世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


2月 25, 2025

新HPCの歩み(第222回)-2004年(m)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

Cray社は、SNLのために開発したRed Stormを商品化したCray XT3の発売を開始した。Sun Microsystems社は、Java紛争でMicrosoft社から約$2000M(約2160億円)を受け取ったが、その金でCray社を買収するのではという噂が一時立った。

アメリカの企業の動き(続き)

12) Sun/Microsoft係争
遡れば1997年10月7日に、Sun Microsystems社はMicrosoft社に対し、同社が自社製品に互換性のないJava製品を出荷していたとして提訴した。両社は2001年1月23日に和解し、7年間に限りMicrosoft社はSun Microsystems社のJavaの既存製品を搭載できることとなった。同社はWindows XPにJava VMを標準搭載しないこととした。

Sun Microsystems社は、2002年3月、再びMicrosoft社を独禁法違反で提訴し、Microsoft社がJavaプラットフォームの普及を妨害し、ライセンスを受けていないJava対応製品を配布したと主張した。連邦地裁は、2002年12月にSun Microsystems社の言い分を認める判決を下し、Microsoft社に対し、Sun Microsystems社のJava技術をWindowsに即座に搭載するよう仮命令を下した。Microsoft社は、この裁定が市場の自由な活動に対する不当な干渉であるとして、2003年2月に控訴した。これに対し、2003年6月26日、第4巡回区連邦控訴裁判所(バージニア州Richmond、日本の高等裁判所に相当する)はMicrosoft社が著作権を侵害しているとの連邦地裁の判断を支持しつつも、Java搭載の仮命令については差し戻しとしていた。

2004年4月2日、Sun Microsystems社とMicrosoft社は、両者間のJavaをめぐる紛争が全面的に解決したと発表した。過去の特許侵害訴訟についてすべて和解し、将来も提訴しないことで合意。さらに両社は、特許のクロス・ライセンス契約に向けた交渉を開始する。これにより、Microsoft社は、独占禁止法関連の和解金$700Mと、特許関係の和解金$900MをSun Microsystems社に支払う。さらにMicrosoft社は、特許使用料$350Mを前払いする。両社が結んだ提携の期間は10年間とのことである。(HPCwire 2004/4/2)(日経ITpro 2004/4/4) (HPCwire 2004/4/9) 大河原克行の記事によれば、当時Sun Microsystems社は経営不振に陥り、資金が底をつき始めていた。この和解金がSun Microsystems社にとって最後の切り札であったと見られている。(ITmedia 2007/9/5) 7月頃には、Sun Microsystems社はMicrosoft社から受け取った約$2B($1=110円として約2200億円)でCray社を買うのではとの憶測も流れた。 (HPCwire 2004/7/9)

13) Cray社(X1)
Cray社は幅広くビジネスを行っているが、まずベクトルコンピュータX1について。2004年2月、インドムンバイのTIFR (Tata Institute of Fundamental Reseaarch)からX1の注文を受けたと発表した。3月までに設置の予定である。(HPCwire 2004/2/27) 4月29日、Cray社は、韓国気象庁が行ったスーパーコンピュータの入札でX1が採用されたと発表した。5月21日、$43.2Mの契約が締結されたことが発表された。同時に、Cray社と韓国気象庁は、東アジア太平洋地域の高度な気象モデルを研究するための「地球システム研究センター」を共同で設立する。2004年後半に、第1フェーズとして2 TFlops以上のCray X1システムを導入する。2005年にはこれをX1Eにupgradeしより高精度な気象モデルの計算を可能にする。(HPCwire 2004/5/21)

同じく5月には、GMRI (Gulf of Main Research Institute)からCray X1を受注したと発表した。GMRIはメーン州Portlandにある非営利の海洋科学研究センターである。(HPCwire 2004/5/7)

