世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


2月 20, 2023

新HPCの歩み(第128回)- 1995年(b)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

日本電気、日本IBM、日本サン、日立、富士通が自社ユーザなどを対象にするセミナーや研究会を開催する。JSPPでは院生・学生を対象とする並列ソフトウェア・コンテストを開催し、東京工業大学では高校生を対象とするSuperCon ’95を始める。GRAPE-4やMD-GRAPEが開発される。

日本の学界の動き

 
   

1) 航空宇宙技術研究所(Gordon Bell賞)
Masahiro Yoshida (NAL)らは、QCD計算により“179 Gflops on 128 processors of the Numerical Wind Tunnel”で、Gordon Bell賞のPerformance賞を受賞した。写真は賞状。日本から初めてのPerformance本賞であった。昨年のところに書いたように、このことを所長に報告へ行ったら、「今度は航技研の専門のCFD(計算流体力学)で取れないか?」ということで、松尾裕一を中心としてジェットエンジンのコンプレッサの回転翼列の解析で111 GFlopsを達成し、1996年には本業の航空工学の分野で性能部門の本賞を受賞する。

2) 東工大「SuperCon’95」
東京工業大学総合情報処理センター主催、日本クレイ協賛で、1995年にETA10に代わって導入したCrayのスーパーコンピュータCray Y-MP C916/12256(peakは11.429 GFlops)を使った高校生向けのプログラミング・コンテスト「SuperCon’95」が行われ、8月25日に終了した。全国の高校から65組、180名が応募し、そのうち予選問題に解答を送ってきたのは37組、予選通過は11組32名。半日の講習の後プログラムを完成させ、25日の本選に臨んだ。私立六甲高校(神戸、現六甲学院高校)のmanmaruチームが優勝した。優勝者は12月にSan Diegoで開催されるSC95視察団に招待された。

なおこのコンテストは多くの共催・協賛を得て毎年開催され、2014年8月には第20回を行っている。2015年からは大阪大学のサイバーメディアセンターと共同で開催している。

3) 科研費重点領域「超並列」
1992年に始まった文部科学省科学研究費重点領域研究「超並列原理に基づく情報処理体系」(代表田中英彦)は、最終の1995年度を迎え、まとめのための総括班会議を、かみの山温泉(1月8日~9日)、浜名荘(7月15日~16日)、高山(9月9日~10日)で開催した。

4) 並列・分散コンソーシアム(PDC)
上記の重点領域は95年度で終了するが、関係者の努力により、これをさらに発展させるために企業からの拠金と文部省からのマッチングファンド(共同研究A)により、「並列・分散コンソーシアム」が10月1日付けで発足した。代表は引き続き田中英彦。日本経済新聞によると、「東京大学など21大学と有力10企業が4年半に約10億円の資金を投入、マイクロプロセッサなどのハードウェアから基本ソフト、応用ソフトの開発まで手がける。有力企業を多数、巻き込むことで、今後の世界的な標準化作業で主導権を握る狙い。」とある。

10月13日(金)の運営会議で5つのカテゴリーが決まった。参加研究者数は当初のもの。

(a) カテゴリー1 並列分散処理アーキテクチャ技術(委員長 富田眞治)19名
(b) カテゴリー2 並列分散オペレーティングシステム技術(委員長 斉藤信夫)11名
(c) カテゴリー3 並列分散言語系技術(委員長 米澤明憲)10名
(d) カテゴリー4 科学技術計算応用技術(委員長 村岡洋一)11名
(e) カテゴリー5 実時間・マルチメディア応用技術(委員長 雨宮真人)10名

 
 

JUMP-1

提供:五島正裕氏

   

カテゴリー5以外は科研費「超並列」の4分野にほぼ対応している。初年度は半年しかなく、立ち上げの雑事に忙殺されているうちに過ぎてしまった。

カテゴリー1では、科研費重点領域「超並列」のD班を引き継いで、2000年、JUMP-1をSuperSparc+の512プロセッサ(4プロセッサのノードを128個)で実現する。写真はJUMP-1(情報処理学会コンピュータ博物館から)。

