、5/11イギリスでDavid Cameron首相に、5/18宮崎県で流行している口蹄疫で東国原知事が非常事態宣言、5/19タイで反政府派デモ隊に治安部隊突入、5/21日本の金星探査機「あかつき」打ち上げ、6/2鳩山由紀夫総理が退陣を表明、6/4総辞職、6/8菅直人内閣発足、6/11 FIFA World Cup南アフリカ大会開幕、6/13小惑星探査機「はやぶさ」帰還、6/28日本で高速道路無料化社会実験開始、7/11参院選、民主党惨敗、7/17京成成田空港線(成田スカイアクセス)開業、7/17日本で改正臓器移植法施行(15歳未満の子供の移植可能)、7/20金賢姫来日、7/25 Wikileaksがアフガニスタン戦争に関する秘密文書公開、9/7尖閣諸島中国漁船衝突事件、9/10村木厚子に大阪地裁が無罪の判決(9/21確定)、9/18 Münchenでオクトーバーフェスト200周年、9/21大阪地検主任検事を、村木厚子に関係した証拠のフロッピーディスクを改ざんした容疑で逮捕、10/2尖閣諸島抗議デモ、10/6ノーベル化学賞、根岸英一、鈴木章がRichard Heckとともに受賞と発表、10/21羽田空港のD滑走路と新国際線ターミナルが供用開始、10/22 Wikileaksがイラク戦争に関する機密文書公開、10/29警視庁国際テロ捜査情報流出事件、11/2アメリカ中間選挙、民主党惨敗、11/4尖閣諸島中国漁船衝突事件の44分の映像が、YouTube上にsengoku38のアカウント名で公開、11/6京都でAPEC財相会合、11/9ミャンマーで20年ぶり総選挙、11/13ミャンマーの民主化指導者Aung San Suu Kyi解放、11/13-14横浜でAPEC首脳会議、11/23延坪島砲撃事件勃発、11/29 Wikileaksがアメリカの外交公電を流出させる、12/4東北新幹線、新青森まで開通、12/7日本の金星探査機「あかつき」が金星到着、など。この年の流行語としては、「ゲゲゲの~」「いい質問ですねぇ」「イクメン」「AKB48」「女子会」「無縁社会」など。

TIME誌によると、2010年は「漏れ」の年だった。4月のメキシコ湾の”BP-leaks”、アイスランドの火山も灰を漏らし、”Wikileaks”までもれ続きである。日本では、Sengoku-leaksというか尖閣leaksや警視庁leaksもあった。

