世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


1月 27, 2020

HPCの歩み50年(第218回)-2012年(l)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

今年からStorage Systems AwardをSCで授与することとなり、日立電子サービスの高橋直也社長(元、日立の副社長)に授与された。基調講演は日系三世のMichio Kakuであった。全体会議の招待講演では横川三津夫が「京」コンピュータについて講演した。

SC12

記念すべき第25回目となるSC12 (2012 International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis)は、2012年11月10日(土)~16日(金)にユタ州Salt Lake CityのSalt Palace Convention Center(写真は、中田秀基氏の報告から)において開催された。今回は家内を同伴した。宿泊はHilton Salt Lake City Centerであった。

 

ユタ州は禁酒州として有名であるが、全然飲めないわけではない。特に2002年の冬季オリンピック以後は緩和されているようである。Wikipediaによると「ユタ州アルコール飲料統制省はアルコールの販売を規制している。ワインやスピリットは州営の酒販売店State Liquor Storeでのみ購入でき、地方政府は日曜日にビールなどのアルコール飲料の販売を禁止できる。グロサリーストアやコンビニエンスストアでの果実酒販売を禁止している。州法では、商品の前面に州が承認したラベルを貼り、アルコールが含まれていることとその濃度を太字の大文字で表示しなければならないとしている。」したがって、公共の場所での飲酒は禁じられているが、レストランとか閉じた場所での飲酒は許されている。ファミレスみたいなところでワインを注文したら身分証明書の提示を求められたこともある。筆者が未成年に見えたのか(まさか?)。

高度1300mで、11月ともなると結構寒い。会期中も最低気温は連日零下であった。昼間は、晴れれば10度をちょっと越す。前半は雪模様であった。

1) 日本の寄与
この会議の運営には何百人というボランティアがかかわっているが、日本からの寄与も少なくない。松岡聡(東工大)はプログラム委員会の副委員長、プログラム委員としては、アプリ分野に青木尊之(東工大)、アーキテクチャ・ネットワーク分野に中村宏(東大)、グリッド・クラウド分野に建部修見(筑波大)、性能・エネルギー・デペンダビリティ分野に朴泰祐(筑波大)、丸山直也(理研)、プログラミング分野では田浦健次郎(東大)、八杉昌宏(九州工大)、State of the Practice分野では主査に松岡聡(東工大)、委員に中島研吾(東大)、中島浩(京大)、システムソフト分野には堀敦史(理研)、南里豪志(九大)である。チュートリアル委員会には、石川裕(東大)、招待講演委員には筆者である。授賞関係では、ACM Gordon Bell賞委員会には朴泰祐(筑波大)がいた。

2) 富士通セミナー
11日(日)には、筆者の宿泊していたHiltonホテル2階の宴会場で富士通セミナー『Fujitsu International Supercomputer Users’ Meeting 2012 in Salt Lake City』があった。

・挨拶
・招待講演
 (1) Research activities at NCI (National Computational Infrastructure)
     Australian National University
 (2)「京」最新状況の報告
     理化学研究所
・講演
– 富士通のHPCの取り組み

最後の懇親会ではもちろんビールやワインは出たが、1階のロビーにつながる階段の手前には、「これより先は、アルコール持ち出し禁止」という看板が立っていた。ロビーは公共の場所だからである。

3) 研究展示
展示の総数は357、研究展示は132件であった。日本からの出展は以下の通り。

・AIST(産業技術総合研究所)
・Center for Computational Sciences, University of Tsukuba(筑波大学計算科学研究センター)
   筑波大学は研究開発中のHA-PACSを展示していた。写真はガラ・オープニング直前の記念写真。筆者も加えていただいた。
・Center for Research on Innovative Simulation Software, Institute of Industrial Science, The University of Tokyo(東京大学生産技術研究所革新的シミュレーション研究センター)

 
   

