HPCの歩み50年(第198回)-2011年(j)-
日本電気はベクトルコンピュータSXの次世代機が4コアのプロセッサであることを発表した。富士通は、「京」の商用版PRIMEHPC FX10を発表した。Rubyが日本で開発された言語としては初めてJIS規格となり、翌年にはISO規格となった。
日本の企業の動き
1) 日本電気
約3年の空白があったが、2011年9月29日に第27回NEC・HPC研究会がNEC本社ビル 地下 1 階で開催された。主要な講演は以下の通り。これ以後は開催されていないようである。
「eサイエンス促進基盤およびHPCIの紹介」 |
東京大、石川裕 |
「汎用非線形構造解析プログラムMarcのHPC機能の紹介」 |
MSCソフトウェア、立石源治 |
「NECのGPUコンピューティングへの取り組み」 |
NEC、愛野茂幸 |
「高知工科大学のHPCへの取り組み~ GPUクラスタの導入から先端研究へ~」 |
高知工科大、山際伸一 |
「NVIDIA GPU コンピューティング 応用事例のご紹介」 |
NVIDIA、林憲一 |
「CST MW STUDIOとGPUクラスターで取り組む高速電磁界シミュレーション」 |
AET、安永高志 |
「CAPS社によるメニーコア対応への方法論と開発ツールのご紹介」 |
JCCギミック、小野寺高之 |
「GPGPUの活用による画像処理及び数値計算の実施」 |
清水建設、Pham Van Phuc |
「GPUによるアプリケーション高速化事例」 |
HPCシステムズ、英憲悦 |
「粒子法CAEソフトウェア「Particleworks」とGPUコンピューティングへの取り組み」 |
プロメテック・ソフトウェア |
日本電気は、2011年11月7日、ベクトル型スーパーコンピュータ「SXシリーズ」の次世代機の概要を発表した。同社のベクトル型プロセッサとしては初めて、4コアのマルチコア型プロセッサを採用した。コア性能は64 GFlops、メモリ性能はコア当たり64 GB/sを目指す。チップあたりはこの4倍である。B/F比が1 B/Flop で、SX-9の2.56 B/Flopよりは悪化したが、「京」の倍である。
製品化は2013年~2014年を予定している。SX-9の後継機なので、名称はSX-10またはSX-Xかと思われたが、2013年11月15日にSX-ACEとして発表した。
筆者の目には、次世代スーパーコンピュータ開発において、日立とともに設計を進め、2009年に撤退を表明した「ベクトル部」とかなり似ているように見える。ただし、当時は45 nmプロセスで製作する予定であったが、SX-ACEは28 nmプロセスで製造されると2013年に発表された。
2) 富士通
2011年11月7日、富士通は、「京」コンピュータと互換のスーパーコンピュータPRIMEHPC FX10の販売開始を発表した。シングルラックモデルとマルチラックモデルがあり、後者では、1024ラックを連結すると23.2 PFlopsのピーク性能を持つ。「京」コンピュータは、富士通製のCPUであるSPARC64 VIIIfx (8コア、ピーク128 GFlops)を用いたが、FX10ではコア数が倍のSPARC64 IXfx (16コア)を搭載してる。シングルラックモデルでは1.65 GHzでピーク 211.2 GFlops、マルチラックモデルでは1.848 GHzでピーク236.5 GFlopsである。ちなみに「京」のSPARC64 VIIfxは2 GHzであった。SPARC64 VIIfxは45 nmプロセスであるが、今度のSPARC64 40 nmプロセスである。SPARC64 VIIIfxは国内で製造したが、、今回は台湾のTSMCで製造した。消費電力は110 Wでコア数に比例して約倍になっている。クロックが下がっているのはそのためであろうか。ノード間のインターコネクトは「京」と同じTofuを採用している。出荷は2012年1月を予定している。
SPARC64 VIIIfxと大差のない半導体テクノロジで倍のコア数やL2キャッシュを収容したのは驚きであった(一説では「京」のVIIIfxのテクノロジが余裕ありすぎとも)が、LSI社の11月15日の発表によると、富士通はSPARC64 IXfxの設計に際し、同社と技術提携し、それによりこのCPUを市場に出す時間を大幅に短縮したとのことである。岩崎氏を代表に筆者らが1987年ごろQCDPAXを開発したとき、つくば市にあったLSIロジック社でゲートアレイを開発したが、同社は2007年4月2日、Agere Systemsと合併しLSI Corporationに社名を変更した。懐かしい名前が出てきた。なお、LSI社は2014年5月6日にAvago Technologies社によって買収され、Avago Technolgies社は2016年2月、Broadcom Corporationを買収し、Broadcom Ltd.となった。
2012年前半に東大情報基盤センターに設置されたOakleaf-FX PRIMEHPC FX10は、コア数76800(50ラック)、Rmax=1043.0 TFlops、Rpeak=1135.4 TFlopsで、2012年6月のTop500では18位にランクしている。九州大には、コア数12288(8ラック)、Rmax=166.7 TFlops、Rpeak=181.7 TFlopsが設置され、同じく106位である。発表された販売実績は以下の通り。台湾のシステムはTop500には登場しないようである。
