新HPCの歩み(第247回)-2006年(m)-
Intel社CTOのJustin Rattnerは、IDFにおいてテラスケール/プロセッサ開発を含む長期戦略について語った。そんなことが可能か。7月、dual-coreのItanium 9000(Montecito)がやっと発売されたが、Itaniumの運命や如何に?他方AMDのOpteronはシェアを拡大している。NVIDIA社はCUDAの構想を発表した。 |
アメリカの企業の動き(続き)
7) Intel社(45nm、Coreマイクロアーキテクチャなど)
2006年1月、Intel社は世界で初めて45 nmの論理テクノロジでSRAMを実現したと発表した。2007年には300 mmウェーファ上でこの技術を使い、Moore則の限界をうち破る。現在は65 nmの工場がArizonaとOregonで動いており、今年中にあと2カ所増える。(HPCwire 2006/1/27)
2006年3月、IDF (Intel Developer Forum)において、Intel社CTOのJustin Rattnerは、今後、サーバ、デスクトップ、モバイルのすべて基礎となる新しいCoreマイクロアーキテクチャを発表した。これまでのNetburstマイクロアーキテクチャは、クロックを上げることにより処理の高速化を実現してきたが、消費電力の壁にぶつかっていた。Coreマイクロアーキテクチャは、処理能力と消費電力のバランスを追求した設計である。(HPCwire 2006/3/10)
2006年4月27日に開催されたIntel社の株主総会で、Intel社の最高経営責任者(CEO)であるPaul Otellini氏はこれまで4~6年ごとに投入していた新チップと新しいマイクロアーキテクチャを、今後は短縮して2年ごとに出していく」と語った。そのために、同社は複数の設計チームが平行して開発を進め、交互に新しいマイクロアーキテクチャを投入する体制を敷く。その結果、2006年のCoreマイクロアーキテクチャを手始めに、2008年末にはNehalem、そして2010年にはGesherの各マイクロアーキテクチャがそれぞれ登場する予定だと、Otellini氏は説明した。(CNET Japan 2006/4/28)
2006年6月26日(アメリカ時間)、Intel社はサーバ向けのdual-coreのXeon 5100シリーズ(コード名Wooddrest)を発売した。これは、初めてIntel Coreマイクロアーキテクチャに基づくIntel Core 2ファミリ・プロセッサである。
2006年7月27日、Intel社はPC向けのdual-core processorであるCore 2 DuoとCore 2 Extremeを発表した。PC向けプロセッサの名称であったPentiumシリーズは終了する。Core 2 DuoはデスクトップPC向けの製品4種類と、ノートパソコン向けの製品5種類からなる。デスクトップ向けで最速のE6700は2.66 GHzで動作する。Core 2 Extremeはハイエンド向けでX6800の1種類で、クロックは2.93 GHzである。開発コード名としては、ノートパソコン向けのCore 2 DuoはMerom、デスクトップ向けのCore 2 DuoはConroeと、サーバやWS向けのCore 2 Extremeはコード名Woodcrestと呼ばれていた。(HPCwire 2006/6/30) (ITpro 2006/7/27) これでライバルのAMDを振り切ることができるのか。
2006年8月29日には、Dual-core Xeon 7100シリーズが発表された。これまでTulsaというコード名で呼ばれていたチップである。(PC Watch 2006/8/29)(HPCwire 2006/9/1)
2006年10月27日、日本の報道関係者向けに最新技術動向を紹介するIntel Client Regular Update(第5回)を開催し、quad-core CPUや次世代のCentrino Duoの詳細を説明した。まず、11月にはハイエンド向けquad-coreのCore 2 Extreme QX6700が発表された。[Quad-coreなのにCore 2とは紛らわしい]Dual-coreのCore 2 Extreme X6800と比べて最大70%の性能向上が得られる。またノートパソコン向けの次世代Santa Rosa(コード名)についても発表があった。(ITpro 2006/10/27)