筆者はカテゴリー4に参加したが、11月10日に研究部会を開き、研究テーマについて議論した。科研費とは異なり、今度はスポンサーである企業側の意向とどう摺り合わせるかが問題であった。

12月15日~16日には熱海の「双柿舎」(坪内逍遙の旧宅)において合宿で研究部会が行われ、16名が参加した。各参加者が自分の研究テーマを提案し、賛助会員企業側からの意見も聞き、Action Planを議論した。

5) GRAPE
牧野淳一郎らは重力多体系専用計算機GRAPE-4を完成した。600 MFlopsの演算速度をもつHARP (Hermite AcceleratoR Pipe) chipを専用に開発した。1995年、1996年のGordon Bell賞を受賞する。

泰地真弘人らは分子動力学計算用のMD-GRAPEを開発した。

6) 筑波大学
筑波大学計算物理学研究センターでは、第二期工事を進めていたが、3月、研究棟が竣工した。

7) PHASEプロジェクト
このころ日本でもアメリカのnetlibのようなソフトウェア配布の組織ができないものか、という話が持ち上がった。話の発端は、長谷川秀彦(当時図書館情報大学)が1994年3月~1995年3月に、文部省在外研究員としてTennessee大学のJack Dongarra研究室に滞在していたことに始まる。帰国後3月30日、HAS研(Hitachiアカデミックシステム研究会)第4回WS・ソフトウェア分科会で「アメリカにおける高性能計算」という講演を行ったが、その話を聞きつけた故石田晴久教授(東大大型センター)が、日本国内でも(例えば同センターで)netlibのような恒久的なソフトウェア配布(とメンテナンス)の組織ができないか、とセンターのライブラリ室の関係者にもちかけ、ライブラリ小委員会委員長の筆者などにも話が来た。そこで、長谷川秀彦、関口智嗣、長嶋雲兵、村尾裕一、佐藤三久、筆者などが具体化に乗り出した。

NetlibはJack DongarraらによってUTKおよびORNLで1980年代に始まった数値計算ライブラリ等の配布システムである。当初は、UUCP、ARPANET、CSNET上の電子メールで配布されたが、その後ftpやWWWを利用するように進化した。1995年といえばオープンなMosaicが公開されたばかり(原型は1993)であり、WWWはかなり斬新な技術であった。

4月21日夜、「NETLIB.JAPANアイデア工房 第1回」がお茶の水女子大理学部で開かれた。そこで長谷川から、netlibやNHSE(National High Performance Software Exchange、代表Ken Kennedy)をモデルとして、WWWとftpによるHPCのソフトウェアと情報の共有を実現しようという提案がなされた。名前として、NHPCとかHPC-BASEとかEASE-HPCとかいろんなアイデアがあったが、5月9日の第2回においてPHASE (Parallel High-performance Application Software Exchange)と決まった。長谷川は6月1日の情報処理学会HPC研究会での講演「テネシー大学におけるHigh Performance Computing」においてもPHASEの構想を述べている。6月6日には「PHASEガイドライン」や「PHASEへの情報提供のお願い」の案が議論され、6月22日には第1版を公開するとともに下記のようなお願いを出した。

   PHASE  への情報提供のお願い

 

                 1995. 6.22.  PHASE  運営グループ

 

PHASE (Parallel and High-performance Software Exchange)では、HPC (High Performance Computing) 分野におけるソフトウェアと情報の共有、ならびに情報交換を円滑かつ容易にするため、ボランティアによる無償の情報提供サービスを計画しています。具体的には、 World Wide Web による

 

  (1)ソフトウェアの蓄積・公開

 (2)学会、SIG、機関の情報へのアクセス

 (3)ベンダーの情報へのアクセス

 (4) mailing list の加入方法

 (5)ベンチマークデータの蓄積・公開

 

などで、(1)と(5)については anonymous ftp  でも利用できる予定です。

 つきましては、このような形態で公開可能な(A)WWWホームページ、(B)ソフトウェアについての情報を御提供頂けないでしょうか。WWWホームページについては、 PHASE を電話帳がわりにアクセスできるように致します。提供いただいたソフトウェアはnetlib のように、いつでも、だれでも利用できるように致します。情報は集まることによって利用価値が高まることもありますので、是非ともご協力をお願い致します。