・CMC – Osaka University(大阪大学サーバーメディアセンター)
・GRAPE Projects(GRAPEプロジェクト、国立天文台・理研など)
・Hokkaido University(北海道大学情報基盤センター)
・ITBL Community(ITBLに由来する仮想組織)
・JAMSTEC(海洋研究開発機構)
・Japan Advanced Institute of Science and Technology(北陸先端科学技術大学院大学)
・Japan Atomic Energy Agency(原子力研究所)
・JAXA(宇宙航空研究開発機構)
・Kansai University(関西大学)
・KEK(高エネルギー加速器研究機構)
・Kobe University(神戸大学システム情報学研究科)
・Kyoto University(京都大学学術情報メディアセンター)
・Kyushu University(九州大学情報基盤研究開発センター)
・Nara Institute of Science & Technology(奈良先端科学技術大学院大学)
・NICT(情報通信研究機構)
・Oakleaf/Kashiwa Alliance(東京大学情報基盤センター、物性研究所、FSの合同展示)
・PC Cluster Consortium(PCクラスタコンソーシアム)
・Research Organization for Information Science & Technology(RIST、高度情報科学技術研究機構)
・RIKEN AICS (Advanced Institute for Computational Science)(理化学研究所(神戸)高度計算科学研究機構)
・RIKEN, Advanced Center for Computing and Communication(理化学研究所(和光)情報基盤研究部)
   MD-GRAPEやQBiC
・Saitama Institute of Technology(埼玉工業大学)
・Saitama University(埼玉大学)
・The Institute of Statistical Mathematics(統計数理研究所)
・The University of Tokyo(東京大学データレサボアグループ(平木))
・Tohoku University(東北大学流体研・金材研、サイバーサイエンスセンター)
・Tokyo Institute of Technology(東京工業大学学術国際情報センター)
   TSUBAME2.0について展示
・University of Aizu(会津大学)
・VR Study Meeting(埼玉工業大学のIVEなど)

4) 企業展示
企業展示は199件であった。日本関係は以下の通り。

・Fujitsu Limited(富士通)
   「京」の商用版であるPRIMEHPC FX10およびPRIMERGY x86クラスタを展示。
・Hitachi, Ltd.
・NEC Corporation
   NEC SX-X(コード名)について予告していた。
・KOBE City HPC Cluster(神戸市HPCクラスタコンソーシアム)
   「京」の稼働開始を受けて、ソフトウェアやソリューションサービスの企業を結ぶ「神戸市HPCクラスタ」を構成した。

5) 開会式
13日(火)の8:30から開会式があり、組織委員長(General Chair)のJeffrey K. Hollingsworth ( University of Maryland)が開会の挨拶を行った。Storage Systems Awardを今年からSCで授与することにした、と述べた。また、これまでで最も広い展示会場であり、会場内に多くの休憩所を設けたことなどが紹介された。

プログラム委員長のRajeev Thakur (ANL)から、投稿論文は472件で、そのうち100を採択したとの報告があった。最終日の金曜に面白いパネルを3件用意したので、ぜひ参加してくださいとのことであった。

6) Awards
SCで授与される、大きな賞の受賞者が紹介された。

(a) Kennedy Award
   2012 ACM/IEEE Computer Society Ken Kennedy Awardは、HPCにおけるプログラマビリティとプロダクティビティへの貢献、および学界への顕著な貢献によりVirginia大学のMary Lou Soffaに授与された。賞金は$5000である。

(b) Cray Award
   2012 IEEE Computer Society Seymour Cray Computer Engineering Awardは、先進的なコンピュータ・アーキテクチャとシステムにおける革新により、Notre Dame大学のPeter M. Koggeに授与された。透明なmementoと$10000の賞金がSGI社から授与される。公表された選考委員の中に松岡聡の名がみえる(筆者も2002~2004に委員を務めた)。2006年には渡辺貞氏が受賞している。

(c) Fernbach Award
   2012 IEEE Computer Society Sidney Fernbach Awardは、大規模なバイオ分子シミュレーションのために広く利用されている並列ソフトウェア(Charm++)の開発への顕著な寄与により、Illinois大学Urbana-Champaign校のLaxmikant V. KaleとKlaus Schulternとに授与された。松岡聡はこの賞の選考委員も務めている。

(d) Storage Systems Award
   IEEE Raynold B. Johnson Information Storage Systems Awardは1992年のIEEE理事会で創設が決定され、1993年から授与されている。今年は、オープンサーバとメインフレームサーバのヘテロジニアスなシステム、事業継続ソリューションに対する革新的なストレージシステムの開発と、ヘテロジニアスなストレージシステムの仮想化における指導性に対し、日立電子サービスの高橋直也社長(元、日立製作所代表執行役・執行役副社長)に授与された。この賞はHitachi Data Systemsがサポートし、青銅のメダルと賞金が贈られる。過去には、世界で初めて光磁気ディスクを開発し実用化したKDD研究所の今村修武(のぶたけ)が1996年に受賞している。

7) 基調講演
開会式に続いてMichio Kaku(加來 道雄、日系3世、New York市立大学)の“Physics of the Future”と題した基調講演があった。これは氏が2011年に出版した“Physics of the Future: How Science Will Shape Human Destiny and Our Daily Lives by the Year 2100”に基づくもののようである。科学技術にはこれまで3つの波があった。第一の波は蒸気機関、第二の波は電気と自動車、第三の波はいろいろなハイテク。では第四の波は何でいつ来るのか。バイオか、医療か、AIか、ナノテクか、量子計算か。Mooreの法則はどうなるとか。2020年はポスト・シリコンの時代であろう。

