世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々



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1月 16, 2017

HPCの歩み50年(第105回)-2004年(b)-

小柳 義夫 (神戸大学 特命教授)

いよいよ文部科学省が次世代スーパーコンピュータへ向けての動きを始めた。産総研のグリッド研究センターには大きなクラスタ群が導入された。グリッド関係、計算科学関係のプロジェクトが進んでいる。国立大学が法人化された。

aist-supercluster

日本の次世代スーパーコンピュータ計画(続き)

7) スーパーコンピュータ推進議員連盟
2004年7月26日、自由民主党にスーパーコンピュータ推進議員連盟が発足した。会員109名。座長は尾身幸次氏、副座長は安倍晋三氏、事務局長は後藤茂之氏であった。翌2005年8月に政府に勧告を出した。発足までには種々の過程があったと推測されるが、詳細は知らない。

8) 経団連
社団法人日本経済団体連合会は、2004年11月16日、「第3期科学技術基本計画で望まれる政策」に、科学技術の発展への大きなインパクトが期待できる技術として、ITERやスーパーコンピューティングを例示した。

9) 「計算科学技術推進ワーキンググループ」
文部科学省は、科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 情報科学技術委員会に「計算科学技術推進ワーキンググループ」を設置した。メンバは以下の通り。主査は矢川元基(東洋大)、委員は石井芳(日産)、伊藤聡(東芝)、宇佐見仁英(情報研)、大野隆央(物材機構)、岡本祐幸(分子研)、奥田洋司(東大)、下條真司(大阪大)、泰地真弘人(理研)、根元義章(東北大)、羽生貴弘(東北大)、姫野龍太郎(理研)、松尾裕一(JAXA)、松岡聡(東工大)、松岡浩(原研)、村上和彰(九大)、室井ちあし(気象研)、諸星敏一(防災研)、渡邉国彦(地球シミュレータ)で、科学官として西尾章次郎(大阪大)が加わる。筑波大関係者も筆者も入っていない。2004年中には5回開催された。回数には議事録をリンクしてある。

会議 日付 主な議事
第1回 2004年8月20日(金) 国内ベンダ3社からHPCへの取り組みを聴取するとともに、文部科学省での計画が説明された。
第2回 2004年9月29日(水) Intel社からHPCハードウェアの動向について聴取し、理研とJAXAから2010年前後の研究目標とスーパーコンピューティング環境について発表。文科省から要素技術の研究開発プロジェクトについて説明。
第3回 2004年10月27日(水) 物材機構、原研、東大人工物から、研究目標とHPC環境について聴取するとともに、中間報告を決定。
第4回 2004年11月30日(火) 理研、地球シミュレータ、日産、東芝から将来のスーパーコンピューティング環境について聴取。11月9日の第17回情報科学技術委員会に中間報告を行ったむね報告。
第5回 2004年12月22日(火) 気象研、防災研から将来のスーパーコンピューティング環境について聴取。平成16年度報告骨子について議論。

 

10) 科学技術・学術審議会
科学技術・学術審議会の研究計画・評価分科会は、「国として戦略的に推進すべき基幹技術に関する委員会」を6月14日に設置し議論を進めていた。12月15日のこの委員会に報告された基幹技術候補リストによると、[高い競争優位性を有する領域の維持・発展]というターゲットのプロジェクトの例として、「従来の技術では不可能な高度なシミュレーションを実現するために、2010年までにペタ・フロップス級のスーパーコンピュータを開発するとともに、必要なソフトウェアを開発」が挙げられている。開発すべき基幹技術として、

・マルチスケール・マルチフィジックスに複雑な系全体をシミュレーションすることが可能なアプリケーションソフトウェア技術
・ハードウェアの効率的活用とアプリケーションソフトウェアの実効性を実現するネットワーク関連技術

を挙げている。具体的な応用としては、

・人体全身シミュレーション
・創薬設計シミュレーション
・飛行機全機統合設計シミュレーション
・ナノデバイス設計シミュレーション
・設計から製品かまでのコスト・時間を従来より大幅に低減する「知的ものづくり」の実現
・情報系ハザードシミュレーション
・感染症シミュレーション
・高精度地球環境統合化シミュレーション 等

