世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


2月 17, 2025

新HPCの歩み(第221回)-2004年(l)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

64ビットプロセッサの競争が続いている。x86-64アーキテクチャのOpteronやAthlon64を開発していたAMDは快進撃。かねてから予想はされていたが、Itaniumの開発を進めているIntel社が、x86アーキテクチャの64ビット拡張のチップを発売すると発表した。Itaniumの命運はいかに?

アメリカの企業の動き

1) Hewlett-Packard社 (“Good bye, Itanium”)
HP社は、1994年からIntel社とEPIC (Explicitly Parallel Instruction Computing, IA-64、コード名Merced)を開発してきた経緯があり、64ビットサーバにはDECに由来する歴史的なAlphaを別にすれば、Itaniumプロセッサを使うものと考えられてきた。Itaniumサーバとしては、2003年7月に「HP Integrity NonStopサーバ」を発表している。

ところが2004年1月27日付けのCNET Newsによると、HP社がAMD社のOpteronプロセッサを搭載したサーバを発売する計画を進めているとのことである。IBM社とSun Microsystems社に次いで大手では3社目である。「HPよ、おまえもか!」HPもAMDも口が重かったが、HP社の関係者は「いくつかの市場分野でx86拡張技術を求める需要があり、どのような選択肢があるか評価している。」と述べた(HPCwire 2004/2/6)。残るDellはこれまでAMDチップを採用して来なかったが、Intelが発表すると予想されているx86-64を採用する予定。

HP社は2004年2月24日、HP ProLiantサーバ系列に、AMD Opteron x86プロセッサの64ビット拡張を加える」と正式に発表した。32ビットのXeonサーバや、Itaniumを用いたIntegrityも継続するとのことである。(CNET Japan 2004/1/27)(HPCwire 2004/2/6) (HPCwire 2004/3/2)

ところがWall Street Journalは9月26日、HP社はItaniumを搭載したデスクトップ型のワークステーションの販売を停止すると報じた(CNET Japan 2004/9/27)(HPCwire 2004/10/1)。Integrityサーバは継続する模様。そして、12月15日、HP社とIntel社は、10年にわたるItaniumの共同開発契約を終了し、HPのItanium開発チームはIntelに吸収されると発表した。共同開発を終了して今後はIntelが単独で開発を進める。(Enterprise Watch 2004/12/17) 同時にItanium 2プロセッサ搭載サーバ「HP Integrity」の強化を目指し、向こう3年間で30億ドルを投資する計画を発表した。(ITmedia 2004/12/17)

PA-RISCプロセッサの最後のアップグレードを2004年の夏にリリースして、これを搭載したシステムを2008年まで販売することと、2006年にはAlphaプロセッサ搭載サーバの販売も停止することが発表された。

2) AMD社 (Opteron, Athlon)
勢いづいたAMD社は5月、Opteronの新製品Models 850, 250, 150を発表した。製造プロセスはこれまで130 nmであったが、微細化が進み90 nmテクノロジを用いる。(HPCwire 2004/5/21) また6月には、dual coreプロセッサの設計を完了したと発表した。これは2005年5月に登場する。x86-64プロセッサでは初めての複数コアのプロセッサであった。(HPCwire 2004/6/18)(HPCwire 2004/9/3)

またAthlonについては、6月にAthlon 64ファミリに4個のモデルAthlon 64 FX-53およびAthlon 64 3800+, 3700+,3500を加えた。Athlon 64はHyperTransportが1本しかなく、シングルプロセッサのみをサポートする。(HPCwire 2004/6/4) 8月には、90 nmでモバイル用の低電力AMD Athlon 64プロセッサを発表し、10月出荷した。(HPCwire 2004/8/20)

