世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


5月 28, 2018

HPCの歩み50年(第163回)-2009年(c)-

小柳 義夫 (高度情報科学技術研究機構)

民主党議員と民間有識者による事業仕分けの三つのワーキンググループが、2010年度予算概算要求にある約200の事業を取り上げ、かなり強引に切りまくった。次世代スーパーコンピュータ開発もほとんど中止にまで追い込まれた。

次世代スーパーコンピュータ開発(続き)

10) 行政刷新会議の「事業仕分け」
第172回特別国会(2009年9月16日~19日)において鳩山由紀夫民主党内閣が発足し、党幹事長に小沢一郎、内閣官房長官に平野博文が着任した。当初70%もの内閣支持率であったが、小沢幹事長や鳩山首相の政治資金収支報告書の虚偽記載問題が再燃した。首相より幹事長に実質的な権力が集中する「二重権力構造」や、選挙支援と引き換えに予算配分を行う小沢の政治手法などが党内外で問題視されるようになると、内閣支持率は一転、下降の一途を辿ることとなる。民主党は多くの公約を掲げていたが、財源については「政権を取ったら、無駄を省くことによりお金なんていくらでも出てくる」と具体案を示していなかった。しかし、当然のことながら各省とも守りの姿勢に入り、無駄はありませんと拒否したので、行政刷新会議を設置して事業仕分けを行うことになったのであろう。結果的に、「本当の(?)無駄」は明らかにならず(つまり、それだけの政治力がなく)、教育や研究などの「票から遠い」弱者をいじめることになったという印象である。

民主党議員と民間有識者による事業仕分けの三つのワーキンググループ(WG)が、各省庁のヒアリングを開始。仕分けで取り上げる予定の200事業のうち、ほぼ半数を固めた。対象事業を選ぶ基準としたのは、

(1) 各省間や自治体と重複する事業
(2) 試験的なモデル事業
(3) 広報・イベント類
(4) IT調達関連
(5) 独立行政・公益法人の基金
(6) 特別会計の事業

の6項目である。

11月2日、行政刷新会議は「事業仕分け」で取り上げる事業の対象候補の一部を明らかにした。報道によると以下の通り。

厚生労働省 市町村に保育費の半額を交付する保育所運営費負担金(3621億円)、レセプトオンライン導入のための機器整備(212億円)、雇用・能力開発機構や高齢・障害者雇用支援機構への運営費交付金など
経済産業省 電源立地地域対策交付金(約1000億円)や、石油危機などの緊急時に備える国家備蓄石油管理委託費、太陽光発電など省・新エネルギー導入促進のための補助など
農林水産省 耕作放棄地再生利用緊急対策や農村振興の補助金など
国土交通省 まちづくり交付金
外務省 政府開発援助(ODA)予算や国際機関への拠出金、国際協力機構(JICA)の旅費・人件費、国際会議の開催経費など
防衛省 自衛隊の広報、募集事業
文部科学省 日本原子力研究開発機構、理化学研究所など科学技術関連の独立行政法人が行う大型プロジェクト

 

対象候補は、仕分け作業に当たる国会議員ワーキンググループ統括役の枝野幸男元政調会長らがまとめており、11日から仕分け作業に入るとのことであった。次世代スーパーコンピュータも入るのでは、と心配になった。

11月9日の報道では、案の定、研究開発が狙い撃ちされていることが分かった。

経済産業省 研究開発(100%国費のもの)、(独)産業技術総合研究所運営費交付金
文部科学省 次世代スーパーコンピューティング技術の推進((独)理化学研究所)
総務省 情報通信関係研究開発・実証実験・調査研究、(独)情報通信研究機構運営費交付金、電波資源拡大のための研究開発等(電波利用共益費用)

 

文部科学省関係では、国立大学の運営費交付金や研究事業などほとんどが対象であった。民主党政権はよっぽど研究開発や教育が嫌いなのか?