を挙げている。後の戦略5分野につながるものもある。

11) 要素技術開発
このような動きの中、文部科学省は8月、「将来のスーパーコンピューティングのための要素技術の研究開発プロジェクト」20億円を「次世代IT基盤構築のための研究開発」の一つとして2005年度予算に概算要求した。3本程度のプロジェクトを3年間走らせる予定。2004年8月24日に開催された科学技術・学術審議会の研究計画・評価分科会 情報科学技術委員会(第16回)において事前評価を行い、2004年9月6日の科学技術・学術審議会の研究計画・評価分科会で報告された。

日本政府の動き

1) 国立大学法人化
2004年4月1日に国立大学は、政府が直接設置する大学から、国立大学法人の設置する大学に移行した。国家公務員の人数を減らせということで、10万人規模の国立大学と郵政事業とが目をつけられた。1999年4月には、「国立大学の独立行政法人化については、大学の自主性を尊重しつつ大学改革の一環として検討し、平成15年までに結論を得る」と閣議決定された。2000年7月には調査検討会議が設置され、2002年3月に「新しい『国立大学法人』像について」(最終報告)をとりまとめた。その間、大学の在り方にふさわしい組織形態について、各大学でも検討が進められ、国会議員や財界などにまで陳情を続けた。その中の驚くようなやりとりが漏れ聞こえてきた。たとえば「国鉄の民営化はうまく行ったのに、何で大学はできないの?」とか、「なんで大学に理学部が必要なのか?」などという無理解が伝えられ、慨嘆した。いろんな国立大学には、「○○学部をつぶしてはどうか」などという天の声が伝えられているとかいう話がまことしやかに伝えられた。

当初想定されていた「独立行政法人」ではなく、「国立大学法人」とし、競争的環境の中で世界最高水準の大学を育成することが2002年11月に閣議決定され、2003年7月に国会で国立大学法人法等関係6法が成立し、10月に施行され、2004年4月に国立大学法人に移行した。

大学共同利用機関も法人化され、大学共同利用機関法人(人間文化研究機構、自然科学研究機構、高エネルギー加速器研究機構、情報・システム研究機構の4つが発足した。

2) 文部科学省仮移転
文部科学省は虎ノ門の庁舎の建て替えのため、2004年1月に丸の内二丁目の旧三菱重工ビルを仮庁舎として移転した。手狭ではあったが東京駅から近く便利であった。2008年1月、中央合同庁舎第7号館が完成し虎ノ門に戻った。

3) RR2002中間評価
新世紀重点研究創生プラン(RR2002)の一貫として文部科学省の下で2002年度から開始されたITプログラム事業の中間評価が、情報科学技術委員会でなされた。ITプログラムは、我が国が優位な技術(モバイル、光、デバイス技術等)を核とした情報通信技術の研究開発を行う『世界最先端IT国家実現重点研究開発プロジェクト』(6研究開発課題)、および、研究開発現場に超高速研究情報ネットワーク等の高機能ITを活用することにより、研究開発スタイルを変革し、新たな研究分野(融合研究領域等)を創出する研究情報基盤技術の開発・整備・実証を行う『「eサイエンス」実現プロジェクト』(3研究開発課題)の合計9研究開発課題から構成されている。戦略的基盤ソフトウェアの開発については、プロジェクトは順調に進捗していると評価される反面、成果であるソフトウェアの実証について、まだ一部の分野での一部の事例だけにとどまっている、と指摘している。

4)シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築
2002年から開始されたJSTのCREST・さきがけ混合型領域「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」は、3年目の課題として、6件のCRESTと4件のさきがけが採択された。2月26日~27日には京都ガーデンパレスで報告会が、7月7日~8日には福岡ガーデンパレスで技術シンポジウムが開催された。

5) ACT-JST
物質・材料、生命・生体、環境・安全、地球・宇宙観測という重要な科学技術分野において、1998年8月から計算科学技術を駆使した研究開発を推進してきた「計算科学技術活用型特定研究開発推進事業(ACT-JST)」は2003年3月末ですべての研究開発を終了した。2004年10月6日青山テピアホールにおいて最終報告会が開催された。

