HPCの歩み50年(第222回)-2012年(p)-
国防科学技術大学は、2012年4月、中山大学に研究・開発拠点を開設し、2015年末までに「毎秒10億億次」(100 PFlops)の次世代スパコン「天河二号」を建設すると発表した。2013年6月には「天河二号A」が33.86 PFlopsで登場する。

ヨーロッパの動き
1) ヨーロッパのExa計画
2012年2月中旬に、欧州委員会(European Commission)は、6.3億ユーロの予定を倍増して、12億ユーロをエクサスケールのために出資することを決定した。2020年までにエクサスケールのマシンを設置する計画である。
2) ARM社
2012年12月20日(現地時間)、英ARM社と米Cadence Design Systems(Cadence社)は3次元FinFETトランジスタを採用した14nmプロセスのテストチップのテープアウト(設計完了)を発表した。Cadence社の“Encounter RTL-to-signoff flow”を用いて設計され、Samsungの14nmプロセスをターゲットにしている。テストチップは、ARM Cortex-A7をベースに、ARM Aristanスタンダード セル ライブラリ、次世代メモリや汎用IOを統合したものである。
なお、Cadence社のソリューションを用いた14nm/FinFETのテストチップは、10月30日にIBMもテープアウトさせている。また、IBM、SamsungとともにCommon Platformを組むGLOBALFOUNDRIESも“14nm XM”の開発を進めており、2013年中の製品テープアウトを予定している。
3) ロシアのHPC
HPCwireの2012年3月27日号“Russia Sets Its Sights on Exascale”によれば、中国と同様にロシアもペタスケールを狙っている。2014か2015に予想される十数ペタフロップスのマシンは、Intel+NVIDIAであるが、2020年頃には独自チップで100ペタに行く計画だそうである。
3月末にロードアイランド州Newportで開催されたHigh Performance Computer and Communications Council(HPCC)において、T-Platforms社のCTOであるAlexey Komkovは、「ロシアはTop500の台数では9位であるが、T-Platforms社の製造したモスクワ国立大学のLomonosovは18位にランクしている。ロシア国内のトップ50のスーパーコンピュータのうちで、6台はT-Platform社sが製造し、17台はIBM社、16台がHPである。」
「中国と同様、ロシアも独自開発のHPCを進めている。このプログラムは2010年から始まったが、最初は年に$37Mであったものが、今後数年のうちに$1500Mの政府予算を投入する。」と述べた。
中国の動き
1) 天河二号
2010年11月にTop500で1位に輝いた「天河一号A」を開発した中国人民解放軍国防科学技術大学(湖南省長沙市)は、2012年4月、広東省の中山大学(Sun Yat-sen University)に研究・開発拠点を開設する。2015年末までにさらに高性能の次世代スパコン「天河二号」を建設する。演算処理速度は「京」の10倍の100 PFlops以上を計画している。「天河二号計算机将突破毎秒10億億次世界最快」と豪語している。(中国では「億」より上の数詞を通常使わず、「京」は「億憶」という)
これは、中国の第12次5カ年計画(十二五、2011~2015年)の863計画の一環であり、2011年11月に同大学と広東省政府、広州市政府、中山大学が広州で署名式典を行った。開発にかかる費用は総額で24億元(約312億円)に上る予定である。
2) 「神威藍光」が検収合格
科技日報によると、中国製のCPUだけを用い、2011年に済南スーパーコンピュータセンター(国家超級計算済南中心)で完成し、Top500で14位にランクした「神威藍光 (Sunway BlueLight)」は、2012年9月11日、専門家による検収に合格した。検収がまだだったとはびっくりした。航天科工集団の李伯虎院士を筆頭とし、西安微電子技術研究所の沈緒榜院士を含む専門家チームは検収の結果、「『神威藍光』は国家863計画情報技術分野の『高性能コンピュータ及びネットワークサービス環境』における重大プロジェクトの1つであり、高密度実装技術、全システム水冷技術などの面で世界先進水準に達した」と判定した。
3) ヨーロッパとの協力
2012年4月24日付新華網によると、スーパーコンピュータ「天河一号」をベースとする中国・欧州のスパコン戦略協力プロジェクトの発足会議が23日から24日にかけ、天津で行われた。これにより、国家スーパーコンピュータ天津センター、天津大学、およびEU5カ国(英国、ノルウェー、スペイン、ブルガリア、スイス)の研究機関が共同で申請したEU第7次研究枠組み計画(FP7)の国際協力プロジェクト“SCC-Computing”が正式に始動した。プロジェクト“SCC-Computing”は主に天河一号をベースとし、多くの分野で中国と欧州の強者連合を実現し、コンピュータ環境やコンピュータシステムの関連科学研究に焦点を当てる。
4) 深圳スーパーコンピュータセンター
新華網によると、2012年1月3日、深圳市建築工務署は中国で4カ所目となる国家級スーパーコンピュータセンター「深圳クラウドコンピューティングセンター」がこのほど正式に完成し、検収に合格したことを宣言した。これにより、華南地区においてこれまで高性能なコンピューティング能力が不足していた状態が緩和されると見られる。同プロジェクトは2010年9月に着工し、わずか1年3カ月で完成した。同センターの完成により、中国の国家級スパコンセンターは、天津、深圳、長沙、済南の計4カ所となった。深圳センターには中国初の実測性能1PFlops超スパコン「星雲」 が配備され、その最大メモリ容量は20 PBである。
5) 広州スーパーコンピュータセンター