11) 次世代スーパーコンピュータ事業の仕分け
事業仕分けは2010年度予算編成のために、2009年11月に国立印刷局市ケ谷センターを会場として実施された。事前に「仕分け人」によって対象の事業が調べられ、公開の場で、事業担当者との議論が行われ、廃止や縮減を判定する。11月27日に終了したが、目標の3兆円には届かず、1.7兆円が見直しとなった。財務省主導で自分の事業はまな板に載っていないが、財務省自体の事業をもっと仕分けすべきだ、という批判もあった。実際には、事業仕分けの評価結果や横断的見直しの反映による2010年度概算要求からの予算削減額は約9692億円であった。

文部科学省などを担当したのは第3 WGで、事業仕分けの3日目、11月13日(金)に蓮舫参議院議員を座長として行われた。迷信を信じるわけではないが、「13日の金曜日」とはいやな予感がした。このWGの民間有識者は行政刷新会議議長である首相から指名された。Wikipediaによると以下のとおりである。このうち誰が出席したかは知らない。

赤井伸郎 大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授
新井英明 厚木市職員
小幡純子 上智大学法科大学院長
金田康正 東京大学大学院教授
伊永隆史 首都大学東京教授
高田創 みずほ証券金融市場調査部長チーフストラテジスト
高橋進 株式会社日本総合研究所副理事長
中村桂子 JT生命誌研究館館長
永久寿夫 PHP総合研究所常務取締役
西寺雅也 山梨学院大学法学部政治行政学科教授
原田泰 株式会社大和総研常務理事チーフエコノミスト
速水亨 速水林業代表
藤原和博 東京学芸大学客員教授/大阪府知事特別顧問/元東京都杉並区立和田中学校校長/リクルート出身
星野朝子 日産自動車株式会社執行役員市場情報室長
松井孝典 東京大学名誉教授
南学 横浜市立大学エクステンションセンター長
山内敬 前高島市副市長/高島一徹堂顧問
吉田誠 三菱商事株式会社生活産業グループ次世代事業開発ユニット農業・地域対応チーム シニアアドバイザー
渡辺和幸 経営コンサルタント/株式会社水族館文庫代表取締役

 

この日午前9時半頃、文部科学省が進める次世代スーパーコンピュータ開発事業について、財務省の担当官が冒頭「これまで545億円の国費を投入。システム開発に本格的に着手すれば、さらに700億円近くが必要と見込まれる」と問題点を指摘。仕分け人から「1位でなければ駄目なのか」「どう効果が生きてくるのか国民に見えてこない」「国民生活にどう役立つのかが分かりにくい」「プロジェクトを強行しても目標を達成することは困難」「海外との競争を急ぎスケジュールに無理がある」などの疑問が相次いだ。

筆者は、午前は授業中でライブでは見られなかった。午後は、大学の一室で作業をしながら内閣府のインターネット中継(もちろん今はない)を見ていた。その後の報道も合わせて議論をまとめる。蓮舫議員からは「世界一でなければならない理由は何なのでしょうか」「二位ではだめなんでしょうか」「アメリカと一緒にやれないのでしょうか」などという質問が出た。この映像は今でも「スーパーコンピュータ」という話題が出ると放映されることがある。

これまで述べたように「(完成時に)世界一を取る」ことがこの事業の目標の一つになっており、そのことは総合科学技術会議でも認められていた。従って、文部科学省や理研としてはそれを前提として説明しようとした。しかし仕分け人はその前提を問題にした。プロジェクト評価では、いったん目標が承認されれば、それを達成したかどうかが問われるのが普通で、なんでその目標なのかと言われるのはいわば「ちゃぶ台返し」である。不意をつかれた文部科学省・理研は「国民の夢だ」というような回答をした。これはまずかった。多くの委員はLinpack とHPC Challengeの違いはもちろん、パソコンとスパコンの違いもわからない非専門家であり、世界一とはギネスブックに載る程度の認識だったのではないか。「スパコンとは何か、国家基幹技術の役割とは、その重要性、戦略的技術とは、R&Dの意味」など、スーパーコンピュータの意味や国民生活への寄与を初歩から説明すべきであったと思われる。それをスキップしたために議論が空回りした。それと、蓮舫議員や有識者がどれだけ理解していたかは疑問だが、先に書いたように、この予算には「一瞬世界一の可能性を高めるだけのため、性能は同じで完成を半年前倒しにする100億円」が含まれていた。もし蓮舫議員がわかってそれを突いたのなら正当性はあった。結論の「目的を達成できない」という議論は、「日本電気(と日立)が撤退したため設計し直しが必要で、プロジェクトの開発戦略などを評価し直すべきだ」ということであろう。

