世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


4月 22, 2019

HPCの歩み50年(第195回)-2011年(g)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

東京大学情報基盤センターは富士通のPRIMEHPC FX10の4,800ノードからなるピーク性能1.13 PFlopsのシステムの導入を決定した。これは「京」の商用版である。他方、京都大学学術情報メディアセンターは、Cray社のXE6を導入することを決定した。

日本政府関係の動き

1) JST CREST「ポストペタ」
2010年に立ち上がった研究領域「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」(通称ポストペタ)(研究総括:米澤 明憲、2011年4月からは、理化学研究所計算科学研究機構 副機構長)2年目の公募が行われた。2011年3月23日に公募説明会が行われた。

2011年度に採択された研究課題は以下の通り。

塩谷 隆二

東洋大学総合情報学部教授

ポストペタスケールシミュレーションのための階層分割型数値解法ライブラリ開発

滝沢 寛之

 

東北大学大学院情報科学研究科准教授

進化的アプローチによる超並列複合システム向け開発環境の創出

千葉 滋

 

東京大学大学院情報理工学研究科教授

ポストペタスケール時代のスーパーコンピューティング向けソフトウェア開発環境

南里 豪志

 

九州大学報基盤研究開発センター准教授

省メモリ技術と動的最適化技術によるスケーラブル通信ライブラリの開発

藤澤 克樹

 

九州大学マス・フォア・インダストリ研究所教授

ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤

 

2) eサイエンス
「e-サイエンス実現のためのシステム統合・連携ソフトウェアの研究開発」プロジェクトは、文部科学省の「次世代IT基盤構築のための研究開発」の一つとして、2008年度から2011年度末まで4年間にわたって実施されている。今年は最終年度である。

第5回運営委員会が2011年1月27日、JST上野事務所において開催された。

また、2011年6月13日には、国立情報学研究所12階において、eサイエンスシンポジウムを開催した。プログラムは以下の通り。

13:30-13:35

開会の辞

13:35-14:45

開催趣旨とプロジェクト概要(プロジェクト代表者)

13:45-14:05

サブテーマ1(NII、玉川大/富士通)

14:05-14:25

サブテーマ2 (阪大/筑波大)

14:25-14:40

サブテーマ3 (産総研)

14:40-15:55

サブテーマ4(KEK)

14:55-15:10

サブテーマ5(東工大/阪大)

15:10-16:00

休憩とデモンストレーション

16:00-16:25

エンドユーザコミュニティ1:ゲノム解析研究分野」東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生命情報専攻 黒川顕 教授

16:25-16:50

エンドユーザコミュニティ2:「流体解析とOpenFOAM」

16:50-17:25

今後の進め方と展望(自由討論)

17:25-17:30

まとめと閉会の辞

18:00-

懇親会

 

3) 日本学術会議
2011年3月5日、学術会議において、情報学委員会(第21期・第5回)が10時から、各分科会が10時30分から開催された。

大量実データの利活用基盤分科会では、統計数理研究所と共催で、シンポジウム「データ同化:計測と計算の限界を超えて」を2011年3月11日統計数理研究所(立川) 2F 大会議室で開催した。参加者は100名程度。東日本大震災の日で、多くの参加者が帰宅できなかったとのことである。プログラムは以下の通り。

14:00-14:05

開会挨拶

北川 源四郎/統計数理研究所 所長

14:05-14:10

来賓挨拶

岩本 健吾/文部科学省研究振興局情報課 課長

14:10-14:20

「統計数理研究所NOE形成事業について」

北川 源四郎 (統計数理研究所 所長)

14:20-14:45

「データ同化研究開発センターの活動について」

樋口 知之 (統計数理研究所 データ同化研究開発センター長)

14:45-15:45

「流体科学における計測と計算の融合研究」

早瀬 敏幸 (東北大学 流体科学研究所 所長)

15:45-16:00

休憩

 

16:00-16:30

 

「太陽地球環境のシミュレーションとデータ解析」

荻野 竜樹 (名古屋大学 太陽地球環境研究所 副所長)