  御賛同頂ける場合は、後述の提供方法にしたがって、情報をお送り頂ければ幸いに存じます。[後略]

 

       PHASE  運営グループを代表して 図書館情報大学 長谷川秀彦

                 305 つくば市春日 1-2, FAX 0298-52-xxxx

 

7月4日には第3回、9月26日には第4回、10月24日には第5回、11月21日には第5回が開かれた。10月16日にはetl.go.jpにphaseサブドメインを作成した。11月にはnetlibのミラーをphaseで行う可能性を検討し始めた。当時の日米回線はかなり細かったので、日本にミラーを置けば高速にダウンロードできる利点はあるが、メンテナンスの負担が問題であった。その後(時期要確認)phaseサブドメインをhpcc.jpに移動した。日本の海外との回線の容量も増えて、ミラーの必要性は減った。

PHASEは2014年ごろまで一応activeであったが、2015年2月頃、産業技術総合研究所のセキュリティ規定の変更により移設の必要が生じた際、役割は終えたとして活動停止した(時期要確認)。

8) 統計数理研究所(外部評価)
統計数理研究所は国立大学共同利用研究所に改組転換してから10年を経過したが、初めての外部評価を行うことになり、統計学の専門家ではないが周辺分野からの視点ということで評価委員を委嘱された。評価の作業は9月4日~5日に行われた。その後、組織やプロジェクトの評価は国内外で多く携わったが、この時は初めてであり、いろいろ勉強することが多かった。記憶はあいまいであるが、評価委員の中には著名な評論家(田中直毅氏か?)もおられてびっくりした。統計学の隠れたサポーターとのことであった。

統計数理研究所の評価のページには、2000年度以降の評価しか掲載されていないが、手元に自分の「評価報告書」(7ページの一太郎文書!)がある。これには、「統計学者が象牙の塔に閉じ込もることなく、諸科学との対話を通じて統計学の知見を有効に適応すること」(つまり統計学から諸科学へ)、「諸科学の問題から統計学の新たな発展の手がかりを得ること」(諸科学から統計学へ)の双方向の重要性を述べ、これが、「統計数理研究所の共同利用研究所としての基本的な機能」であると定義づけた。とくに高エネルギー物理学研究所のように大規模研究施設をもつ機関とは異なる共同利用研究所としての役割について、「共同利用は、共同研究に矮小化されてはならない」ことも強調した。若造にしてはずいぶん生意気なことを書いたものである。

初日の夕刻、委員たちは黒塗りの車に乗せられ、都内某所(多分築地?)の料亭に案内された。入り口に当日の予約の札が下がっていたが、1枚だけ何も書いていない札があった。誰かがひっくり返してみると、裏に「統計数理研究所様」と書いてあり苦笑した。官官接待がまさに社会問題化している時であった。その後、2000年1月には最適化制御部門評価外部評価委員を、2007年2月~10月には教育研究活動外部評価委員を委嘱される。

国内会議

1) NEC・HPC研究会
日本電気は1995年1月から「並列処理センター(PPC)」を開設し、Cenju-3を大学の研究者等に提供し始めたが、これに合わせてユーザ会として1月に第1回NEC・HPC研究会が開催された。海外からの講演もあったようであるが、手元に記録が残っていない。

12月19日、NEC本社ビル地下1階多目的ホールにおいて、第2回NEC・HPC研究会が開催された。主要プレゼンは以下の通り。

基調講演「ネットワークスーパーコンピューティング」

村岡洋一(早稲田大)

「並列処理センターの利用状況」

土肥俊(日本電気)

「並列処理ソフトウェアコンテスト(PSC’95)の成果報告」

建部修見(東大)

「重合格子法による流体解析とソルバーの並列化」

堀之内成明(豊田中研)

「AMOSSWEB:WWW環境における非経験的分子軌道計算」

山本章紀他(NEC情報システムズ)

「インターネットに浮かぶ視覚化エンジン」

半田享(NEC情報システムズ)

「BiCGSTAB系のいろいろなアルゴリズム」

稲津隆敏(慶応大)

「Cenju-3上での流体解析とその実時間可視化システム」

村松一弘(日本電気)

