世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


12月 2, 2019

HPCの歩み50年(第211回)-2012年(e)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

青森県六ヶ所村の原子力研究開発機構核融合計算シミュレーションセンターには、仏Bull社製のスーパーコンピュータHeliosが設置された。文部科学省は「数学イノベーション」事業を開始し、数学者たちは「俺たちの時代が来た」と喜んだが、…。

日本政府関係の動き(続)

5) eサイエンス
「e-サイエンス実現のためのシステム統合・連携ソフトウェアの研究開発」プロジェクトは、文部科学省の「次世代IT基盤構築のための研究開発」の一つとして、2008年度から2011年度末まで4年間にわたって実施されていた。2012年3月で終了となった。2月21日には理研AICSで運営委員が開かれ、3月9日には国立情報学研究所12階会議室において、eサイエンス公開シンポジウムが開催された。プログラムは以下の通り。

13:00

開会の挨拶

国立情報学研究所 坂内所長

13:10

プロジェクト概要

プロジェクト代表者

13:20

サブテーマ1

NII,玉川大学/富士通

13:40

サブテーマ2

大阪大学/筑波大学

14:00

サブテーマ3

産業技術総合研究所

14:15

サブテーマ4

高エネルギー加速器研究機構

14:30

サブテーマ5

東京工業大学

14:45

デモンストレーションの紹介

14:50

休憩及びデモンストレーション

15:30

特別講演「Simpedia-実研究環境として利用されるためのe-サイエンスには何が必要か?-」

株式会社キャトルアイ・サイエンス 社長  上島 豊

16:20

エンドユーザコミュニティ事例「RENKEI-NAREGI環境を使った粒子線治療シミュレーション」

富山高等専門学校 准教授  阿蘇 司

16:50

休憩

17:00

エンドユーザコミュニティ事例「ジオスペースサイエンスクラウドとスペースシミュレーション」

名古屋大学太陽地球環境研究所 教授 荻野 竜樹

17:15

展望と課題(自由討論)

17:45

PO挨拶

神戸大学大学院 教授  小柳 義夫

17:55

閉会の辞

 

18:30

懇親会

 

 

3月16日には、「次世代IT基盤構築のための研究開発」のIT-PDPO会議があった。

6) 「イノベーション基盤シミュレーションソフトウェアの研究開発」
「次世代IT基盤構築のための研究開発」の一つである、加藤千幸(東京大学生産技術研究所)代表の「イノベーション基盤シミュレーションソフトウェアの研究開発(略称:RISS)」は、第4回統合ワークショップ(量子バイオ・ナノデバイスシミュレーションシステム)を東京大学生産技術研究所で開催した。プログラムは以下の通り。

13:00

【挨拶】

加藤千幸東京大学生産技術研究所

1.量子バイオシミュレーションシステムの研究開発

【バイオ・ナノ分子特性シミュレーターの研究開発】

13:10

「ProteinDFの開発状況と実証事例研究の報告」

佐藤文俊東京大学生産技術研究所

13:35

「バイオエレクトロニクスデバイス開発におけるProteinDFの活用事例」

戸木田裕一 ソニー株式会社

14:00

「ユーザー会/コミュニティーの構想(プロジェクト終了後のProteinDF開発・サポート体制について)」

平野敏行 東京大学生産技術研究所

「バイオ分子相互作用シミュレーターの研究開発」

14:25

「ABINIT-MP/BioStationの開発状況」

望月祐志 立教大学理学部化学科

14:35

「ABINIT-MP/BioStationの実証事例研究報告」

福澤薫 みずほ情報総研株式会社

14:55

「Fragment Based Drug Design(FBDD)を指向した新規フラグメント分割法に基づく多体補正FMO計算」

渡邉千鶴 東京大学生産技術研究所

15:10

「FMO計算座標における水素の位置について」

上村みどり 帝人ファーマ株式会社

15:30

「ユーザー会/コミュニティーの構想」

福澤薫 みずほ情報総研株式会社

15:40

休憩

2.ナノデバイスシミュレーションシステムの研究開発

【量子機能解析ソルバー・ナノデバイスシミュレーターの研究開発】

16:00

「PHASE SYSTEMの開発状況」

大野隆央 独立行政法人物質・材料研究機構

16:15

「PHASEの実証事例研究報告:電子ダイナミクス解析」

籾田浩義 東京大学生産技術研究所

16:30

「金属/有機界面の電子状態計算」

小林一 ソニー株式会社

16:50

「第一原理計算を用いたGaN中の不純物準位評価」

岩見正之 次世代パワーデバイス技術研究組合

17:10

「ユーザー会/コミュニティー形成への取り組み」

 

