世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


12月 12, 2022

新HPCの歩み(第119回)-1994年(a)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

第2回 US/Japan Performance Evaluation Workshopが9/19-22にハワイ島Konaで開かれた。2回目ともなると、お互いに相手の立場を理解し、話が通じるようになってきた。東京工業大学はETA10をCray C90にリプレースする。日本では公的セクターのネットワーク計画が本格化する。

社会の動き

1994年(平成6年)の社会の動きとしては、1/1北米自由貿易協定(NAFTA)発効、1/17ロサンゼルス大地震(M6.7)、1/26愛犬家連続失踪事件の遺体発見、2/3細川首相が「国民福祉税」7%を新設する案を発表したが、翌日撤回、2/4 H-IIロケット1号機、打ち上げ成功、2/12リレハンメルオリンピック開幕(2/27まで)、3/8中村喜四郎、国会会期中に逮捕(ゼネコン汚職)、3/24参議院、衆議院の小選挙区比例代表並立制を柱とする選挙法案を可決し成立、3/31東京地裁、三浦知良に無期懲役の判決、3/31細川首相のNTT株購入問題、3/31中国浙江省で千島湖(せんとうこ)事件、台湾から抗議、4/1朝日新聞東京本社で、発砲人質立てこもり事件、4/2 COCOMが解散、4/6ルワンダ虐殺始まる、4/8細川首相退陣を表明、4/22トップ・クォーク存在確認、4/26中華航空140便、名古屋空港で墜落、4/28羽田孜内閣成立、5/6ユーロトンネル開通式、5/10マンデラが南アフリカ共和国初の黒人大統領となる、6/15イスラエルとバチカンが国交樹立、6/16カーター訪朝、6/21衆議院予算委員会、細川護熙元首相を証人喚問、6/23平成6年度予算成立、6/25(社会党連立離脱で)羽田内閣総辞職を表明、6/27松本サリン事件、6/30村山富市内閣成立、7/1製造物責任法(PL法)公布(施行は1年後)、7/8向井千秋、宇宙へ、7/8-10第20回サミット(ナポリ)、エリツィン大統領が最終日初参加、7/8金日成主席死去、7/16三内丸山遺跡で大量の遺物出土、7/16-22シューメーカー・レヴィ第9彗星が木星に衝突、7/18アルゼンチンBuenos Airesでイスラエル共済組合本部への爆破テロ、7/30官官接待が報道される、8/25村山首相、ベトナム訪問、8/31「ジュリアナ東京」閉店、9/4関西国際空港開港、10/5スイスの二つの農村で、太陽寺院の信者53人が謎の集団死、9/27東京地裁、藤波孝生に無罪判決、10/2広島でアジア競技大会開催、10/4北海道東方沖地震(M8.2)、10/8恵比寿ガーデンプレイス完成、10/13大江健三郎、ノーベル文学賞受賞が発表された、10/21北朝鮮と米朝枠組み合意、11/1平安遷都1200年、11/3つくば母子殺人事件、11/9税制改革法案成立、消費税5%に(実施は1997年4月1日)、12/3常磐線の平駅がいわき駅に改称、12/5ブダペスト覚書(ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナの核不拡散と安全保障)、12/10新進党結成、海部党首に、12/11第一次チェチェン紛争ぼっ発、12/14食糧法成立(施行は翌年11/1)、12/28三陸はるか沖地震(M7.6)、など。つくば母子殺人事件では、被害者である母子の納骨になぜか同行することとなった。

流行語・話題語としては、「同情するならカネをくれ」「ヤンママ」「すったもんだがありました」「価格破壊」「ゴーマニズム」「就職氷河期」「ポケベルブーム」「関空」「サリン」など。

チューリング賞は、先駆的な大規模人工知能システムの設計と開発および、人工知能技術の実用性と潜在的価値を広く知らしめたことに対してEdward Albert Feigenbaum(Stanford大学)とDabbala Rajagopal Reddy(Carnegie-Mellon大学)に授与された。Feigenbauの受賞記念講演‘How the “What” becomes the “How”’はCACM, Vol.39, No.5, pp.97-104に掲載された。Reddyの受賞記念講演“To Dream The Possible Dream”は、CACM, Vol.39, No.5, pp.105-112に掲載された。和訳はいずれもbit誌1997年6月号。

エッカート・モークリー賞は、ERA、Reminton-Rand、CDCにおいて、Seymour Crayらとともに、CDC 1604、CDC 6600、Star-100などを開発したJames E. Thorntonに授与された。