“Progress of Algorithms and Applications group in the Joint CSCS/NEC Collaboration in Parallel Processing”

増田典雄(CSCS)

「Cenju-3用HPF処理系の実現と評価」

蒲池恒彦(日本電気)

 

2) IBM HPC Users’Forum
日本IBM HPCユーザーズ・フォーラムでは、1994年は「パラレル研究分科会」が7月まで活動したが、1995年も1月から9月まで「パラレル研究分科会」の第2弾の活動を行った。初心者の講習会、SP1やSP2の使用、隔月の定例会、公開のHPC Forumなどを企画した。筆者が座長、幹事として姫野龍太郎(日産)、福井義成(東芝)、八尾徹(三菱化学)、鷹尾洋一(IBM)の4氏にお願いした。

第1回定例会は1月27日に箱崎で開催した。

14:00~14:10

開会の挨拶

 

14:10~15:00

並列コンピュータによる複雑事象の解析-セル・オートマトン

高橋 亮一(東工大工学部)

15:00~15:15

コーヒー ブレーク

15:15~16:00

FLUENT社におけるパラレル化への取組み

毛利 代表取締役 ((株)流体コンサルタント)

16:00~16:50

パラレル・データベースの現状と動向

喜連川 優(東大生産研)

16:50~17:05

IBM SP2の最新状況

田村栄悦 世話人(日本IBM)

17:05~17:30

’95 パラレル研究分科会の活動計画につい

小柳 義夫 座長(東大理)

 

第2回定例会は科学技術分野とビジネス分野の2並列で3月29日に箱崎で開催した。

14:00~14:10

座長報告 (共通)

小柳 義夫 分科会座長(東大)

科学技術部門

14:10~15:10

エレクトロニクスCADの動向と並列計算アプリケーション

S.Moini (IBM社HPSSL)

15:10~15:20

コーヒー ブレーク

15:20~16:20

並列化コンパイラーの動向

笠原 博徳 (早稲田大理工)

16:20~17:20

LS-DYNA3D SP2パラレル版の紹介

D.Stillman技術担当副社長 (LSTC社)

17:20~17:30

Q&A

幹事

ビジネス部門

14:10~14:50

パラレルコンピュータとIBM SP2概要

田村 栄悦 分科会世話人 (日本IBM HPC)

15:00~15:10

コーヒー ブレーク

15:10~16:00

DB2/6000パラレルエディションの紹介

吉沢 剛士 (日本IBM SE)

16:00~16:40

並列データベースとデータマイニング  

森下 真一 (日本IBM TRL)

16:40~17:20

IBMのデータマイニング技術

沼尾 雅之 (日本IBM TRL)

17:20~17:30

Q&A

幹事

 

第3回定例会は科学技術分野が6月8日、ビジネス分野は6月15日にいずれも箱崎で開催した。

1995年6月8日(木)  科学技術部門

14:00~14:45

-JSPPパラレルソフトウェア・コンテスト

-SP2 HPFワークショップ開催の案内

幹事

14:45~15:00

コーヒー ブレーク

15:00~16:20

High Performance Fortran(HPF)のすすめ  

中谷 登志男(日本IBM 東京基礎研)

16:20~17:20

SP2米国利用事例紹介

岩本 一郎 (日本IBM HPC公共営業部) 

17:20~17:30

Q&A

 

1995年6月15日(木)  ビジネス部門 

14:00~15:00

大規模並列データベースの海外事例紹介

黒田 純生(日本IBM HPCテストセンター)

15:00~15:15

コーヒー ブレーク

15:15~16:15

IBM SP2上の並列DB-Oracle 7.1 

未定 (日本オラクル)

16:15~17:15

IBM Decision Support Solution (DSS)の動向

成田 徹郎(日本IBM エンドユーザー・ソフト

17:15~17:30

Q&A 

 

 

1996年2月20日には初心者向きのパラレル講習会を行う。ワークショップとしてはHPFの利用を中心とした。非線形FEMや地震応答解析などかなり大規模なソフトウェアを持ち込んだ者もあり、いきなりHPFで動くのか心配になった。