インターネットはどこでもつながり、すべての情報は眼鏡に集まる。Intenet contact lensesなんてできたら試験で困る。VRは子供向きで、大人にはaugmented realityの方が重要。

お金は将来どうなるか。キャッシュはビットに代わるだろう。スマホは柔軟な知能を持つ。壁紙はどうなるか。Robo-docがAIで病気を診断するようになれば、医療費が安くなる。居間の鏡も賢くなって、今から誰がくるかを教えてくれる。眼鏡なしの3Dもできる。事務所にPCは不要になり、自動車事故は無くなる。マスプロからマス注文生産に代わる。未来のトイレは、「あなたはガンですよ」と教えてくれる。MRIはスマホの大きさなるだろう。自分の細胞で体の部分、脳だってつくれるようになる。SCが医学を変える。パイは大きくなる。

メモを読み返してもよく分かりません。

8) 招待講演(全体会議)
最初に述べたように、Bronis R. de Supinski (LLNL)から招待講演WGに加わるよう依頼された。プログラム委員会とは違い、集まって議論することはないとのことであった。委員は、Robert F. Lucas (Information Sciences Institute)、Bernd Mohr (Juelich Supercomputing Center)、Yoshio Oyanagi (Kobe University)、Wilfred Pinfold (Intel Corporation)であった。

招待講演には朝8:30からの全体会議での45分ずつのInvited Plenary Speakersと、分科会でのInvited Speakersとがある。

Bronisから「京」について誰がいいかというご下問があったので、横川三津夫(理研)を推薦した。かれは地球シミュレータと京の両方のスーパーコンピュータの開発グループ部長を経験し、かつSC02およびSC11でのGordon Bell賞の受賞者であり、すでに世界各地で講演しているので、Plenary Speakerとして最適な人物であると伝えた。

水曜の朝のPlenary Speakersは、スイスLausanneのEPFLのHenry Markram(Brain Mind Instituteの創立者、Human Brain Projectの創立者)の “Simulating the Human Brain – An Extreme Challenge for Computing” と、横川三津夫の“The K Computer – Toward Its Productive Application to Our Life”となった。木曜日は、William Harrod (DOE)の“A Journey to Exascale Computing”とSteve Scott (NVIDIA)の“The Evolution of GPU Accelerated Computing”となった。

9) 招待講演(分科会)
分科会の招待講演のスロットは16件である。13日(火)の10:30からは、SequoiaとTitanについての講演があった。

(a) The Sequoia System and Facilities Integration Story, Kimberly Cupps (LLNL)
   6月のTop500ではTopであったが、11月には2位になったSequoia稼働の苦労話であった。Hisa Andoの記事に基づいて紹介する。SequoiaはBlueGene/Qの1号機であり、コア数は1572864、Rmax=16.3248 PFlops、Rpeak=20.1327 PFlopsである。メモリは1.5 PB、メモリバンド幅は4 PB/sなので、B/Fでいうと0.2 B/Fで「京」の半分以下である。設置面積は400m2で、9.6 MWの電力を消費する。2012年4月16日にハードウェアの設置が完了し、11月からは一般の科学技術アプリを走らせて試運転を行う予定。12月には最終的な検収をおこない、2013年3月からはclassified machineとなる。

   昨年のところに述べたように、CPUチップは18コアで、16コアが計算用、1コアはOS用、もう1コアは予備である。1ラックには1024個のノードが搭載され、ピーク性能は209.7 TFlopsである。全体では96ラックで、ピークは20.1 PFlopsである。水冷マシンである。

   動かすにはいろんな問題があったようだ。「ソックス」がどうのと言っていたので、だれかが冷却管にソックスを置き忘れたのかと思ったが、Ando氏の記事によると、異物を調べるために白いソックスを通すと赤く染まり、その原因はポンプの赤ペンキが内側にも塗られていたのが原因だったとのことである。そんなこともありなのか。