2004年5月、IBM社とOracle社はAMD64向けにデータベースソフトの最適化を行っているとAMD社が発表した。

3) Intel社 (x86-64)
膨大な時間,エネルギー,資金、人材をItanium開発に費やしたIntel社も、64ビットの“第2案”(Plan B)を用意しているのではないかという噂は前から流れていた。2002年のZDnetの記事によると、Intel社はPentium familyの次世代のPrescottに、AMD64と同様な64ビット機能を載せるのではないかという憶測を載せている。当初このプロジェクトはYamhillというコード名で始まった。この名前はオレゴン州のWillamette渓谷を流れるYamhill川に由来する。この計画は秘密とされてきたがかなり漏れていた。Intel関係者は、このようなバックアッププランの存在を認めながらも、「Itaniumは今後20年以上続くアーキテクチャの基礎となるものだ」と強気であった。そうでないと、これまでの投資は無駄になってしまう。(ZDnet 2002/1/28)(Wikipedia: X86-64 のIntel 64の章)(大原雄介 2022/6/22

2004年に入り、Intel社の会長兼COOであるPaul Otelliniは、1月28日に、Wall Street Journalに対し、「アプリやOSなどのソフトウェアが開発されれば32ビットプロセッサを64ビットプロセッサに更新することになるであろ」と述べた。Intel社もついに舵を切ったと報道された。(HPCwire 2004/1/30)

Intel社のCraig Barrett CEOは、2月17日、San Franciscoで開催されているIDF (Intel Developer Forum)の基調講演のなかで、Naconaというコード名で呼ばれる64ビットプロセッサの発表を行った。曰く、「Intelがこれを開発しているということは、San Fransiscoで最もよく知られた秘密であった。」2プロセッサ搭載サーバ向けのNaconaは本年第2四半期に登場し、そのあと32/64ビット機能を搭載したPrescottも登場する。2005年には、4基以上のプロセッサを搭載するサーバ用のPotomacが登場する。ただ、64ビット機能を入れたPC用のプロセッサを出す計画は当面ない、と述べた。しかし、9月7日のIntel Developpers Forumにおいて、Otellini会長兼COOは、2005年上半期に、64ビットWindowsの発表に合わせてPC用の64ビットプロセッサを出荷すると発表した。(The Register 2004/2/17)(CNET Japan 2004/2/8)(HPCwire 2004/2/20)(朝日新聞 2004/2/18)(日本経済新聞 2004/2/18)

ではItaniumはどうなるのか。Dell社のNeil Handは両者が直接競合しないだろうと述べている。Itaniumはほとんどハイエンドのコンピュータで使われているからである。

AMD64と互換性はあるのか、互換ならISA (Instruction Set Architecture)の著作権はどうなるのか心配する向きがあった。互換性については、完全ではないがほぼ互換との報告があった。(HPCwire 2004/4/9) また著作権については、昔、日本電気のVシリーズは80×86の侵害だとIntel社からクレームが出たこともあった。ところが、1994年12月のIntel社とAMD社の互換CPU訴訟の和解内容では、Intel社はAMD社のx86-64などの拡張機能に対し、ライセンス料を払わず利用できるとのことであった。逆にAMD社はIntel社にライセンス料を払わなければIntel社の技術を使えない。2001年に両社はクロスライセンス契約を10年間更新していた。2003年のところで述べたように、Microsoft社は、「もしIntel社が(命令セットを変えずに)64ビットのデスクトップチップを出すならば」AMD64用のWindows XPはその上でも動くと述べた。そして、「複数の版を管理したくないので、(Intelのために)リコンパイルする予定はない」と付け加えた。この時点で、Intelがx86-64のプロセッサを出すという発表はされてなかったが、このニュースを聞いて「ハハーン」と直感した人は少なくなかった。

ただ、IntelのSSE3とAMDの3D-Now!は互換でない。また、かつて問題になったProcessor IDはIntelにしかない。Intel compilerが、それを見てAMDプロセッサでは走らなくするか、などとの議論もあった。HPCwireには、OctigaBay Systems社(すでにCray社への合併が公表されている)のPaul Terry CTOが両社の比較を行っているという記事が出ている。(HPCwire 2004/3/12)

早速、高橋大介(筑波大学)が実験し、Intel Compiler の Version 8.0 から、Pentium4向けのコンパイラオプションとして、今までの -xW オプションに加えて、-xN(Northwood)、-xP(Prescott)、-xB(Banias)オプションが加わり、これらの新しいオプションを用いてコンパイルした実行ファイルは、Intel以外のCPUで実行できないことを確認したとのことである。