Intel社は、3月のIDFで予告した(HPCwire 2006/3/10)ように、2006年7月27日にx86_64互換のマイクロプロセッサInel Core2を発表した(Wikipedia: Intel Core 2)。45 nmプロセス世代のプロセッサPenrynマイクロアーキテクチャ(2007年)から新しい命令セット拡張SSE4 (Streaming SIMD Extensions 4)を実装すると発表した。製品名としてはCore 2 Duo、Dore 2 Quad、Core 2 Extremeなどである。
8) Intel (Terascale)
Intel社がItaniumに足を取られているうちにAMDが先に行ってしまった。転んでもタダでは起きないところがIntelである。Intelがなんとアクセラレータのようなものを考えているという話が飛び込んで来た。
2006年9月下旬、サンフランシスコで開かれた IDF (Intel Developer Forum)において、Intel社のCEOであるPaul Otelliniは数年のロードマップを語った。これまで4~6年ごとに投入していた新チップと新しいマイクロアーキテクチャを、今後は2年ごとに出していく」と語った。そのために、同社は複数の設計チームが平行して開発を進め、交互に新しいマイクロアーキテクチャを投入する体制を敷く。その結果、2006年のCoreマイクロアーキテクチャを手始めに、2008年にはNehalem、そして2010年にはGesherの各アーキテクチャがそれぞれ登場する予定だ。これは春から聞いている話。
CTOのJustin Rattnerは、テラスケール/プロセッサ開発を含む長期戦略について語った。Intel社はTera-scale Computing Research Programを進めている。これは、商品そのものではないが、80個のRISCコア(x86から大幅に拡張、512 bitのSIMDをもつ)をタイル上に並べ、垂直にメモリチップと直接結合するとのことである。他のプロセッサやI/Oとはシリコンレーザで結合する可能性もある。これはまさにチップ上のスーパーコンピュータである。Intelとしては、核兵器のシミュレーションや気候モデリングは成長産業ではないと考えており、このようなTera-scaleチップは大規模なデータセンタやウェブサービスに使われるであろう。これはRMS (Recognition, Mining and Synthesis)と呼ばれる。(ITmedia 2006/9/27)(HPCwire 2006/9/29)(Intel News Release 2006/9/26)
Cell B.E.に刺激されたのであろうか。このTera-scaleチップは3.1 GHzで動くそうであるが、各コアが倍精度演算を4演算issueできるならピーク992 GFlopsとなり、まさにTera-scaleである。熱はどうなるのか心配になった。正式ではないが、Larrabeeというコード名で開発されているようである。Larrabeeはワシントン州のLarrabee State Parkにちなんだ名前である。試作品ができたのは2007年2月である。(Intel News Release 2006/9/26)
2006年12月のIDFにおいて、Larrabeeは1.7~2.5 GHzで動作し、修正された命令セットとグラフィックス向けの典型的なハードウェア処理を実行できると発表された。(Wikipedia:Larrabee)
9) Intel社(Itanium)
Itaniumプロセッサが2001年に発表されたとき、これこそ次世代の64ビットマイクロプロセッサだ、と宣伝された。しかし、暗雲が立ちこめている。
昨年9月に結成されたItanium Solution Allianceは、2006年2月、Itanium開発のために$10Bの巨費を投じると発表した。(HPCwire 2006/2/3) 当時のレートは115~120円/ドルなので約1.2兆円である。
2006年3月23日、Intelの幹部はカリフォルニア州Santa Claraにおいて、Itaniumでの失敗を認めつつも、力強い未来を予想していると述べた。翌日24日、The Inquirer誌は、日本のコンピュータ企業(FNHか?)のコンソーシアムがItanium事業をIntel社から買収するのでは、という噂を伝えている。確かに日立はItanium開発時にHewlett-Packard社を通して相当コミットしていたし、日本電気もかなり入れ込んでいた。売るなら今が潮時とも思えた。もちろん実現しなかった。
2006年3月30日のCNETが伝えるところによると、Intelの50人のfellowsの一人であり、Itaniumプロセッサの設計の中心人物であるSamuel Naffziger氏と同僚8人が、Intelを退社しAMD社に雇用された。沈没する船からはネズミが逃げ出すそうであるが、船長や航海士も逃げ出したのか?(CNET Japan 2006/3/30)(HPCwire 2006/4/28)