議論のなかでは、日本電気の撤退に関連して、コンピュータのベンダに国の予算がつぎ込まれていたのに食い逃げしたのかという疑問も出された。これに対する回答が不明確で、道路などの公共事業と同じでベンダは1154億円をもらって儲かっていてけしからんという論調になったようである。また、アメリカのスーパーコンピュータを使えばよいとか買えばよいとかいう議論もあったようである。日本電気と日立に契約違反の損害賠償を請求するかという質問もあり、準備中との回答があった。そもそも契約がどうなっていたかは知らないが、詳細設計段階と製造段階の契約は別で、撤退したのは(まだ結んでいない?)製造の契約だけだ、というような説明はなかった。

さて1時間かけての議論のあとの評決結果は、

計画を廃止すべし 1名
来年度見送るべし 6名
来年度予算を削減すべし 5名

 

であり、結論は「限りなく見送りに近い削減」、すなわち凍結ということになった。後に整理された評価者のコメントでは、以下の3点が指摘されている。

・10 PFlopsのスーパーコンピュータを開発することが自己目的化している。巨額の税金を投入して世界最高水準のスパコンをつくる以上、大事なのはスパコンを生かして、どのような政策効果を出していくのかを明確にできなければ、国費投入は無理である。
・ベクトル、スカラの選択も十分な総括ができていない。この段階で十分な説得力のない世界一という目的だけで、多額の投資をすべきではない。
・スーパーコンピュータの国家戦略を再構築すべきである。従来の検討者以外の新しい研究者を入れて、新しい議論を公開しながら行うべき。現状がスパコンの巨艦巨砲主義に陥っていないか。競争のルールが変わってきている可能性はないか。世界の中での位置づけを検討すべき。おそらく日本の先端技術についての国の形を変えるかどうかを検討することになるだろう。

同席したS氏の話では、「ベクトルだ、スカラだ」という技術論を、素人がしかも間違って議論していたことに違和感があったとのことである。ただ、直前にベクトルが撤退して、急遽複合システムの見直しをした傷は深かったとのことであった。

筆者は、大昔の1986年に、星野力、岩崎洋一とQCD専用コンピュータ開発プロジェクト(後のQCDPAX)を科学研究費特別推進に申請し、3名でヒアリングに臨んだことを思い出した。その時の審査委員からの質問は、「いったい君たちは新しい計算機を作りたいのか、それとも物理の研究をしたいのか、どちらかはっきりしろ。」ということであった。しかしこの質問は落とし穴であった。もし、「物理の研究をしたい」といえば、それならコンピュータを自作することなど考えずに、買ってくればよい、ということになる。もし、「計算機を作りたい」と言えば、役にも立たない計算機屋の自己満足に金は出せないということになる。この次世代スーパーコンピュータでも、世界一になりたいというような計算機屋の自己満足に金は出せないし、計算科学を推進したいなら、苦労して自分で開発などせず、アメリカから買ってくればよく、二番でもいいのだ。23年前の筆者の返答は、「両者が分かちがたく結びついているところに、この提案の独自性があります。」であった。世界一のコンピュータを開発することと、世界一の計算科学の成果を上げることは、分かちがたく結ばれているのだ。23年前は、この返答がどういうわけか某審査委員の逆鱗に触れ、怒号の飛び交う中で座を蹴って退出した(というのは若干脚色だが)。もちろん不採択であった(翌年やっと採択)。さて、今度はどうなるか?