Intel社のPaul Otellini会長兼CEOは、9月7日のIDFにおいて、2005年上期にPC用の64ビットプロセッサを発売すると発表した。(日本経済新聞 2004/9/6)(毎日新聞 2004/9/8) また、6月には、DDR2メモリ、PCI Express、800 MHzのシステムバス、Extended Memory 64(x86-64のIntelの呼称)などの新しい技術を搭載した新しいプラットフォームを発売すると発表した。(Intel Press Release 2004/6/28)(HPCwire 2004/7/2)

Intel社は64ビット拡張のx86命令セットの名称を何度も変更した。2004年2月のIntel Developers ForumではCT (Clackamas Technology)と名付けたが、その数週間後にIA-32e (IA-32 extensions)と変え、2004年4月にはこれをEMT64T (Extended Memory 64 Technology)という名前で公式に発表した。ところが、2006年7月27日なって、Intel 64と改称した。(Wikipediaによる)

4) Intel (x86-32)
32ビットでは高クロック路線を進めている。3 GHzで動作するマルチコアで、統合L3キャッシュは4 MBのXeon MPが登場している(HPCwire 2004/3/5)。しかしこの路線には暗雲がかかり始めていた。2000年のPentium 4で初めて採用されたNetBurstマイクロアーキテクチャ(x86では8代目)は、クロックを高め、クロック当たりの処理を減らす代わりにパイプライン段数を増やして、性能を向上させるという方針に基づいていた。消費電力は動作クロックに比例し大きくなるので、微細化により動作電圧を下げてバランスを取っていた。ところが90nmでは微細化によりリーク電流が問題になり、消費電力が下がらなくなった。3月、Intel社は今後Pentium 4 2.8のようにクロックをプロセッサ名に入れることを止めると発表した(HPCwire 2004/3/26)。

かねがね噂されていたが、CNET Japanの報道によれば、Intel社は2004年10月14日、4 GHzで動作するPentium 4の開発を遂に断念したことを発表した。Intel社は今後キャッシュサイズの増強によって性能を向上させる計画とのことである。Pentium 4の動作クロックは、2004年11月に発表された3.8 GHzが最高となった。今後NetBurstから次のマイクロアーキテクチャに移ることになるであろう。2005年にはdual core版を出荷する予定。(CNET Japan 2004/10/15)

これまでx86では命令レベル並列度が上がらないことから、Itaniumの優位性が主張されてきたが、今後マルチコア化が進み、設計の重点が、単一スレッドの高速化よりも、マルチコアによる高速化、それを支えるプロセッサ間、メモリ、I/Oバンド幅の確保に移動して行くことが予想される。こんなにXeonを進化させてしまうと、ItaniumのIA64アーキテクチャとしての優位性はなくなるのではないか、という心配が出て来る。プロセスの微細化が進むと、単純で効率の良いマイクロアーキテクチャをマルチコア化した方が有利となる。Itaniumもマルチコア路線に進んでいるが、どうなるのか。

5) Intel (Itanium、Fab 24、Babayan、対AMD訴訟)
Intel社は新しいItanium 2ファミリ(コード名Montecito)を2003年に発表したが、開発は難航していた。そのため、PentiumやXeonの開発計画の変更を余儀なくされた。(HPCwire 2004/5/14) Montecitoは2006年7月18日に発売される。

さる日本国内での報告によると、4 PEのItanium 2マシンで、SX-5用のベクトルコードを移植したところ、自動並列化によりSX-5を上回る性能を出したという。等間隔のベクトル演算なら、rotate命令によりベクトル的に実行することができる。

Intel社は6月、アイルランドに建設した、同社で4つ目の300 mm工場Fab 24が稼働を開始したと発表した。テクノロジは90 nmである。他の300 mm工場は、オレゴン州HillsboroのD1CとD1D、およびニューメキシコ州Rio RanchoのFab 11Xである。(HPCwire 2004/6/18)