2006年7月18日、Itanium 2シリーズとしてdual-coreのItanium 9000(コード名Montecito)が発表され、即日発売された。当初の予定より1年近く遅れている。プロセスは90 nm、L2 cacheはコアごとに命令1 MB、データ0.25 MB(逆ではないらしい。全体で2.5 MB)で、L3 cacheは最大24 MB。Hyper-Threading technologyが踏査されていて、これはNetBurstのSMT (Simultaneou Multithreading)とは違い、coarse-grainである。(HPCwire 2006/7/21)
これでSun Microsystems社のUltraSPARCやIBMのPOWERに打ち勝つことができるのであろうか。ItaniumのEPIC (Explicitly Parallel Instruction Computing) architectureはCISCとRISCのいいとこ取りであり、高い命令並列性(ILP)を実現する、という売り込みであった。
10月、Gelato Itanium Conference and Expo (Gelato ICE)がシンガポールで開催され、熱狂的なItaniumファンが集まった。(HPCwire 2006/10/6)
10) Intel社(TBB、人員削減)
Intel社は2006年9月、マルチスレッド対応のC++テンプレートライブラリThreading Building Blocks (TBB)を発表した。プラットフォームはx86とItaniumであるが、AMDのプロセッサでも使用可能である。(HPCwire 2006/9/1)
Intel社は2006年9月、翌年に掛けて10500人の人員削減を行うと発表した。これは総人員の10%に当たる。これや他の方策により、2007年には支出を$2B削減し、AMDとの競争に勝つことを狙っている。(HPCwire 2006/9/8)
11) AMD社(Opteron、Torrenza)
さて一方のAMD (Advanced Micro Devices)社であるが、これまで2年間は64ビットx86分野で、性能でも電力効率でもIntel社を凌駕していた。まるで「ダビデとゴリアテの戦い」(サムエル記上17章)と評された。身長2.9mの巨人Goliath(Intel社)を、羊飼いの少年David(AMD社)が小石(CPU)で倒したからである。しかし状況は急速に変わりつつある。すでに書いたように、Intel社は2006年3月のIDFで新しいCoreマイクロアーキテクチャを提示し、反撃に出たからである。今後どうなるか。(HPCwire 2006/4/21)
折も折、2006年4月28日に動作クロックが2.6GHzと2.8GHzのシングルコアOpteronの初期出荷分の一部で演算結果に問題が発生する可能性があることを明らかにした。昔Intel社でも似たようなことがあった。問題の原因は製造後の選別テストにおいて出荷時検査が適正に行われなかったユニットが含まれていたことにある、としている。
AMDの説明によると、問題を抱えているOpteronを使っているシステムでは、
(1)浮動小数点演算を集中的に行うコード・シーケンスの実行、
(2)動作においてCPUの温度が高温になる、
(3)システムが高温化で動作している、
という3つの条件がそろった場合に「一貫性のない計算結果を示す」可能性がある。(ITmedia 2006/4/28)
2006年5月、Opteronは発表3周年を迎えた。Mercury Researchによれば、2006年の第一四半期において、x86の世界市場の22.1%はOpteronが占めているとのことである。2005年の第三四半期では16.4%だったので大幅な増加である。(HPCwire 2006/5/4)
2006年8月15日、AMD社は、Socket Fを採用した新しいdual-core Opteronファミリを発表した。12yy(コード名Santa Ana)と22yy, 82yy(コード名Santa Rosa)である。テクノロジは90 nm SOIで、L1 cacheはデータ・命令各64 KB、L2 cacheはコアごとに1024 KBである。MMX、拡張された3DNow!、SSE、SSE2、SSE3をサポートする。VCoreは1.35 V、クロックは1.8-3.2 GHz、最大パワーは95Wである。(HPCwire 2006/8/15) AMD社のアグレッシブな開発計画の裏には、Opteronを採用してるCray社の要求があったということである(HPCwire 2006/8/18)。次はquad-coreである。Quad-coreのBarcelonaの名前や内部構造は、2006年10月に発表された(ASCII.JP 2011/11/7)。11月30日には動作デモを行った(PC Watch 2006/12/1) Quad-coreのBudapest/Barcelonaは2007年9月10日に発売される。