2010年の記事の予定は以下の通り。

第175回 次世代スーパーコンピュータ開発:秘密開示、開発状況、戦略プログラム、HPCI検討
第176回 次世代スーパーコンピュータ開発:計算科学研究機構の設立、HPCIコンソーシアム、HPCI計画推進委員会、戦略的高性能計算システム開発に関するワークショップ
第177回 次世代スーパーコンピュータ開発:「京」初出荷、HPC人材育成、情報科学技術委員会、賠償請求、駅名変更、スーパーコンピューティング技術産業応用シンポジウム、グランドチャレンジ
第178回 日本政府の動き:日本学術振興会、日本学術会議、地球シミュレータ、気候変動予測に関する計算機検討会、e-サイエンス実現、高度利用促進、JST CREST「ポストペタ」、JSTシミュレーション、JST先端計測
第179回 日本の大学センター等の動き:JHPCN、筑波大学、東京工業大学
日本の学界の動き:PCクラスタコンソーシアム、「コンピューティクス」、筑波大学
第180回 日本の学界の動き:円周率、Grape-DR、情報処理学会が日本将棋連盟に挑戦状、「はやぶさ」帰還、重谷隆之氏死去、火山爆発
第181回 国内会議:HPCS 2010、理研シンポジウム2009、SACSIS2010、先端的大規模計算利用サービス 第4回シンポジウム、SS研HPCフォーラム、日本応用数理学会、IC2010、Hokke-18、IPABセミナー
第182回 日本の企業の動き:日本電気、富士通、日立製作所、Fixstars社
標準化:Fortran 2008、グリッドのJIS化とINSTAC廃止、Ruby標準化
第183回 アメリカ政府の動き:連邦予算削減、アメリカのExascale計画
世界の学界の動き:Mandelbrot死去
国際会議:ISSCC2010、12th Teraflop Workshop、Climate12、IESP、COOL Chips XIII、IPDPS 2010、CGO 2010、Computing Frontier 2010、CCGrid 2010、ICCS 2010、IWOMP 2010、ISCA 2010、HPDC-19、Hot Chips 2010、ICPP 2010、Cluster 2010、SNA+MC2010、ICPADS 2010、ICCM2010
第184回 ISC2010:はじめに、Intel社、Top500(世界)、Top500(日本)
SC10:はじめに、日本の寄与、Social Events、企業展示、研究展示、Technical Papers
第185回 SC10: ATIP 2010 Workshop on HPC in China、開会式、基調講演、HPC Challenge Awards
第186回 SC10: Top500(世界)、Top500(日本)、Green500、Bill Dally、Ken Kennedy Award、SC10 Awards Session、18日(木)午前、Terry Davies、Bob Jones、Award Session
第187回 アメリカ企業の動き:IBM社 (Power)、IBM社 (GPU)、Cray社 (XT6)、Cray社 (XE6)、Cray社(CX1000)、Cray社 (Cascade)、Cray社(XMT)、Cray-1A、Sun/Oracle社、Intel社 (x86)、Intel社 (Itanium)、Intel社 (AVX)、Intel社 (MIC)
第188回 アメリカ企業の動き:AMD社 (Llano)、AMD社 (Magny-Cour)、AMD社 (Bulldozer)、AMD社 (APU)、NVIDIA社 (GeForce)、NVIDIA社 (Echelon)、Microsoft社、Instagram
ヨーロッパの動き:ヨーロッパ連合(PRACE)、ヨーロッパのExascale、Jülichスーパーコンピュータセンター、LRZ
中国の動き:中国科学院(龍芯3号)、申威ShenWei SW-3、新岸線公司(Armプロセッサ)、深圳スーパーコンピュータセンター、曙光(Sugon)、天河一号、天河1A、国立スーパーコンピュータ長沙センター
ベンチャー企業の終焉:Sun Microsystems社、Liquid Computing Corporation

 

次世代スーパーコンピュータ開発

昨年11月の事業仕分けを切り抜け、いよいよ製造段階に進んだ。愛称「京」も決まり、HPCIの構築も進んでいる。1月第2週発売の週刊朝日のコラムで、ホリエモンが、「日本にスパコンは不要、使いたい人はアメリカに使いに行けばよい」というとんでもないことを書いていた。スパコンなしにロケットが飛ぶのであろうか。

1) 秘密開示
2010年1月22日に、川端達夫文部科学大臣の記者会見において、「今まで世界一を目指すという意味で、スパコンを研究開発していくプロジェクトとして昨年7月に取りまとめた次世代スーパーコンピュータプロジェクト中間評価報告書というのがあるのですが、この中で、世界一を目指しているというのが、し烈な世界の競争でありますので、どういうスケジュールでどういう進ちょく状況になっているか等々の議論の部分、あるいは技術的なレベルの部分は一部非公開という形で、報告書を公開しない部分を設定してあったのですが、一定の方向も決まりまして、世界一を目指しつつも、ナンバーワンを目指しつつも、それにどうしてもこだわって加速するということをやめましたので、先ほど申し上げた幅広い議論を国民的にしていただけるためにということで、中間報告の取りまとめで発表していた非公開の部分を、改めて開示したいというふうに思っておりますので、この会見が終わった後で中身は開示したいと思います。」と述べ、下記の発表があった。