光明日報によると、2012年5月30日、広州スーパーコンピューティングセンターのパイロットシステムが30日、中山大学(広州大学城キャンパス)にて稼動を開始した。同システムは生物医学、CAEシミュレーション、アニメーションなどいくつかの重点分野を対象としたサービスを行う。同センターの運営主体である中山大学は、センターの運営サービス、応用開発、人材育成などを担当するほか、コンピュータルーム、サービス・研究開発スペースを提供し、運営・サービス・技術スタッフ、研究開発人材の招聘を行う。専門的な運営・メンテナンス・管理チームを結成し、ハイレベルな科学研究、産業発展、重大プロジェクトのニーズに応えるべく、専門的なサービスを提供していく。
6) 銀河飛騰
中国ではMIPS系のGodson-3B、Alpha系のShenWei SW1600などのチップが開発されているが、湖南省の中国国防科学技術大学ではYinHe FeiTeng(銀河飛騰)FT64が開発された。天河1AにはサービスプロセッサとしてFT1000が2048個使われていたが。これはVLIWアーキテクチャで、64ビットの演算用コプロセッサだそうである
その他のアジアの動き
1) 台湾中央気象局
2012年6月25日、富士通は台湾中央気象局が数値予報にPRIMEHPC FX10スーパーコンピュータを選定したと発表した。初めての輸出である。売価は14億円とのことである。導入は2012年から始まり、段階的に進められる。まず、2013年1月には稼働を開始し、2014年12月には、1 PFlops以上の理論性能を実現する。これは現在のシステムの100倍以上の性能である。Top500には登場していないようである。
2) 台湾
2012年2月6日付けHPCwire掲載記事によると、IBMのThomas J. Watson Research Centerと台湾の国立成功大学(National Cheng Kung University:NCKU)は、台湾政府の国家科学委員会(National Science Council)のスポンサーのもとスパコンセンターを設立する。このスパコンセンターは、短期目標はIBMのThomas J Watson Research Centerと共同研究を行うこと、中期目標はBlue Geneコンソーシアムに(センターが)参加しソフトウェア開発に取り組むこと、長期目標はハイスピード・コンピューテーション・クラウドテクノロジー・サービスを促進すること。主な研究分野は、防災技術、エネルギー技術、先進医療機器、バイオメディカル研究、光電子研究。双方の研究チームは、フローティングポイントの演算能力20PFを目指すという。
3) インドのエクサスケール
2012年9月のThe Econmic Timesの記事によると、インドのC-DAC (the Center for Development of Advanced Computing)は、約$872Mの予算を投じて、今後5年以内にペフロップおよびエクサフロップのスーパーコンピュータを開発すると発表した。アメリカ、中国、ヨーロッパ諸国が、2018年にエクサを計画していることを考えると、2017年までエクサフロップスというインドの計画は無謀に思える。
2月には、インドのthe Council of Scientific and Industrial Research Center for Mathematical Modeling and Computer Simulation (CSIR C-MMACSは、250 FlopsのクラスタCSIR Fourth Paradigm Institute (CSIR-4PI)の設置を発表した。これは2012年6月のTop500において58位にランクしている。インド政府はさらに、「エリートのスーパーコンピュータクラブに入会するために」$1.2Bの研究投資を行うことを発表している。
ベンチャー企業の終焉
1) Appro日本支社
2012年12月4日、クレイ・ジャパン社は、米国クレイ社のAppro International, Inc買収完了(米国時間2012年11月21日)に伴いAppro日本支社の統合を完了し、新体制のもと12月1日より国内に於ける販売、保守サービスを積極的に展開すると発表した。従来のHPC事業部(Cray XC30, XE/XKシリーズ)、YarcData事業部(ビッグデータアプライアンスシステム uRIKA)、ストレージ事業部(Sonexion)に加え、第四のクラスタソルーションズ事業部を新設し、国内に於いても事業を展開する。
2) MIPS Technologies社
2012年11月5日、MIPS Technologies社は、Imagination Technologiesに580件の特許のうち82件とともに6000万ドルで売却することを発表した。2013年2月8日 1億ドルで買収を完了。残りの498件はARMを中心としたメンバにより3億5000万ドルでAllied Security Trust(AST)に移管された。
なお後のことになるが、2017年6月22日(英国時間)、Imagination Technologies社は、中国政府関連ファンドCanyon Bridgeの子会社であるCBFIに£550M(約830億円)で買収された。主要顧客であるApple社からGPUの利用停止を通達されたため。
3) Platform Computing社
1992年、トロントで設立されたPlatform Computing社は、2012年1月、IBM社によって買収された。
これをもって今回のシリーズ『HPCの歩み50年』は終了することにします。あまりに最近のことは歴史として書きにくいからです。これまでのご愛読を感謝します。最初はどうなることかと思いましたが、回を重ねるうちにスタイルも確立してきました。書いているうちに1964年以前の動きの重要性を痛感しています。また、今回書いた後から資料もどんどん増えてきました。そこで、しばらくお休みを頂いた後、1950年ごろからのコンピュータの歴史を、統一したスタイルで改めて書いてみたいと思います。ご期待ください。
![]() |
![]() |