旧ソ連において、1973年Elbrus 1を開発し、1984年にElbrus 2を、1990年にElbrus 3を開発し、1987年にはLenin勲章を授与されたアルメニア系コンピュータ科学者Boris Artashesovich Babayan(Babaianともつづる)は、2004年、Intel社の「ソフトウェアおよびソリューションのためのアーキテクチャグループ(Architecture for the Software and Solutions Group)」の部長となった(Wikipedia “Boris Babayan”)Elbrus-3コンピュータは、EPICのコンセプトにより設計された。HPCwire 1998/4/10によると、1984年頃Babayanは自分のアイデアを実現するための開発資金を探していたようである。

Intel社とAMD社との特許紛争は、1990年、AMD社が80386互換のAm386を出荷した翌年から続いている。ヨーロッパでは、Intel社が反競争的な行為をおこなったとのAMDの訴えをEC(欧州委員会)は2002年に退けた。これを覆すため、Intel社がIntergraph社との訴訟に関する文書をECに提出せよと、Santa Claraの連邦地裁に請求した。これが退けられたので、第9巡回区連邦控訴裁判所に上訴し、今度はAMD社の主張が受け入れられ、Intel社は連邦最高裁に上訴していた。2004年4月20日に審議が開かれた。(HPCwire 2004/4/23)(ITmedia 2004/4/21)この裁判の結果は不明だが、その後2005年7月12日、ECは独占禁止法違反の疑いでIntel社に立ち入り調査を行う。(PC Watch 2005/7/13)

6) IBM社(POWER5、POWER4+)
2003年のHot Chips会議でIBM社はPOWER5の技術情報を初めて公開した。更に詳しい情報は2003年10月14日のMicroprocessor Forum 2003で発表された。基本的にPOWER4を改良したもので、dual core。2-way SMT (Simultaneous Multithreading)をサポートする。L2キャッシュは共用で1.875 MB、10-way set-associativeである。L3キャッシュはPOWER4と異なりon-packageで、容量は36 MB。メモリコントローラもチップ上にあり、64 GBのDDRかDDR2をサポートする。競争相手は、IntelのItanium 2と、Sun Microsystems社のUltraSPARC IVと、富士通のSPARC64 Vであった。2005年にはPOWER5+が登場する。

POWER5を搭載したp5-575システムは2004年7月に発表された。これはIBM版のUnixであるAIXだけでなく、Red HatやNovellのLinux OSでも動く。2005年第1四半期に出荷予定。さらに、クラスタに構成できる版は第2四半期に出荷予定。(HPCwire 2004/7/16)(Cnet 2004/11/9)

DODは2004年8月、NAVOCEANO (Naval Oceanographic Office) Major Shared Resource CenterにPOWER4+を搭載したスーパーコンピュータを選定したと発表した。これはPOWER4+ 2C 1.7 GHzを搭載したp655を結合したもので、コア数は2944である。2004年11月のTop500では、Rmax=10.310、Rpeak=20.0192で9位にランクしている。

7) IBM社(BlueGene/L)
IBM社が、1999年12月6日にBlue Geneという名前の超並列コンピュータを$100Mかけて開発すると発表してから5年が経過しようとしていた。紆余曲折のすえ、2004年後半にどうやらBleuGene/Lが動き出した。Lの意味は“light”とも“Livermore”とも言われている。写真はSC23で展示されたBlueGene/Lの一部。

9月、Lyonにいた松岡聡がDongarraから、Rochester(Minnesota州)のIBM施設のBleuGene/L(LLNLに納入予定)12ラックで50 TFlopsを出したとの話を聞いた。地球シミュレータもこれでトップを譲ることになりそうである。ダークホースはNASAのColumbia (SGI)である。

 
   

2004年9月29日、IBM社は「Blue Geneのプロトタイプ(1/4サイズ)が9月16日Linpack性能36.01 TFlopsを出し、35.96 TFlopsの地球シミュレータの性能を抜いた」と記者団にプレ発表を行った。ちょっとせこい数字である。ピーク性能は90 TFlopsなので効率も悪い。正式発表は明日とのこと。2005年にはLLNLにフルサイズで納入される予定。(HPCwire 2004/10/1)