7月には、Ohio Supercomputer CenterからCray X1とCray XD1を受注したと発表した(HPCwire 2004/7/16)。X1は空冷で、2004年8月17日にSpringfieldの施設に設置された(HPCwire 2004/8/20)。XD1も第3四半期に設置される。XD1システムについては後述。

Top500リストから主要なCray X1を示す。

設置場所

コア数

Rmax

Rpeak

初出と順位

ORNL

252

2.9329

3.2256

2003/11 19位tie

→504

→5.895

→6.451

→2004/6 20位

アメリカ某政府機関

252

2.9329

3.2256

2003/11 19位tie

Cray社

252

2.9329

3.2256

2003/11 19位tie

124

1.4484

1.5872

2004/6 153位tie

US Army HPC Res. Center

124

1.4484

1.5872

2003/11 71位tie

Arctic Region Supercomputing Center, Univ. of Alaska

124

1.4484

1.5872

2003/11 71位tie

ERDC DSRC

60

0.706

0.768

2003/11 196位tie

アメリカ某政府機関

60

0.706

0.768

2003/11 196位tie

アメリカ某政府機関

80

0.937

1.024

2004/6 271位

Boeing社(アメリカ)

60

0.706

0.768

2004/6 391位tie

韓国気象庁

188

2.1882

2.3064

2004/11 87位

(ERDC DSRC: Engineer Research and Development Center, DoD Supercomputing Resource Centers)

14) Cray社(Red Storm, XT3)
Cray社は、SNL (Sandia National Laboratory)に、OpteronのMPPであるASC Red Stromを建設中であったが、9月末には最初の1/4のシステム(41.5 TFlops)が設置される、とBill Camp (SNL)が述べた。汎用品を用い、安価で省電力で短期間に製造できるところに特徴がある。性能の測定は翌年から始まる。2005年末には、クロックを増強した(2 GHz→2.6~3.0 GHz)dual-core Opteronに変更することにより100 TFlopsに達する見込みである。SNLはこれで世界一と豪語していたが、さて実際は?(HPCwire 2004/7/30)

2003年10月、(IBM社からCrayに移った) Peter Ungaroはその商品版を2004年から発売すると発表した。早速多方面から引き合いがあったようである。5月7日、PSC (Pittsburgh Supercomputing Center)は注文の一番手となった。予算は$9.7M、設置は2004年第3四半期の予定。同じ5月にはカナダの機関からも注文を受けた。2004年末に設置される予定。7月末には、非公開の顧客から$3.5Mのシステムを受注したと発表された。(HPCwie 2004/7/30)

2004年10月になってこれらのマシンがCray XT3と名付けられ、SNLにはRed Stormとして設置され、、ORNLには20 TFlopsのXT3と20 TFlopsのX1Eが設置され、PSCには10 TFlopsのXT3が設置されることが発表された。(HPCwire 2004/5/7) (HPCwire 2004/10/29) Cray社によると注文が相次ぎ、2004年後半に設置の予定である。(HPCwire 2004/5/14)

Top500から主要なXT3の設置状況を示す。このマシンはチップ数やコア数によりスケーラブルなので、どんどん進化している。

設置場所

システム

コア

Rmax

Rpeak

初出と順位

SNL

Red Storm, Cray XT3, 2.0 GHz

5000

15.25

20.00

2005/6 10位

Red Storm Cray XT3, 2.0 GHz

10880

36.19

43.52

2005/11 6位

Red Storm, Opteron 2.4 GHz dual core

26544

101.40

127.41

2006/11 2位

ORNL

Cray XT3, 2.4 GHz

3748

14.17

17.99

2005/6 11位

Jaguar, Cray XT3, 2.4 GHz

5200

20.53

24.96

2005/11 10位

Jaguar, Cray XT3, 2.6 GHz dual Core

10424

43.48

54.20

2006/11 10位

PSC

BigBen, Cray XT3, 2.4 GHz

2060

7.94

9.84

2005/6 33位

CSCS(スイス)