ちなみに、その後の仕分けにおけるSprint8の結論は、「来年度予算は1/3~1/2の削減」であり、地球ドリリングは「来年度予算は1~2割の縮減」であり、地球内部ダイナミックスは「計画の見直し/来年度予算は縮減(両論併記)」であった。午後の議論については、「科学技術への理解増進を否定するのでしょうか」と、日本科学未来館(東京・青海)の館長を務める元宇宙飛行士の毛利衛さんが口調を強めた。科学技術振興機構の北沢宏一理事長は、「こちらから事業の意義などを話させてもらえるのかと思ったが遮られてしまった」と不満を述べた。総合科学技術会議や学術会議などのなど一切無視して、聖域無しの大胆な予算カットや計画廃止という点で旧科学技術庁関係は惨敗であった。3日目の作業で「廃止」としたのは、小学校の理科の授業に支援員を派遣している文部科学省の事業など9事業で総額305億円。予算の大幅縮減も26事業に上った。

報道によると、文科省の関係者の中には、事実上の凍結について「長い目で見ると国内のIT業界にとって重大な損失である。次世代スパコンの心臓部となるチップの開発技術は、今後、ITのあらゆる分野でも活用されていくものである。凍結されれば、中長期的に見て国内のIT業界におけるかなりの利益を海外に流失することに等しい」とする声もあった。

事業仕分けの報を受けて、東証後場では富士通が一時8円安の537円まで値を下げた。

神戸大学では、8月から進めているポートアイランド(神戸市)での次世代スパコン関連研究施設と、来年度設置予定の「システム情報学研究科」に悪影響が及ぶのではと危機感をつのらせた。前川清の「♪神戸、泣いてどうなるのか、捨てられた我が身が、みじめになるだけ」を思い出した人もいた。

Reuters通信社は11月13日東部時間午前9時(日本時間13日午後11時)に配信し、「行政刷新会議(the Government Revitalisation Unit) により、日本はスーパーコンピュータプロジェクトを凍結するであろう」と伝えた。この記事は、「不幸な第五世代コンピュータプロジェクト」(1982~1992)を引き合いに出し、「500億円をかけて開発した第五世代コンピュータが目的を実現できず、1992年には時代遅れとなってしまったように、コンピュータ産業におけるアメリカの支配を飛び越えようという日本の努力は、またまた失敗した。」と書いている。アメリカの高笑いが聞こえる。

次世代スーパーコンピュータ計画は、自民党に議員連盟を作って後押しをしていただいたが、民主党政権の背後にいる財務省が、自分たちの制御できないこのようなプロジェクトを、事業仕分けで裏からつぶそうとしたのではないか、という観察もあった。

午後の議事中継を見ていて、蓮舫議員の強引な議事運営に驚いた。競争的研究の先端研究だか若手研究育成だかで、票決の結果、6票ほど「そのまま継続」があったが、蓮舫参議院議員が、「継続の中には、コメント付きや、多少削減してという意見もありますので、これは削減の方に入れて、決定は削減です。」というような調子で、もう初めから結論ありきであった。

25日には文部科学省関係の予算の事業仕分けがあり、NIIがSINET3やコンテンツ整備に充てている特別教育研究経費が縮減となり、ネットワークの運用そのものが成り立たなくなると危惧された。

11月19日20日に行政刷新会議の親委員会があり、そこで仕分けの結果が報告された。

12) 「事業仕分け」への批判
早速13日の深夜から事業仕分けへの批判の声を上げる動きが始まった。14日の昼過ぎには有志によりアピールの原案が作成された。サイエンティストの側の主張は明白だが、筆者は、「学術や科学技術予算のむだは(もしあったら) どこで正されるのか」という反論が出てくるのではと心配した。「研究にむだなどない」と言いたいところであるが、有限の資源をどう活用するかという問題は避けられない。関係者は14日のうちに、様々な学会や日本学術会議を始め、多くの著名人(有馬朗人元文部大臣、京大の松本総長、吉川元東大総長、評論家の立花隆氏など)と連絡を取り始めた。少し後になるが、立花隆氏は、12月9日讀賣新聞朝刊の「論点」欄で、『科学技術費削減 亡国の道』というアピールを出してくださり、文藝春秋にも少し長い記事を書いてくださった。