次世代スーパーコンピュータプロジェクト中間評価報告書の公開について
平成22年1月22日

 次世代スーパーコンピュータプロジェクト中間評価報告書(平成21年7月 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 情報科学技術委員会 次世代スーパーコンピュータプロジェクト中間評価作業部会)については、国家的な目標の実現(世界最速達成)等のため、中間評価作業部会で秘密情報の取扱いを決定した上で、これまで部分的に非公開としていました(別紙1、2参照)。一方、次世代スーパーコンピュータプロジェクトについては、平成22年度予算案編成過程において、利用者側視点で多様なユーザーニーズに応える「革新的ハイパフォーマンスコンピューティング・インフラ」を構築する計画に進化・発展させることとしたところです。また、当該計画変更の際には、10ペタFLOPS級の達成時期についても見直すとともに達成時期を公表しました。これに伴い、中間評価報告書の非公開部分についても公開することとしましたのでお知らせします。

公開する事項

 次世代スーパーコンピュータプロジェクト中間評価報告書において、国家的な目標の実現(世界最速達成)等のため、これまで非公開としていました以下の項目について公開します。

・システム開発の進捗状況(平成21年7月時点)
・米国のスパコン開発状況
・システム構成再検討の要請
・開発スケジュール
・システム構成に係る意見等

(注)本報告書は、昨年7月時点のものであり、昨年12月の次世代スーパーコンピュータプロジェクトの計画変更については、反映しておりません。
[以下はリンク]
次世代スーパーコンピュータプロジェクト中間評価作業部会報告書 (PDF:1348KB)

■別紙1 次世代スーパーコンピュータプロジェクト中間評価作業部会における秘密情報の取扱い及び会議の非公開について

■別紙2 秘密情報の取扱いについて

 

この発表そのもののweb pageは現在残っていない。この秘密開示は、昨年からの経緯に関連して記者から情報公開の要請があっただけでなく、2010年度予算案に係る関係大臣折衝で、予算措置の条件として「説明責任を果たすこと」が課せられたことによるものである。これまで非公表とされた部分では、経費の追加などがなければ「世界一」は達成できないと書かれ、昨年の仕分けとの関連が明示された。なお、この段階でも企業秘密に関係する部分は公開されていない。

翌1月23日の各紙は、公開された情報の分析を掲載している。例えば毎日新聞は、「次世代スパコン:文科省、機密を公表 『競争に勝てない』--NEC撤退前に」との見出しの下に、「同事業では昨年5月、開発に参加していたNECなどが撤退。業績悪化が理由とされたが、今回の報告書では、撤退以前に当時の日本の計画では「米国との競争に勝つのは困難」と同省作業部会が指摘し、NEC担当部分の開発縮小、廃止の検討を求めていたことが分かった。事業を統括する理化学研究所は競争に勝つため、110億円を予算追加し11年に完成させる新計画を提示。しかし事業仕分けを経て追加予算は削減、完成時期も当初予定の12年中に戻された。」と述べている。朝日新聞は、「仕分け前に『世界一は困難』次世代スパコンで文科省」との見出しの下に、「計画では、当初、富士通とNEC・日立の両グループのシステムを組み合わせる方式で設計が進み、2011年6月に毎秒5千兆回の計算速度を実現すれば、『世界一』になるはずだった。ところが、昨年4月の段階では、計画を評価する委員の大半が、意見集約で『計画が遅れている』と答え、『現行計画では世界一の奪取は困難』との結論を出していた。その約1か月後にNECと日立が撤退を表明した。」とある。読売新聞は、「次世代スパコン、仕分け前に『世界一困難』評価」との見出しの下に、「昨年7月に公表された表向きの報告書では、そこに書かれた世界一への戦略は伏せたまま、必要経費を2010年度の概算要求に盛り込んだ。同省が22日、発表した。同省の担当者は『海外に手の内を明かしてしまえば世界一にはなれず、やむを得なかった』と話している。」と書かれている。もちろん筆者のこの連載では、2010年に公開された情報も使って来た。

2) 開発状況
昨年設置された理化学研究所次世代スーパーコンピュータ技術諮問委員会は1月20日に臨時会議をいつもの丸の内大会議室で開催した。議題は、政府予算案の報告と、予算案を踏まえたシステム開発スケジュールの見直しであった。