6) JST先端計測分析技術・機器開発事業
2004年度からJSTでは産学イノベーション加速事業先端計測分析技術・機器開発プログラムを開始した。我が国では最先端の実験的研究が行われている反面、そのための先端計測分析技術や機器の分野においては、海外に依存している度合いが強いとの指摘があることから、国内で計測分析機器の性能を飛躍的に向上させることが期待される新規性のある独創的な要素技術の開発を行うことを目的とするこの事業を開始した。筆者は元物理学者とはいえ理論物理なので計測とは縁が遠いのであるが、JSTの基礎研究部会の委員であった関係で評価委員会の委員を委嘱された。6月9日にキックオフミーティングがあった。第4分科会に所属した。その後、計測とシミュレーションとの融合や、計測器のためのソフト開発などについて役割を果たした。2010年度まで委員を務めた。2011年度からは「研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)」として再編成された。

7) JST評価
2004年2月16日には、JSTの戦略的創造研究推進事業の評価に参加した。筆者と東倉洋一教授(情報研)と遠藤隆也技師長(NTT)でCRESTの「高度メディア社会の生活情報技術」(研究統括は長尾真氏)の評価を、筆者と東倉と有川節夫教授(九大)でさきがけ「情報と知」(研究統括は安西祐一郎氏)の評価を行った。研究統括の両大先生を前に、評価するというより、こっちが評価されているような感じで足がすくんだ。

8) 産業技術総合研究所
AIST(産業技術総合研究所)は、2004年5月10日、「つくば本部・情報技術共同研究棟」の完成と同時に国内最高性能のクラスタ計算機「AISTスーパークラスタ」の運用を開始したことを発表した。これは産学官連携推進のためのグリッド用基盤システムであり、グリッド技術を用いた高性能計算環境の構築、大規模クラスタシステム構築、運用技術の確立、ナノテクノロジーおよびバイオインフォマティクスのための計算資源、分野横断的かつ国際的な研究推進や産学官連携を担う中核システムとしての利用を目的としている。

AISTスーパークラスタは、以下の構成となっている。

a) P-32クラスタ部:2つのOpteronプロセッサ(2.0 GHz)を有するIBM社製e325サーバ1072台を、ギガビットイーサーネットとMyrinetで結合したもので、8.6 TFlopsの総演算性能を、6.4 TBのメインメモリ、565 TBのストレージを持つ。Linpack性能は6.155 TFlops(75%)を達成した。
b) M-64クラスタ部:4つのIntel社製Itanium2プロセッサ(1.3GHz)を有するIntel社Tiger4サーバー132台を、ギガビットイーサネットとMyrinetで結合したもので、全体で2.7TFLOPSの総演算性能と2.1TBのメインメモリ、117TBのストレージを持つ。Linpack性能は1.616 TFlopsを達成した。
c) F-32クラスタ部:2つのIntel社製Xeonプロセッサ(3.06GHz)を有するLinux Networx社製Evolocity2eサーバー268台をギガビットイーサネットで結合したもので、体で3.3TFLOPSの総演算性能と1.1TBのメインメモリ、99TBのストレージを持つ。Linpack性能は1.997 TFlopsを達成。
d) ストレージ部:20TBの実効容量を持つディスクアレイをクラスタファイルシステムで共有し、8台のNFSサーバーを介してAISTスーパークラスタ全体に共有ストレージを提供する。100TBの容量を持つバックアップテープライブラリを持つ。

新物質材料の設計などのナノテクノロジー分野や、生体物質の挙動解明などのバイオインフォマティクスの分野において、このような大規模なクラスタを活用すると述べている。

3月、丸善から「産総研シリーズ グリッド -情報社会の未来を紡ぐ -」(独立行政法人産業技術総合研究所 グリッド研究センター著)が出版された。

9) ビジネスグリッド
経済産業省は、2004年10月7日、ビジネスグリッドコンピューティングプロジェクトにおいて、ビジネスグリッドミドルウェア及び広域分散ストレージシステムの実用化に向け、ユーザと連携した実証実験を実施することを発表した。報道では、「パソコン余力を企業が活用してステム投資額を削減する」というようなデスクトップグリッドに偏っているばかりか、日本の研究者がグリッド技術に貢献したことが無視され、欧米の後追いをしているように報じられ、残念であった。

