HPCの歩み50年(第210回)-2012年(d)-
2011年に始まったアプリケーション作業部会とシステム設計作業部会の作業が急ピッチで進められた。アアプリケーション作業部会では、アプリケーションの特性に基づく4種のアーキテクチャを提案した。
ポスト「京」開発関係
1) 今後のHPCI計画推進のあり方に関する検討ワーキンググループ
HPCI計画推進委員会の下に、「今後のHPCI計画推進のあり方に関する検討ワーキンググループ」が2012年2月10日付で設置された。メンバは以下の通り(五十音順)。
青木 慎也 |
筑波大学計算科学研究センター教授 |
秋山 泰 |
東京工業大学大学院情報理工学研究科教授 |
天野 吉和 |
富士通株式会社常勤監査役 |
石川 裕 |
東京大学情報基盤センター長 |
宇川 彰 |
筑波大学副学長・理事 |
主査 小柳義夫 |
神戸大学特命教授 |
加藤 千幸 |
東京大学生産技術研究所教授 |
金田 義行 |
海洋研究開発機構地震津波・防災研究プロジェクトリーダー |
小林 広明 |
東北大学サイバーサイエンスセンター長 |
坂内 正夫 |
情報・システム研究機構理事・国立情報学研究所所長 |
関口 和一 |
日本経済新聞社論説委員兼産業部編集委員 |
関口 智嗣 |
産業技術総合研究所情報通信エレクトロニクス分野 副研究統括 |
善甫 康成 |
法政大学情報科学部教授 |
高田 章 |
旭硝子株式会社中央研究所特任研究員/スーパーコンピューティング技術産業応用協議会 |
常行 真司 |
東京大学大学院理学系研究科/物性研究所教授 |
富田 浩文 |
理化学研究所計算科学研究機構複合系気候科学研究チーム チームリーダー |
中島 浩 |
京都大学学術情報メディアセンター長 |
中村 春木 |
大阪大学理事補佐/大阪大学蛋白質研究所筆頭副所長 |
平尾 公彦 |
理化学研究所計算科学研究機構長 |
牧野 淳一郎 |
東京工業大学大学院理工学研究科教授 |
松尾 亜紀子 |
慶應義塾大学理工学部教授 |
松岡 聡 |
東京工業大学学術国際情報センター教授 |
村上 和彰 |
九州大学大学院システム情報科学研究院教授 |
室井 ちあし |
気象庁予報部数値予報課数値予報班長 |
渡邉 國彦 |
海洋研究開発機構地球シミュレータセンター長 |
WGの会議は2012年中に12回開催された。
|
日時場所 |
主な議題 |
第1回 |
2012年4月18日 文部科学省3F2 |
(1)ワーキンググループの今後の進め方について (2)HPCIに関わるこれまでの取り組み等について (3)スパコン利用の必要性、意義、重要性等に関するヒアリング (4)ヒアリングを踏まえた意見交換 |
第2回 |
2012年5月14日 文部科学省3F1 |
(1)合同作業部会の報告について (2)HPC技術の動向に関するヒアリング (3)今後の調査・検討課題について |
第3回 |
2012年5月30日 文部科学省旧館6階 |
(1)HPC技術の動向に関するヒアリング (2)国内の計算資源について (3)今後の調査・検討課題について |
第4回 |
2012年7月4日 文部科学省3F2 |
(1)スパコン利用に関するヒアリング (2)国内外の動向と計算科学技術の利用状況、今後の必要性について |
第5回 |
2012年8月10日 文部科学省旧館6階 |
(1)将来のHPCIシステムのあり方の調査研究について (2)今後の調査・検討課題について |
第6回 |
2012年9月11日 文部科学省旧館5階 |
(1)今後の調査・検討課題について (石川、小林、常行、渡邊各委員から発表) |
第7回 |
2012年10月10日 文部科学省16F |
(1)今後の調査・検討課題について |
第8回 |
2012年10月31日 文部科学省3F2 |
(1)今後の調査・検討課題について |
第9回 |
2012年11月21日 文部科学省3F2 |
(1)今後の調査・検討課題について |
第10回 |
2012年12月6日 文部科学省3F1 |
(1)今後の調査・検討課題について |
5月30日の第3回の前には、別室でFSの審査が行われた。
2) 「将来のHPCIシステムのあり方の調査研究」
「将来のHPCIシステムのあり方の調査研究」委託業務の公募が平成24年4月27日(金)~平成24年5月21日(月)に行われた。別名「HPCI高度化に関するFS調査」(FS:feasibility study)。期間は2013年度末までの2年間。事業内容としては、「本事業は、本調査研究を通じて10年後の我が国の社会的・科学的課題の解決という視点から複数のシステムを厳選することとしており、アプリケーション&アーキテクチャ・コンパイラ・システムソフトウェア合同作業部会においてとりまとめられた、「今後のHPCI技術開発に関する報告書」を踏まえてシステムの選定を行います。 選定したシステムについて、ハードウェアの技術動向調査、システム設計研究・システムソフトウェアの検討等を行い、5~10年後の我が国のHPCIシステムに必要な技術的知見を獲得することを目的としています。」と述べられている。筆者も公募チームの選定を行う選定委員会の委員の一人となった。選定委員会の名簿も公開されている。公募の結果、システム設計分野には3件、アプリ分野には1件の応募があった。