Cray XT3, 2.6 GHz

1100

4.78

5.72

2005/6 57位

Cray XT3, 2.6 GHz

1664

7.05

8.64

2006/6 64位

アメリカ政府機関

Cray XT3, 2.4 GHz

544

2.17

2.61

2005/6 156位

ERDC DSRC(アメリカ)

Sapphire, Cray XT3, 2.6 GHz

4096

16.98

21/30

2005/11 14位

アメリカ政府機関

Cray XT3, 2.4 GHz

740

2.86

3.55

2005/11 186位tie

AWE(イギリス)

 

Cray XT3, 2.6 GHz

2652

11,81

13.79

2006/6 29位tie

Cray XT3, 2.6 GHz dual Core

7812

32.50

40.62

2006/11 15位

US Army HPC Research Center at NCS

Cray XT3, 2.4 GHz

1152

4.44

5.53

2006/6 117位

 

Cray XT3の快進撃の影で、1996年4月にPSCに設置された最初のCray T3E/256(1997年4月に512に増強)、愛称Jaromirが、9月30日シャットダウンされた。(既述)

15) SGI社(Altix 3000)
2004年3月10日、前年発表されたAltix 3000 は、1個のシステムカーネルの下で256個のItanium 2がLinuxのシングルシステムイメージで稼働すると発表した。使ったOSは、2.4-baseのLinux kernelに基づいてSGI社が独自に開発したLinuxである。

16) Cray社(XD1)
2004年2月25日、Cray社は、カナダのHPC開発企業OctigaBay Systems社を買収した(HPCwire 2004/2/27)(HPCwire 2004/4/9)。OctigaBay社は2001年に639231 British Columbia Ltd.としてBritish Columbia州Vancouver近郊のBurnabyで設立され、2002年にOctigaBay Systems社と社名変更された。Opteronを搭載した科学技術向けのHPCシステム12Kを開発していた。買収はOctigaBay社の全発行済み株式を、Cray社の株式1270万株および$15M弱の現金と交換して行った。Cray社の前日の株価$7.84で換算すると買収総額は$115Mとなる。社名はCray Canada社となり、Cray社の子会社となった。本社はBurnaby, British Columbia(Vancouverのすぐ東)にある。Opteronを搭載した並列機という意味ではXT3と競合するので買収して実質上消滅させるのか?

2004年10月4日、Cray Canada社はいわばXT3の廉価版としてCray XD1を発表した(HPCwire 2004/10/8)。これはもともとOctigaBay 12Kとして開発されていたものである。ノード当たりdual-core Opteron 4個とXilinx社のVirtex-II Pro FPGA を1個搭載しLinuxで走る。FPGAにはPowerPC 405が2個含まれ、シングル・ノードの性能を増加させる。PCIのボトルネックを解消するためHyperTransport上のDirect Connect Architectureを用い、転送速度は3.2 GB/sもありMPIレイテンシを1.8 μsまで減少させている。これはInfiniband、Quadrics、Myrinetなどの1/4であり、Gigabit Ethernetの30分の1である。FPGAは主メモリと同様な空間として扱うことができ、FPGA同士も高速インタコネクトで接続されている。マニア好みのなかなか凝ったマシンに見える。Cray社もよく資金が続くものである。

正式発表前であるが、Cray社は6月、DOEのPNNL (Pacific Northwest National Laboratory)からXD1の注文を受けたと発表した。初期の版のXD1が6月末に設置され、秋には正規版に更新される予定である。(HPCwire 2004/6/18)

9月、早速ドイツのHelmut Schmidt大学がCray XD1を発注したと発表された。ヨーロッパでは初めて。第4四半期に設置される予定。(HPCwire 2004/9/3) 10月、ASA (Alabama Supercomputer Authority)から12シャーシーのCray XD1の注文を受けたと発表した。もともと72プロセッサのCray XD1を設置していたが、これを144プロセッサに拡張する。ピーク性能は634 GFlops。(HPCwire 2004/10/22)