学術会議関係者からは、学術会議として対応する場合には、次世代スパコンやSpring8への対応というよりは、運営費交付金、科研費等の科学技術関係全体の中の一項目との扱いになるだろうとの返事があった。さる学識経験者からは、このプロジェクトが完全にトップダウンで進められており、研究者コミュニティからの動きと呼応がうまく行っていない、そこに根源的な問題がある、との指摘があった。

筆者はオレゴン州Portlandで開催されるSC09のため、後ろ髪を引かれる思いはあったが、11月15日(日)夕刻にアメリカに向かった。15日夜(現地時間)に会場近くのBenson Hotelで富士通のUsers’Meetingが開かれたが、みな意気消沈してまるでお通夜であった。その中でも、富士通の重役が「国の次世代スーパーコンピュータプロジェクトが中止されても、スーパーコンピュータの開発は続けます。」と決意を表明されたのは救いであった。土居範久氏(中央大学)は、このMeetingに出て一泊しただけで、予定を変更し文部科学省との対策協議のため急遽帰国した。

会期中、日本からの出席者は会議どころでなく、額を寄せ合って、いろんな学会や組織からスーパーコンピュータ復活の声明を出そうと文章を練っていた。

総合科学技術会議は、11月16日、「科学技術関係施策の優先度判定等の実施に関する意見募集(パブコメ)」を、翌17日14時から受付を開始する、と発表した。ただ、締め切りは12月中旬であり、行政刷新会議の結論はその前に出てしまう。文部科学省も16日「行政刷新会議事業仕分け対象事業についてご意見をお寄せください」と意見を求めた。とにかく、各コミュニティから早急に意見を表明することが必要となった。戦略委員会から声明を出そうかという意見もあったが、文部科学省内の委員会であることから、妥当ではなく、それぞれのコミュニティからアピール文を出すことになった。

多くの組織から批判の声が上がった。「計算基礎科学コンソーシアム」(代表:宇川彰・筑波大学副学長)は早くも11月18日に、スーパーコンピュータの開発を「迅速かつ着実に推進することが極めて重要でここに強く訴える」「見送りに限りなく近い縮減という、今回の唐突な結論は、我が国の科学技術の進歩を著しく阻害し国益を大きく損なう」と、開発継続を求める緊急声明を発表した。

日本気象学会など48の学会・協会で作る日本地球惑星科学連合は18日、次世代スパコンなどの大型科学技術プロジェクトについて「事業見直しがそのまま実行されれば、数百人の博士が失職する」とする意見書を発表。次世代スパコン事業を進める理化学研究所の研究者約30人でつくる「理研科学者会議」も、「過度な効率主義・成果主義に傾いた評価が、我が国の将来に大きな禍根を残す結果につながりかねない」と訴える提言を野依良治理事長に出した。日本植物学会や日本生化学会など8学会も19日、「日本の科学技術の発展を大きく損なうことを憂慮する」として、科学技術への支援強化を求める要望書を文科省や総合科学技術会議へのパブリックコメントとして提出した。

11月19日17時から、東大理学部小柴ホールで基礎科学分野の研究者が記者会見を行い、多くのマスコミが取材に集まった。テレビではNHKが7時のニュースで、日本テレビが6時と11時のニュースで報道した。記者たちとの質疑応答において、スパコンの意義や、「見直し」が「中止」に等しいことなどは十分に理解して頂けたようであるが、変更後の計画で何故大丈夫なのかについて納得のいく説明が欲しいとのことであった。世界一を取ったことのある日本電気と日立が抜けて大丈夫かという質問もあったが、富士通だって数値風洞では何度も世界一を取っている。