ノーベル物理学賞は、中性子回折技術に対しBertram N. BrockhouseとClifford G. Shullに授与された。化学賞は、カルボカチオン化学への貢献に対しGeorge Andrew Olahに授与された。生理学・医学賞は、Gタンパク質およびそれらの細胞内情報伝達における役割の発見に対し、Alfred G. GilmanとMartin Rodbellに授与された。大江健三郎は、「あいまいな日本の私」と題して、ノーベル文学賞記念講演を行った。

筆者の私生活では、6月22日に牛久市刈谷の自分の土地(1975年に購入)に新築したマイホームに引っ越した。

日本政府関係の動き

1) 第五世代コンピュータ研究基盤化プロジェクト
第五世代コンピュータプロジェクトは1992年度末で終了したが、通産省は、1994年度から2年間ICOTを存続させ、「第五世代コンピュータ研究基盤化プロジェクト」として、第五世代プロジェクトの成果普及の努力を続けた。ICOTは、研究組織を縮小しながら、LC1とPIMOS環境をUnixマシン上につくり、知識処理ツールや応用システムを改良してUnixマシン上に委嘱した。同時に、PIMを大学や研究機関に移転して、研究教育に供した。

1994年12月13日~16日に、砂防会館別館において、第五世代コンピュータ国際シンポジウムFGCS’94を開催した。渕一博による基調講演のあと、各担当者からプロジェクトの成果が発表された。

2) 新情報(RWCP)
技術研究組合 新情報処理開発機構(RWCP)は、1994年6月13日~16日に、東京のシェーンバッハ・サボー(砂防会館別館)と、つくば市の電総研会議室、工技院講堂において「’94 RWCP Joint Symposium 」を開催し、500人が参加した。初めに2つの総合報告があった。初期には光計算や光通信にかなりの重点が置かれていた。

Introduction to the Symposium

Junichi Shimada, RWCP

Toward Flexible Information Processing in the Real World

Nobuyuki Otsu, ETL

 

以下、セッション名のみを記す。

Monday 13 June (Tokyo)

14:00-18:30

Theory and Novel Functions

14:00-18:00

Optoelectronics

Tuesday 14 June (Tokyo)

9:00-16:15

Theory and Novel Functions

13:00-16:15

Massively Parallel

Wednesday 15 June (ETL)

10:00-11:00

Genetic Algorithms and Stochastic Modelling

12:20-13:20

Flexible Human Interface

14:00-15:30

Flexible Image Understanding

16:00-17:30

Flexible Robot Technology

Thursday 16 June (ETL)

10:30-11:40

Neural Systems I

13:00-13:40

Neural Systems II

14:10-

Panel Discussion: Research Directions for RWC

   Coordinator: Shun-ichi Amari, Tokyo Univ.

   Panelists:   Takeshi Matsuyama, Okayama Univ.

                    Heinz Muehlenbein, T-GMD

                    Yoichi Okabe, Univ of Tokyo.

                    Nobuyuki Otsu, ETL

 

3) Japan-US Workshop for Performance Evaluation
1991年8月の第1回に続き、第2回 Japan/US Performance Evaluation Workshop (Kona, Hawaii, 9/19-22)が開かれた。ハワイ島北西KonaのHilton Waikoloa Resortは広大なリゾートホテルで、敷地内を電車や人工水路を走るボートで連絡していた(歩いても大した距離ではないが)。到着日の夕食に日本側参加者数名でホテル内のイタリアンレストランに行ったら、「ドレスコードに合わない」と断られた。「ハワイでドレスコード? 何を着ていけばいいの?」と聞いたら、「襟の付いた(collared)服を着てこい」とのことであった。確かに、われわれのTシャツには襟がなかった。アロハならいいらしい。頭に来たので、皆でルームサービスを取って、部屋で気炎を上げた。写真はWikipediaから。

 

アメリカ側の議長は前回と同様にGary M. Johnson、日本側は島田俊夫に代わって筆者が務めた。参加者は、以下の通り。GaryはDOEから大学の学部長になったとのことである。

日本側参加者

共同議長:小柳義夫

東大

関口智嗣

電総研

佐藤三久

電総研

長嶋雲兵

お茶の水大

福田晃

奈良先端大

村上和彰

九州大

アメリカ側参加者

共同議長:Gary M. Johnson

George Mason University

David Schneider

Cornell University

Dian Rover

Michigan State University

James J. Hack

NCAR

Gary Montry

Southwest Software

Kevin McCurley

SNL

 