2006年6月1日、AMD社はTorrenzaと呼ばれるプログラムを発表した。これはOpteronのHypertransportを活用して、他社のコプロセッサを統合しようとする計画である。(PC Watch 2006/6/1)(PC Watch 2006/7/13) (HPCwire 2006/9/22)直接に商品として実ったわけではないが、HSA (Heterogeneous System Architecture)として実現した。
12) AMD社(45nm)
IBM社とAMD]者は、2006年12月13日(アメリカ時間)のIEDM (the International Electron Device Meeting)において、液浸リソグラフィ技術とlow-k誘電膜などの技術を用いた45 nmプロセスについt発表した。両社は2003年1月から次世代半導体技術の共同研究を進めていた。(HPCwire 2006/12/15)(ITmedia 2006/12/13)(Electroinics Weekly 2006/12/13) Intel社に次ぐ発表である。
13) AMD社(ATI買収)
2006年6月6日、カナダ・オンタリオ州のATI Technologies社は、同社のGPUであるCrossFire上でシミュレーションなどの数値計算が可能になると発表した。これにより、2台のGPUを搭載し、一方で数値計算し、一方でグラフィックス演算に用いることができる。最上位のRadeon X1900 XTXは360 GFlops(多分単精度)の演算能力がある。 (PC Watch 2006/6/6) NVIDIAもGeForce 7900発表時に、GPUを数値計算に用いる構想を明らかにしていた。
2006年7月24日(アメリカ時間)、AMD社は$5.4BでカナダのATI Technologiesを買収すると発表した。このうち現金は$4.2Bで、残りはAMDの株式5700万株。これにより、CPUとGPUの統合も視野に入れている模様である。後藤弘茂の予想では、GPUがCellのような異種混合マルチコアに進化し、1個のチップのなかに複数のAMD汎用コアと多数のProgrammable Shaderをもつベクトルコアが内蔵されるようになるであろう。まずは、Hyper TransportによりAMD CPUに直結できるGPUが考えられる。次のステップは、CPUパッケージへの統合で、最終的にはオンダイの統合である。ただ、これまでは単精度演算だけでよかったが、汎用GPUとなるためには64ビットの倍精度演算をどこまで実装するかが問題になるであろう。(PC Watch 2006/7/24)(PC Watch 2006/7/25)(PC Watch 2006/7/25) 買収手続が進行中の9月29日、ATI社はGPUを汎用演算に用いる技術Stream Computingを発表した。今から思うとどうってことないように見えるが、当時は大ニュースであった。(PC Watch 2006/9/29) (ITpro 2006/10/2)(HPCwire 2006/10/6)
2006年10月25日、買収手続が完了した。その報告の中で、AMD社はCPUとGPUをシリコンレベルで統合した新しいプロセッサを開発するFusionプロジェクトが進行中であることを発表した。Fusionプロセッサは2008年末か2009年初頭に登場する見通しである。(CNET Japan 2006/10/25)(ITpro 2006/10/26)
しかしこの買収のため、およびx86プロセッサの売れ行き不振のために、AMD社は2006年第4四半期には$574Mの赤字を出してしまった。
14) NVIDIA社(GeForce 8、CUDA)
2006年11月8日、第8世代のGeForce 8が発表された。これはDirect3D 10を完全にサポートする最初のGPUである。90 nmのテクノロジで、新しいTeslaマイクロアーキテクチャを採用した。
同じ時と思われるが、NVIDIA社はGPU向けの統合環境CUDA (Compute Unified Device Architecture)の構想を発表した。これはGPU向けのC言語の統合開発環境であり、コンパラやライブラリなどから構成されている。(HPCwire 2006/11/10) 公開されたのは2007年6月23日。