11月、ドイツのZuse Insitute Berlinからも注文を受けたと発表した。プロセッサ数など詳細は不明。計算化学などを実行するとのこと。(HPCwire 2004/11/5) 同じ頃、イタリアのINFN (Istituto Nazionale di Fisica Nucleare)からもXD1を受注したと発表した。年内にPisaに設置する予定。(HPCwire 2004/11/19) ドイツのFZJ(Research Center Juelich)も12月中に72プロセッサのCray XD1をシステム評価のために導入する予定である(HPCwire 2004/12/17)。

エントリマシンなのでTop500の上位には登場しないが、登場は以下のとおり。

設置場所

システム

コア数

Rmax

Rpeak

初出と順位

Sony System Technological Lab.(日本)

XD1 2.2 GHz

825

3.00

3.63

2005/11 161位

Rice University

XD1 2.2 GHz

668

2.35

2.94

2005/11 278位

Naval Research Lab. (USA)

XD1 2.2 GHz

588

→864

2.08

3.04

2.59

3.80

2005/11 313位

2006/6  274位

 

17) Cray社(経営問題、CUG)
順風満帆のように見えるCray社であったが、経営状態は火の車だったようだ。同社の第2四半期の収支が7月30日に報告された。第2四半期の収入は$21.7Mで前年同期の$61.8Mから大幅ダウンで、GAAP(米国会計基準)では$54.5Mの赤字である。2003年第1四半期では$7.9Mの黒字であった。赤字の大部分はOctigaBayの買収に関連する$45.8Mであるが、それを別にしても純損となっている。注文残は、前四半期の$75Mから$126Mと大幅に増えている。(HPCwire 2004/7/30)

2004年の純損は$204Mと発表されていたが、2006年4月になって$207.4Mであったと訂正された。その理由は収入が$149.2Mから$145.8Mに修正されたからである。(HPCwire 2006/4/21)(Seattle PI 2006/4/17) 株分割の監査の際にでも指摘されたのであろうか。

CEOのJim Rottsolkによれば、今後の見通しは、X1Eは開発製造の遅れのため2005年第1四半期まで収入を生まず、Red Stormの部品の遅れが、XT3の他のユーザへの納品の遅れにつながる恐れがあるなど、2004年全体の収入は$200Mを下回る見込みなので、開発を早めるとともに20%の経費節減を図る必要がある。2005年には$300Mを越える収入を予定している。(HPCwire 2004/9/3)

 
   

Sun/Microsoft係争のところに書いたように、7月9日のHPCwireはSun Microsystems社がCray社を買収するのではないか、という噂を伝えている。(HPCwire 2004/7/9) 1996年にSGI社がCray Research社を買収したとき、CS6400系統のサーバ部門はSun Microsystems社が買収した。今度、もしCray社を買収するとすれば、残りの部分、すなわちSGI社がTera社に売却したベクトルと超並列のビジネスを買い取ることになる。Cray社はSunとIBM社とともに、DARPAのHPCSのPhase IIを受注しておりCrayのCascadeは非常に魅力である。前述のように、Sun Microsystems社はMicrosoft社との和解で約$2Bを受け取っており、$650MぐらいならCray社を買収するために使える。Cray社は第2四半期は落ち込んでいるが、昨年はSun Microsystems社より多くの利益を上げた。そこに買収のメリットがある。

Cray User Groupは、2004年5月17日~21日、ネシー州Knoxvilleにおいて“Peaks, Streams & Cascades”と題したmeetingを開催した。写真はロゴ。

18) Transmeta社(Efficeon TM8800)
Transmeta社は2000年にx86互換の省電力プロセッサCrusoe TM5400/5600を出荷し、2002年にはクロックを向上した第2世代のTM5800を発売した。2003年末にCrusoe TM5700/5900をサンプル出荷し、2004年1月に発売した。21mm角のチップにコンパクトに実装し、クロックは最大1 GHzで、より省電力になっている。Intel社の低電圧のPentium Mとは苦しい競争となった。(HPCwire 2004/1/9)