奈良純 独立行政法人物質・材料研究機構

17:15

閉会

 

また、2012年3月15日、第4回ワークショップ(次世代ものづくり)を東京大学生産技術研究所で開催した。プログラムは以下の通り。

13:00

【挨拶】

加藤千幸 東京大学生産技術研究所

【複合材料強度信頼性評価シミュレーターの研究開発】

13:10

「FrontCOMP開発の目的とものづくりへの貢献」

吉川暢宏 東京大学生産技術研究所

13:20

「FrontCOMP_cureを活用した樹脂硬化プロセスの最適化」

小笠原朋隆 東京大学生産技術研究所

13:35

「損傷発展シミュレーター

金相沅 東京大学生産技術研究所

13:50

「FrontCOMP_moldを活用した高圧水素容器の強度評価」

針谷耕太 東京大学生産技術研究所

14:05

「FrontCOMPユーザー会の活動状況」

吉川暢宏 東京大学生産技術研究所

【次世代ものづくりシミュレーションシステム統合インターフェースの研究開発】

【大規模アセンブリ構造対応熱流体解析ソルバーの研究開発】

14:10

「ソフトウェアの実証事例研究の状況・実証報告」

加藤千幸 東京大学生産技術研究所

14:20

「FFBおよびFWBのリモート環境ベンチマークテスト」

澤 芳幸 株式会社ヴァイナス

14:30

「FrontFlow/blueを用いた船体まわり流れ解析」

西川達雄 財団法人日本造船技術センター

14:45

「2BOX車型の車両空気抵抗低減技術の開発」

山村 淳 トヨタ自動車株式会社

15:00

「ユーザー会/コミュニティーの構想(FrontWorkBench, FrontFlow/blueをデファクトスタンダードにするための仕組み)」

山出吉伸 みずほ情報総研株式会社

15:05

質疑応答

15:10

休憩

【大規模アセンブリ構造対応構造解析ソルバーの研究開発】 

15:30

「大規模アセンブリ構造対応構造解析ソルバーの研究開発」

奥田洋司 東京大学人工物工学研究センター

15:45

「発電用大型蒸気タービン動翼の応力及び振動特性解析の精度向上」

渋川直紀 株式会社東芝

16:00

「高速鉄道の車輪レール間の動的接触応力解析」

高垣昌和 財団法人鉄道総合技術研究所

16:15

「ユーザー会/コミュニティーの構想」

奥田洋司 東京大学人工物工学研究センター

16:20

質疑応答

【大規模アセンブリ構造対応マルチ力学シミュレーターの研究開発】

16:30

「REVOCAPシステム開発概要」

吉村忍 東京大学大学院工学系研究科

16:45

「モックアップモデルによる自動車車室内振動騒音解析」

飯田桂一郎 スズキ株式会社

17:00

「REVOCAPシステムによる風車翼の流体―構造連成解析」

鵜飼 修 株式会社先端力学シミュレーション研究所

17:15

「ユーザー会/コミュニティーについて」

吉村忍 東京大学大学院工学系研究科 

17:20

質疑応答

 

17:30

閉会

 

2012年7月5日~6日には、第4回「イノベーション基盤シミュレーションソフトウェアの研究開発」シンポジウム「計算機環境のパラダイムシフトに呼応した先端シミュレーションによる産業イノベーションの加速」を東京大学生産技術研究所で開催した。プログラムは以下の通り、

2012年07月05日

10:00

主催者挨拶

中埜 良昭 東京大学生産技術研究所 所長

 

文部科学省挨拶

 

下間 康行 文部科学省研究振興局 情報課長

 

プログラムオフィサー挨拶

天野 吉和 富士通株式会社 

10:20

【講演】

「イノベーション基盤シミュレーションソフトウェアの最新成果と今後の展開」

加藤 千幸 東京大学生産技術研究所

【セッション1:ナノデバイスシミュレーションシステムの研究開発グループ】

■ 量子機能解析ソルバー・ナノデバイスシミュレーターの研究成果と実証事例報告

11:00

「PHASE Systemの開発状況」

大野 隆央 独立行政法人物質・材料研究機構

11:20

「ファンデルワールス密度汎関数を用いたSiC表面上グラフェンの構造安定性の評価」

小野 裕己 東京大学生産技術研究所

11:40

「半導体デバイス材料研究への応用」

影島 博之 NTT 物性科学基礎研究所

12:05

「シリコン中の原子空孔:大規模第一原理計算」

 