さて、独立行政法人・理化学研究所は、2010年2月3日、神戸市中央区のポートアイランドに建設中の施設を報道陣に初めて公開した。神戸港の人工島の2ヘクタールの敷地に地下1階、地上3階建ての「計算機棟」と、冷却用の「熱源機械棟」、100人以上の研究者が常駐する6階建ての「研究棟」などを建設中で、工事の進み具合は8割程度という。総工費は193億円。計算機棟は地上3階、地下1階建てで、ソフトウェアを含めると1千億円近くを投じるスパコンは3階に入る。熱源機械棟では、スパコンを冷やす水や空気を循環させる大型機械が設置されていた。本格稼働が、事業仕分けの予算削減騒動の影響で約ハードウェアの導入時期が予定していた平成23年11月から半年遅れの24年6月になるため、その間に米国のスパコンが完成するために「世界一」を逃す見通しであるとした記事もあった。

 
   

3月31日に、次世代スーパーコンピュータ技術諮問委員会のメンバーで、次世代スーパーコンピュータをテスト中の富士通沼津工場を見学した。内田工場長のご挨拶のあと、井上愛一郎常務理事から開発状況の紹介があり、新庄統括部長の案内で次世代スパコンシステム試験場を見学した。数台の筐体が稼働していた。最後に池田記念室を見学の後、急ぎ新幹線で帰った。実は、今年(2018年)7月に、同じ富士通沼津工場にポスト「京」の開発状況を見学に行ったが、8年前のことを思い出した。

4月15日には、第3回の次世代スーパーコンピュータ技術諮問委員会を開催した。開発状況、システム整備スケジュール、アプリケーション性能評価、レビュー結果、次世代スパコンの愛称などについて議論した。

5月31日には施設が竣工した。写真は2011年1月13日に、ポートライナーの線路わきから南向きに撮ったもの。右側は「計算科学センタービル」とその奥に「計算科学研究機構」、左側の小さなビルは「神戸大学統合研究拠点」。左端は「ポートアイランド南駅」(現在の「京コンピュータ前駅」)。

3) 戦略プログラム
次世代スーパーコンピュータ戦略委員会は、2008年1月25日~2017年9年3月31日という長期の任期で任命されていた。2009年中には16回の会議を開いて戦略プログラム(正確にはそのFS、つまり実施可能性調査)とその実施機関を選定した。昨年の事業仕分けとその後の計画変更で、戦略委員会はいったん休止となったようである。

戦略プログラムの当初の計画は、2010年度の準備研究に数億円/分野、2011年度以降の本格実施に毎年5億円/分野で5年間というものであったが、事業仕分けと政治主導の見直しにより、今回の予算編成の結果、準備研究のための予算は、0.6億円/分野の計上となった。また、2011年度以降の予算獲得についても大変厳しい状況にある。このため、2010年1月18日17時30分から旧戦略委員会委員による戦略打ち合わせ会が開かれ、本格実施のタイミングを当初計画どおり2011年度からとすることの是非について議論した。その結果、準備研究の予算規模は縮減されたものの、次世代スーパーコンピュータの完成に合わせて早急に成果創出を図っていくとの方針に何ら変更がないことから、2009年度のフィージビリティスタディ(FS)による実施計画づくり(実施事項のプライオリティー付けは必須)を進め、2010年度当初に評価を行い、2010年度の準備研究(FS評価結果によっては引き続きFSの実施)を経て、当初計画どおり、2011年度からの本格実施を行うこととなった。

2009年度に実施するFSについては、1月18日に契約締結を行い、22日(中間評価作業部会報告書の非公開部分の公開発表と同じ日)に正式にプレス発表を行った。

2月24日には、5つのFS実施機関と、計算科学研究機構の代表者が集まる「第1回戦略プログラム全体会議」が文部科学省内の会議室で開かれた。この会合においてFS実施機関からは、「実施計画の作成のため、戦略機関(分野)に割り当てられる次世代スパコンの計算資源量について目安を示して欲しい」との意向が示された。これに対し文部科学省からは、「各戦略機関に割り当てる計算資源量(CPUと時間の積で表示)の目安はとしてはどうかとの線が出された。筆者は、「基本的に賛成であるが、これは既得権ではなく、今後の評価等をふまえて改めて決定されることを明記した方がいいと」述べた。