3) HOKKE-95
昨年に引き続き、3月9日~10日に、札幌駅近くの札幌ソフトウェア専門学校(2006年からは札幌情報未来専門学校)を会場として、HOKKE (HPCとアーキテクチャの評価に関する北海道ワークショップ)第2回を開催した。計算機アーキテクチャ研究会(第103回)とハイパフォーマンスコンピューティング研究会(第55回)の連続研究会であった。3月9日にはサッポロビール園で懇親会が開かれた。

4) 日独セミナー
格子ゲージ理論に関する日独セミナーが3月15日~19日に山形大学で開かれ、筆者は”Future Trend of Parallel Computing in Computational Physics”という講演を行った。会議録は、Progress of Theoretical Physics Supplement No. 122 (1996)として発行されている。筆者はセミナーの後、飛行機で伊丹空港に飛んだが、2ヶ月も経っているというのに、空から見た阪神淡路大地震の傷跡のすごさにびっくりした。1992年10月17日バトンルージュで射殺された高校生服部剛丈君のホストファミリーであった物理学者のWebb Haymaker氏も日独セミナーに出ており、同じ飛行機で伊丹に向かった。氏とは日本の銃規制についていろいろ話し合った。

筆者が関西に向かったのは、高エネルギー物理学研究所でお世話になった川口正昭先生(神戸大学を定年退官後、1994年から関西大学)が、手術後入院先で阪神・淡路大震災に被災し、水浸しの病室で数日を過ごすことを余儀なくされて悪化し、大阪の病院におられたのでお見舞いするためであった。面会時刻まで少し時間があったので、阪急で開通していた西宮北口まで行き、駅周辺を見回したが余りの惨状であった。川口先生は人工呼吸器をつけておられたが、少しお話することができた。先生はその後回復され一時自宅に戻られていたが、肺炎のため、1995年6月15日に突然亡くなられた。

5) JSPP’95とPSC 95
7回目の並列処理シンポジウムJSPP’95は、5月15日~17日に福岡市のアクロス福岡で「並列処理の理論・実践・応用」をテーマに開催された。実行委員長は雨宮真人(九大)、プログラム委員長は斎藤信男(慶應大)である。以下の企画がなされた。

基調講演

「知的な機能を備えた集積回路」大見忠弘(東北大)

招待講演

“Tempest: A Substrate for Portable Parallel Programs” Mark D. Hill (Univ. of Wisconsin)

パネル討論

「並列計算に期待するもの」モデレータ:島崎眞昭(九大)

 

昨年に続き、PSC(並列ソフトウェア・コンテスト)’95が村岡洋一(早稲田)を委員長として開催された。前年は富士通のAP1000だけであったが、今度は日本電気からCenju-3 ( 64 PE)、富士通からAP1000 (64 PE)、日立からSR2001 (32 PE)、日本IBMからSP2 (32 PE)を提供いただき、賞品もマシンごとに出していただいた。問題は密行列の大規模連立1次方程式の直接解法(いわばLINPACKベンチマーク)とした。サイズは予選では1000、本選では2048以下の3問とすることとした。結果は以下の通り。

 

AP1000

Cenju-3

SR2001

SP2

エントリ数

77

41

38

35

予選通過

28

10

15

15

本選通過

6

6

10

7

1位

建部修見(東大)

建部修見(東大)

(1位tie)

曽根猛(筑波大)

公文・河本・中谷・吉岡(京大)

2位

小川宏高(東大)

荒木・馬場・大内(東大)

(1位tie)

黒田久泰(東大)

高橋大介(東大)

3位

中谷・河本・公文・吉岡(京大)

河本・公文・中谷・吉岡(京大)

公文・河本・中谷・吉岡(京大)

吉田佳久(広島)

 

筆者の研究室所属であるが、建部が2部門で優勝したのは快挙であった。言う間でもなく筆者は何も指導していないが、ループアンローリング、通信隠蔽、ソフトウェアパイプライニングなどを自分で工夫した。京大のグループが全部門で3位以内に入っているのも凄い。3位までは皆JSPPでの表彰式に招待し、1位の方には10分程度のプレゼンをお願いした。3位までの入賞者には各社から豪華な賞品(PCなど)が贈られた。また日本クレイからは参加賞が贈られた。