DOEのSpencer Abraham長官は11月4日、BlueGene/LがLinpackで70.72 TFlopsの性能を記録したと直々に発表した(HPCwire 2004/11/9)。チューニングが進んだのであろう。これが2004年11月のTop500のRmaxとなった。(ITmedia 2004/11/5)(CNET Japan 2004/11/8) BlueGene/Lの 技術的な詳細は大原氏の記事に詳しい(ascii.jp 2015/4/13)。

SC2004のTop500の項で述べたように、NASAのColumbia(SGI製)は10月27日Linpackで42.71 TFlopsを記録したので、その時点ではBlueGene/Lを上回っていたが、BlueGene/Lはそれを追い抜いたことになる。最終的なTop500の結果は前述のSC2004のところにある。

日本IBMの項にも書いたが、その少し前の2004年9月7日、産総研(産業技術総合研究所、AIST)生命情報科学研究センター(センター長・秋山泰)が、たんぱく質の構造解析による新薬の開発などのために、BlueGene/Lを2005年2月に導入すると発表した。産総研は東京・お台場に建設中の「バイオ・IT融合研究棟(仮称)」内にBlueGene/Lを設置する。 (CNET Japan 2004/9/7)(HPCwire 2004/9/10) IBM社としては、LLNLに64ラックを、Astron(電波望遠鏡プロジェクト)に6ラックを、ANLに1ラックを販売しているので産総研は4件目となる。

主要な設置先は以下のとおり。

設置場所

愛称

コア数

Rmax

Rpeak

Top500 初出

LANL

BlueGene/L

32768

65536

131072

212992

70.72

136.80

280.60

478.20

91.75

183.50

367.00

596.38

2004/11 1位

2005/6  1位

2006/11 1位

2007/11 1位

IBM Watson Lab.

BGW

40960

91.29

114.69

2005/6 2位

Rensselaer Polytechnic Institute

 

32768

73.03

91.75

2007/6 7位

FZJ(ドイツ)

JUBL

16384

37.33

45.88

2006/6  8位

Groningen大(オランダ)

Stella

12288

27.45

34.41

2005/6  6位

産総研生命情報科学研

Blue Protein

8192

18.20

22.94

2005/6  8位tie

EPFL(スイス)

 

8192

18.20

22.94

2005/6  8位tie

高エネルギー加速器研究機構

Sakura

Momo

8192

18.20

22.94

2006/6  15位tie

IBM Rochester

 

8192

18.20

22.94

2006/6  15位tie

UCSD

Intimidata

6144

13.78

17.20

2006/11 42位

6件

 

4096

9.43

11.47

 

11件

 

2048

4.71

5.73

 

 

なお、東北大学金属材料研究所は、2006年12月、ニイウス株式会社から小型スーパーコンピュータ「NIWS Gene/S Turbo」を購入すると発表するが、これはニイウス社がIBM社よりOEM供給を受けている製品で、BlueGene/Lの1/8 rack(128ノード、256コア)に相当し、ピーク0.72 TFlopsである。(ZDNET Japan 2006/12/7)前述のように、ニイウス社はBlueGene/Lの日本での一号機の購入者であった。

さてここで例の匿名の辛口の論客HEC (High-End Crusader)が食ってかかった(HPCwire 2004/10/1)。IBM社はBlueGene/Lが地球シミュレータを打ち負かして世界最高速のコンピュータとなったと主張するが、Linpack性能は大きなLinuxクラスタを作れば原理的にいくらでも大きくなるので、コンピュータの真の性能を表現するものではない、と述べている。世の中にはhigh-bandwidth application/algorithm (Type C)とlow-bandwidth application/algorithm (Type T) が存在し、前者は頻繁な小粒度の長距離通信を必要とし、high-bandwidthな並列システムでなければ性能が出ないのに対し、後者は多くの場合、小規模な大粒度の近距離通信が中心で、どんな並列システムでもそこそこの性能が出る。BlueGene/Lは後者の一例に過ぎない。(Type Cはcommunication-type、Type Tはtransistor-type。Burton Smithの用語)