10) アジアグリッドイニシアチブ
2002年の文部科学省振興調整費に応募して採択された「アジアグリッドイニシアチブ」は活動を続けていたが、4月15日に推進委員会を開催した

11) バイオグリッドセンター関西
バイオグリッドセンター関西は、文部科学省ITプログラム「スーパーコンピュータネットワークの構築」(通称:バイオグリッド・プロジェクト)として2002年より2006年の5年間実施したプロジェクトを母体にその研究成果の産業利用を目的に2004年に設立された。

12) 地球シミュレータ
横浜市の地球シミュレータは、2002年の運用開始以来、大気海洋シミュレーションや固体地球のシミュレーションに活躍してきたが、2年を経過した今年、産業利用を始めた。海洋研究開発機構は2004年6月17日、日本自動車工業界と共同研究契約を締結したことを発表した。2年間にわたって、自動車の空力特性や騒音、車体の振動、エンジン内の燃焼などのシミュレーションに使用する予定である。

13) ITBL中間評価
ITBLの中間評価のために、科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 情報科学技術委員会 ITBL評価ワーキンググループが設置されたことは2003年に述べた。2004年1月21日には文部科学省で第1回が開催された。計算パワーの統合だけでなく、リソース、ノウハウ、知見の共有といった点が連携により発展する観点の重要性が強調された。筆者は国際連携の観点から世界標準化への寄与およびそれとのインタフェースを指摘したが、ITBLの目標には入っていないとのことであった。2月6日には日本原子力研究所関西研究所で委員会が開催された。ITBL側からスーパーコンピュータを常時運用しているグリッドは世界的にもITBLだけである、という説明があったが、アメリカのTeraGridなどいろいろすでに動いていることが指摘された。ファイアウォールを跨がるグリッド接続について議論となった。

直接の関係はないが、2月4日午後に脳内出血で突然入院されていた京都大学情報学研究科上林彌彦教授が、2月6日早朝午前4時42分に亡くなられたとの知らせがあり、Illinois大学仲間の三浦謙一委員は帰路の途中、通夜に駆けつけた。第3回は3月19日に開かれ、中間評価書をまとめた。

14) 原子力試験研究
筆者は、2001年4月から原子力委員会の研究開発専門部会原子力試験研究検討会に参加し知的基盤WGの主査をつとめていた。1月6日~7日には経団連会館において原子力試験研究クロスオーバー発表会があった。クロスオーバー研究は2008年度に終了することになる。

15) 日本原子力研究所
文部科学省は、2004年7月30日、特殊法人整理合理化の一環で日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構を統合し、独立行政法人「日本原子力研究開発機構」を発足させることになったと発表した。来年の通常国会に新法人設置法案を提出し、2005年10月に発足する予定である。

これを見越して、原子力研究所では、2004年度にこれまでの活動の総括的な評価を行うこととなり、筆者も「基礎・基盤研究専門部会」の委員を委嘱された。7月28日に開かれ、研究所側からこれまでの研究活動の総括が提示され、委員からは種々の質問が出された。メールでのやりとりの後、8月31日になって「2次評価所見に対する反論書」なるものが送られてきた。書かれている個々の論点はそれなりに理解できるものであったが、文書全体に言い表しがたい不快感を覚えた。それは、この文書が「評価委員たちを説き伏せてしまいたい」というハリネズミのような護身的雰囲気に満ちていたからである。思わず「何様だ」と言いたくなった。同じような印象を他の委員も語っていた。いろいろあったが、この部会の結論としては、新しい法人における基礎・基盤研究の重要性を強く指摘したものとなった。

次回は、日本の学界の動きその他。筆者自身は、Winnyの金子氏逮捕と学会事務センター破産事件でてんてこ舞いを演じることになる。

(タイトル画像:AISTスーパークラスタ  出典:産総研発表資料より)

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