世界のスーパーコンピュータとそれを動かす人々


12月 1, 2014

シミュレーションの世界で情報爆発は起きている?(4)-属性で紐付け

工藤 啓治

前回【シミュレーションの世界で情報爆発は起きている?(3)-蓄積から知識化へ】では、シミュレーション情報の分析や知識化が目標ということを話しましたが、では、分析や知識化に値する”シミュレーション情報”とは、どんな情報であればいいのでしょうか?一般論では、フムフムと頷かれたかもしれませんが、どんな分析や知識化を望んでいるのかを想定しておかないことには、どんな情報を収集しておくべきかもわからないのです。闇雲にデータさえあれば、何かありがたい知識が出てくるわけではないのです。

言い換えると、文字通り”情報爆発”状態の混乱したデータの集まりからは何も生まれてきません。制御された情報集合を取り扱う必要があります。そこで、蓄積と収集に立ち戻ってみましょう。

一つの指針として、5W1H(にRを加えました)で表現されるようなデータ集合を考えてみます。あくまで整理するためですので、下記に限られるわけではありません。重要なのは、それらのIT用語では属性と呼ばれる一連のタグ/ラベル情報を、生成した元データとしっかりと紐づかせるということです。ただ、ありがたいことに、シミュレーションの場合には、どういう属性を知りたいかをわかっていさえすれば、それを集めるのは比較的楽なのです。自動で収集もできてしまうのです。

(1)いつ(When)
何をするにも、時間は重要な情報です。日付時間的な情報だけではなく、設計プロセスの中のどのフェーズかという属性情報を得ておけば、たとえば企画、基本設計、詳細設計、試験検証といった、各フェーズでの情報を速やかに切り分けて分析できます。また、問題が起こる頻度が、デザイン・レビューの初回か、あるいは最終段階といったどの段階で起きやすいかを見分けることもできます。業務の中での”いつ”的な属性は、改善指針を探るのに重要な意味を持ちます。

(2)誰が(Who)
担当者のスキルや過去経験といったプロファイル情報とつなげることで、効率よく業務しているエンジニアとそうでもなさそうなエンジニアの仕事の品質を定量的に比較することができるようになるでしょう。あまり、ありがたくない分析かもしれませんが、本来ものづくりと言われている仕事は高度な技術スキルに基づくものであることを考えれば、シミュレーション・エンジニアの能力と結果も何等かの評価に曝されるようになることは、否めないのではないでしょうか。

(3)何を(What)
製品や部品を特定する属性データになります。製品コード、名称、仕向地、派生オプション、部品番号等々、企業が通常業務で取り扱っている情報は、基本ですね。

(4)どこを(Where)
シミュレーションの試行錯誤は、どこのどんなパラメータの値を変更したのかということに帰着できます。製品情報であればある部位の形、板厚、材料など、試験や加工条件であれば、温度、圧力、位置、速度等々、いわゆる入力側のパラメータ情報です。

(5)なぜ(Why)
やはり、シミュレーションの試行錯誤を行う以上は、これまでの結果の何かに、設計上の条件を満足しない不具合が生じているのです。たとえば、重量未達、応力限界、温度高、圧力高、速度未達、種々の性能未達などです。これらの理由を属性として明記することで、シミュレーションがどんな課題解決のために使われているか、を把握することができるでしょう。

(6)どのように(How)
どんな解析をどのプログラムを用いてどんな条件で計算したのかといった、シミュレーションの内容を特定する属性情報です。線形応力、大変形、材料非線形、振動、機構、空力、熱流体、電磁場、板成形、射出成型などといった多様な解析種類とそれを計算するプログラムと、定常/非定常、物理モデル、材料モデル、初期条件、規格情報など、シミュレーション業務を理解するのに重要な属性です。

(7)結果(Result)
結果はどうだったのか?なぜ(Why)と対で、着目している性能指標の値を取り込み、その結果がOK/NGどちらだったのか、その根拠は、顧客要求か、社内規定か、業界標準ルールか、といった比較元とその数値を明記することで、OK/NGとその理由を正しく分析することができます。

さて、上記の情報の出所はさまざまですが、業務で扱うデータのどこかには含まれているはずのものです。元データがどこにあり、個々の属性情報が、データ内のどこに記載されているかさえ特定できれば、自動収集が可能になります。技術的にはそれほど難しいことではありません。シミュレーション情報の”Sensor”機能と見ることもできます。さらに、自動収集と同時に、出所のデータとの紐付けを行うことで、検索や分析を行った際にその元データに速やかにたどりつくことができます。

このようなトレーサビリティが確保されることで、”情報爆発”とみなされたデータ群は、分析に供することができる、しっかりと制御された構造化データの集まりになります。さて、ここまでの段階が、前回の【シミュレーションの世界で情報爆発は起きている?(3)-蓄積から知識化へ】で説明した、蓄積と収集の段階の要点です。このようなことを実現できる便利なしくみは、すでに世の中に存在していて、先進的な企業ではすでに積極的に活用されています。

*本記事は、Facebookページ「デザイン&シミュレーション倶楽部」と提携して転載されております。