16:30-17:30

「データ同化による巨大複雑系地球変動の状態推定と予測の可能性」

淡路 敏之 (京都大学 理事・副学長)

18:00-19:30

懇親会 (会場: サザンクロス)

 

 

日本学術会議第21期は2011年度までであるので、情報学委員会の村岡洋一委員長から、第22期の見直しが報告された。これによると、国際サイエンスデータ分科会は、国際活動の継続性のため継続する。e-サイエンス分科会と大量実データの利活用基盤分科会は連携して活動を継続し、両分科会の統合を含めてあり方を検討するとのことであった。筆者の連携会員は第21期までなので、その後は承知しない。

4) 地球シミュレータ
2009年から課題選定を行う運営委員会の委員長を務めている。2011年2月3日(木)~4日(金)には、新杉田の海洋研究開発機構横浜研究所 三好記念講堂で地球シミュレータ利用報告会が開催された。2011年3月11日には航空会館で運営委員会を開催している最中、東日本大震災が起こったことは最初に書いた。2011年12月22日、理系AICSで地球シミュレータ運営委員会が開催され、2012年度募集の基本方針を議論した。

5) 原子力試験研究
第19回原子力試験研究検討会が、2011年2月28日に中央合同庁舎第4号館で開催された。平成21年度(2009年度)終了課題の事後評価を行った。原子力試験研究は平成20年度から新規課題募集は行っておらず、終了評価だけである。筆者の担当する知的基盤の課題の終了はなかった。

平成22年度終了課題には知的基盤が1課題あり、9月9日にヒアリングを行った。

日本の大学センター等

1) 東京大学
東京大学情報基盤センターは2011年10月3日から試験運転していた「大規模SMP(Symmetric Multi Processor)並列スーパーコンピュータシステムSR16000モデルM1」の本格稼働を10月25日、開始した。ノード当たり32個のPOWER7プロセッサ―を搭載し、全体は56ノードからなる。SR11000/J2は2011年10月14日サービス終了し、撤去した。

また、同センターは、2011年11月14日、富士通の新スーパーコンピュータシステムを導入することを決定したことを公表した。これは、「京」コンピュータとの高い互換性がある、PRIMEHPC FX10の4,800ノードからなる。ピーク性能は1.13 PFlopsで、周辺システムとしてPCサーバPRIMERGY 74台、ストレージシステムETERNUS 234台、ペタスケールシステムに対応したHPCミドルウェアTechnical Computing Suiteとそのコンポーネントである大容量、高性能、高信頼分散ファイルシステムFEFSなどがあわせて導入される。システムは2012年4月より稼働を開始する予定である。旧大型計算機センター時代を含め、東京大学の情報基盤センターが富士通機を主力とするのは初めてである。

2) 京都大学
京都大学学術情報メディアセンターは、2011年12月1日、T2Kに続く次期スーパーコンピュータとして、Cray社のXE6を導入することを決定した。2012年上半期から300 TFlopsのCray XE6を導入し、2014年には400 TFlopsの次世代スーパーコンピュータ(コード名Cascade)を追加導入する予定である。Cray XE6は、AMD OpteronプロセッサとCray社のGemini Interconnectを組みあわせたマシンである。2012年5月に稼働させる。2012年6月のTop500では、73位にランクしている。また、2014年前半に導入されたのは、Cray XC30で、Intel Xeon E5-2670v2 10C 2.5000 GHzプロセッサと、Intel Xeon Phi 5120Dと、Aries Interconnectを組み合わせたマシンである。2014年6月のTop500では101位にランクしている。旧大型計算機センター時代を含め、京都大学学術情報メディアセンターが外国機を主力としたのは初めてである。報道によると、今回の入札では「京」の商用機(FX10)との一騎打ちとなったが、価格面で優位に立ったとのことである。

京都大学のT2Kが稼働を停止するにあたり、2011年11月30日、京都大学百周年記念ホールにおいて、「T2Kシンポジウム2011」が開催された。

3) 北海道大学
2011年11月、HITACHI SR11000/K1を、SR16000/M1に更新した。8コアのPOWER7を704個搭載し、Rmax=121.6 TFlops、Rpeak=168.907 TFlopsで2011年11月のTop500では95位にランクされている。

