世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


11月 25, 2014

HPCの歩み50年(第18回)-1982年(b)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

小柳義夫(神戸大学特命教授)

アメリカの企業の動き

1) Cray Research社
Cray Research社は、Cray-1の改良であるCray X-MP/2を発表した。チーフエンジニアはSteve Chen(陳世卿)であった。2CPUの共有メモリ並列ベクトル計算機でピーク性能は420 MFlopsであった。1984年には4CPUのモデルCray X-MP/4が発表された。ピーク性能は840 MFlops。

2) HEP
Denelcor Inc.という会社がいつ創立されたのかは分からないが、研究開発担当副社長のBurton Smithらは1973年頃から新しいアーキテクチャのコンピュータを研究していたようである。その成果としてHeterogeneous Element Processor (HEP)が1982年に出荷された。マルチスレッディングを利用した画期的なアイデアにより、8個のプロセスを同時に走らせることができた。合計8台が製造されたが、1985年にDenelcor社は閉鎖された。B. Smithは1988年同様なコンセプトに基づくTera Computer社を設立する。

3) Intel 80286
1982年2月、Intel社は、16ビットマイクロプロセッサIntel 80286を発表し、1984年から出荷された。IBMのPC/ATやそのクローンのCompaqのPCなどに使われた代表的なCPUである。HPCとの関係では、iPSCなど並列コンピュータのプロセッサとしても使用された。

Intel社は、IBMからの出資により80286生産のための設備投資を行う。IBMはIntel社の株を12%取得。その後最大17%に達する。1987年8月には全額売却。

ベンチャー企業の創業

この頃アメリカではコンピュータ・ベンチャーがまさに「雨後の筍(たけのこ)」のごとく登場しはじめた。1982年に登場した会社は以下の通り。後のビッグネームが並んでいる。

1) Sun Microsystems社
2月、Andy Bechtolsheim, Scott G. McNealy, Vinod Khosla, William Nelson Joyらによって創立された。創立から数年で世界企業に成長したが、2010年1月27日にOracle社により吸収合併された。

2) Compaq Computer社
2月、テキサス・インスツルメンツ社にいたJoseph Rodney Canionk, Jim Harris, Bill Murtoの3人によって創立された。IBM PC互換のパソコンの製造で成功した。Compaq社は1997年Tandem Computer社を買収し、1998年、Digital Equipment Corporationを買収した。しかし結局、2002年にHewlett Packard社によって吸収合併された。

3) Dataflow Systems社(Alliant Computer Systems社)
5月、SMP (Symmetric Multiprocessor)に基づく小型の科学技術計算用コンピュータを提供するために、Ron Gruner, Craig Mundie, Rich McAndrew の3人により、Dataflow Systemsの名前で創立された。比較的初期にAlliant Computer Systemsに社名を変更した。いわゆるミニスーパーコンピュータの走りである。1985年に発表されたAlliantの最初の製品FXは、MC68000にWeitek 1064/1065チップをFPUとして付加し、パイプライン的にデータ供給を行うためのハードウェアをもっていた(これをdataflowと呼ぶようである)。最大8並列。第二世代のFX (1988)では、Weitekチップの代わりにBipolar Integrated Technology社のFPUを用いた。1990年のFX/2800シリーズでは、Intel i860 というスーパースカラCPUを用いた。最後の製品は1991年に発表されたCAMPUS/800という超並列マシンであるが、1992年に倒産した。

筆者は1990年に筑波大学の予算で第二世代のFX(4プロセッサ)を購入したが、翌年東大に転任してしまった。その後、マシンを駆使した人の話では、思ったほど演算性能が出なかったとのことである。当時はベクトル計算機の最盛期であり、それと比べれば見劣りがしたのも無理なかった。

4) Convex Computer社
1982年、Bob Paluck と Steve Wallach が、Parsecという社名でテキサス州Richardsonに設立した。Cray Research社と互換のベクトル計算機C1, C2, C3などを低価格で製造した。1993年に並列コンピュータ開発計画を発表し、翌年3月Exemplar SPPを発表したが、1995年9月Hewlett-Packard社に買収された。

5) Silicon Graphics社(SGI)
SGIは3次元グラフィックス・ディスプレー製造するためにStanford大学准教授だったJim Clarkによって1982年に創立された。2009年4月1日にChapter 11の保護を申請して倒産し、Rackable Systems社に買収され、同社はSilicon Graphics International社(ロゴは継承)を名乗った。

6) Thinking Machines社
1982年、W. D. HillisとSheryl HandlerはThinking Machines Corporation (TMC)を創立した。HillisはMITで研究していたConnection Machineを実用化しようとした。最初の製品CM-1 (1986)は、216個の1ビットプロセッサをハイパーキューブ結合したSIMDマシンである。1994年8月に倒産した。

次回は1983年、日本でも本格的なベクトルコンピュータの時代が始まる。同時に、筑波大ではPAX-128が製作される。お隣の中国では100 MFlopsのスーパーコンピュータ「銀河1号」が開発される。

(タイトル画像出典: Computer History Museum)

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