この論述に対し匿名の論客AR氏(IBM関係者?)から異論が出てきた(HPCwire 2004/10/8)。また、LLNLの研究者3名(Best Regards, Andy Cleary, Andrew J. Cleary)も同様な反論を出している(HPCwire 2004/10/8)。HECは10月8日付けで「BlueGene/Lの弁護者」への反論を書いている(HPCwire 2004/10/8)。「AR氏は、HECは、低コスト、低消費電力、省スペースを可能にしたBlueGene/Lの高度な実装技術を無視していると批判している。高度な実装技術はその通りである。スペースの関係で触れられなかった。ただ、低コストを言うのは不誠実だ。Linpack性能は、浮動小数演算器を増やしさえすれば、メモリバンド幅、結合網、同期機構などに金を掛けなくても上げることができる。ARは、アルゴリズムやプログラミングの工夫により、そういう安いマシンでも性能を上げるように書き換えることができるというが、それは誤りである。実用問題の中には、capability computingをどうしても必要とするものがあるのだ。」

8) IBM社(メインフレーム、サーバ)
IBM社がSystem/360を発表したのは1964年4月7日(日本では8日)であり、本年はその40周年であった。IBM社はこれを記念して、4月にMountain ViewのMuseum of Computer Historyにおいて記念式典を行い、System/360の開発に貢献したErich Bloch、Fred Brooks、Bob Evansなどのキーパーソンを招待した。これはこの博物館のレクチャー・シリーズの一環であり、“The 40th Anniversary of the Computer that Changed Everything: The IBM System/360”と名付けられた。(HPCwire 2004/4/9) なお、Erich Blochは2016年11月25日、91歳で死去する。

サーバでは、2004年3月19日、IntelliStation A Proワークステーションを発表した。世界の主要なベンダとしては最初のAMD Opteron搭載のワークステーションであった。2個のOpteron Model 248 (2.2 GHz)を搭載している。当然のことながら、64ビットとともに従来の32ビットのアプリケーションも高速に動くことを宣伝していた。グラフィックのためNVIDIA Quadro FXを搭載し、2次元/3次元の可視化を提供する。(HPCwire 2004/3/19)

9月にはdual core Opteronを搭載したサーバIBM eServer326を発表した。これはXtended Design Architectureを採用し、メインフレーム以来の技術により信頼性を向上させる。これは、高速I/O、システム管理、統合RAID、発熱に対応するCalibrated Vectored Coolingなどを提供する。最初の出荷は9月であり、10月15日には一般に発売する。OSとしては、Red Hat RHEL 3.0、Novell SuSE SLES 9.0、Windows 2003から選べる。(HPCwire 2004/9/10) IBM社は2004年8月5日、米国陸軍研究所のARL MSRC (Army Research Laboratory Major Shared Resource Center)に、dual Opteron (2.2 GHz)を搭載するIBM eServer 325を1186台をMyrinetで結合し、SUSE Linuxが動作するスーパーコンピュータを導入すると発表した。これはアメリカ国防省HPC現代化プログラム(HPC Modernization Program)の一環である。2004年11月のTop500では、Rmax=7.185 TFlops、Rpeak=10.208 TFlopsで23位にランクしている。

さらにOpteronのクラスタシステムIBM eServer 1350を、2004年第4四半期に発売すると発表した。TeraGridではItaniumの大規模システムを構築しているが、一般のサーバではOpteron路線まっしぐらである。

10月には、2.8 GHzから3.6 GHzまでのIntel Xeon(EM64T)を搭載したブレードサーバHS20/21を5機種発表した。一般の提供は11月12日である。(HPCwire 2004/10/15)

日付は不明であるが、IBM社はこの年PowerPCを搭載したBladeServerを発売した。これまで、BladeServerのCPUはIntel Xeonであった。最初にリリースされたのはPowerPC 970を搭載したJS20であり、LinuxとAIXを搭載できる。その後、2007年にはPOWER6を搭載したJS22などが登場する。(Wikipedia:BladeCenter)

Lenovoのところで述べるように、2004年12月7日(米国時間)、IBM社は全PC事業を$1250Mで中国のLenovo社(聯想集団)に売却すると発表して驚かせた。