4) 学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点
JHPCN(学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点)は北海道大学、東北大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学にそれぞれ附置するスーパーコンピュータを持つ8つの施設を構成拠点とし、東京大学情報基盤センターがその中核拠点として機能する「ネットワーク型」共同利用・共同研究拠点で、2009年6月に文部科学大臣の認定を受け、2010年4月から本格運用が始まった。2009年11月からは拠点の各センターの予算で、試行的に実施された。

2011年1月12日(水)~13日に、理化学研究所計算科学研究機構(神戸)において、第2回シンポジウムが行われた。平尾公彦機構長が基調講演「京コンピュータと計算科学研究機構」を行った。懇親会は神戸花鳥園(現在の神戸どうぶつ王国)。

2011年7月14日~15日は、品川グランドセントラルタワー 3Fにおいて、第3回シンポジウムを開催した。

5) 高エネルギー加速器研究機構(KEK)スーパーコンピュータの電力問題
大震災の後、電力事情もわずかながら回復し、KEK(高エネルギー加速器研究機構)の計算機システムは3月16日から部分的な運用を開始した。関東地方では計画停電なども行われていた。6月にはBlue Gene/Qを導入する計画であったが、福島第一原子力発電所の事故で、電力が利用可能か問題になった。

 
  日立SR16000モデルM1
 
  IBM Blue Gene/Q
   

筆者が神戸大に赴任する前の3月末だったと思うが、KEKの計算科学センターから神戸大学に、KEKのスーパーコンピュータBlue Gene/Qと日立SR16000/M1を神戸大学に設置できないかとの問い合わせがあった。当時の計算科学センター長が神戸大学出身であり、また高エネルギー実験の武田氏が神戸大理事だったからであろう。筆者も双方に関係があり、それとなく協力した。当時、関西電力は十分な供給能力があると考えられていた。筆者の入居する統合研究拠点の1階には実験室のスペースがあるので、共同研究ということでそこに設置する可能性が検討された。4月27日には神戸大学において、神戸大・日立・IBM社・KEKの打ち合わせがあり、搬入の手順まで議論になった。

ユーザコミュニティも了承し、話は順調に進んでいたが、5月になってKEKのトップ筋から強い反対が起こった。論点は、KEKのスーパーコンピュータがつくばキャンパスから消えると、財務省などから「KEKはスパコンから将来手を引く」という風に見え、「HPCIから基礎科学がはじき出されるきっかけにもなる」とも指摘された。関係者は杞憂と言っていたが、その後KEKから大規模なスーパーコンピュータがなくなったことから見ると、的外れでもなかったようである。筆者は、「京」コンピュータの隣に、その対抗馬のSequoiaと同じBlue Gene/Qが設置されること(ついでにSR16000はPOWER7搭載のマシンでいわばBlue Watersのミニ版である)の政治的効果については神経を使ったが、KEK自体への影響にまでは考えが及ばなかった。

その後、浜岡原発の停止などにより、東京電力より関西電力の方が、電力事情がきついこともわかり、6月に入って移設に否定的な「コミュニティの意見」が出されこの話は流れた。6月14日、KEK関係者が神戸大学の事務局を訪れ正式に断念を伝えた。

このころ、アメリカから東日本のQCDコミュニティに計算資源を提供してもよいというような申し出があるというニュースがあった。それはありがたい話ではあるが、同じく政治的には微妙であろう。

2011年9月1日、SR16000が稼働を開始した。64ノードのマシンであるが、そのうち56ノードを計算ノードとして使う。56ノードのピーク性能は54.9 TFlopsである。総メモリは14 TBである。2012年3月からは、IBM Blue Gene/Qと合わせて本稼働する。Blue Gene/Qは、2012年度中のシステム増強を経て、ピーク性能1.259 PFLops、総メモリ96 TBのシステムとなる予定である。写真は高エネルギー加速器研究機構のぺージから。

次回は日本の学界の動きである。様々なプロジェクトが進んでいる。

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