世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々



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1月 30, 2017

HPCの歩み50年(第107回)-2004年(d)-

小柳 義夫 (神戸大学 特命教授)

Sony CEI、IBM、東芝3社は、Cell processorの共同開発で合意したと発表した。日本IBM社は、九州大学情報基盤センターから汎用コンピュータ、産総研からBlueGene/Lの注文を獲得した。GGFではグリッドの標準化が進められているが、日本からの貢献も大きい。Fortran 2003規格が公式に制定された。

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日本の企業の動き

1) 日本電気
HPCwireの6月18日号で、日本電気の渡辺貞氏が、日本電気のHPC戦略についてインタビューに答えている。「ベクトル並列マルチプロセッサは、ペタフロップスの実効性能を出すためにはもっとも期待できるアーキテクチャである。しかし近未来にベクトルのdual coreは現実的でない。メモリバンド幅が取れないからである。ベクトルとメモリ混載も現実的でない。なぜなら、GFlops当り10 Gbitsのメモリが必要でこんなには載せられない。たぶん解決策はhierarchical memoryだろう」と述べた。とにかく、NECはベクトルを作り続けるぞ、という力強いメッセージであった。渡辺氏には後で述べるHPC Asia 2004の基調講演をお願いしていたが、その中身をしゃべってしまったのではないかと心配になった。

2004年10月22日、日本電気はベクトルスーパーコンピュータSX-8を発表した。ノードは8台のCPUで構成され、最大ベクトル性能は128 GFlopsである。クロックは、スカラ演算ユニットが1 ns、ベクトル演算ユニットが0.5 nsである。最大共有メモリ容量は、FCRAMでは64GB、DDR2-SDRAMでは128 GB、主記憶転送速度は512 GB/sである。このノードを最大512ノードの構成にすることにより、65 TFlopsが可能である。2005年初めに、イギリスの気象庁に1号機が出荷された。2006年6月のTop500リストでは、2件載っている。性能値はTFlops。

順位 設置場所 Model CPUs Rmax Rpeak
48 Stuttgart大学(ドイツ) SX-8/576M72 576 8.923 9.216
292 電力中央研究所 SX-8/192M24 192 2.914 3.072

 

2002年のところで、Cray社がSXのOEM販売を始めたことを述べたが、2004年12月3日、日本電気はCray社を通して、SX-6/8A (72 GFlops)をカナダのVictoria大学の地球海洋科学部に出荷したと発表した。また、SX-6/5A (45 GFlops)をMontréalのOuranos Consortiumから受注したことも発表した。更に、2005年2月にはSX-6/8A (72 GFlops)が追加される予定。これで、Crayを通して北米に販売したSXは計7件になったもようである。

Intelサーバでは、Itainum 2を搭載したブレードサーバExpress5800/1020Baを発表した。

11月2日、NEC本社ビル地下多目的ホールにおいて、第19回NEC・HPC研究会が開催され、「HPC用自動並列化コンパイラの動向と将来課題」(早稲田大学、笠原博徳)、「超ペタフロップスを目指す半導体デバイス技術」(NEC、福間雅夫)、「戦略的基盤ソフトウェアプロジェクトとHPCへの期待」(東大、加藤千幸)、「NECのHPC戦」(NEC、古井利幸)、「NECのHPC製品説明」(NEC、花平議臓)、「SXを中心としたHPC分野におけるソフトウェア開発動向」(NEC、橋本ユキ子)などの講演があった。

2) 富士通
富士通研究所は、2004年10月1日に「ペタスケール・コンピューティング推進室」発足させ、2010年をめどに世界最高の3 PFlopsの性能を達成すると発表した。45 nmまで微細化した半導体を用い、低電力化の研究開発に取り組む。後述するように、9月にはIBMのBlueGene/Lが、2年以上首位の座を独占していた地球シミュレータを追い抜いたばかりで、世界的な開発競争が激化していた。文部省は次年度のスーパーコンピュータの要素技術開発を概算要求しており、富士通はこれにも参入する予定。

富士通は10月8日、4種のPRIMERGYサーバを発表した。TS200 S2とTX300 S2はタワーサーバ、RX200 S2とRX300 S2はラックサーバである。これらは、Intelの拡張メモリ64テクノロジ(EM64T)のXeon dual processorを搭載する。これにより、32ビットと64ビットの両方のアプリが動作する。