2006年12月1日、NVIDIA社はアメリカ司法省からGPUとカードに関する独占禁止法(反トラスト法)違反の疑いで、召喚令状(subpoena)を受け取った。ATIを買収したAMD社も同時に出頭を求められた。2008年10月13日、NVIDIA社は司法省反トラスト部サンフランシスコオフィスから、GPUとカードに関する独占禁止法違反の疑いに対する調査を終了したという正式な通知を受けたと発表した。問題はなかったとのことである。
15) Linux Networx社
Linux Networx社は、2006年2月17日、DOD HPC現代化プログラムから同社最大の注文を受けたと発表した。全体は5台で、3台はATC (Advanced Technology Clusters)、1台はArmy Research Laboratory Major Shared Resource CenterのためのLS-1、もう一台のLS-1をDugway Proving Goundに設置する。(HPCwire 2006/2/17)(ProQuest 2006/4/1) 2006年11月のTop500には、US Army Research LaboratoryのHumvee – Evolocity II (LS Supersystem)がRmax=15.2 TFlops、Rpeak=19.66 TFlopsで30位にランクしている。Xeon 50xx 2C 3.2 GHzを3368コアでInfiniband接続である。
2006年第2四半期まで5期連続で増収を記録したが、変革期に差し掛かったようである。最近60名の人員整理をしたとの噂がある一方、拡張した分野もある。HPCwireはCEOのBo Ewaldとのインタビューを載せている。(HPCwire 2006/9/8)
16) Appro社
2006年5月、Appro社(Appro International Inc.)は、dual-core Intel Xeon(コード名Dempsey)を搭載したHyperBladeサーバB222Xを発売した。また、AMD Opteronを搭載した最初のフラグシップ製品であるXtreme-X Supercomputerを発売し。遠隔管理のためにACE (Appro Cluster Engine)管理ソフトウェアを搭載している。
LLNLは、2.4 GHz dual core Quad Opteronを搭載したAppro Xtreme Server(名称Zeus)を導入した。2006年11月のTop500では、コア数2304、Rmax=8.18TFlops、Rpeak=11.06 TFlopsで81位にランクしている。2007年にはMinosを導入し、2007年11月のTop500では、コア数6912、Rmax=27.38 TFlops、Rpeak=33.16 TFlopsで38位にランクしている。
17) HyperTransport(v.3.0)
2006年4月、HyperTransport 3.0の仕様が公開された。最大3.6 GHzで動作し、32 bit単方向で20.8 GB/s、両方向で41.6 GB/sのバンド幅を持つ。AMD OpteronやAthlonは16 bit幅でリンクしているので、バンド幅はその半分。(HPCwire 2006/8/14)(Wikipedia:HyperTransport)
18) Myricom社(Ethenetとの相互運用性)
相互接続網Myrinetで一世を風靡したMyricom社は、10GではEthenetとの相互運用性に重点を置き、Myrinetの技術で10 GbpsのEthernetを開発しておりHPCに利用可能であることを強調していた。2006年2月、IBM社の新しいBladeCenter H platformに10 GbpsのMyri-10Gが使われていると発表した。ISC2006でもこのことを強調していた。(HPCwire 2006/2/10)
2006年4月、Myricom社と富士通アメリカは、wireで10 GbpsのMyrinetとEthernetとの相互運用性を確立したと発表した。(HPCwire 2006/4/29)
19) 3Com社(華為技術との合弁解消)
3Com Corporationは、2003年に中国のHuawei Technologies(華為技術)との合弁で創立したHuawei-3Com社を$882Mで買収して完全子会社化し、H3C Technologies Co., Ltdと社名変更した。これにより華為技術との合弁は解消した。