256-bit幅のVLIWを採用したEfficeonは、130 nmテクノロジーの第1世代が2003年に出荷されたが、2004年9月13日、90 nmテクノロジーのEfficeon TM8800が発表され、これを搭載した製品も発表された。このCPUは富士通あきる野工場で製造され、クロックは1.6 GHzである。予告されていた省電力技術LongRun2は結局登場しなかった。詳しい事情は、大原氏の記事「CPU黒歴史 改めて振り返るCrusoe/Efficeon失敗の理由」を参照。

翌2005年1月には、Transmeta社はチップの製造から撤退し、技術ライセンスを販売するビジネスに転換してしまう。

19) NVIDIA社(TSMC)
NVIDIA社は、2月、業界標準の0.13μmを縮小した、台湾のTSMS社の0.11μmを採用する最初の企業の一つになると発表した。これはHPCにも汎用にも利用可能であり、速度の向上や消費電力の削減に寄与する。(HPCwire 2004/2/27)

また同社は、Athlon 64 FXに対応したnForce 3 Ultra MCP(Media Communications Processor)」を発表した。(HPCwire 2004/4/23)(ITmedia 2004/6/4)

12月7日、ソニー・コンピュータエンタテインメントと共同で、PS3のGPU(RSX)を共同開発することを発表した。

20) Dell社
Dell Inc.の創立者であるMichael Dellは2004年3月、CEOと取締役会長の両方の職を続けることは企業のガバナンス上問題があるとして、CEOを辞任すると発表した。取締役会長の職には止まる。Kevin Rollinsが7月16日からの新しいCEOに指名された。10月7日、同社は日本のHPC市場に低価格路線で参入すると述べた。

21) Appro社
Appro社(Appro International Inc.、1991年創立)は2002年からApproブランドでHPCサーバを製造販売して来た。2月には、3.20 GHzのIntel Xeonを搭載した1Uおよび2UのHyperBlade serversを発表した(HPCwire 2004/2/27)。10月には、Appro HyperBlade Cluster solutionに設置できる新しい2Uおよび3Uの高密度実装のStorage Systemsを発表した (HPCwire 2006/10/15) 。

同社はSC2004においてXtremeBladeを発表した。これはマザーボード上にInfiniBandをオンボード搭載したシステムである。さらにはOpteron CPUの最大の特徴を活かし、となりのマザーボードのHypertransport間をケーブルで接続することにより、2-way、4-way、8-wayを自由に構成することが可能である。また電源、ギガビットイーサネット接続、InfiniBand接続は全てバックプレーンで接続されすっきりしている。InifiniBandスイッチおよびギガビットイーサネットのスイッチも組み込まれている。出荷は2005年1月からの予定。(ベストシステムズ・メールマガジン2004年11月30日号)(HPCwire 2004/11/5)

22) Mellanox社
Mellanox Technologies社(イスラエル)は、2004年2月10日、PCI Express対応の第3世代のInfiniBand Host Channel Adapter (HCA)を発表し、いくつかのOEM企業に出荷したと発表した。バンド幅は20 Gb/sである。

23) Voltaire社
RLX Technologies社とVoltaire社は、10月、ブレードサーバ用の10 Gbps (4X) InfiniBandスイッチを発表した。(HPCwire 2004/10/29)

24) Hitachi Data System (Universal Storage Platform)
Hitachi Data System(創業1989年、現Hitachi Vantara)は、2004年、Hitachi TagmaStore Universal Storage Platformを発表した(HPCwire 2004/9/27)。

25) SiCortex社
2003年に創業したばかりのSiCortex社は、ベンチャーキャピタルから$21Mの資金を集め、新しい省電力のLinuxクラスタの開発を始めた(HPCwire 2004/9/17)。2009年には活動を停止する。