前回と同様に今回も通訳が同席して、必要な時にだけ助けていただいた。今回は、ホノルルのWorld Trade社のPaul Cobett氏が来られた。報告書の作成の手助けもしていただいた。プログラムは以下の通り。

9月19日(月)

19:30

Welcome and Overview

Johnson

 

9月20日(火)

7:30

Breakfast

 

8:00

Introductions

Johnson/Oyanagi

8:30

Recent Trends in U.S. Performance Evaluation Activities

Johnson

9:00

Recent Trends in Japanese Performance Evaluation Activities

Sekiguchi

9:30

Application Requirements for Parallel I/O

Schneider

10:00

Break

 

10:30

Performance and Algorithm

Oyanagi

11:00

Analysis of Parallel Algorithm-Machine Combinations

Rover

11:30

Scalablity Metrics for benchmarking parallel computer systems

Sato

12:00

Lunch

 

13:30

Computational Challenges for Simulating the Earth’s Climate System

Hack

14:00

Performance evaluation of workstation and supercomputer using a program for eigenvalue problem

Nagashima

14:30

Benchmark Design and Analysis

Montry

15:00

Break

 

15:30

Performance Prediction of Scalable Shared Memory Parallel Computers by using Analytic Modeling

Fukuda

16:00

Application Requirements, Architectural Trends, and Programming Models for High Performance Computing

McCurley

16:30

How Do We Measure the Performance Inherent in Architectures?

Murakami

17:00

Adjourn for day

 

 

9月21日(水)

8:00

Breakfast

 

8:30

Discussion of Performance Evaluation Conference  – purpose and goals

 

10:00

Break

 

10:30

Performance Evaluation Conference planning

    – standing committee

    – program committee

    – solicitation of contributions

    – logistics

    – publication of proceedings

    – publicity/advertising

    – cycle of closed and open meetings

    – next planning meeting for open conference

 

12:00

Break

 

午後

Informal Discussions(要するに遠足)

 

 

9月22日(木)

8:00

Breakfast

 

8:30

Summary Discussion

Johnson/Sekiguchi

10:00

Break

 

10:30

Individual Writing

All Participants

12:00

Working Lunch – Assembly of Summary Notes Draft

All Participants

13:30

Conclusion

Johnson/Oyanagi

 

WSも2回目となると、お互いに相手の立場を理解し、話が通じるようになってきた。

次回は、日本でオープンなワークショップをやろうということになり、計画を立てた。1995年に別府のSWoPPに併せてPERMEAN’95として開かれる。

遠足としてキラウェア火山に行きたかったが、島の反対側でかなり遠い(直線距離でも80km)ということだったのであきらめ、Konaで水中展望船(Glassbottom Boat)に乗った。キラウェア火山には、同じホテルで開催された2003年の第4回会議のときに家内の車で足を伸ばした。

4) 省際ネットワーク(IMnet)へ
TISNは加入組織が増え、1994年にはKDD大手町ビルにWIDEとTISNの双方が拠点を置き、相互接続の高速化を図った。

1994年6月の科学技術会議政策委員会の報告書「研究情報ネットワークに関する当面の進め方について」において、日本の研究情報ネットワークがバラバラに構築され、効率的な資源の活用が図られていないと指摘している。日本全体として、総合的に最適なネットワーク環境を整備することの必要性が述べられている。このため国際電信電話株式会社(KDD)を中心に、3年計画で1997年3月まで分散経路サーバおよびネットワーク相互接続の研究および実証実験を行うことになった。1988年以来、大学関係の一部や他省庁関係はTISN(東大国際理学ネットワーク)がインターネット接続を提供してきたが、TISN会員のうち、文部省関係はSINETに、それ以外の組織は、1995~1996年にIMnet(省際ネット)への移行を完了する。1996年7月24日に、TISN解散記念パーティを挙行する。

5) 学術情報センター
学術情報センター(NACSIS)は、1994年9月にATM交換機の運用を開始した。2002年9月まで運用された。

1994年11月、千葉分館(千葉県千葉市)が竣工し、ネットワーク関係の業務はしだいに分館に移行する。

日本の大学センター等

1) スーパーコンピュータ研究会
全国共同利用大型計算機センタースーパーコンピュータ研究会は、1994年6月30日~7月1日に東京大学大型計算機センターで今年度第1回の研究会を開催した。プログラムは以下の通り。

6月30日(木)

13:30

日立製作所  MPPについて

TBD(日立製作所)

15:00

休憩

15:30

「SP2について」

寒川 光氏(日本IBM)

 