11月19日午前に、土居範久戦略委員会委員長は、東大の平尾氏、東芝の伊藤聡氏とともに文部科学省を訪問し、川端文部科学大臣、中川正春副大臣、後藤斎政務官と40分会談した。事務局からは坂田東一事務次官、磯田文雄研究振興局長、土屋総括審議官、倉持審議官が同席した。情報課長や井上諭一室長も陪席した。政務三役(大臣、副大臣、政務官)としては、凍結を避けるために理論武装したいとのことであった。

また日本学術会議は、11月20日、金澤一郎会長が「(基礎研究への投資減少は)人材の離散だけでなく国際競争力の低下を招く。鳩山内閣は総理を筆頭に理系出身の多くの閣僚を含み、科学・技術に深い造詣と理解を有するものと信じる」とする談話を発表した。

筆者も以前から、帰国後の11月24日に四国大学(徳島)で市民向けの講演を予定していたが、とくにスーパーコンピュータ開発の必要性を力説したところ、毎日新聞(徳島版)に記事として掲載された。

情報処理学会では喜連川優副会長の尽力により、25日午後の理事会でスパコン凍結に対する声明文を出すことが承認された。26日3時にメディアに発表した。

利根川進氏らノーベル賞を受賞した科学者など6人が11月25日、政府・行政刷新会議による事業仕分け結果を批判する緊急声明を発表した。6人は東京・本郷の東京大学で記者会見を開き、慎重な議論と科学技術の重要性を訴えた。[写真はテレビ画面から]

神戸市で進む次世代スーパーコンピュータ事業が政府の行政刷新会議による事業仕分けで事実上の凍結と判定されたことなどを受け、神戸市の矢田立郎市長は19日、民主党に11月中にも凍結の見直しを要望することを明らかにした。

筆者がまだPortlandにいた11月20日(金)に、菅直人副総理・国家戦略担当相は20日午前の衆院内閣委員会で、中川秀直氏(自民)の質問に答え、行政刷新会議WGによる事業仕分けで「凍結」と判定された次世代スーパーコンピュータ開発について「スパコンは極めて重要であり、もう一度考えなければならない」「科学技術こそが日本の将来をつくる上で重要な柱だという基本的な考えで対応したい」「事業仕分けは最終結論ではない」と述べたと報じられた。WGの判定を覆し、平成22年度予算の概算要求額(267.6億円)に沿った予算措置を前向きに検討する考えを表明したものとみられる。科学技術担当相を兼任する菅氏は、会場を提供した財務省所管の国立印刷局が仕分けの対象外となっていることに疑問を呈した。

スーパーコンピュータ予算の凍結は覆りそうな形勢であるが、11月26日頃、財務省が強烈な巻き返しを図っているという情報が流れてきた。さて、どうなるのか。

日経産業新聞は12月8日の11面と20面でスーパーコンピュータを取り上げたが、筆者のコメントも出ていた。「工学院大学の小柳義夫教授は『日本の“お家芸”とも言えるベクトル型を残すことにこだわり、スカラ型との複合型開発という外部からわかりにくい設計になった』と指摘する。次世代スパコンがスカラ型とベクトル型の複合型という世界には存在しないタイプの研究開発が進んだ一因になったという。」複合型は日本にはいろいろあるので、「海外には存在しない」というべきであった。「Cray XT5はベクトルX2との複合も可能」とも言ったのだが、無視された。意味不明のコメントとなった。また、20面には「小柳義夫教授は『欧州型の戦略も選択肢の1つ』と指摘する。」とあったが、これは「アメリカの二番手に甘んじるつもりならば」という前提条件での話であったが、これだけ切り出された。

この頃日本中が議論の渦に巻き込まれたが、スパコン事業を継続すべきとする側は「世界一に挑戦する機会がなくなれば、日本の科学技術は衰退する」と主張しているのに対し、事業中止を支持する側は、「進行中のプロジェクトを継続しても事業や技術面での実りが少ない」と指摘している。前者が大局的な視点で発言しているのに対し、後者は今回のプロジェクトや資金提供の仕方、スパコン業界の事情といった、特定の事例を俎上に載せているようであった。議論がかみ合っていないのではという指摘もあった。

このような批判のなかで、次世代スーパーコンピュータ開発計画の復活が画策された。

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