3) Cellプロセッサ
Sony CE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)とIBMと東芝は、2001年3月9日に、ブロードバンド時代に向けた超並列プロセッサの共同開発で合意したと発表した。”Cell”という名前がいつ公表されたかは不明だが、2004年2月6日には、IBMとソニーグループ(ソニー社とソニー・コンピュータエンタテインメント社)は次世代65 nmテクノロジに基づく300 mmの半導体を製造するために、IBMの$325M($1=\108として351億円)を投資すると発表した。その目的はCellと呼ばれるプロセッサなどを製造するためとのことである。2005年前半にもニューヨーク州のEast Eishkillにおいてパイロット製造ラインを稼働する予定。このラインは2002年に完成し、NVIDIAのGPUチップの製造を引き受けたところであった。ソニー・コンピュータエンタテインメント、IBM、ソニー、東芝は”Cell”に関する4編の論文を2005年2月6日~10日にSan Franciscoで開催されるISSCC (International Solid-State Circuits Conference)に提出したと発表した。

4社によると、Cellは64 bit Powerプロセッサからなるマルチコアチップであり、大量の浮動小数演算を実行できる。主たる用途は、コンピュータエンタテインメント、映画やその他のディジタルコンテンツを含むメディアアプリである。目立った特徴としては、マルチスレッド・マルチコア・アーキテクチャ、複数OSのサポート、広いバスバンド幅、柔軟なオンチップのI/Oインタフェース、リアルタイム応用のためのリソース管理、知的財産保護のためのオンチップハードなどである。

「パソコンとディジタルコンシューマエレクトロニックスとの壁を崩すには、劇的な能力増強が必要である。Cellプロセッサはその要求に応えるものである。」と東芝の室町正志副社長は語った。

Cellプロセッサは2006年11月11日にソニー・コンピュータエンタテインメントから発売されたPS3 (PlayStation 3)に使用された。またIBM社は2008年、Cellを強化したPowerXCell 8iを、Opteronプロセッサとともに用いてRoadrunner (LANL)を製作し、最初のPFlops越え(Linpack性能で)のスーパーコンピュータとなった。しかしIBM社は2009年にCellのエンハンス計画を中止した。

4) 日本IBM社
2004年9月7日、日本IBMは九州大学情報基盤センター(センター長・村上和彰)の汎用コンピューターシステム、および産業技術総合研究所(産総研)生命情報科学研究センター(センター長・秋山泰)のシステムを落札したと発表した。九州大学に導入されるシステムは、IBMのハイエンドUNIXサーバーを基盤としており、スーパーコンピューターに匹敵する最大3.25TFlopsの性能をもつ。来年3月から稼働予定。全国共同利用情報基盤センターの汎用コンピューターシステム調達において、日本IBMが落札したのは、今回が初めてである。

産総研は、タンパク質の立体構造予測を主要目的とするBleuGene/Lを2005年2月に導入すると発表した。これは産総研がお台場地区に建設中であったバイオ・IT融合研究棟内に設置する予定。最大22.8 TFlopsの性能をもつ。

11月19日、ニイウス株式会社(東京都中央区)が12月にBlueGene/L 1ラック(1024ノード)を導入すると発表した。産総研を抜いて日本1号機となった。ニイウス本社内における「グリッドおよびオートノミック・コンピューティング・センター」に設置され、金融分野、医療分野、製造業分野などの様々なソリューションの実機検証で利用される。

IBMライフサイエンス天城セミナーが12月3日~5日に伊豆の天城ホームステッドで開催され、筆者は「ライフサイエンスで活気つくHPC-SC2004総括」という講演を行った。参加者には製薬会社の関係者が目立った。

5) 大日本印刷
大日本印刷株式会社は、2004年6月、新誠一(東大)と小西克己(工学院大)と共同して、MATLABアルゴリズムをグリッド分散環境で高速に計算を行うことのできるソフトウェアAD-POWERsを開発したと発表した。これはWindows上のソフトウェアで、自動的に遊んでいるPCを検知してMATLABで書かれた計算を分散的に実行する。最大253台のPCまでを使って並列処理を行うことができる。

標準化

1) GGF10
第10回Global Grid Forum (GGF10)は、2004年3月9日~13日、ベルリンのHumbordt大学で開催された。グリッド協議会のサイトには会議概要詳細な参加報告がある。大学での開催は初めてであった。参加者は約600人。GGFの中心は種々の分野での標準を決定するWG (Working Group)やRG (Research Group)であるが、多くのGGFでは一般参加者向けのプログラムが用意されている。今回はWGやRGの他に全体会議が開催されたが、tutorialはなかった。GGF議長は「OGSAをGGFのmain architectureとする」ことを明言し、すべてのWG/RGにOGSA対応を勧告した。下位のレイヤとして、新しいweb serviceの仕様WSRF (Web Service Resource Framework)がGlobusWorldで発表されたが、その後初めてのGGFであった。