氏名 |
所属・役職 |
システム |
アプリ |
土居 範久 |
中央大学研究開発機構 教授 |
★ |
★ |
小柳 義夫 |
国立大学法人神戸大学大学院システム情報学研究科 特命教授 |
○ |
○ |
関口 智嗣 |
独立行政法人産業技術総合研究所 副研究統括 |
○ |
○ |
中村 春木 |
国立大学法人大阪大学蛋白質研究所 筆頭副所長 |
○ |
○ |
加藤 千幸 |
国立大学法人東京大学生産技術研究所 教授 |
― |
○ |
藤井 孝蔵 |
独立行政法人宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 教授 |
― |
○ |
近山 隆 |
国立大学法人東京大学工学系研究科 教授 |
○ |
― |
姫野 龍太郎 |
独立行政法人理化学研究所情報基盤センター センター長 |
○ |
― |
(★主査 ○選定対象分野)
選定委員会は5月30日9:30~12:30にヒアリング付で行われた。課題実施機関として,システム設計分野3 チームとアプリケーションソフトウェア分野1 チームを下記の通り選定し、6月15日に文部科学省から発表された。
レイテンシコアの高度化・高効率化による将来のHPCI システムに関する調査研究 |
東京大学、九州大学、富士通、日立、日本電気 |
演算加速機構を持つ将来のHPCI システムに関する調査研究 |
筑波大学、東京工業大学、理化学研究所、会津大学、日立 |
高メモリバンド幅アプリケーションに適した将来のHPCI システムのあり方の調査研究 |
東北大学、海洋研究開発機構、日本電気 |
アプリケーション分野からみた将来のHPCI システムのあり方の調査研究 |
理化学研究所、東京工業大学 |
同時に、HPCI計画推進委員会の下に、「将来のHPCIシステムのあり方の調査研究」評価委員会を設け、中間評価(2013年3月頃)と最終評価(2014年3月頃)を行うこととなった。
3) IESP (Kobe 12)
IESP (International Exascale Software Project)の第8回会合(最終回)が2012年4月11日~13日に神戸で開催された。詳細は、国際会議のところで。
4) 『日本のスパコン開発はどこに向かっているのか』
2012年9月4日~6日のマイナビニュースの3回連載記事において、Hisa Andoが、サイエンティフィックシステム研究会(SS研)の報告の形で、エクサスケールの実現に向けたWGが日本で発足したと解説している。
「文部科学省は、2011年にアプリケーション作業部会とコンピュータアーキテクチャ・コンパイラ・システムソフトウェア作業部会というワーキンググループを作った。アプリケーション作業部会は2020年までに達成が期待されるスパコンを使う科学技術の発展を予想し、それに必要なスパコンの能力を検討する。また、アーキテクチャ作業部会は、このためのスパコンを作るためにはどのようなテクノロジ開発が必要かを検討する組織である。この2つのワーキンググループは2011年度末にサイエンスロードマップと技術ロードマップというホワイトペーパーを作成した。これらの文書は公開されており、ダウンロードすることができる。」
「京のSPARC64 VIIIfxとSequoiaに使われているBG/Qの計算ノードを比べると、京はメモリB/Fでは2.4倍、インタコネクトB/Fでは4倍のバンド幅を持っているが、Flopsあたり2.5倍電力を喰うという設計になってしまったと指摘した。今回のアプリケーション作業部会では、アプリケーションの特性に基づく4種のアーキテクチャを提案している。」
5) 戦略的高性能計算システム開発に関するワークショップ
表記のワークショップは2010年8月から開催されているが、第7回 戦略的高性能計算システム開発に関するワークショップが、SWoPP鳥取2012(8月1日~3日)前日の2012年7月31日(火)に鳥取市のとりぎん文化会館 第1会議室で開催された。6月に公表された「将来のHPCIシステムのあり方の調査研究」に係る4実施機関から、調査研究の目標および進め方について発表があり、参加者と議論を行った。
日本政府関係の動き
1) 田中眞紀子文部科学大臣
2012年10月1日、野田佳彦第3次改造内閣において、田中眞紀子が文部科学大臣に就任した。10月2日にたまたま文部科学省に立ち寄ったが、テレビがつけられ、新大臣の訓示の様子が放映されていた。「10ペタ」という語句も聞こえたような気がした。関係者に「新大臣になってどうなりますか」と聞いても、苦笑するばかりで芳しい答えは返って来ない状況であった。