17) Microsoft社(TechFest、Vista、CCS 2003、Windows HPCコンソーシアム)
日本マイクロソフト社から筆者に、3月2日~3日にMicrosoft Research (ワシントン州Redmond、シアトルの郊外)で開催されるTechFestに参加しないかという話があったので、NDAを書いて参加した。これはMicrosoft研究所の研究成果をMicrosoft本社に宣伝する社内イベントで、私を含めて何人かのアカデミアも参加していた。日本からもう一人参加予定だったようである。AIやロボットに重点を置いていること、中国人やインド人の研究者が元気なことなどが印象的だった。ゲスト参加者の夕食会で、自己紹介したとき、さるアメリカ人が「政府(government)です」というので、皆で「つまりNSAですね」と茶化した。
Microsoft社は次世代のWindows OSとして、2001年5月からWindows XPをベースにLonghornというコード名で開発を開始しており、2003年にリリースする予定であったが、セキュリティ問題で遅れ、Windows Server 2003をベースに変更され、2005年にWindows Vistaとしてベータ版が公開された。正式リリースは2006年11月8日。当時のCEOのSteve Ballmerは、退任時のインタビューで、Windows Bistaは失敗作だったと述懐している。筆者はXPからWindows 7/8に飛んでしまったのでVistaを使うチャンスはなかった。
Windows Compute Cluster Server 2003 (CCS)は2006年6月9日に公開された。CCSはMS-MPI (Microsoft Message Passing Interface) v.2をサポートする。スーパーコンピュータなどの高性能数値演算クラスタを必要とするアプリケーションの利用を想定して設計されたもの。x64 版のみのリリース。(HPCwire 2006/6/9)
2006年3月8日、同志社大学とMicrosoft日本法人は、科学技術計算分野でWindows HPCコンソーシアムを4月1日に設立すると発表した。同志社大学は京都府京田辺市のキャンパスに設置するWindows Compute Cluster Server 2003搭載のクラスタの処理能力をコンソーシアムに参加する企業向けに提供する。同志社大学では、これまでも複数台のPCを利用したクラスターサーバの構築・研究を行なってきたが、Windowsベースでのクラスターサーバは初めてとなる。同志社大学工学部の三木光範教授は、「これまでは主にLinuxベースでクラスターサーバの構築を行なってきたが、導入や運用面ではまだ難しい。大企業だけでなく、中小企業などにも導入可能な管理の簡単なクラスターサーバの普及も必要だ」として、Windowsプラットフォームでのクラスターサーバ構築に取り組むことにしたと説明した。(ZDnet 2006/3/18)
Windows Compute Cluster Server 2003の日本語版は8月下旬にリリースされたが、8月24日、目黒雅叙園においてソリューションセミナーが開催され300人ほどが出席した。
2006年6月15日、Bill Gates会長は、2008年7月より第一線から身を引き、Bill and Mellinda Gates Foundationでの活動に専念する予定であると発表した。(CNET 2006/6/15)(HPCwire 2006/6/25)
20) Azul Systems社(Vega 2)
Azul Systems, Inc.はJavaアプリを実行する実行環境を開発するために2002年3月にカリフォルニア州Sunnyvaleで設立された。AzulがJVM (Java Virtual Machine)として開発したZingはVega 2というハードウェアの上で開発された。これはチップ上に48個のキャッシュコヒーレントな64bitコアを搭載している。TSMCの90 nmプロセスで製造された。(HPCwire 2006/3/31)
21) Apple社(Intel x86へ)
Apple社は2005年6月6日Worldwide Developers Conferenceにおいて、MacintoshコンピュータのCPUを、これまでのPowerPCプロセッサからIntel x86プロセッサに切り替える計画であることを発表したが、2006年1月10日、Intel Core Duoプロセッサを搭載した15インチのMacBook ProとiMac Core Duoを発表した。