6) JCRNセミナー
1990年に設立したJCRN(研究ネットワーク連合委員会、Japan Committee for Research Networks)は、1992年の第1回に続き、1995年5月23日、日本教育会館一ツ橋ホールにおいて、第2回JCRNセミナー「インターネットの現状と利用法」を開催した。プログラムは以下の通り。セッションBとセッションCは並行して開催。JCRNセミナーはこれが最後となった。

●セッションA 「インターネットとは」

        A-1 あいさつ————————小柳義夫(東京大学)

        A-2 インターネット概説————–村井 純 (慶応大学)

        A-3 日本の現状と将来の見通し——–平原正樹(奈良先端大)

●セッションB 「インターネットに接続する」

        B-1 小規模な事例の紹介————–鈴木優一(東京インターネット)

        B-2 ダイアルアップ——————坂田信夫(InfoWeb)

        B-3 専用回線による接続————–深瀬弘恭(IIJ)

        B-4 パソコンネットからの利用——–中居良一(Niftyserve)

●セッションC 「インターネットを高度利用する」

        C-1 インターネット活用法————辰巳治之(札幌医科大学)

        C-2 マルチメディアとインターネット–水島 洋(ガンセンター)

        C-3 ネットワークのセキュリティ——吉村 伸(IIJ)

 

7) 数値解析シンポジウム
第24回数値解析シンポジウムは、1995年6月14日(水)~16日(金)に伊豆の熱川ハイツで開かれた。担当は東京大学工学部森正武・杉原正顯研究室。参加者102名、講演は30件であった。

8) SWoPP 別府’95
1995年並列/分散/協調処理に関する『別府』サマー・ワークショップ (SWoPP 別府’95)は、8月22日(火)~25日(金)に、別府コンベンションセンターで開催された。第8回である。主催は、電子情報通信学会の人工知能と知識処理研究会, コンピュータシステム研究会, フォールトトレラントシステム研究会、情報処理学会の計算機アーキテクチャ研究会, プログラミング研究会, ハイパフォーマンスコンピューティング研究会, システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会である。

参加者数267(43大学208名、16企業45名、4国立機関14名)で、発表件数133(33大学、7企業、2国立機関)であった。

国際会議の章に書くが、前日の8月21日には同所でPERMEAN95を開催した。

9) NSUGシンポジウム
日本サン・ユーザ・グループ(NSUG)は、1995年9月8日、飯田橋のホテルエドモントにおいて第7回NSUGシンポジウム/総会を開催した。

9:30~10:00

NSUG会員総会

 

<NSUGシンポジウム>

10:00-10:10

[祝辞]

日本サン・マイクロシステムズ/会長 天羽浩平/社長 Jay Puri

10:10~11:10

基調講演 I

「インターネットの発展と今日の社会変化」

国際大学グローバル・コミュニティ・センター所長公文 俊平

11:20-12:20

基調講演 II

「SKIP and security for the Internet」

Sun Microsystems Laboratories, Inc.  Ashar Aziz

A:Internet セッション

13:30-14:30

(A-1)「プライバシの保護とPGP」

奈良先端科学技術大学院大学山本 和彦

14:30-14:45

 (休憩)

14:45-15:45

(A-2)「Java言語とHotJava」

日本サン 山口 浩

15:45-16:00

(休憩)

16:00-17:00

(A-3)「あなたにも出来る電脳コンビニ店経営」

日本ネットスケープ コミュニケーションズ(株) 和田健一郎

B:WS & PC セッション

13:30-14:30

(B-1)「Open Transport – Macの新しいNetwork Architecture」

アップルコンピュータ(株) 岡本 啓一

14:30-14:45

(休憩)

14:45-15:45

(B-2)「CALS時代の統合C/S文書管理システム」

 

インターリーフ ジャパン(株) 石原 正雄

15:45-16:00

(休憩)

16:00-17:00

(B-3)「マルチ・プラットフォーム環境におけるオラクルのC/S開発ツール」

日本オラクル(株) 大角 和輝

C:New Technology セッション

13:30-14:30

(C-1)「OpenStep Advantage」

NeXT Computer Sina Tammadon

14:30-14:45

(休憩)