26) Google社
Google社は、巨大なデータセットに対する分散コンピューティングを支援するため、MapReduceと名付けたプログラミングモデルを提唱した。

27) Microsoft社(Windows Vista、Windows Server)
Microsoft社は、2004年8月27日、次期Windowsとして開発してきたLonghornを2006年中に発売すると正式に発表した。2001年に発表したWindows XPに続くものとなる。Microsoft社の幹部はLonghornの発売時期について2005年と発言していたが、計画より遅れた。(日本経済新聞 2004/8/29) (産経新聞 2004/8/28)(HPCwire 2004/9/3) Windows Vistaと命名され、実際には、2006年11月8日にボリュームライセンス企業向けに提供が開始され、一般に販売されたのは2007年1月30日であった。2003年の所に書いたように、失敗作だったとBallmer CEOは語っている。

また同社は2003年にWindows Server 2003を売り出したが、クラスタのOSとしてLinuxを凌駕しようというもくろみは成功していない(HPCwire 2004/5/28)。このためHPCに向けたOSを開発していたが、製品としては、2006年6月になって、Windows Compute Cluster Server 2003 (CCS)を発売する。

なお、2004年2月には、Windows 2000とWindow NTのソースコードの一部がインターネット上にリークしFBIが捜査に入ったと言うニュースがあった。詳細は不明。(HPCwire 2004/2/20)

28) Lindows社
2001年8月にSan Diegoに設立されたLindows社は、Windowsに似たインタフェースの低コストLinuxコンピュータを販売してきた。2001年12月からWindowsと似ているとしてMicrosoft社から訴訟を起こされていたが、2004年3月、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクにおいて、裁判所からの命令により営業を停止した。(HPCwire 2004/3/19)

2004年7月16日和解が成立し、Lindows社は$20Mを受け取る代わりに、社名と製品名をすべてLinpireと改称することになった。2008年7月2日にXandros社に買収される。

ヨーロッパの企業の動き

1) Quadrics社
Quadrics社(Quadrics Supercomputer World社)は、QsNet I (1998)に続いてQsNet IIを2003年に出荷した。2003年のTop500の上位にはいくつかこれを使ったXeonやItaniumのシステムが載せられている。2004年2月27日、同社はQsNett II (Elan4)がOpteronを搭載したプラットフォームにも使えると発表した。OpteronプロセッサでのQsNet II PCI-X 64-bitアダプタは、133 MHzで動作し、MPIではバンド幅850 MB/s 、レイテンシ1.8μsを実現する。2004年のTop500の上位にはまだ出ていない。(HPCwire 2004/2/27) 6月には、8台から128台のクラスタを構成できる、QsNet II E-seriesを発表した。(HPCwire 2004/6/4)

2) NEC User Group Meeting
2004年5月24日~27日に、ドイツKielのMaritim Hotel Bellevueにおいて、NUG-XVI meetingが開催され、13カ国から75人が出席した。ホストはHumburgのドイツ気象計算センター(the Deutsches Klimarechenzentrum GmbH (DKRZ))。コンピュータセンター関係者がどのように実際の計算をサポートするかについて発表したほか、日本電気からはハードとソフトの話があった。HPCの生産性をどう上げるかが議論になった。(HPCwire 2004/6/4)

中国の動き

1) Lenovo社(IBM社のPC事業買収、DeepComp)
聯想集団はLegendというブランド名を使用していたが、2003年4月商標をLenovoに改めた。2004年4月1日には英語社名もLenovoに改めた。2004年12月7日夜(日本時間8日午前)、IBM社は全PC事業を$1250Mで中国のLenovo社(聯想集団)に売却すると発表し、世界を驚かせた。「IBM」および「ThinkPad」のブランド名も5年間維持するという約束であった。