9) Sun Microsystems 社(Sun Fire 25K、UltraSPARC IV、Opteron搭載サーバ、HP Away Program)
Sun Microsystems社は、2004年2月、Sun Fire 25Kを発表した。これはdual core UltraSparc IV+ プロセッサ(1.95 GHzまで)を最大72個搭載できる。ボード当たり64 GBのRAMを搭載でき、ドメイン当たり最大1.15 TB搭載できる。コード名は UltraSPARC IVがJaguar、IV+がPantherである。

UltraSPARC IVは3月に発表された初めてのmulti-core SPARCプロセッサであり、Texas Instruments社の130 nmテクノロジーで製造される。ISAはSPARC V9である。これはUltraSPARC IIIのコアを改良して2個搭載したものである。(Wikipedia:UltraSPARC IV) 10月には改良版のUltraSPARC IV+を発表した(HPCwire 2004/10/8)。この後、UltraSPARC V(コード名Millennium)が続くはずであったが、後に述べる経営危機により2004年前半にこの計画はキャンセルされた。後を継いだの富士通のSPARC64 VI+である。Sun Fire 25Kは2005年6月のTop500に1件だけ載っている。その後はOpteron搭載のFireが登場したので、25Kはあまり売れなかったようである。

順位

設置場所

システム

コア数

Rmax

Rpeak

180

Archen大学(ドイツ)

Sun Fire 25K/6900 Cluster

672

2.0544

3.0528

 

2月10日にはOpteronを搭載したSun Fire V20z、Fun Fire V40zサーバや、Java Workstation W1100z and W2100zを登場させた。(HPCwire 2004/2/13)

2002年のところに書いたように、同社はIBMの顧客をSun社に乗り換えさせる“Project Blue-Away”プログラムを始めたが、今度はHewlett-Packard社のユーザを自社の乗り換えさせるプログラムHP Away Programを展開した。元々は、2003年にHP社がAlphaの製造を停止し、Itaniumに乗り換えさせられる顧客を対象としたものであったが、今度はHP社の製品系列に不連続点があることから、HP-UXのユーザを、低価格のx86システムから100プロセッサ以上のSunシステムまでスケーラブルなSolaris OSに乗り換えさせようという戦略である。同社によると、すでに80件の顧客が乗り換えたとのことである。(HPCwire 2004/2/7) 果たしてこれでSun社の業績が上向くか?

同社によると、オーストラリア、中国、インド、韓国、シンガポールにおける14社の応用ソフトウェアのパートナーが、x86上のSolaris用のアプリを開発しているとのことである(HPCwire 2004/5/28)。

10) Sun Microsystems社(Sun ERC)
Sun Microsystems社は2004年3月1日~3日に、スペインのMadridのWestin Palace HotelにおいてSun ERC (Worldwide Education and Research Conference)を開催した。誘われたので筆者もHokkeをさぼり自分の研究費で参加した。新しいSun Fireとともに、同社のN1 Grid computing solutionが世界中の大学で採用されていることが強調された。(日経ITpro 2004/3/4)

サン・マイクロシステムズ社のご尽力により、会期中、米国Sun Microsystems社の実力者と少人数の会合を持つこともできた。

3 月 2 日(火) 12:00 – 13:00

Roundtable

Greg Papadopolus

3 月 2 日(火) 17:00 – 18:00

Roundtable

David Yen

3 月 2 日(火) 19:00 –   

Dinner

Kim Jones

 

会期中、フラメンコ付きで昼食を食べる店に行った。リゾットのコメに芯があるなあと思ったが、よく考えたらコメのアルデンテであった。店では、フラメンコを静止写真でなら撮ってもいいが、ビデオはだめ、とか言っていたが、今ならそんな区別はできないであろう。

Madridからは無事帰ったのであるが、次の週にバチカンで教皇庁文化評議会総会があり、今度はローマに滞在していた。3月11日(木)の朝9時から会議が始まってまもなく、Pouppard会長が基調演説をしている最中に、マドリード大司教が突然立ち上がり、「今、マドリードで大変なことが起こっている。100人以上の死者が出ている。私は今すぐ帰る。皆様のお祈りをお願いします。」と叫んで出て行ってしまった。これがイスラーム過激派によるマドリードのアトーチャ駅付近の列車同時爆弾テロ事件で、アメリカの9.11からちょうど911日目であった。これも3.11である。前週には、アトーチャ駅周辺はよく歩いていたので、1週間ずれていたら、自分も巻き込まれた可能性があり、背筋が寒くなった。この時はローマの場末の安宿に泊まっていたのでテレビはイタリア語チャンネルしか見られなかったが、スペイン全域で総計1100万人のテロ反対デモがわき起こっている様子はわかった。