Apple社のCEOであるSteve Jobsは、「この転換は、PowerPC技術の発展の進歩があまりに遅くて失望したことと、IntelがAppleの必要に答えようとしていることが分かったからである。とくにIntel社のワット当たりの性能のロードマップは印象的であった。」と述べた。
その他の企業
1) Liquid Computing社(LiquidIQ)
2003年にカナダのOttawaで創業したLiquid Computing Corporationは、2006年3月、革新的なInterconnect Driven Server Architecturesを発表した。これはHypeTransportに直結した相互接続であり、Red Hat Linuxの修正版が走る。(HPCwire 2006/3/31) 10月には、この相互接続を用いた新しいスケーラブルなシステムLiquidIQ 1.0の発売を開始した (HPCwire 2006/10/27) 。最初の販売対象はHPCの顧客、とくにアメリカ政府関係や石油業界であった。その後サービスプロバイダ、SaaSソリューションプロバイダなどにも対象を広げたが、技術的な評価は高かったものの市場を引き付けることができなかった。(HPCwire 2007/8/10)
2008年にはLiquidIQ 2.0を発売、2009年には、Xeon 5500 (Nehalem)を用いたLiquidIQ 3.0を発表するが、2010年2月に会社を閉鎖する。
2) Bull社(NovaScaleサーバ)
フランスのBull社は、2006年12月、CCRT (Centre de Calcul Recherche et Technologie)から43 TFlops超のシステムを受注したと発表した。これはItaniumを搭載したBull NovaScaleサーバである。2007年11月のTop500では、Itanium 2 Montechito 2C 1.6 GHzプロセッサを3840基搭載し、Infiniband DDRで接続したシステムで、Rmax=42.13 TFlops、Rpeak=49.152 TFlopsで26位にランクしている。同社は既に、Itanium2 Montecito 2C 1.6 GHzを4984基搭載し、Quadricsで接続したシステムTera-10 NovaScale 5160をCEA (Commissariat a l’Energie Atomique)に納入している。これは2005年のQuadricsのところで既に述べた。2006年11月のTop500では、Rmax=52.84 TFlops、Rpeak=63.7952 TFlopsで7位である。
企業の創業
1) Convey Computer Corporation
2006年、テキサス州Richardsonにおいて、Steve Wallachら元Convex Computer Corporation関係者により設立され、FPGAに基づくhybrid computingのシステムを開発。社名はConvexの“x”を“y”に代えたもの。2015年4月1日、メモリメーカであるMicron社によって買収された。
2) HPCソリューションズ
2006年7月1日、ベストシステムズ社とアルゴグラフィックス社との合弁でHPCソリューションズを設立した。社長はベストシステムズ社専務の河野証。
3) Amazon Web Service
2006年3月14日Amazon.comの子会社であるAmazon Web Service社(AWS社)は、Amazon S3 Cloud Storageを開始し、8月にはAmazon Elastic Compute Cloud (EC2)を開始した。Amazon.com社は、Electric Commerce事業の赤字に苦しんていたので、その打開策として2002年ごろから種々のWebサービスを始めていたが、これをいわば独立させたものである。
企業の終焉
1) Fluent社
流体シミュレーションソフトウェアのFluent社は、2006年2月16日、ANSYS社に$565Mで買収された。(Ansys Press Release 2006/2/16)(HPCwire 2006/2/17) 2008年には日本法人も統合される。
次は2007年。次世代スーパーコンピュータは、神戸設置がきまり、概念設計の評価が行われた。ソニーはCell製造施設の売却について東芝と基本合意ができた。アメリカではNSFのTrack 1としてPOWER7を用いたイリノイ大学のBlue Watersプロジェクトを決定した(後でとんでもないことに)。
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