聯想集団の柳伝志会長は12月8日、IBM社との契約式で「聯想の設立者として、世界企業となるための今回の買収に興奮している」と語ったが、9日付けの中国各紙は冷たい反応を示した。経済日報は、IBM社のパソコン事業部門が数億ドルの損失を出しているなどと指摘、米Dell社などが合併に冷ややかな態度を示していることも伝えた。中国青年報も、聯想の経営陣に国際的企業の経営経験が少ないことや、現在の売上高に占める中国以外の比率が東南アジアを中心に3%にすぎない点を指摘。今後IBM社の顧客や従業員を引き留めるのは難しいのではないかと報じた。(讀賣新聞、毎日新聞)

売却は2005年5月1日。「IBM」のロゴは徐々に外され、2006年にはLenovoブランドのPCを全世界に発売開始した。2008年以降はLenovo ThinkPad」となった。2014年1月23日にはIBM社のPCサーバ部門も買収すると発表された。

HPCでもがんばっており、2004年11月のTop500にはLenovoのマシンが2件登場している。

順位

設置場所

システム

コア数

Rmax

Rpeak

38

中国科学院計算机網絡信息中心(北京)

DeepComp 6800 (Itanium2+QsNet)

1024

4.193

5.3248

229

中国科学院数学与系統科学研究院(北京)

DeepComp 1800 (P4+Myrinet)

512

1.297

2.048

 

これがその後どんどん増大し、2018年6月以後、Lenovo社が台数ベースでTop500のトップシェアを占めるようになる。

2) 曙光 (Dawning)
中国の国家智能計算机研究開発中心(National Research Center for Intelligent Computing Systems)がRed Gridと呼ばれるスーパーコンピュータを開発していることは2003年7月に発表されていたが、2004年3月、アメリカのMyricom社はRed GridクラスタにMyrinetが採用されたと発表した。(HPCwire 2004/3/12)

Red Gridの最初の成果はDawning 4000Aモデルである。2192個のOpteronプロセッサをMyrinet PCI-Xで接続したもので、OSはLinuxである。(HPCwire 2004/6/11) 前に述べたように、2004年6月のTop500リストでは、このコンピュータは以下のデータで登場している。プロセッサ数は最初の報道より増えているようである。中国がTop10に入ったのは初めてのことである。

10

Shanghai Supercomputer Center

Dawning 4000A (Opteron+Myrinet)

2560

8.061

16.264

 

実はこのときはまだ工場にあったようで、8月以降に上海スーパーコンピュータセンターに設置された。(HPCwire 2004/7/30)

3) China HPC Top100
3回目となるChina HPC Top100 100が発表された。10位までを記す。Top500は2004年11月のTop500での順位。性能の単位はGFlopsである。

順位

Top500

設置場所

製造

機種

Cores

Rmax

Rpeak

1

17

上海超級計算中心

曙光

曙光 4000A/640×4 Opteron 2.2GHz/Myrinet

2560

8061.0

11264.0

2

38

中国科学院超級計算中心

聯想

深腾6800/256×4 Itanium 2 1.3GHz/QsNet

1024

4148.0

5324.8

3

62

天津南開大学科学計算研究所

IBM

南開之星/xSeries Xeon 3.06 GHz/Myrinet/768

800

3284.0

4700.0

4

131

某石油会社

IBM

BladeCenter Xeon 3.06 GHz, Gig-Ethernet/512/刀片式

512

1922.56

3133.44

5

183

地球科学

IBM

BladeCenter Xeon 3.06 GHz, Gig-Ethernet/刀片式

412

1547.06

2521.44

6

209

上海大学

上海大学/HP

上大自强3000/HP DL360G3 2×176 Xeon 3.06 GHz/ Infiniband

352

1511.0

2154.24

7

229

中科院数学助系統科学院

聯想

深腾1800/ LSSC-II Xeon 2.0GHz(256×2)/Myrinet 2000

512

1297.0

2048.0

233

Digital China Ltd.