次世代スーパーコンピュータ戦略プログラム分野3「防災・減災に資する地球環境変動」実施可能性調査、計算科学技術体制構築・計算機環境にかかるワーキンググループが2010年2月25日に東京京橋の会議室で開催され、アドバイザとして出席した。

2010年5月26日に第17回となる次世代スーパーコンピュータ戦略委員会が文部科学省内で開催された(当初予定は24日)。メンバーは変わっていない。しかし、これも戦略委員会ではなく「打ち合わせ会」とされ、議事録等は文部科学省のwebには残っていない。この会議では、

(a) 戦略プログラムFS (Feasibility Study)の評価方式について
(b) 今後のスケジュールについて
(c) 補助金ついて
(d) HPCIコンソーシアムのグランドデザインについて

議論を行った。

FSの成果報告書が5月28日に提出され、評価ヒアリングは6月23日(分野1~4)と6月30日(分野5)に行われた。分野1については、7月5日に再ヒアリングが行われた。戦略プログラムは、「革新的なブレークスルーをもたらす研究成果」と「分野中核拠点としての機能の整備」を狙っているが、研究者は前者に傾斜する傾向がある。しかし、「良い成果」が出る程度の課題は、科研費やJSTの研究費でも実現可能であり、次世代スーパーコンピュータの一般利用でも可能である。これまでの個別の取り組みで行われてきた研究の単なる延長ではなく、戦略プログラムを契機に融合・発展したような課題となることが望ましい。また、後者においても、研究支援機能が十分考慮されていないとの指摘があった。

評価の結果5分野ともFSから本番に進むこととなり、7月28日に「次世代スーパーコンピュータ戦略プログラム」の戦略機関を正式に決定した。

2010年12月22日に「HPCI戦略プログラム推進委員会」を、研究振興局長の私的諮問機関として設置した。これは、従来の戦略委員会が次世代スーパーコンピュータに関する施策全般を統括するものであったのと異なり、5分野の戦略機関から提出された実施計画を審議し、進捗状況を把握するためのものである。また、計算資源配分、予算配分なども行う。メンバーはプログラムマネージャ(PM)1名と、5分野からの分野マネージャ(FM)各1名、および理化学研究所計算科学研究機構長の合計7名からなる。任期は2016年9月30日までとなっている。第1回のHPCI戦略プログラム推進委員会は2010年12月28日に開催された。

4) HPCI検討
文部科学省は、2010年2月17日、「事業仕分けの指摘等を踏まえ、次世代スーパーコンピュータ計画を開発者視点から利用者視点の施策に転換し、革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラを構築する施策としました。今般、この取組方針や必要性などを一般の方々にわかりやすく解説し、理解を深めていただくことを目的として、本フォーラムを開催することとしました。」と発表した。3月5日に文部科学省第二講堂(旧文部省庁舎6階)において、「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)フォーラム」が開催された。

2010年3月、文部科学省は、HPCIを「具体化する案を作成するための検討を行うため、ユーザコミュニティの代表者、主要な計算資源保有機関の代表者、有識者等からなるHPCI検討ワーキンググループを設置する。」と発表した。検討事項は、

(1)HPCIのあり方、具体的機能について、
(2)コンソーシアムのあり方について、

であった。委員は以下の通り。

青木 慎也 筑波大学数理物質科学研究科教授
安達 淳 国立情報学研究所学術基盤推進部長
宇川 彰 筑波大学副学長
加藤 千幸 東京大学生産技術研究所教授
小林 広明 東北大学サイバーサイエンスセンター長
関口 智嗣 産業技術総合研究所情報技術研究部門長
善甫 康成 法政大学情報科学部教授
高田 章 旭硝子株式会社特任研究員
常行 真司 東京大学大学院理学系研究科教授
土居 範久 中央大学理工学部教授
平尾 公彦 理化学研究所特任顧問
藤井 孝藏 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部教授
福山 淳 京都大学大学院工学研究科教授
宮野 悟  東京大学医科学研究所教授
米澤 明憲 東京大学情報基盤センター長
渡邉 國彦 海洋研究開発機構地球シミュレータセンター長