斎藤 峯雄 金沢大学理工研究域

12:30-

昼休憩(パネル展示デモ)

【セッション2:量子バイオシミュレーションシステムの研究開発グループ】

 

■ バイオ・ナノ分子特性シミュレーターの研究成果と実証事例報告

13:40

「Protein

DFの開発状況と実証事例研究の報告」

佐藤 文俊 東京大学生産技術研究所

14:10

「全電子量子化学計算によってタンパク質の機能を探る−甘味タンパク質の電子状態計算−」

直島 好伸 岡山理科大学自然科学研究所

14:50

「ProteinDFのオープンソース化について」

平野 敏行 東京大学生産技術研究所

15:10

休憩

■ バイオ分子相互作用シミュレーターの研究成果と実証事例報告

15:30

「ABINIT-MP/BioStationの開発状況」

望月 祐志 立教大学理学部

15:50

「4体補正FMO法計算の先導的応用事例」

福澤 薫 みずほ情報総研株式会社

16:15

「BioStationを用いたリガンド-タンパク質相互作用解析」

 

小沢 知永 キッセイ薬品工業株式会社

16:40

「FMO計算の今後」

田中 成典 神戸大学大学院システム情報学研究科

17:30

懇談会

2012年07月06日

10:00

【挨拶】

加藤 千幸 東京大学生産技術研究所

【セッション3:次世代ものづくりシミュレーションシステムの研究開発グループ】

■ 複合材料強度信頼性評価シミュレーターの研究成果と実証事例報告

10:05

「FrontCOMPで何ができて何が課題か」

吉川 暢宏 東京大学生産技術研究所

10:35

「水素ステーション用大型CFRP蓄圧器の開発」

岡崎 順二 JX日鉱日石エネルギー株式会社

11:05

「メゾスケールモデルによるCFRPの損傷解析」

福重 進也 株式会社IHI

11:35

昼休憩(パネル展示デモ)

■ 大規模アセンブリ構造対応熱流体解析ソルバーの研究成果と実証事例報告 並びに 統合インターフェースの研究成果と実証事例報告

12:40

「FrontFlow/blueの最新事例について」

加藤 千幸 東京大学生産技術研究所

13:10

「空調用ファンにおける空力騒音の計算」

岩瀬 拓 株式会社日立製作所

13:40

「FrontFlow/blueを用いた船体まわり流れ解析」

西川 達雄 財団法人日本造船技術センター

■ 大規模アセンブリ構造対応構造解析ソルバーの研究成果と実証事例報告

14:10

「FrontISTRの実証事例について」

奥田 洋司 東京大学大学院新領域創成科学研究科

14:40

「動的転がり接触解析による車輪・レール間の挙動評価」

高垣 昌和 公益財団法人鉄道総合技術研究所

15:10

「ものづくりに貢献するFrontISTRの活用事例」

中岡 紀行 株式会社先端力学シミュレーション研究所

15:40

休憩(パネル展示デモ)

■ 大規模アセンブリ構造対応マルチ力学シミュレーターの研究成果と実証事例報告

16:00

「REVOCAPシステム開発概要」

吉村 忍 東京大学大学院工学系研究科

16:30

「自動車車室内振動騒音解析」

飯田 桂一郎 スズキ株式会社

16:55

「REVOCAPシステムによる風車翼の流体-構造連成解析」

鵜飼 修 株式会社先端力学シミュレーション研究所

17:15

質疑応答

17:30

閉会の挨拶

 

7) 海洋開発研究機構
2012年2月7日~8日には、横浜杉田の地球シミュレータセンターにおいて、恒例の「地球シミュレータ利用報告会」が開かれた。8日の帰途、新横浜グレイスホテルのロビーで、前述の6月3日に放映されたNHKテレビ「最強×最速の頭脳誕生」についてNHKエンタープライズの立花達史ディレクターのインタビューを受けた。3月9日には富国生命ビルで運用委員会が開かれ、2012年度利用課題の審査を行った。12月25日にも運用委員会が開催され、2013年度の公募要綱について議論した。