   その他、カードのコネクタのピンが曲がったり、DRAMパッケージが接続不良と起こしたとか、冷却水の水質が悪かったとか、「京」では聞いたこともない。

   Q&Aで故障率の質問があり、は1.25 failure/dayだそうで目標より3倍多い。Linapckは約24時間かかっているので、大変だったと思う。

(b) Titan – Early Experience with the Titan Sstem at Oak Ridge National Laboratory, Authur S. Bland (ORNL)
   これもHisa Ando氏が詳細な報告を書いているので、それに基づいて紹介する。Sequoiaと同じくDOEの予算で建設されたものであるが、Office of Scienceの予算で建設されているので、大学や企業からも使うことができる。TitanはCrayのXK7であり、設定面積は404m2で消費電力は8.9 MWである(これはSequoiaとほぼ同じ)。計算ノードは16コアのAMD Opteron 6270とNVIDIAのK20x GPUから構成され、メモリはCPU側に32 GB、GPU側に6 GBである。コア数560640、Rpeka=27.1125 PFlopsであるが、このうちCPUが2.6 PFlops、GPUが24.5 PFlopsである。なおRmax=17.590 PFlopsである。これはGPUメモリだけをつかったもので、掛かった時間は55分である。今後CPUも使えばもっと良い数値がでるかもしれない。

   Sequoiaは設置の際種々の苦労があったようであるが、TitanはJaquarからのアップグレードなので大きな問題はなかった、と笑っていた。

   相互接続網はGeminiで、3次元トーラスで接続している。

   電力は、建物には13800Vで給電されるが、これ480Vに落してラックに給電する。これにより電流を小さくでき、$1M以上のコスト削減になる(本当か?)。フライホイールのUPSを使っているが効率が高い。PUEは1.25である。テネシーは湿度が低いので蒸気化熱で冷やす。

   故障は1日当たり、3~4台のノードが故障する程度で、MPBFは数日である。

(c) Vary Large-Scale Fluid-Flow and Aeroscoustical Simulations for engineering Applications Performed on the K Supercomputer, Chisachi Kato, University of Tokyo
   Bronisが、アプリに関する日本からの講演者はいないか、というので、地震の古村氏を考えたが、東日本大震災の翌年で多忙と思い、東京大学生産技術研究所の革新的シミュレーション研究センターを主宰している加藤千幸氏を推薦した。彼は、15日(木)の4:15から“Very Large-Scale Fluid-Flow and Aeroacoustical Simulations for Engineering Applications Performed on Supercomputer K”という講演を行った。

 
   

(d) 司会
   招待講演委員としてセッションの司会も頼まれた。14日(水)3:30からのセッションの司会をおこなった。Sylvie Joussaume (CNRS)の“Modelling the Earths Climate System – Data and Computing Challenges”と、Tsuyoshi Yasuki(安木剛、トヨタ自動車)の“Achieving Design Targets by Stochastic Car Crash Simulations – The Relation between Bifurcation of Deformation and Quality of FE Models” (写真)であった。

10) OpenMP
David Kuck (KAI)のイニシアチブで開発された。The OpenMP Architecture Review Board (ARB)は1997年10月にOpenMP for Fortran 1.0を初めて公表した。今年はOpenMPの生誕15周年である。OpenMPのブース(#2237)では、これを祝って、火曜と水曜の昼にはバースデーケーキが、3:30には地ビールが振る舞われた。筆者は行っていない。はたしてユタに地ビールがあるのかと思ったが、何種類もあるようですね。

それだけではなく、ちゃんと5つのプレゼンがこのブースで行われる。終わったらケーキかビール。

Tuesday, Nov 13th

11:15

“OmpSs: Integrating Task Dependences to OpenMP”

Xavier Martorell

2:00

“Getting OpenMP Up To Speed”

Ruud van der Pas

Wednesday, Nov 14th

11:15

“OpenMP on a High-Performance DSP”

Eric Stotzer

2:00

“OpenMP Tasking Explained”

Ruud van der Pas

Thursday, Nov 15th

11:15

“Origins of OpenMP & Why That Matters Today”

Tim Mattson

 

チュートリアルやBOFもある。

Sunday, Nov 11th

8:30

“Hybrid MPI & OpenMP Parallel Programming”

Rolf Rabenseifner, Georg Hager, Gabriele Jost

8:30

“Hands-on Introduction to OpenMP3”

Tim Mattson, Mark Bull

Monday, Nov 12th

8:30

“Advanced OpenMP3 Tutorial”

Christian Terboven

1:30

“OpenMP: The ‘Easy’ Path to Shared Memory Computing”

Tim Mattson

Tuesday, Nov 13th

5:30

BoF: “OpenMP: Next Release and Beyond”

Barbara M. Chapman, Bronis R. de Supinski, Matthijs van Waveren

Thursday, Nov 15th

2:00

Exhibitor Forum: “The Future of OpenMP”

Michael Wong

 

次回はSC12の2回目。「京」はTop500では3位になりそうなのでGordon Bell賞は無理か?!

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