 

3回の会議が公開で開催された。

  日にち 主要議題
第1回

2010年 4月1日

(1) HPCIの構築について (配付資料)(議事要旨
第2回 2010年 4月15日 (1) HPCIの構築について (配付資料)(議事要旨
第3回 2010年 4月21日 (1) HPCIの構築について (配付資料)(議事要旨

 

第1回会議では、文部科学省から中川副大臣、後藤大臣政務官、坂田事務次官、磯田研究振興局長、倉持大臣官房審議官(研究振興局担当)、舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長、井上計算科学技術推進室長、中井計算科学技術推進室長補佐の面々が出席し、冒頭、中川副大臣が挨拶した。

3回とも、各委員からHPCIの構想が語られ、議論された。上記の配付資料には、委員からのプレゼンの資料が収録されており興味深い。

広く一般の意見を聞くために、5月1日~18日に意見募集が行われた。あわせて、HPCIの構築に向けた意見交換会が、5月11日にヴィアーレ大阪 ヴィアーレホールにおいて、5月14日に学術総合センター 一橋記念講堂で開催された。後者では、土居範久、平尾公彦、善甫康成、藤井孝蔵、金田千穂子、高木周、高橋桂子、建部修見、松古栄夫、倉持隆雄によるパネル討論が行われた。

同ワーキンググループでは2010年5月に検討結果と取りまとめ、「HPCIとこの構築を主導するコンソーシアムのグランドデザイン」(2010年5月26日)として公表した。12ページの文書で目次は以下の通りである。

1.コンソーシアムが目指すもの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
2.革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の在り方・・・3
3.HPCIの具体的機能と性能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
4.コンソーシアムの在り方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
5.コンソーシアムとHPCIのイメージ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
6.具体的なコンソーシアム参画機関(想定)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
7.コンソーシアム参画要件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
8.コンソーシアム準備段階の進め方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
9.コンソーシアム準備段階の検討課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
10.コンソーシアム構築スケジュール(目安)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
11.コンソーシアム構築に当たり今後の検討が望まれる事項・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

 

翌27日からHPCIコンソーシアム構成機関の公募を開始し、6月7日にユーザコミュニティの登録開始し、6月9日に登録の一次締め切りを行った。

2010年7月1日には、38機関が集まり、「準備段階HPCIコンソーシアム」が発足した。コンソーシアムの組織は、計算資源提供機関とユーザコミュニティ機関から構成される。計算資源提供機関は、HPCIに計算資源を提供する意志を有し、計算資源の共同利用の実績がある(もしくは共同利用体制の整った)機関であり、ユーザコミュニティ機関はHPCI上の計算資源を利用する研究者が相当程度属するユーザコミュニティの中核として活動実績を有する機関である。コンソーシアム発足にあたり、コンソーシアム本格運営段階に向け必要な検討を行う委員会を設け、所属機関の利益に囚われず検討を行い得る者から構成する。当該委員会の開催等、コンソーシアム準備段階におけるコンソーシアムの運営を円滑に行うため事務局を置く。(HPCIの中核となる次世代スパコンの運用に責任を持ち、研究開発機能も併せ持つ拠点として設置が検討されている計算科学研究機構(仮称)が有力な候補)との方針が出された。7月28日にHPCIコンソーシアム準備段階構成機関が発表された。7月29日、HPCIの構築を主導するコンソーシアム(準備段階)会合が開かれ、運営方針、組織構成(10人委員会、メンバー、漢字)、意思決定方式などが検討された。

文部科学省情報課は2010年8月6日、「HPCIコンソーシアム運営事務」委託業務の企画案を8月27日締め切りで公募した。仕様書も公開されている。審査の結果、理化学研究所計算科学研究機構が受託した。

次回は、理化学研究所計算科学研究機構(AICS)の設立、HPCIコンソーシアムの設立など。次世代スーパーコンピュータ戦略委員会に代わって、国として必要な事項等を検討するため、HPCI計画推進委員会が構成され、HPCの舵取りを行うこととなった。

 

left-arrow   50history-bottom   right-arrow