さて、今年は地球シミュレータが完成して10周年ということで、「第10回地球シミュレータシンポジウム」が8月23日~24日に開催された。23日は一般向けに秋葉原コンベンションホールにおいて「地球シミュレータ 誕生10周年 そして未来へ」というテーマで開催され、24日は研究者向けに「地球シミュレータ利用研究、この10 年の成果、そして未来への貢献」と題して、海洋研究開発機構 横浜研究所 三好記念講堂で開催された。初日のプログラムは以下の通り。

8月23日(木)「地球シミュレータ誕生10周年、そして未来へ」

13:00

開会の辞

平朝彦(海洋研究開発機構 理事長)

13:05

来賓挨拶

(文部科学省)

13:10

特別講演 :スーパーコンピュータの歩み —地球シミュレータから京へ、そしてその先へ—

小柳 義夫 (神戸大学)

14:10

講演1 : 地球シミュレータがもたらした温暖化予測シミュレーションの発展

河宮 未知生(海洋研究開発機構)

15:00

休憩

 

15:20

講演2 : 地震動と津波のシミュレーションの発展 —地球シミュレータとともに—

古村 孝志 (東京大学)

16:10

講演3: シミュレーション科学の新たな可能性

高橋 桂子 (海洋研究開発機構)

17:00

閉会の辞

渡邉 國彦 (海洋研究開発機構)

 

国立環境研究所地球環境研究センター小司晶子主幹が、地球環境研究センターニュース2012年10月号 [Vol.23 No.7]に詳しい報告を書いている。

8) 原子力研究開発機構

 
   

青森県六ヶ所村の原子力研究開発機構国際核融合エネルギー研究センター核融合計算シミュレーションセンター(CSC:Computational Simulation Centre)では、導入する計算機システムの仕様を決める特別作業グループが2008年9月に設置され、2010年4月に仕様が確定した。2011年3月に導入機を契約し、2012年1月からスーパーコンピュータHelios(愛称「六ちゃん」)の計算機運用を開始した。これはフランスのBull社の製造した8820個のXeon E5-2680 8C 2.7GHzからなるクラスタBullx B510で、6月のTop500で1.237 Pflopsで12位を獲得した。写真は同センターのページから。

8) 数学イノベーション
2006年のところに書いたように、科学技術政策研究所 科学技術動向研究センターの細坪 護挙、伊藤 裕子、桑原 輝隆は、2006年5月に『忘れられた科学 – 数学 ~主要国の数学研究を取り巻く状況及び我が国の科学における数学の必要性~』というレポートを発表し、センセーションを巻き起こした。筆者は2006年4月から日本応用数理学会の会長を務めていたので、9月17日15:00~16:15に日本応用数理学会年会(筑波大学春日キャンパス)において「忘れられた科学–数学 応用数学の立場から」というシンポジウムを企画した。

いろいろの動きがあったようであるが、2011年4月28日の科学技術・学術審議会先端研究基盤部会において、「諸科学共通の基盤である数学・数理科学と諸科学及び産業との連携による研究を通じて、諸課題の解決に貢献するとともに、既存の枠組みを超えたイノベーションを生み出し社会に広く貢献するための方策について検討を行う」ため、「数学イノベーション委員会」が設置された。この委員会は、2011年6月30日の第1回から2016年6月17日の第29回まで精力的に開催され、この委員会の答申により、2016年7月15日に開催された「科学技術・学術審議会 戦略的基礎研究部会」において、「数学イノベーション推進に必要な方策について」が審議・了承された。

「数学」に関する筆者の常日頃の辛口コメントが文部科学省に伝わったらしく、2012年3月8日に文部科学省17階の情報課(当時)の反対側のウィングの部屋に呼び出され、研究振興局数学イノベーションユニット次長の栗辻康博研究推進官と面会した。シミュレーション科学でもデータ科学でも「数学的手法」が重要である、などと強調される。それを聞くと、数学者は、「今こそ数学の出番」と喜んでいるが、必ずしもお呼びではない。「数学的手法」は数学者の占有物ではない。むしろ各分野の研究者の方が数学的手法について豊富な経験を持っている。つまり数学の方が変革を必要としている、数学の変革なしに数学の出番はない、などと申し上げた。上記の「必要な方策」に多少は反映したのであろうか?

次回は、日本の大学計算センター等の動きと学界の動きについて述べる。

 

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