―東京大学情報基盤センター(50ラック)
-九州大学情報基盤研究開発センター(8ラック)
-近畿大学(12ノード)
-理化学研究所(和光)(最終的に4ラック)
-神戸大学(1ラック)
-台湾交通部中央気象局(最終的にピーク1+ PFlops)
-名古屋大学(当初4ラック)
-キヤノン(1ラック)
-東京大学物性研究所(4ラック)
-理化学研究所放射光科学総合研究センター(4ラック)
-オーストラリア国立大学(共同研究契約)
発表直後のSC11では、アメリカ人などから、「京」の筐体をFX10にアップグレードして性能を倍増するのかと、質問を受けた。「お金があればね!」と笑って答えた。
またFX10の発表と同時に、富士通はエクサフロップス級の演算性能をもつスーパーコンピュータの開発を行なっていることも表明した。
3) 日立製作所
日立製作所は、2011年7月15日、スーパーコンピュータSR16000シリーズに、POWER7プロセッサを搭載した新モデル「モデルM1」を追加し、2011年7月21日に販売開始すると発表した。SR16000モデルM1は、POWER7を4個で32コアSMP構成のノードを最大512ノードまで接続できる。OSはAIXを搭載している。前述のように、KEKでは2011年9月1日に稼働を開始した。写真はスーパーテクニカルサーバ「SR16000モデルM1」。
日立ITユーザ会は、2011年5月27日、TKP東京駅八重洲カンファレンスセンタにおいて、「気候変動シミュレーション」をテーマに第38回科学技術分科会セミナーを開催した。プログラムは以下の通り。
13:30 |
「気候変動シミュレーションへの期待」 |
山本 良一(東京大学) |
15:00 |
「気候変動予測シミュレーションの最新動向」 |
井上 剛(三菱総合研究所) |
HAS研(HITACHIアカデミックシステム研究会)は、2011年9月13日、日立マクセル本社ビルにおいて第28回研究会を開催した。プログラムは以下の通り。
13:30 |
開会挨拶(会長) |
安達 淳(国立情報学研究所) |
13:40 |
「新しい情報提示技術としての複合現実感~愛・地球博から6年,ARブームの中で……」 |
田村 秀行(立命館大学) |
14:50 |
「筑波大学におけるeラーニングの導入」 |
新井 一郎(筑波大学) |
16:00 |
「日本の高度社会インフラ技術を世界へ~日立のスマートシティ事業の取り組み~」 |
香田 克也(日立) |
17:00 |
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総会 |
17:10 |
閉会挨拶(副会長) |
全 炳東(千葉大学) |
17:30 |
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意見交換会 |
4) 日本SGI社
日本SGI社は、2001年に日本SGIがNECの出資を受けてSGIより独立したが、2011年3月に再度、SGI社の100%子会社となった。なお、米SGIは2009年の再度の倒産時にRackable Systems社が買収の上、Rackable Systems社自体がSilicon Graphics Internationalに改称したため、かつての親会社とは別法人である。
標準化
1) Ruby
Ruby は1993年2月24日に生まれ、1995年12月にインターネット・ニュースグループfj上で発表された。名称の Ruby は、プログラミング言語 Perl が6月の誕生石である Pearl(真珠)と同じ発音をすることから、考案者まつもとの同僚の誕生石(7月)のルビーを取って名付けられた。競合言語として Perl の他に Python があり、「Matz(まつもと) が Python に満足していれば Ruby は生まれなかったであろう」と公式のリファレンスの用語集で言及されている。
独立行政法人・情報処理推進機構(IPA)は3月22日、RubyがJIS技術規格(JIS X 3017)として制定されたと発表した。日本発のプログラミング言語がJIS規格化されるのは初。
IPAは、2008年にRuby標準化検討ワーキンググループ(委員長:中田 育男 筑波大学名誉教授)を設置し、Rubyの言語仕様の国際規格化へ向けた事業を進めてきたが、ISOとIECの合同技術委員会JTC 1に提案し、2012年3月31日に締め切られた国際規格承認のための最終投票の結果、Rubyが国際規格ISO/IEC 30170として承認されたと、4月2日に発表した。
2) OGF (Open Grid Forum)
OGF31は、2011年3月21日~25日に台湾台北のAcademia Sinicaで、ISGC (International Symposium on Grid and Clouds)に併設して開催された。
OGF32は、2011年7月15日~18日に、アメリカSalt Lake Cityにおいて、TeraGrid 2011に併設して開催された。
OGF33は、2011年9月19日~21日に、フランスのLyonにおいて、Lyon Technical Forum (9月19日~23日)の一環として開催された。
次回はアメリカ政府の動きなど。中国や日本にHPCで先を越されたアメリカはどうするのか?
(画像:日本電気SX-ACE 出典:プレスリリースより )