HP

SuperDome 1 GHz/HPlex

560

1281.0

2240.0

8

253

某公的機関

IBM

xSeries Cluster Xeon 2.4 GHz – Gig-E

622

1255.99

2985.6

9

320

中国気象局

IBM

IBM SP Power4+, eServer pSeries 655(1.7 GHz Power4+) /256/Federation

1008

1107.0

6854.4

10

347tie

中国石油新疆油田分公司

IBM

BladeCenter Cluster Xeon 2.4 GHz, Gig-Ethernet

448

1040.0

2150.4

 

Top500ではこの下になお6件リストされている。

企業の創業

1) Univa社
Univa Corporationは、Globus Toolkitに関連するオープンソフトウェアを提供するため、2004年、Carl Kesselman、Ian FosterおよびSteve Tueckeによりイリノイ州Lisleで創立された。2007年9月17日、テキサス州AustinのUnited Devicesと合併し、Univa UDに変わったが、ほどなく(2011年までに)元のUniva Corporationに戻る。

2) Tilera社
Tilera Corporationは、2004年10月カリフォルニア州San Joseでメニーコアプロセッサを開発するために創立されたファブレスの半導体会社である。2007年8月には64コアのTILE64 processorを発表した。2009年10月には、40 nmテクノロジにより72コアのTILE-Gxシリーズを発表した。2014年7月EZchip Semiconductor社に買収される。

3) Facebook社
2004年2月4日、Mark ZuckergergらはFacebook社を創立した。現在のMeta社である。

企業の終焉

1) VMware社
コンピュータの仮想化用ソフトウェアを開発製造するために1998年カリフォルニア州のPalo Altoで創立されたVMware社(VMware Inc.)は、2004年1月にEMC社(EMC Corporation)によって買収され子会社となった。

2) Entropia社
PCの遊休計算資源を集めて分散コンピューティングを行うためのソフトを開発販売するために1997年にScott Kurowskiにより創立された。The Scripps Research Instituteと協力して、AIDSの薬を探索するFightAIDS@homeプロジェクトに使われた。2004年に活動を中止。

3) Motorola社
2004年、Motorola社の半導体部門が分離独立して、テキサス州AustinでFreescale Semiconductorが設立された。Motorola社は半導体部門のスピンオフを2003年10月6日に発表して、Freescale社を設立し、2004年6月16日に株式公開を実現した。2004年12月2日、Motorola社の株主は、1株当たり0.110415株のFreescale株を受け取った。Motorola社本体は、2011年1月4日をもって、携帯端末やset top box事業のMotorola Mobility社と、その他の事業のMotorola Solutionsとに分割される。

4) COMDEX
HPCとはあまり関係はないが、1979年から2003年まで毎年11月にLas Vegasでは、情報技術の展示会COMDEX (Computer Dealer’s Exhibition)が開催されていた。時期的にSCと重なることもあり、掛け持ちしていた参加者もあった。COMDEXは当初The Interface Groupが主催し、1995年にソフトバンクに売却された。1990年代後半には参加者が21万人に達したが、ITバブルの崩壊とともに参加者が激減して行った。2001年、ソフトバンクはKey3Mediaに売却したが、2003年2月に連邦破産法11章を申請し経営破綻した。再出発した新会社Media Liveが2003年11月の展示会を開催したが、4万人の参加に留まった。2004年6月23日、COMDEXは2004年の開催を中止することを発表した(朝日新聞 2004/6/24)。2005年2006年の開催もキャンセルした。その後開かれていない。

さて、次回は2005年。スーパーコンピュータ議員連盟が政府に勧告を出す一方、文部科学省計算科学技術推進WGは10 PFlops以上のスーパーコンピュータの実現を勧告。ベクトルとスカラーと専用計算機の3部構成からなる「京速」スーパーコンピュータが提案される。

 

left-arrow   new50history-bottom   right-arrow