4件のワークショップが開催された。

  • The Future of Grid Data Environments
  • Workflow in Grid Systems
  • Case Studies on Grid Applications
  •  Grid Services for Particle and Nuclear Physics Applications – Experience and Requirements

多数のRGやWGがあるが、APME (Applications and Programming Models Environments)領域では特定の分野(天文、生命科学、原子核素粒子など)に特化したRGが増えている(RGが10、WGが2)。RGやWGの活動の詳細については「平成15年度グリッドコンピューティング標準化調査研究成果報告書」の付録に記載されている。

日本からの参加者の活躍も目立つ。2002年にのべたように、GFSG (GGF Steering Group)には松岡聡(東工大が)、GFAC (Grid Forum Advisory Council)には村岡洋一(早稲田大)が加わっている。GROC (Grid Research Oversight Committee)では松岡聡(東工大)がリーダーを務め、広報活動のためのGMAC (GGF Market Awareness Committee Leadership Council)には関口智嗣や伊藤智が加わり、岸本光弘(富士通)がOGSA-WG Chairに、中田(日本電気)と伊藤智(産総研)がBusiness Grid RGのChairとSecretaryに、田中良夫(産総研)がGridRPC-WGのChairに、大石雅寿(天文台)がASTRO-RG Chair候補など。

GGFの創立者であり、GF以来約5年間GGFを引っ張ってきたCharlie Catlett(ANL)は会長を退任する予定であることを発表した。8月9日、GGFはMark Linesch (Hewlett-Packard)を次期GGF会長に選出したことを発表した。Lineschは、HPのAdaptive Enterprise Programの副会長としてグリッドや次世代分散コンピューティングアーキテクチャの開発を主導している。GGF12から会長の任に就く。

2) Enterprise Grid Alliance
2004年4月20日、NEC、富士通、インテルなど世界のIT大手19社は共同で、EGA (Enterprise Grid Alliance)を発足させた。EGAは企業向けグリッド・ソリューションの開発および推進に焦点をあてたオープンなコンソーシアムである。初期に重点的に取り組む分野として、「参照モデル」「プロビジョニング」「セキュリティ」「課金」などを想定している。EGAの発足時の理事会は、EMC、富士通・シーメンス・コンピュータズ、ヒューレット・パッカード、インテル、NEC、ネットワーク・アプライアンス、オラクル、サン・マイクロシステムズで構成。その他の設立会員として、AMD、Ascential Software、Cassatt、Citrix Systems、Data Synapse、Enigmatec、Force 10 Networks、Novell、Optena、Paremus、Topspinの各社が参画する。

ただ、GGFから見ればもう一つのグリッド標準化組織ができたことになり、ただ事ではない。GGFにも100社の企業を含む30カ国の数百の組織が参加しており、グリッド技術のビジネスへの適用も当然視野に入れている。4月26日付けのGRIDtodayによると、GGFは早速EGAと協議を開始し、企業とアカデミアのグリッド・コミュニティー全体にとって最善となるような協力体制を検討することとなった。

2004年7月5日、EGA日本運営委員会が設立されたことが発表された。これはアジア太平洋地域におけるグリッドの普及促進を目的とし、日本グリッド協議会を初めとするグリッド関連団体との連絡業務も視野に入れている。当初EGA日本運営委員会の運営は、EMCジャパン株式会社、日本ヒューレット・パッカード株式会社、日本ネットワーク・アプライアンス株式会社、日本電気株式会社、日本オラクル株式会社、サン・マイクロシステムズ株式会社の6社により行なわれる。日本グリッド協議会の関口智嗣会長は今回の発表を歓迎し、グリッド技術の研究開発への促進及び研究成果の普及とともに新たな応用と産業分野への導入を期待すると述べている。

2006年6月26日、GGFとEGAは合併してOGF (Open Grid Forum)を設立すると発表した。

3) GGF11
GGF11 (第11回Global Grid Forum)は、2004年6月6日~10日、ホノルルのHilton Hawaiian Resort Beachで開催された。参加者は600人以上。グリッド協議会のサイトに会議概要および詳細な参加報告がある。GGFの最も重要な部分であるRGやWGについてはこれらを参照してください。基調講演は、