某女性議員のように理研の「京」コンピュータを冷遇するのではないかと心配する人もいたが、筆者は大丈夫だろうと考えていた。それは、戦前、理化学研究所において研究成果の産業利用を進めたのは3代目の大河内正敏所長であったが、かれが目を掛けたのが若き田中角栄で、田中土建工業は理研の仕事で急成長したそうである。だから、お父様が世話になった理化学研究所をまさかコケにはしないだろうという予想である。その正否が証明される間もなく、自民党が圧勝した12月16日の第46回衆議院議員総選挙で田中議員は落選し、12月26日には野田内閣が総辞職してしまった。
2) ビッグデータ
2012年7月30日の国家戦略会議での決定を経て7月31日に閣議決定された「日本再生戦略 ~フロンティアを拓き、共創の国へ~」の中に、科学技術イノベーション・浄法通信戦略の「重点施策:情報通信技術の徹底的活用と強固な情報通信基盤の確立」に、ビッグデータの利活用や情報通信技術を活用した異分野融合等、官民が保有するデータの利活用推進を図ることが述べられている。3月29日にオバマ政権が発表した「ビッグデータ研究開発インシアティブ」と軌を一にしている。
3) 情報科学技術委員会
2012年中の情報科学技術委員会の活動は以下の通り。
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日付 |
主要な議事 |
第74回 |
2012年2月24日 |
1. 情報科学技術分野の平成24年度政府予算案について 2. 平成24年度情報科学技術分野における研究評価計画について 3. 情報科学技術に関する推進方策について 4. 「目的解決型のIT統合基盤技術研究開発の実現に向けたフィージビリティ・ 5. HPCIコンソーシアムの検討状況及び今後のHPC技術の研究開発の検討 |
第75回 |
2012年3月29日 |
1.大学におけるクラウドの整備活用や研究開発について |
第76回 |
2012年5月29日 |
1. 1.次世代IT基盤構築のための研究開発 平成23年度で終了した課題の成果報告会 2. 2.その他 (アカデミッククラウドに関する検討会について 等) |
第77回 |
2012年7月5日 |
1. 平成25年度における情報科学技術分野の取組について(事前評価) 2. 「デジタル・ミュージアムの実現に向けた研究開発の推進」中間報告 3. 次世代IT基盤構築のための研究開発事業 平成23年度終了課題の事後評価案について 4. その他1 革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築に向けた取組について 5. その他2 情報技術人材育成のための実践教育ネットワーク形成事業について |
第78回 |
2012年8月2日 |
1. 平成25年度における情報科学技術分野の取組に係る事前評価(案)について 2. デジタル・ミュージアムの実現に向けた研究開発の推進の中間評価(案)について 3. 学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実について 4. ビッグデータ等の情報科学技術に関する政府の取組の方向性について 5. その他 |
5月29日の第76回情報科学技術委員会では、eサイエンスプロジェクトについて報告した。
4) HPCI計画推進委員会
2010年に発足したHPCI計画推進委員会は2012年中、以下の通り3回開催された。
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日付 |
主要な議事 |
第8回 |
2012年2月10日 |
1.革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築 2.HPCIとその構築を主導するコンソーシアムの具体化に向けて 3.今後のHPC技術開発に関する報告 4.今後のHPCI計画推進のあり方に関する検討ワーキンググループの設置について 5.戦略プログラムの「京」の利用枠について(案) 6.「京」の共用開始時期について |
第9回 |
2012年4月9日 |
1.将来のHPCIシステムのあり方の調査研究の進め方について 2.今後のHPCI計画推進のあり方に関する検討ワーキンググループの設置について 3.今後のHPCI計画推進のあり方に関する検討ワーキンググループのヒアリング事項 4.平成24年度の戦略プログラム利用枠の計算資源配分について |
第10回 |
2012年7月26日 |
1.「HPCI計画推進委員会の議事運営等について」の変更について 2.将来のHPCIシステムのあり方の調査研究について 3.今後のHPCI計画推進のあり方に関する検討ワーキンググループにおける検討状況について 4.一般社団法人HPCIコンソーシアムの設立について 5.「京」及びHPCIシステムの共用開始時期について |
日本政府関係の動きの続きは次回。「e-サイエンス実現のためのシステム統合・連携ソフトウェアの研究開発」は終了を迎え、「イノベーション基盤シミュレーションソフトウェアの研究開発」は推進された。地球シミュレータは、完成10周年を迎えた。