14:45-15:45

(C-2)「UltraSPARCの概要紹介」

日本サン 栗原 伸浩

16:00-17:00

(C-3)「Spring – New Generation Distributed Operating System」

日本サン 小鍋 秀則

17:00~

ビア・パーティー

 

10) 数理解析研究所
京都大学数理解析研究所の研究集会「科学技術における数値計算の理論と応用」は、三井斌友を代表として、1995年10月25日~27日に開催された。第27回目である。報告書は講究録No.944に収録されている。

11) 広島大学INSAMシンポジウム
1995年10月28日に広島大学理学部において、第3回INSAMシンポジウムが開催され、以下の招待講演があった。筆者は上記の京都大学数理解析研究所の研究会に引き続いて駆けつけ、参加した。

13:00-13:10

あいさつ

 

13:10-14:10

「GRAPEと宇宙物理学」

杉本大一郎(東京大学)

14:10-15:10

「NWTと計算空気力学」

福田正大(航空宇宙技術研究所)

15:10-15:30

休憩

15:30-16:30

「QCDと専用計算機QCDPAX,CP-PACS」

吉江友照(筑波大学)

16:30-17:00

ポスターインデクシング

 

17:00-18:00

ポスターセッション 17論文

18:00-19:30

懇親会

 

12) HAS研
HAS研(Hitachiアカデミックシステム研究会)は、1995年12月8日第7回シンポジウムを開催した。

製品紹介

日立並列コンピュータSR2201について

株式会社日立製作所  和田 英夫

特別講演

第13回高エネルギー物理におけるコンピューター利用国際会議の報告

高エネルギー物理学研究所 森田 洋平

第7回シンポジウム

(パネルディスカッション)プログラミング・パラダイム・シフト!?

オブジェクト指向とオープンシステムの歴史的出会い

明治大学 中所 武司

プログラムレスは知識レス

帝京大学 林 理

大規模科学技術計算と“目標達成”型言語Fortran

東京大学 村尾 祐一

手続き型言語の将来について
~手続き型言語とオブジェクト指向言語の比較~

株式会社日立製作所 十山 圭介

プログラミング自動化への挑戦~幻想か!?可能性が見えてきた!?~

株式会社日立製作所 野木 兼六

 

13) HPC研究会
情報処理学会 ハイパフォーマンスコンピューティング研究会は、HOKKEとSWoPPを含め年間5回開催された。発表件数の合計は初めて60件を越えた。

14) SS研究会
1978年に設立されたSS研究会(Scientific System研究会)は、この年、初めてHPCミーティングを11月21日~22日に京都グランドホテル(1997年からはリーガロイヤルホテル京都に改称)で開催した。20日~21日の合同分科会に連続して企画されている。2003年からのHPC Forumとは異なり会員限定だったようである。ニュースレターNo.79によると、プログラムは以下の通り。会員組織からの参加は36名で、この他富士通社員等が多数いたと思われる。

挨拶

富士通

招待講演「英国に於けるハイパフォーマンス・コンピュータと計算化学について」

マンチェスター工科大学 教授 

Dr. Julian Clark

特別講演「日本の科学技術政策の回顧と展望」

安田火災海上保険(株) 顧問 /(財)機械振興協会 顧問 島 弘志

富士通報告

・HPC本部の取り組みについて

富士通(株)常務理事  HPC本部  小坂義裕

・Scalar Parallel Processorについて

富士通(株)HPC本部  石井光雄

ユーザ報告

・原研計算科学技術推進センターの役割と課題

日本原子力研究所  浅井清

・鉄鋼業の研究所におけるHPCの現状と期待

日本鋼管(株)総合材料研究所  石井俊夫

・大型計算センターにおけるHPCへの期待

名古屋大学大型計算機センター  永井亨

・情報処理センターにおけるHPCへの期待

奈良女子大学情報処理センター  加古富志雄

まとめ

 

富士通からの挨拶

 

 

次回は、日本の企業の動き、標準化、インターネット、アメリカ政府関係の動きなど。富士通はVPP300を、日立はSR2201を発表し、日本電気はSX-4を出荷する。

(アイキャッチ画像:JUMP-1 提供:五島正裕氏)

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