  • Hiro Kishimoto and Ian Foster — Open Grid Services Architecture: Status and Futures
  • Jamie Clark –
  •  Yoshio Tanaka — Experiences with Production Research Grids

の3件、招待講演は12件が行われた。9件のtutorialsが予定されていたが、3件はキャンセルされた。

GGF10では今回Enterprise Gridを主要テーマとする予定であったが、これは次回のGGF12に延期した。EGA設立と関係があったのではないかと推測される。Workshopは4件開催された。

  • Building Service based Grids Workshop
  • Management of Services in Production Grid Workshop
  • Social Factors, Humanities, Arts and Social Sicences: Old Challenges and New Disciplines for Grid Computing Workshop
  •  1st International Semantic Grid Symposium Workshop

4) GGF12
GGF12(第12回Global Grid Forum)は、”Grids Deployed in the Enterprise”とのテーマの下に、2004年9月20日~23日、ベルギーのBrusselで開催され、約600人が参加した。全体会議はホテルで、通常セッションは大学で開催された。Mark Linesch新会長の下での初めてのGGFである。新会長は、前会長のCharlie Catlettが研究分野に重点を置いていたのに対し、ビジネスや企業のグリッドに重点を移す方針を示した。日本関係の人事では、関口智嗣がGFACに加わり、岸本光弘がGFSG (At-Large)に加わり、松岡聡がGFSG (APME AD)に再選された。グリッド協議会のサイトに総括報告および報告集がある。WGやRGについて詳細な報告が掲載されている。

テーマにあるように企業に於けるグリッドの活用事例に焦点が置かれ、基調講演やパネルも企業グリッドのテーマが目立った。4月に設立されたEGA (Enterprise Grid Alliance)とは協力体制が強調された。基調講演は3件行われた。

全体会議の一環として、3件のパネルが開催された。

Workshopは4件開催された

  • Grid Application Programming Interfaces Workshop
  • CDDLS of Grid Services Workshop
  • Operational Secutiry for the Grid Workshop
  •  Enterprise Grid Solutions and Deployments Workshop

Tutorialも10件開催された。

5) グリッドコンピュ-ティング標準化調査研究委員会
2002年10月からINSTAC(日本規格協会情報技術標準化研究センター)において、グリッドコンピューティングについて標準化の調査研究が始まったことは述べたが、2004年3月、その第2年度が終了し、報告書「平成15年度グリッドコンピューティング標準化調査研究成果報告書」を公表した。世界に於けるグリッド標準化に関する詳細なレポートになっている。

最終年度である2004年度が始まったが、調査研究と言っても、いつまでも勉強ばかりしているわけにもいかないので、GGFがカバーしていない標準化への提言を行う方向で議論を進めた。各委員会の議論の概略は以下の通り。「グリッドガイドライン」をまとめ、成果物とする方向で議論がまとまった。

日付 主な議論
第1回5月19日 EGAとGGFの関係。INSTACは何を目指すか。
第2回6月23日 GGF11参加報告(OGSAが標準として確立した。実ビジネスでの実用が進んできている。EGAとは協調の方向)。Grid World 2004報告。Grid Today 04参加報告。
第3回7月26日 ビジネスグリッドプロジェクトの事例紹介。本委員会の方向性として、グリッドのガイドラインの作成を検討する。
第4回9月8日 ガイドラインについての議論。ユースケースと要件項目との対応。
第5回10月12日 ガイドラインについての議論。
第6回11月22日 グリッドガイドラインの検討
第7回12月21日 報告書の検討。グリッドシステムガイドラインの検討
第8回1月17日 報告書の検討
第9回2月16日 報告書まとめ

 

6) Fortran 2003
新しいFortran言語の規格である通称Fortran 2003は、ISO/IEC 1539-1:2004として、2004年11月15日に公表された。Fortran 2003は、Fortran 95と比較して大幅に改訂されており、とくに、オブジェクト指向プログラミングを大幅に取り入れている。新しい機能については、WG5の文書に詳細に記されている。2009年にJIS X 3001としてJIS化された。かつてはFortran遣いを自認していた筆者であるが、使ったことはない。この規格の次は、2010年10月15日に公表されたFortran 2008 (ISO/IEC 1539-1:2010)である。Fortran 2008ではco-arrayがサポートされている。規格が利用よりずっと先に行ってしまっている感じである。

次はアメリカ政府の動き。地球シミュレータを凌駕するため、国を挙げて方策を立てている。

(タイトル画像:NEC SX-8 画像提供:日本電気株式会社)

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