7月1日(金)

10:00

今年度の計画について

 

10:30

「Cenju-3について」

丸山 勉氏(NEC C&C研究所)

12:00

昼休み

13:30

研究発表

 

 

2)東北大学(SX-3/44R、Cray C90)
東北大学大型計算機センターでは、1994年1月からSX-3/44Rの運用を開始した。1994年6月のTop500において、Rmax=23.20 GFlops、Rpeak=25.60 GFlopsで12位tieにランクしている。センターは12月に、片平キャンパスから青葉山キャンパスに移転した。

東北大学流体科学研究所は、1994年7月1日、Cray C90 (C916/161024)の導入を決定したと発表した。10月に設置され、11月から稼働を開始した。1990年12月に設置したCray Y-MP/8の更新である。1995年6月のTop500ではRmax=13.7 GFlops、Rpeak=15.24 GFlopsで70位にランクしている。C90と同時と思われるが、T3D MCA128-8(128 nodes, EV4 149 MHz)も導入した。1995年6月のTop500ではRmax=12.90 GFlops、Rpeak=19.20 GFlopsで、82位にランクしている。

東北大学金属材料研究所は、1994年3月、HITAC S-3800/380を導入した。1994年6月Top500では、Rmax=21.30 GFlops、Rpeak=24.00 GFlopsで17位にランクしている。

3) 京都大学
京都大学大型計算機センターは、1994年4月、WWWによるセンターホームページの運用を開始した。

4) 大阪大学(ODINS)
大阪大学大型計算機センターは、1994年3月、大阪大学総合情報通信システム(ODINS)を導入した。

5) 筑波大学(VPP500/30)
筑波大学学術情報処理センターは1993年度補正予算で1994年2月に富士通VPP500/30を設置し、1994年4月から運用を開始した。詳しくは「日米貿易摩擦」で書くが、この入札にはキャノン販売もアメリカ製スーパーコンピュータで応札していた。2001年度からはレンタル予算となる。

1994年3月、補正予算で高速ネットワーク装置ATMを導入し学内ネットワークを構築した。1989年のところに書いたように、筆者の主宰する専門委員会は、評議会の求めにより綿密な調査を行い、キャンパスネットワークに関する詳細な図面付きの最終答申を提出したが、これが予算書作成に多少は役立ったとのことである。規模はずっと小さくなったが。

6) 東京工業大学(Cray C90)
東京工業大学は、1989年に導入したETA-10の後継機の入札を行っていたが、8月、Cray Research社のC90 (C916/12256)が日本電気のSX-3を押さえて落札したことが発表された。設置は1995年。1995年12月のTop500では、Rmax=10.27 GFlops、Rpeak=11.43 GFlopsで115位にランクしている。これまでのCrayの日本国内への販売実績は、産業界に31件に対し、公共セクターには8件しかなく、今後公共セクターへのビジネスに期待していると表明した。

7) 弘前大学
1994年6月、弘前大学情報処理センターを弘前大学総合情報処理センターに改組拡充し、翌年2月に、ACOS 930、CONVEX SPP、UP4800/680等からなるシステムに更新。

8) 千葉大学(Cray CS6400+Y-MP EL92×8)
千葉大学総合情報処理センターは、1994年3月、Cray CS6400およびY-MP EL92×8台を導入した。

9) 九州産業大学(SparcServer1000)
九州産業大学は、1994年9月、SparcServer1000を主要サーバ とした計算機システムを導入した。

10) 統計数理研究所(HITAC S-3600/120+M-880/180)
統計数理研究所は、1994年1月6日より、ベクトル計算機HITAC S-3600/120と大型汎用計算機HITAC M-880/180の2台を中心として構成されるシステムが稼働した。当然のことながら物理乱数発生機(1.5 MB/s)も設置されている。

11) 高エネルギー物理学研究所
1994年9月、S-820/80が撤去された。1994年度からは共通計算機からは独立したスーパーコンピュータシステムの予算が付いた。1995年1月、富士通 VPP500/80 (128GFLOPS, 20GB)を導入する。

12) 分子科学研究所(SX-3/34R)
分子科学研究所電子計算機センターは、1994年、スーパーコンピュータをHITAC S-820/80から、日本電気製SX-3/34Rに更新した。1994年6月のTop500では、Rmax=17.40 GFlops、Rpeak=19.20 GFlopsで、19位にランクしている。汎用計算機はM-680Hのままである。

次回は、日本の学界の動きや、国内での会議などである。航技研がNWTでGordon Bell賞に登場する。

 

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