11) Sun Microsystems社(S&P格下げ、製品計画変更、人事、Solaris 10無料化など)
さて、ERCの直後3月5日に、アメリカの格付け機関S&P (Standard and Poor’s)は、Sun Microsystems社をBBBから投資不適格級のBB+へ2段階引き下げた。S&Pは引き下げ理由について、「収益低迷が長引いているうえ、サンが主力事業とする企業向けコンピュータ市場の競争は激しく、将来の大幅増益は見込みにくい」と説明している。一方、Sun側は「保有する現金類は$5.2Bと負債額の3倍もある」と財務の健全性を強調している。(日本経済新聞 2004/3/6)

4月12日、Sun Microsystems社はdot-comバブル崩壊後の業務縮小の一環として、2005年後半に登場するはずだったUltraSPARC Vと、web server向けのdual coreのGeminiの開発を中止したと発表した。UltraSPARC Vはテープアウトが終わっていたという。その代わり、2006年から2007年にかけてmulticore-multi threadのNiagaraを出す予定とのことであった。アナリストによると、Sun Microsystems社のプロセッサは、ここ数年IBM社やIntelなどのプロセッサに性能面で遅れを取っているとともに、製品の出荷延期も続いていた。たとえば2000年に出荷が予定されていたUltraSPARC IIIが実際に製造ラインに載ったのは2002年になってしまった。Sun Microsystems社は3300人の社員を解雇する予定だが、UltraSparc VやGeminiのプロジェクト要員の多くは社内に残るとのことである。(CNET Japan 2004/4/12)

時も時、XML 1.0の起草者の一人であるTim Brayが、3月、Sun Microsystems社に入社しウェブ技術部門のディレクタに就任した。XMLの父Jon Bosak(Sun Microsystems社所属)が誘ったのではないかと言われている。2010年にGoogle社に移籍する。

他方、2003年4月にHPC担当副社長に指名されたばかりのShahin Khanが、7月初めSun Microsystems社を去ることが公表された。これは同社のHPCグループ再編成の一環である。(HPCwire 2004/7/9) かれは1983年にIBM社に入社し、その後FPS (Floating Point Systems)社に移籍しヨーロッパ営業主任を務めた。筆者が彼と最初に会ったのは1986年で、Cornell大学Theory CenterにFPS社のT-seriesを見に行ったが、そのとき案内してくださった。FPS社はCray社に吸収されたが、Cray社がSGI社に吸収されたとき、元FPSの部分はSun Microsystems社に買収された。かれはそれに伴ってSun Microsystems社に移った。かれはそこでE10000 (Starfire)の世界中の販売を手がけていた。その後eXludusやOracleなどを経て、Scale Arc社の販売担当副社長を務めていた。現在はOrionXの創業者とのことである。

Sun Microsystems社は、4月、同社のOSであるSolaris 10が、UltraSPARCだけでなくOpteronでも高性能で利用できると発表した(HPCwire 2004/4/9)。11月、このOSの性能を高めるとともに、これを無料にすると発表した。種々のオープンソースのlinuxに対抗するためと思われる。正式なリリースは2005年1月31日。(HPCwire 2004/11/19)(HPCwire 2005/1/28)

同社は、ISC2004(Heidelberg)に先立つ6月20日~22日に、Crowne Plaza Heidelbergにおいて、Sun HPC Consortiumを開催した。またSC2004に先立つ11月6日~7日(8日はチュートリアル等)にMarriott City Centerで、Sun High Performance Computing Consortium — USA 2004を開催した。SC2004の章で書いたように、こちらには参加した。

アメリカの企業の後半は次回。Cray社はOptigaBay社を買収し、その技術でCray XD1を売り出した。

 

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